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【小説・ノィヌナス症候矀】7731250䞇円払え

    北川むサミ

    割出結菜がアパヌトに垰っおきた時には、もう倖は暗くなっおいた。
    六月の湿った颚が、駅前の叀い商店街を抜けおくる。

    結菜は肩から䌞びた筋電矩手で鍵を掎み、噚甚に回しお郚屋ぞ入った。

    玄関脇には昌間脱いだ私服が畳んで眮かれおいる。
    掗濯物は干しっぱなし。冷蔵庫には昚日買ったコンビニパスタ。

    サむセむ矩肢での仕事は今日もい぀も通りだった。
    開発郚で筋電矩手の装着テストを行い、動䜜ログを確認し、開発担圓ず「この把持角床だず肩に負担が来たすね」「ケヌブルにもう少し遊びが欲しいかも」などず話しながら倕方たで働いおきた。本線753話

    その“普通の䞀日”が倉わり始めたのは、郵䟿受けを開けた瞬間だった。

    癜い封筒。『内容蚌明郵䟿』
    差出人は『氎原法埋事務所』。
    嫌な汗が出た。

    郚屋ぞ入っおからもしばらく開封できなかった。
    ゚アコンを぀け、コンビニで買ったお茶を机に眮き、矩手を倖そうずしお途䞭でやめる。
    芖線だけが、ずっずテヌブルの䞊の封筒に向いおいた。

    やがお結菜は矩手のフックで封を匕っ掛け、無理やり砎った。

    画像

    数秒埌、小さく声が挏れる。

    「  は」

    『損害賠償請求額 1250䞇円』

    頭が真っ癜になった。

    東歊東䞊線。垰宅ラッシュ。背埌から身䜓を觊られた。振り払った。ただそれだけだった。
    結菜の矩手は、サむセむ矩肢補の最新筋電矩手だった。
    開発甚評䟡モデルでもあり、䞀般的な装食矩手より重量がある。

    振り払った瞬間、男が悲鳎を䞊げた。

    駅員宀。
    譊察。
    事情聎取。

    結菜は「痎挢です」ずはっきり説明した。

    盞手の男――池䞊健倪は、右腕の痺れを蚎え、その埌「橈骚神経損傷」ず蚺断されたらしい。
    そしお今、その男が1250䞇円を請求しおきおいる。

    結菜は内容蚌明を䜕床も読み返した。
    『埌遺障害』『逞倱利益』『就劎制限』『粟神的苊痛』。
    難しい単語が䞊んでいる。

    「1250䞇 払えんのか っおか䌚瀟クビなんの゜ヌプにでも沈むんか っおかこんな手無し女゜ヌプが雇っおくれるんか 」

    口に出した瞬間、自分で傷぀いた。

    じゃあ䜕 乞食 生掻保護 もう暹海

    結菜は床に座り蟌んだたた動けなくなった。
    郚屋の䞭では冷蔵庫のモヌタヌ音だけが響いおいる。

    しばらくしおから、ようやくスマホを矩手で匕き寄せ、䌚瀟ぞ連絡を入れた。

    翌日、結菜は圚宅勀務扱いずなり、オンラむンで䌚瀟の顧問匁護士ずの面談が蚭定された。

    画面に映ったのは、高根沢誠。
    四十代埌半、銀瞁県鏡の䌁業法務専門匁護士だった。

    高根沢は内容蚌明を確認しながら淡々ず蚀った。

    「たず、珟時点で盎ちに支払う必芁はありたせん」

    その蚀葉に、結菜は少しだけ息を吐く。

    「ただし、盞手偎はかなり本気ですね」
    「  私、負けるんですか」
    「珟段階では䜕ずも蚀えたせん。ただ、“痎挢被害に察する防埡行為”である点は圓然こちらも䞻匵したす」

    その蚀葉には少し救われた。だが高根沢は続けた。

    「ただ、サむセむ矩肢ずしお党面的に代理人になるのは難しいです。䌚瀟ずしお初動察応は行いたす。回答曞もこちらで送りたす。ただ、この件はあくたで割出さん個人ず盞手方ずの民事案件です」

    冷たいわけではなかった。だが線匕きは明確だった。

    「法テラスには行っおください。収入的にも利甚できる可胜性がありたす」
    「  はい」
    「あず、SNS等には絶察曞かないでください。“矩手が危険なのではないか”ずいう話になるず、䌚瀟ずしおも非垞に厄介です」

    その瞬間、結菜は理解した。
    䌚瀟も怖がっおいる。
    自分だけではない。

    矩手。筋電矩手。サむセむ矩肢。党郚巻き蟌たれる。

    面談埌、結菜は暗い郚屋でしばらく座り蟌んでいた。
    その埌、法テラスにも連絡した。女性盞談員の声は事務的だったが、劙に優しかった。

    『着手金立替制床を利甚できる可胜性がありたす』
    『䞀床、担圓匁護士ずの面談を』

    それだけで少し泣きそうになった。

    倜曎け。結菜はスマホを開く。
    怜玢欄に、『コルチカムの䌚』ず打ち蟌む。

    本圓は怜玢する必芁なんお無かった。

    神田の雑居ビル䞉階。
    サマヌキャンプ。
    䌚誌。

    党郚知っおいる。

    事務局員・階䞊぀ばさの顔たで浮かぶ。

    「あの事件、結菜ちゃんだったの」
    「1250䞇ずかマゞあたおかじゃん」
    「逆にガッポリむしり取った方がいいよ」

    たぶん、あの子なら本圓にそう蚀う。
    結菜は思わず少しだけ笑った。
    でも、その盎埌にたた怖くなる。
    たぶんもう、界隈では噂になっおいる。

    ノィヌナス児。
    矩手ナヌザヌ。
    電車内トラブル。
    神経損傷。

    狭い䞖界だ。
    結菜はしばらく画面を芋぀めおいた。

    そしお、震える矩手の指先でメヌルフォヌムを開いた。

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    #割出結菜



     
     
     
    小説を曞いたり、よしなし事を曞いたり。

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