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Photo bynaotanu

立方体の思い出

     あんみつに混じっている寒天、ましかくで薄透明のそれを見ていると、あの奇妙な日々が思い出された。

     四十年前。名家の長男であり、結婚適齢期であった自分には降るように縁談が舞いこんでいた。幾多の見合いを重ね、やがて疲弊してきたころ、女どもの顔が箱に見えるようになった。首から上が四角い箱に変化したのだ。それは個々に差異があり、細長い箱、いびつな箱というように形は違えども、どれもこれも醜怪なものであることに違いはなかった。何もかも捨てて逃げだしたい。しかし責任があるため逃げられぬ。こみあがる呻吟を枕に飲み込ませるそんな日々が続いた。
     ある日。見合いの時間だというのは分かっていたが、どうしても気が進まず、屋敷の裏で煙管をふかしていると、一人の女中が自分を呼びにきた。その女をみて瞠目した。綺麗な立方体、色は透明に近い白だった。美しい、ただそう思った。
    「お時間ですよ。皆お探しに……」
     最後まで言わせず、女中の白い腕をぐいと引っ張り、体に落とした。
    「結婚するなら、お前としたい」

    「あんみつ、食べないんですか?」
     あのときの女中、妻の千代が優しく問いかけてくる。
     あれから女が箱に見えることはなくなった。千代は華やかではなかったが、美しいものをみて美しいと笑える、そんな女だった。
    「いや、食べてるよ」
     そう伝え、涼菓を口に運ぶ。
    「おいしいな」
    「おいしいですねぇ」
     妻と二人、静かにほほ笑みあった。

    *

    『本作品はamazon kindleで出版される410字の毎週ショートショート~一周年記念~ へ掲載される事についてたらはかにさんと合意済です』

    たらはかにさんの【#毎週ショートショートnote】に参加しています。

    【毎週ショートショートnote】『ショートショート書いてみませんか?』お題発表!11/6|たらはかに(田原にか)|note


     
     
    大阪府在住 / ショートショート好き / 観葉植物大好き

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