
めまいと暮らす日々10(最終話)
診察室に入ると、医者はパソコンの画面を見ていた。
私は医者の前に座った。
医者は私の方を向き「やはり、右の三半規管の働きが弱いです。普通の人の7割ぐらいしか機能していません。特に上を向いたときは、ほとんど機能していません」ハッキリと早口で言った。
私は、とりあえず正確なデータが出ていたことに少し安心したが、三半規管は安心できない事態だった。
「これは、治るんですか?」聞きたくないが、聞くしかない。
「治す薬はありません。リハビリで回復させるしかないです」
『治す薬はありません』この言葉の意味が分からなかった、病院は治す薬を出すところだと思っていた。
「どんなリハビリをするのですか?」理解が追いついていないが、言葉だけが出る。
「YouTubeにリハビリの動画があるので、それを見て毎日やってください」
YouTube? もっと専門的な施設でやると思っていた。
「リハビリをすれば治るんですか?」聞きたくないけど・・・
「人によって回復の仕方が違うんです。すぐに良くなる人もいれば、徐々に良くなる人もいます」早口で言う。
私はその言葉に引っかかりを感じた「治らない人もいるのですか」医者の目を正面から見て、ハッキリと言った。
医者は一瞬固まって「まあ・・・そういう人も・・・います」早口な医者が言葉に詰まった。
私は、大学病院なら確実な治療法が見つかると思っていたので、拍子抜けしたような思いだった。
しばらく沈黙が続いて『これ以上、ここにいても仕方がない』そう思った私は「ありがとうございました」と形式的なお礼を言って、診察室を出た。
この数か月、3件の病院を回って出た結果が
右三半規管の異常。治す薬はなし。リハビリで回復させる。治る保証はない
これが現実だった。
治るかどうか分からない。
このめまいと、一生付き合うことになるかもしれないけど。
『とりあえず、よろしくお願いします』
心の中でつぶやいて、大学病院を後にした。