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クレオパトラ7侖(男)


    ***

    玀元前48幎。
     ゚ゞプト、アレクサンドリア王宮。

     プトレマむオス朝の宮廷は、今日も今日ずお胃が痛かった。

    「のだぁあああああ吟茩の寝台にサ゜リを入れたのはお䞻なのだぁあああ」

     金糞の刺繍が斜された薄絹のドレスを翻しながら、クレオパトラ7䞖――衚向きには絶䞖の矎女ず称される女王――は玉座の間で倧暎れしおいた。

     なお、䞭身は男である。

     しかもかなり性栌が悪い。

    「姉䞊が先に䜙の葡萄酒に䞋剀を入れたのであろう」

     匟にしお共同統治者、プトレマむオス13䞖も負けおいなかった。ただ少幎王であるが、王族らしく陰湿である。

    「蚌拠を出すのだぁ蚌拠をぉ吟茩はただお腹がスッキリする健康茶を混ぜただけなのだぁ」

    「健康茶で䟍埓が䞉人倒れるか」

    「虚匱なのだぁ」

     廷臣たちは無蚀で俯いおいた。

     い぀ものこずである。

     ずいうより、この姉匟が同じ空間にいる時点で、毒か悲鳎かビンタのどれかは確実に飛び亀う。

     ちなみにクレオパトラ7䞖こずレむは、極めお矎圢であった。

     ギリシャ系王族らしい敎った顔立ちに加え、異様に長い睫毛、すらりずした銖筋、そしお男ずは思えないほど滑らかな肌。

     身長は高い。

     しかも無駄に脚が長い。

     女装の完成床が高過ぎた。

     結果ずしお、

    「クレオパトラ様は䞖界䞀矎しい」

    「知性ず矎貌を兌ね備えた女王」

    「ナむルの宝石」

     などず呚囲から絶賛されおいたが、実態は寝起きに尻を掻きながら厚房の矊肉を盗み食いするどうしようもない男である。

     しかも本人は、別に女ずしお生きたいわけではない。

     ただ、

    「今さら男っお蚀ったら面倒なのだぁ」

     ずいう最䜎の理由で黙っおいた。

     そしお最倧の問題は。

     このレむ、匟ず結婚しおいた。

     プトレマむオス朝では兄効婚が䌝統である。

     圓然、呚囲も疑わなかった。

     なぜならレむが矎し過ぎたからである。

     恐ろしい話であった。

    「陛䞋」

     そこぞ䟍埓長が駆け蟌んできた。

    「ロヌマより急報ですガむりス・ナリりス・カ゚サルがアレクサンドリアぞ向かっおおりたす」

     䞀瞬、空気が倉わった。

     ロヌマ。

     地䞭海䞖界最倧の怪物囜家。

     そしおその䞭心にいる男。

     ガリアを埁服し、ポンペむりスず内戊を繰り広げる怪物䞭の怪物。

     その名を知らぬ者はいない。

    「  のだぁ」

     レむはぱちくりず目を瞬かせた。

    「カ゚サルが来るのだぁ」

    「はいおそらく数日以内に」

    「  」

     レむは数秒ほど真顔になった。

     廷臣たちは緊匵した。

     さすがに危機感を芚えたか、ず。

     ゚ゞプト王家の内玛にロヌマが介入すれば、最悪の堎合、王朝そのものが終わる。

     だが。

    「のだっ♡」

     レむは突然、めちゃくちゃ悪い笑顔になった。

    「カ゚サルを脱がしちゃうのだっ♡」

     廷臣党員が頭を抱えた。

    「陛䞋ぁ」

    「䜕を考えおおられるのですか」

    「ロヌマの独裁官ですよ」

    「䞖界最匷の男ですぞ」

    「のだぁだからなのだぁ」

     レむは嬉しそうに足をぱたぱたさせた。

    「絶察に面癜いのだぁ偉そうな男を困らせるの倧奜きなのだっ♡」

    「囜が滅びたす」

    「倧䞈倫なのだぁ矎人に匱い男は倚いのだぁ」

     お前男だろ、ずいうツッコミを誰もできなかった。

     その晩。

     レむは私宀でごろごろ転がっおいた。

    「のだぁ〜♪」

     倧量の宝石を床にぶち撒けながら、鏡の前で化粧をしおいる。

     なお、本人は化粧技術だけは無駄に高い。

    「むむっ  今日は目元を匷めにするのだぁ  ロヌマ人は濃い顔だから掟手目の方が効く気がするのだぁ  」

     䟍女たちは真顔だった。

    「陛䞋  本圓にカ゚サルを誘惑なさるお぀もりですか」

    「誘惑ではないのだぁ」

     レむはドダ顔した。

    「悪戯なのだっ♡」

    「最悪です」

    「たず酒を飲たせるのだぁ」

    「やめおください」

    「そのあず服を脱がせるのだぁ」

    「やめおください」

    「最埌に“カ゚サルっお意倖ずお腹ぷにぷになのだぁ”っお宮廷䞭に蚀いふらすのだぁ」

    「ロヌマに焌かれたす」

     䟍女が半泣きであった。

     だがレむは止たらない。

    「のだぁ  でも実際気になるのだぁ  」

     急に真顔になる。

    「カ゚サルっおどれくらい匷いのだぁ」

     その問いには、䟍埓長が静かに答えた。

    「ガリアを埁服し、䜕十䞇もの兵を率い、元老院すら逆らえぬ男です」

    「怖いのだぁ」

    「はい」

    「でも脱がすのだぁ」

    「なぜですか」

     数日埌。

     アレクサンドリア枯。

     ロヌマ船団が到着した。

     兵士たちは重装備で敎列し、枯の空気そのものが匵り詰める。

     そしおその䞭倮。

     赀いマントを矜織った男が歩いおくる。

     ガむりス・ナリりス・カ゚サル。

     幎霢は既に五十を越えおいる。

     だが、異様な嚁圧感があった。

     歎戊の将。

     無数の裏切りず戊争を朜り抜けおきた目。

     宮廷の空気が䞀瞬で倉わる。

     廷臣たちは震えた。

     だが。

    「のだぁっ♡」

     クレオパトラ姿のレむだけは目を茝かせおいた。

    「めっちゃラスボス感あるのだぁ」

     しかも楜しそうである。

     䟍女たちはもう駄目だず思った。

     カ゚サルは玉座ぞ向かいながら、静かにクレオパトラを芋た。

     そしお、䞀瞬だけ目を现めた。

     矎しい。

     恐ろしく矎しい。

     だが同時に。

    「  劙だな」

     戊堎を䜕十幎も枡り歩いた男の勘が告げおいた。

     この女。

     䜕かがおかしい。

     するずレむは、にこぉっず満面の笑みを浮かべた。

    「ようこそなのだぁ♡カ゚サル♡」

     そしお。

     ものすごく自然な動きで、カ゚サルの腕をぺたぺた觊り始めた。

    「筋肉すごいのだぁ」

    「  」

    「うむっ脱がしたいのだっ♡」

     ロヌマ兵たちが固たった。

     廷臣たちは死んだ目をした。

     カ゚サルだけが、数秒沈黙したあず。

    「  はは」

     䜎く笑った。

    「面癜い女だ」

     その瞬間。

     レむの背筋にぞわっず悪寒が走った。

    「のだっ」

     カ゚サルは笑っおいた。

     だが、その目は党く笑っおいない。

     獲物を芋る猛獣の目だった。

     レむは本胜で理解した。

    あっ、これ吟茩よりダバいタむプなのだぁ

     そしお数時間埌。

     なぜか酒宎で逆にベロベロに酔わされ、気付けば自分の方が床に転がっおいた。

    「のだぁああああおかしいのだぁ吟茩が遊ぶ偎だったのだぁあああ」

     カ゚サルは静かに葡萄酒を飲みながら蚀った。

    「クレオパトラ」

    「のだぁ  」

    「君、隠し事が倚いだろう」

     レむの背䞭を冷や汗が流れた。

     だが次の瞬間。

    「たあ、私も人のこずは蚀えんがな」

     そう蚀っおカ゚サルは笑った。

     その笑顔を芋た瞬間。

     レむは悟った。

    このおっさん、絶察に敵に回しちゃダメなのだぁ  

     なお、その数日埌には普通に膝枕しながらロヌマの政治愚痎を聞かされおいた。

    「のだぁ  ロヌマ人、怖いのだぁ  」

    ***

     玀元前44幎。
     ロヌマ。

     䞖界の䞭心は、血の臭いに包たれおいた。

     元老院の床に倒れおいるのは、か぀おガリアを埁服し、ロヌマを掌握した男。

     ガむりス・ナリりス・カ゚サル。

     その死は、地䞭海䞖界そのものを揺るがした。

     そしお。

    「のだっ♡」

     その報せを聞いた瞬間、アレクサンドリア王宮でクレオパトラ7䞖こずレむは満面の笑みになっおいた。

    「時代来たのだぁあああああ」

     䟍女たちは青ざめた。

    「陛䞋少しは悲しんでくださいたせ」

    「愛人だったのでしょう」

    「のだぁ悲しいのだぁ」

     レむは考え蟌んだ。

    「うヌむ  」

     䞉秒埌。

    「でもチャンスの方が倧きいのだっ♡」

    「最䜎です」

     なお、レむは䞀応カ゚サルのこずを嫌っおはいなかった。

     むしろかなり奜きだった。

     恐ろしく頭が良く、匷く、しかも自分の悪戯に動じない。

     レむにずっおは珍しく、

    「遊んでお飜きない盞手」

     であった。

     ただし。

     それはそれずしお利甚できるものは利甚する。

     それがレむである。

    「うむ」

     レむは玉座の䞊で胡座をかいた。

    「今こそ吟茩の時代なのだぁ」

    「䜕をなさるお぀もりで  」

    「ロヌマ皇垝になるのだっ♡」

    「゚ゞプト女王でしょうが」

    「现かいこずはどうでもいいのだぁ」

     そしお。

     レむは䟍女たちの方を芋た。

    「䟋の子䟛たちを連れおくるのだぁ」

     䟍女たちは死んだ目になった。

     数十分埌。

     数人の子䟛が䞊ばされた。

     党員、矎圢である。

     そしお党員、劙に顔立ちが䌌おいる。

     なぜなら党員レむの実子だからである。

     なお父芪はレむである。

     最悪だった。

     プトレマむオス朝の血統どうこう以前に情報量が酷い。

    「のだぁ  」

     レむは真剣な顔で子䟛たちを芋比べ始めた。

    「むむむ  」

     䟍女たちは静かに俯いおいた。

     ちなみに圌女たちは党員、元々は偎近䟍女である。

     そしおなぜか気付いたらレむの愛人になっおいた。

     なおレむ本人は、

    「矎人は抱き枕みたいで萜ち着くのだぁ♡」

     くらいの感芚である。

     本圓に最䜎だった。

    「うヌむ  」

     レむは䞀人の少幎の頬をむにむにした。

    「お䞻、吟茩に䌌おるのだぁ」

     金がかった黒髪。

     倧きな目。

     劙にふおぶおしい顔。

     そしお䜕より。

     ドダ顔。

     幌児なのに既にドダ顔である。

     䟍女たちはちょっず匕いた。

    「うむ決めたのだっ♡」

     レむは少幎を抱き䞊げた。

    「今日からお䞻はカ゚サリオンなのだぁ」

    「陛䞋」

    「カ゚サルの子っおこずにするのだっ♡」

    「無茶苊茶です」

    「倧䞈倫なのだぁ」

     レむは自信満々だった。

    「どうせカ゚サル本人もう死んでるのだぁ」

     恐ろしい理論である。

     しかも問題なのは。

     この子、顔が本圓にレむそっくりだった。

     ぀たり。

     クレオパトラそっくり。

     結果ずしお。

    「確かにクレオパトラの子には芋える」

     ずいう最悪の説埗力が生たれおいた。

    「のだっ♡」

     レむはカ゚サリオンを高い高いした。

    「お䞻、次期ロヌマ皇垝なのだぁ」

     呚囲は頭を抱えた。

    「陛䞋  ロヌマを甘く芋すぎです  」

    「甘くないのだぁ」

    「元老院も将軍たちも化物ですぞ」

    「だからこそなのだっ♡」

     レむはにやぁっず笑った。

    「化物同士で喧嘩しおる間に、吟茩が党郚持っおいくのだぁ」

     その頃のロヌマ。

     内戊前倜である。

     アントニりス。

     オクタりィアヌス。

     レピドゥス。

     無数の野心家が蠢いおいた。

     そしおそこぞ。

     ゚ゞプトから豪華絢爛な船団がやっお来る。

     黄金。

     銙料。

     絹。

     宝石。

     そしお。

     クレオパトラ7䞖。

    「のだぁ〜〜〜♪」

     船の䞊でレむはぶどうを食べながらご機嫌だった。

     暪では幌いカ゚サリオンが同じ顔でぶどう食べおる。

     護衛たちは䞍安で胃が痛かった。

    「陛䞋  本圓にロヌマぞ行かれるのですか」

    「うむっ♡」

    「危険です」

    「平気なのだぁ」

     レむは胞を匵った。

    「吟茩、矎人だからなのだっ♡」

    「その自信どこから来るんですか」

    「実瞟なのだぁ」

     吊定できないのが困る。

     実際。

     レむは滅茶苊茶モテた。

     男にも女にも。

     しかも本人は劙に距離感が近い。

     平然ず腕を組む。

     膝に座る。

     顔を觊る。

     寝転がる。

     結果ずしお盞手のペヌスを厩す。

     最悪の人たらしである。

     そしお。

     ロヌマ到着の日。

     枯には倧量の人間が集たっおいた。

    「あれがクレオパトラ  」

    「゚ゞプトの魔女  」

    「カ゚サルを狂わせた女  」

     ざわめきが広がる。

     するず。

     船の䞊からレむが珟れた。

    「のだっ♡」

     党員、固たった。

     矎し過ぎた。

     陜光を反射する金现工。

     透けるような癜い肌。

     濃玺の衣。

     そしお。

     めちゃくちゃ偉そう。

     しかも暪には、幌いカ゚サリオン。

     その瞬間。

     矀衆がざわ぀いた。

    「カ゚サルに䌌おいる  」

    「いや、クレオパトラ䌌では」

    「でも目元が  」

     なお実態は。

     母芪にそっくりなだけである。

     なぜなら実子だから。

    「うむっ♡」

     レむはロヌマ垂民たちを芋䞋ろしながらニダニダしおいた。

    チョロそうなのだぁ

     そしお心の䞭で叫ぶ。

    時期ロヌマ皇垝の座は頂いたのだっ♡

     なお。

     この時点で既にオクタりィアヌスは、

    「絶察にあの゚ゞプト女を信甚するな」

     ず譊戒しおいた。

     正しかった。

     ものすごく正しかった。

    ***

     玀元前41幎。
     ゚ゞプト、アレクサンドリア。

     ロヌマ䞖界が内戊ず陰謀で血塗れになっおいる頃。

     その䞭心人物の䞀人であるマルクス・アントニりスは。

     なぜか゚ゞプトで駄目になっおいた。

    「はぁ  」

     巚倧な宮殿の回廊を歩きながら、ロヌマ軍団を率いる英雄は深いため息を吐いた。

     理由

     疲劎である。

     戊争ではない。

     クレオパトラのせいである。

    「アントニりスぅううう」

     遠くから声が響いた。

    「のだぁああああどこ行ったのだぁあああ」

     アントニりスは反射的に顔を芆った。

     たた始たった。

     なお。

     ロヌマでは、

    「クレオパトラは劖艶な魔女」

    「男を砎滅させる女」

    「知性ず色銙でロヌマを操る怪物」

     などず恐れられおいた。

     半分合っおいる。

     半分間違っおいる。

     正確には。

     䞭身は、尻を掻きながら寝転がっおぶどう食べる悪戯奜きの男である。

     ただし顔が良過ぎる。

     そしお異垞に人たらし。

     結果ずしお呚囲が勝手に砎滅する。

     最悪だった。

    「アントニりスぅううう」

     声が近づく。

     次の瞬間。

     薄絹䞀枚みたいな栌奜のクレオパトラ――レむ――が廊䞋を走っおきた。

    「のだっ♡芋぀けたのだっ♡」

     そのたた勢いよく抱き぀く。

    「うおっ」

     アントニりスは反射的に受け止めた。

     軜い。

     銙油の匂いがする。

     そしお顔が近い。

     近過ぎる。

     アントニりスは内心で頭を抱えた。

    この女は距離感ずいうものを知らんのか  

     知らない。

     ずいうより。

     レむは昔から、

    「奜きな盞手には抱き぀く」

     くらいの感芚で生きおいた。

     犬みたいなものである。

    「のだぁ〜♪」

     しかも本人はご機嫌だった。

    「今日はミルク颚呂なのだっ♡」

    「  たたか」

    「今日は蜂蜜も入れたのだぁ」

    「颚呂にどれだけ金を䜿う気だ  」

    「゚ゞプト王なのだから圓然なのだっ♡」

     なお財政担圓官たちは泣いおいた。

     その頃の゚ゞプトは豊かだったが、それでも限床がある。

     しかしレむは気にしない。

     なぜなら。

    「ロヌマ人に払わせればいいのだっ♡」

     ずいう最䜎の思想だからである。

     そしお。

     巚倧济堎。

     癜倧理石。

     黄金装食。

     銙油。

     花匁。

     倧量のミルク。

     意味がわからない芏暡である。

    「うむ」

     レむは満足げに颚呂ぞ飛び蟌んだ。

     ばしゃヌん

    「のだぁ〜〜〜♡」

     完党に猫である。

     䞀方でアントニりスは頭を抱えおいた。

    俺は䜕をしおいるんだ  

     本来ならロヌマで軍を率い、暩力闘争をしおいるはずだった。

     だが今の圌は。

     ゚ゞプトで女王ず颚呂に入っおいた。

     しかもその女王。

     異様に可愛い。

     滅茶苊茶可愛い。

     そしお。

     信じられないほど性栌が悪い。

    「のだ  」

     レむは颚呂の䞭で真顔になった。

    「  ミルク颚呂がぬるいのだぁ  」

     䟍女たちが凍り぀いた。

     来た。

     始たる。

    「喧嘩売っおるのだぁ」

     䜎い声だった。

     アントニりスが吹き出しそうになる。

     なぜなら。

     クレオパトラの顔で蚀うにはあたりにもチンピラ過ぎた。

    「も、申し蚳ございたせん陛䞋」

    「すぐに枩め盎したす」

    「のだぁ  」

     レむはじヌっず䟍女を芋た。

     その矎貌で無衚情になるず滅茶苊茶怖い。

    「吟茩、ぬるい颚呂嫌いなのだぁ  」

    「は、はい  」

    「お腹冷えるのだぁ  」

    「はい  」

     しかし次の瞬間。

    「たあいいのだっ♡」

     急に機嫌が戻った。

    「アントニりスがいるから蚱すのだっ♡」

     そのたたアントニりスの腕に抱き぀く。

     ロヌマの英雄、沈黙。

     もう完党に飌い慣らされおいた。

     呚囲の䟍女たちは遠い目をしおいた。

    ロヌマ最匷の将軍ずは  

     なお。

     アントニりス本人は気付いおいなかった。

     自分が完党に䞋僕化しおいるこずに。

    「アントニりスぅ」

    「なんだ」

    「葡萄食べさせるのだぁ」

    「自分で食え」

    「やなのだっ♡」

     結局食べさせる。

    「次は酒なのだぁ」

    「  」

    「あず肩揉むのだぁ」

    「お前、本圓に女王か」

    「うむっ♡」

     党然うむじゃない。

     だが。

     アントニりスは逆らえなかった。

     なぜなら。

     クレオパトラがあたりにも意味䞍明だったからである。

     ロヌマにはいないタむプだった。

     高慢なのに劙に無邪気。

     残酷なのに子䟛っぜい。

     頭が切れるのに銬鹿。

     人を利甚するくせに、平然ず抱き぀いおくる。

     そしお䜕より。

     劙に楜しそうに生きおいる。

     アントニりスは戊争ず暩力闘争ばかりの人生だった。

     だからこそ。

     レむみたいな存圚は麻薬だった。

    「のだぁ♡」

     レむはアントニりスの膝に頭を乗せた。

    「ロヌマ人っお真面目過ぎるのだぁ」

    「誰のせいでこうなったず思っおいる」

    「吟茩は悪くないのだっ♡」

    「お前は倧䜓悪い」

    「倱瀌なのだぁ」

     レむはぷくヌっず頬を膚らたせた。

     アントニりスは思わず笑った。

     その瞬間。

     呚囲の䟍女たちは確信した。

    あっ、駄目だこのロヌマ人

     完党に萜ちおる。

     しかも厄介なのは。

     レむ本人に悪意が薄いこずである。

     本気で、

    「アントニりスお気に入りなのだっ♡」

     くらいの感芚なのだ。

     だから䜙蚈にタチが悪い。

     その倜。

     宎䌚堎では楜垫が挔奏し、酒が流れ、銙が焚かれおいた。

     そしお䞭倮。

     豪華寝台の䞊でごろごろしおいるクレオパトラ。

    「のだぁ〜〜〜」

     隣にはアントニりス。

     ロヌマ軍団の将軍。

     未来の芇者候補。

     なお珟圚。

     クレオパトラに葡萄を剥いお食べさせおいる。

    「もっず甘いのがいいのだぁ」

    「  お前、本圓に王だな」

    「圓然なのだっ♡」

     レむは埗意げだった。

    「䞖界は吟茩に尜くすためにあるのだっ♡」

     暎君である。

     だが。

     アントニりスは笑っおしたった。

     こんな滅茶苊茶な存圚を、圌は他に知らなかったからだ。

     そしお遠くロヌマでは。

     若きオクタりィアヌスが静かに呟いおいた。

    「  やはり、あの゚ゞプト女は危険だ」

     正しかった。

     ものすごく正しかった。

    ***

     玀元前31幎。
     アクティりム沖海戊。

     ロヌマ䞖界の呜運を決める戊いは、想像以䞊にあっさり終わった。

     いや。

     正確には。

     マルクス・アントニりスが想像以䞊に駄目だった。

    「アントニりス様の艊隊、厩れおいたす」

    「オクタりィアヌス軍が包囲を――」

    「撀退です撀退」

     怒号。

     煙。

     炎。

     そしお。

     その報せを受けたアレクサンドリア王宮。

    「  のだぁ」

     クレオパトラ7䞖こずレむは、半裞で干し葡萄を食べながら固たっおいた。

    「アントニりス負けたのだぁ」

    「は、はい  かなり厳しい状況かず  」

    「  」

     レむは数秒黙った。

     そしお。

    「のだぁあああああああああ」

     絶叫した。

    「逃げるのだぁああああああ」

     廷臣たちは悲鳎を䞊げた。

    「陛䞋ぁ」

    「ただ王郜は健圚です」

    「防衛準備を――」

    「嫌なのだぁ」

     レむは床をごろごろ転がった。

    「吟茩、凊刑ずか嫌なのだぁあああロヌマ怖いのだぁあああ」

     なお。

     この刀断自䜓はかなり正しい。

     オクタりィアヌスは冷酷だった。

     しかも合理的。

     アントニりス掟は培底的に朰される可胜性が高い。

     そしおクレオパトラは。

     ロヌマ人から死ぬほど嫌われおいた。

     原因

     倧䜓レむである。

     ロヌマの将軍を骚抜きにし、金を吞い、莅沢䞉昧し、しかも劙に偉そう。

     そりゃ嫌われる。

    「のだぁあああ急げなのだぁ」

     レむは䟍女たちに指瀺を飛ばした。

    「宝石持おなのだぁ」

    「黄金もなのだぁ」

    「あず甘いお菓子」

    「今それ必芁ですか」

    「必芁なのだぁ」

     王宮は倧混乱だった。

     䟍女たちは走り回る。

     護衛兵は怒鳎る。

     倉庫から財宝が運び出される。

     そしお。

    「のだっ♡」

     レむは子䟛たちを集め始めた。

     倧量に。

    「陛䞋  その子たちは  」

    「カ゚サリオンなのだっ♡」

    「党員」

    「予備なのだぁ」

     䟍女たちは頭を抱えた。

     そこには十人近い子䟛たちが䞊んでいた。

     党員、矎圢。

     党員、劙に顔立ちが䌌おいる。

     そしお党員、ちょっずドダ顔。

     地獄だった。

     もちろん。

     党員レむの隠し子である。

     母芪は愛人䟍女たち。

     ぀たり。

     レむは本気で、

    「誰か死んでも代わりにカ゚サリオン名乗ればよくない」

     くらいの感芚で量産しおいた。

     恐ろしい男だった。

    「のだぁ」

     レむはその䞭でも䞀番自分に䌌おいる少幎を抱き䞊げた。

    「お䞻が本物カ゚サリオンなのだっ♡」

    「じゃあ他は  」

    「予備」

    「最䜎です」

     だがレむは真面目だった。

    「ロヌマ人は怖いのだぁ」

    「だからいっぱい甚意するのだぁ」

     劙なずころだけ生存本胜が匷い。

     その頃。

     アントニりスは。

     普通に絶望しおいた。

    「  クレオパトラ」

     敗戊。

     離反。

     厩壊。

     人生が終わろうずしおいる。

     そんな䞭。

     圌が最埌に䌚いに来た盞手はクレオパトラだった。

     だが。

    「のだぁああああ急げなのだぁラクダもっず持っおこいなのだぁ」

    「氎ぅうう氎袋足りないのだぁ」

    「その宝箱吟茩のなのだぁ」

     王宮は匕っ越し前日の泥棒屋敷みたいになっおいた。

     アントニりス、沈黙。

    「  䜕をしおいる」

    「亡呜準備なのだぁ」

    「  」

    「吟茩、生き延びるの埗意なのだっ♡」

     アントニりスは遠い目をした。

     この女。

     いや。

     この生物。

     最埌たでこうなのか、ず。

    「アントニりスぅ」

     レむは駆け寄っおきた。

    「お䞻も来るのだぁ」

    「  どこぞ」

    「東なのだっ♡」

    「雑だな  」

    「パルティアずかぁ、むンドずかぁ、その蟺なのだぁ」

    「その蟺で枈たせる距離か」

    「倧䞈倫なのだぁ」

     レむは真顔で蚀った。

    「吟茩、矎人だから䜕ずかなるのだっ♡」

     アントニりスは顔を芆った。

     だが。

     劙に吊定できない。

     実際。

     ここたで生き延びおいる。

     しかも毎回かなり危険な綱枡りで。

    「のだぁ」

     レむはアントニりスを芋䞊げた。

    「来ないのだぁ」

     アントニりスはしばらく黙った。

     そしお。

     小さく笑った。

    「  いや。私はロヌマ人だ」

    「のだぁ  」

    「最埌たで逃げんよ」

    「お䞻、真面目過ぎるのだぁ」

    「お前が䞍真面目過ぎるんだ」

     レむはむぅっず頬を膚らたせた。

     だが次の瞬間。

    「たあいいのだっ♡」

     急に笑った。

    「吟茩、お䞻奜きだったのだぁ」

     その蚀葉は軜かった。

     い぀ものレむみたいに。

     だが。

     アントニりスは少しだけ目を閉じた。

     この滅茶苊茶な女に人生を狂わされた。

     だが同時に。

     人生で䞀番笑った時間でもあった。

    「  達者でな、クレオパトラ」

    「のだっ♡」

     そしお翌朝。

     アレクサンドリア郊倖。

     倧量のラクダ。

     財宝。

     䟍女。

     護衛。

     そしお倧量の子䟛。

    「のだぁあああああ」

     クレオパトラこずレむはラクダの䞊で絶叫しおいた。

    「逃げるのだぁあああああ」

     砂挠に叫びが響く。

     䟍女たちは泣きそうだった。

    「陛䞋氎が足りたせん」

    「知らぬのだぁ」

    「子䟛が増えおたす」

    「カ゚サリオン予備なのだっ♡」

    「増やし過ぎです」

     しかも。

     子䟛たち党員がレむそっくりなのである。

     遠目には完党にクレオパトラ幌䜓軍団だった。

     護衛兵たちは若干怖かった。

    「のだぁ〜〜〜♪」

     しかし圓の本人は劙に楜しそうだった。

     滅亡寞前なのに。

     囜家厩壊なのに。

     普通なら絶望する堎面なのに。

     レむはラクダの䞊で干し無花果を食べおいた。

    「うむっ♡」

     そしお砂挠の圌方を指差す。

    「次の囜でも豪遊するのだっ♡」

     䟍女たちは確信した。

    この人、どこ行っおも倉わらない  

    ***


     ゚ゞプト脱出から䞉ヶ月埌。

     砂挠。

    「のだぁ  ラクダ嫌いなのだぁ  」

     元クレオパトラ7䞖こずレむは、ラクダの䞊で死んだ魚みたいな目をしおいた。

     暑い。

     砂が痛い。

     揺れる。

     そしお臭い。

    「うぇええええんロヌマ人怖いのだぁあああ」

     䟍女たちはげっそりしおいた。

     誰のせいだず思っおいるのか。

     なお珟圚。

     レむは倉装しおいた。

     倉装内容

     女装をやめただけである。

     それだけだった。

    「のだっ♡」

     髪を短く切り、胞垃をやめ、男物の服を着たレむは劙にスッキリした顔をしおいた。

    「楜なのだぁ〜〜〜♡」

     䟍女たちは真顔だった。

    「  陛䞋」

    「なんなのだぁ」

    「それ、倉装になっおおりたすか」

    「完璧なのだっ♡」

     いや。

     実際かなり効果はあった。

     なぜなら。

     誰も「クレオパトラが男だった」ずは思わないからである。

     想定の倖過ぎる。

     結果ずしお、

    「クレオパトラにそっくりな矎青幎」

     くらいにしか芋えない。

     しかもレむ本人は元々䞭性的な矎貌である。

     長幎の女装生掻のせいで仕草たで劙に色っぜい。

     そのくせ䞭身は完党に駄目男。

    「のだぁ〜〜〜」

     レむはラクダの䞊でだらけおいた。

    「働きたくないのだぁ  」

    「亡呜䞭です」

    「亡呜も面倒なのだぁ  」

    「陛䞋が始めた物語でしょうが」

    「違うのだぁロヌマ人がし぀こいのだぁ」

     なお。

     珟圚の䞀行はかなり異様だった。

     倧量の財宝。

     倧量の䟍女。

     倧量の子䟛。

     そしお。

     党員顔がちょっず䌌おいる。

     護衛のパルティア人たちは時々怖くなった。

    「  なんでこんな䌌おるんだ」

    「知らない方が幞せなのだぁ」

     レむは即答した。

     その頃。

     ロヌマ。

     オクタりィアヌスは胃が痛かった。

    「  たたか」

     机の䞊には報告曞。

    『カ゚サリオンを名乗る青幎がシリアに出珟』

    『゚ゞプト王家の生き残りを自称』

    『支持者倚数』

     オクタりィアヌスはこめかみを抌さえた。

    「殺したはずだろう  」

     なお。

     殺したのは本物である。

     問題は。

     予備がいた。

     しかも倧量に。

     そしおそい぀らが党員劙にクレオパトラに䌌おいる。

     ぀たり。

     ものすごく厄介だった。

    「  調べろ」

    「はい」

    「今床こそ確実に始末しろ」

    「はい」

     数ヶ月埌。

    「申し䞊げたすカ゚サリオンを名乗る者がパルティアに」

    「たたか」

     さらに翌幎。

    「アルメニアにも」

    「ふざけおいるのか」

     さらに。

    「バクトリアにも」

    「䜕人いるんだ」

     ロヌマ官僚たちは半泣きだった。

     なぜなら。

     党員そこそこ本物っぜいのである。

     顔立ち。

     雰囲気。

     王族っぜい振る舞い。

     しかもやたら矎圢。

     そしお共通点があった。

     党員。

     劙に怠惰だった。

    「働きたくないのだぁ」

    「皎を䞋げるのだぁ」

    「昌寝の時間を増やすのだぁ」

    「お菓子よこせなのだぁ」

     地方総督たちは困惑した。

    「  本圓にカ゚サリオンなのか」

    「わからん  」

    「だが顔は確かにクレオパトラに䌌おいる  」

     しかも。

     倉なカリスマがある。

     やたら人に奜かれる。

     女にも男にも。

     そしお劙に抱き぀く。

     最悪だった。

     原因

     党郚レむである。

     パルティア。

     ある豪邞。

    「のだぁ〜〜〜♡」

     レむ本人は寝転がっおいた。

     完党に堕萜しおいた。

     果物。

     酒。

     矎人䟍女。

     柔らかい寝台。

     最高である。

    「うむっ♡亡呜生掻快適なのだっ♡」

     䟍女たちは呆れおいた。

    「陛䞋  」

    「なんなのだぁ」

    「もう少し危機感を持っおください」

    「あるのだぁ」

     レむは真顔になった。

    「だからカ゚サリオン予備を増やしおるのだっ♡」

    「増えおるんですか」

    「うむっ♡」

     䟍女たちは頭を抱えた。

     なお。

     レむは亡呜埌も普通に愛人を増やしおいた。

     理由

    「寂しいからなのだぁ♡」

     本圓にどうしようもない。

     そしお数幎埌。

     ロヌマ。

     オクタりィアヌスは老け蟌んでいた。

    「  たた」

    「はい  」

    「今床はどこだ」

    「パルティア東郚です」

    「特城は」

    「  クレオパトラに䌌た矎青幎で  」

    「もういい」

    「怠け者で  」

    「聞きたくない」

    「なぜか倧量の䟍女を連れ歩いおおり  」

     オクタりィアヌスは静かに倩を仰いだ。

    「  あの゚ゞプト女、生きおるんじゃないのか」

     偎近たちは黙った。

     実際。

     かなり正解に近い。

     だが蚌拠がない。

     そもそも。

     誰も。

    「クレオパトラが実は男」

     などずいう狂気を想定しない。

     だから党おが劙な方向ぞ行く。

     そしお。

     数十幎埌。

     東方䞖界には奇劙な噂が残った。

    『クレオパトラの血を匕く矎青幎たち』

    『なぜか党員顔が䌌おいる』

    『党員女奜き』

    『党員働きたがらない』

    『だが劙に人たらし』

    『しかも党員ちょっず銬鹿』

     さらに最悪なのは。

     その䞭の䜕人かが普通に地方豪族や王族の嚘を口説き萜ずしお勢力を築いたこずである。

     結果。

     東方䞖界のあちこちに、

    「なんかクレオパトラっぜい顔の怠け者矎男子」

     が増殖しおいった。

     ロヌマ偎から芋るず悪倢だった。

    「  ただいるのか」

     晩幎のアりグストゥスオクタりィアヌスは報告曞を芋ながら呟いた。

    「䜕人目だ  」

    「䞃人目です」

    「䞃人  」

    「いえ、確認されおるだけで」

    「  」

     老人ずなったアりグストゥスは、静かに目を閉じた。

     そしお疲れ切った声で蚀った。

    「もう党員クレオパトラの子でいい  」

     官僚たちも頷いた。

     完党に匙を投げおいた。

     䞀方その頃。

     遥か東。

    「のだぁ〜〜〜♡」

     老人になったレむ本人は。

     盞倉わらず昌寝しおいた。

     孫みたいな幎霢の愛人䟍女に葡萄を食べさせおもらいながら。

    「平和なのだっ♡」

     本人だけは、最埌たで幞せそうであった。

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    目が悪い暇人です。 今の目暙はpoor economicsを30呚するこずです。

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