
【小説・ヴィーナス症候群】[699]シャボン玉
シャボン玉模様――それが、クライアントの依頼だった。
吉祥寺にあるダンスウェアブランド・Confeitoに、大手石鹸メーカー・犀香堂からCM用レオタードの依頼が入った。
一点もの。競技仕様。シャボン玉をイメージした柄。
完成の連絡を入れると、「実物を見たい」とのことで、広報担当が来ることになった。
説明用のトルソーとして、高野美恵が指名された。
生まれつき両腕のないヴィーナス児。
アパレル業界では、着用モデル――いわゆる「トルソーさん」として働いている。
営業の今川が、軽く笑う。
「新体操の清川みのぶちゃんに着せるらしいよ。東洋女子体育大の」
「……あー、オリンピックに出た人だっぺ」
やがて、犀香堂の担当者が到着する。
「わざわざ吉祥寺までご足労をおかけします。お呼びいただければ八重洲口の本社までお伺い致しましたのに」
元体操選手でもある今川が、丁寧に頭を下げる。
「いや、いいんです。ずっと社内にいると息が詰まるんで」
アトリエの空気は、どこか軽い。
「ご注文いただきましたレオタードを、弊社トルソーの高野に着せております」
今川が手で示す。

「素材は実際の競技仕様ですので、今回は東洋女体大の清川みのぶ選手に着ていただくということでしたが、ストレスなく演技できるかと思います」
犀香堂の担当者は、少しだけ近づいて、全体を見渡す。
「……うん。まあこんなもんでしょう」
それだけだった。
決して悪い評価ではない。
だが、特別に何かを感じた様子でもなかった。
打ち合わせは、あっさり終わった。
Confeitoを出た、犀香堂の担当者たち。
「別に急いで社に帰ることもないか」
「そういえば、ああいう腕の無い女の子って、前に広告代理店に行った時もいたよな」
「ああ、義手のお茶くみの女の子」(第377話)
「たまにいるんだろ? 第2サリドマイドだっけ?」
「昔映画であったよな。『サイレント・ランニング』だっけ?ベトナム戦争で下半身吹っ飛ばされた兵士をロボットの中に入れて演技させたんだよ」
「小人症の人を着ぐるみに入れたりとか、あるよな」
「……障害者にしかできないことって、意外と色々あるんだな」
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