
透明な想いは誰にも気づかれないまま -短編小説-
「マイホーム!?すごいじゃん!」
目の前で「エヘヘ」と笑う、彼女の名前は夏美。
名前のように明るい彼女と、中学から今までもう15年の仲だ。
そんな彼女が、ついにマイホームを建てた。
「本当にすごいよ!おめでとう...!なんだかドラクエみたい!」
「ドラクエ?レベルが上がった!みたいな?」
「そうそう!そんな感じ!」
おしゃれなカフェに似合わないポップな鼻歌を歌いながら、剣を引き抜く真似事をする夏美。今日も元気で明るい様子を見てこちらまで明るい気持ちになれる。思えばいつもそうだった。
この15年間この笑顔の一番近くに居たのは紛れもなく私だった。
でも、彼女がこれから作っていく新しい生活のなかに、私の知らない時間がどんどん増えていくのだろうと思うと寂しさがより一層込み上げてくる。
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1週間後にマイホームに呼んでもらった。
「すごーい!大きい!中も広いね!」
「まだ散らかってるけどどうぞ!こっちがリビングでこっちがキッチンで...」
夏美は3年前に結婚した。あのときは電話で号泣して、電話切った後も家で半日泣いたっけ。なんなら翌日の仕事も目が真っ赤で職員に心配されたな。なんて思いながらマイホームを見回る。
「ねえ、ゲームしようよ!」夏美は言う。
「しよ!てかテレビも本当に大きいね」
「これからずっと住んでいくからね、せっかくだから2人で貯金崩して買っちゃった」
「...。そうなんだ、素敵じゃ〜ん」
3時間ゲームをし、2人並んでコーヒーを飲む。
ちらりと彼女を見ると、視線の先に指輪が光っている。
夏美は普段アクセサリーをつけない。だから尚のこと見つめてしまった。
「どうした?」
「あ、いや....そ、そういえば少し髪染めた?」
少しつっかえつつ答える。
「え?よく気づいたね!染めに行ったんだけど失敗されちゃってさあ、全然色入らなかったんだよね〜」
「あーね、合わない美容院ってあるよね〜」
窓の外が暗くなりそろそろ帰ろうかなと立ち上がる。
「今日は本当に来てくれてありがとうね。駅まで送るよ」
「こちらこそ、ありがとう。」
「またいつでも遊びに来てね。」
電車に揺られながら今日話したことや見たものを1つずつ思い出す。
彼女は一生気づかないだろう。
私が靴箱の上に飾ってある2人の写真を見て、全てを諦めたことを。
私がプレゼントした黄色いフォトフレームに入ってるにこやかに並んだ2人の写真。
あの時の結婚報告で全てを諦めたはずなのに
何度も繰り返した「おめでとう」の言葉の裏側に、そっと気持ちをしまい込んだ。
誰にも気づかれないように。そして言葉と一緒にこの気持ちが消えるように。