
朝まずめ 滑って転んで 即帰宅
ドジだと言われて育ちました。
母が買ってくれたアイスを落とす。
試験の日に消しゴムを忘れる。
仕事のプレゼンで頭が真っ白になる。
妻のウエディングドレスをちょっと汚す。
そんな、要所要所の小さな失敗。
人生に大きな影響を与えるわけではないし、ほかのだれも覚えているわけでない。でも、おれの心には小さな楔となっている。
そんな失敗が、いくつもある。
今年から、趣味として釣りを始めた。
釣りの良いところは、ひとりでできること。そして朝できることだ。
家から10分程度のところに川がある。イワナやヤマメが放流されているような立派な渓流だ。
平日でも、家族が寝ている間に行って、少し竿を振って、起きる前に帰ってくる。それがおれの朝活。
ちなみにそこで釣れたことはない。
初心者のおれには難易度が高い川らしい。
まあ、それはいい。釣れようが釣れまいが、川の音を聞きながら身体を動かすのが気持ちいい。
今日も、朝4時半に起きた。
「今日は釣れるかも」
そんな期待感が、おれの目を覚まさせる。まったく眠くない。
もしかしたら昨日のんだ快眠サプリ「ネナイト」のおかげかもしれないが、とにかくぱっちりと起きた。
支度をして、川に着いたのは5時だった。1時間半くらいはできそうだ。
ウェーダーを着て、シューズを履き、ジャケットを着る。
ルアーをつけて、熊鈴を鳴らしながら川岸に向かう。
昨晩は雨も降ったから、いつもより少し増水している。
川に入って、ルアーをキャストする。
1投目、2投目、3投目・・・
「ここにはいないか」
もう少し上流へ行ってみよう。歩き出したそのときだった。
ズルッ
あぁっ
ドボン
増水で流れがいつもより強かったのか、足を取られて転んだ。
首まで浸かった瞬間、ウェーダーの下の服まで水が入ってくる。
立ち上がったときにはずぶ濡れだった。心は完全に折れた。
「はー、もうだめだめ、おしまいだからね」
おれにはこういうところがある。
ドジは自分のせいなのに、そこにいないだれかに言い聞かせるかのように中止を告げる。
たぶん、失敗した自分を切り離してしまわないと泣いてしまうからだろう。
なぜこうなったか。
帰りの車を運転しながら思う。当然、こんなドジに原因も答えもない。
助手席には、さっきまで履いていた黒いスウェットが、ぐっしょり濡れながら横たわっている。
それを横目に睨みながら、パンツ一丁のおれは家路についた。
帰宅したら朝6時。家族はまだ寝ている。
今日、パパは釣りになんて行ってない。それでいいね?
新しい一日が始まる。
『朝まずめ 滑った転んだ 即帰宅』
【AI講評】
点数:89点 / 100点
一言:魚には逃げられていません。魚に会う前に、自分の足元と精神が先に逃げました。朝活としては失敗ですが、負け方としてはかなり鮮度があります。
▼スキしてくれると、スウェットがすこし早く乾きます▼