メインコンテンツへスキップ
見出し画像
Photo byakanemachi

四季、巡る

    春


    花びらが舞って風が色づく。
    飛び立つ鳥、河川敷の水面が輪郭を纏う。

    桃色の絨毯に足を投げ出す僕は、君に手を振った。

    僕に気づいた君は足取りが弾んで見えた。
    そして君は朝露に足を滑らせ春色に染まった。

    「お弁当頑張ったのに」
    ひしゃげたバスケットを僕に突き出す。

    形の崩れたおにぎりを肩を並べて頬張った。
    「ご飯粒付いてる?」
    「うん」
    そう聞く君に手を伸ばす。

    頭の上に付いた花びらを君に見せて僕はそれをパクリと口に放り込んだ。

    君は笑った。僕はその笑顔が好きだった。

    茶色に汚れた白いスニーカー、擦りむいた膝。
    君は気にする様子なく高らかに笑う。

    僕は春が好きだった。そして君が好きだった。










    夏



    「太陽、早く!」
    何をそんなに急いでるのかは、わからなかった。
    振り向きながら君が僕の名前を呼ぶ。
    再び駆け出して向日葵畑に入って行く背中を追いかけた。

    「どこ?」
    駆ける足を止めて声を投げる。

    「ここにいるよ」
    背の高い向日葵に彼女が溶け込む。

    「こっだちだよー、捕まえてみてよ」
    声のする方に視線を送る。

    黄色に染まる世界で君の麦わら帽子がぴょこぴょこと跳ねているのを見た。

    僕は白のレースが靡く麦わら帽子を追った。

    「また転ぶぞ」
    そう言って君の手首を掴む。

    「転んでも待っててくれるでしょ?」
    深く被った麦わら帽子で、僕を見上げる君とは目が合わない。

    君のドジなところと発言も僕と噛み合わない。

    「心配が勝つけどね」
    僕はその時、そう返したのを覚えている。

    「ありがと」
    君はそう言って再び駆け出していた。










    秋



    銀杏の身が地面に転がる黄色いトンネルを歩く。
    歩幅は狭いのに歩くのが速い君の手を握る。
    休日の昼時、地域の小さな図書館に僕たちは訪れた。
    借りた文庫本を片手に公園のベンチを目指した。

    「食欲の秋って言うよね」
    ベンチで隣に座る君が文庫本を閉じながら僕の方に視線を送る。

    「今日は読書の日では?」
    そう言う僕の文庫本を取り上げ、竹箒の立てかけられたトイレに指を差した。

    「落ち葉集めよ、焼き芋やりたい」
    そう言う君は落ち葉を集める。


    枯れ葉の山に君が突っ込む。
    寒さで鼻が真っ赤に染まる君は楽しそうに笑った。
    スーパーで買った芋にアルミホイルを包む。

    火をつける直前、管理人に怒られたあの日を思い出す。

    あんな日々が続けばよかったのに。










    冬



    君は滑るのが上手かった。
    話にしたってオチがないし、ツボが合わない。
    よく転ぶ、でもスノーボードを滑るのは得意だった。


    コテージに積もる雪。
    朝の澄んだ空気を吸いに、二人で散歩へ出かける。
    鼻先が熱を帯びる。
    圧雪された舗装路、雪の壁。
    僕は君に呼びかける。

    「後ろ、危ない」

    冷たい空気が一気に肺をめぐる。
    背筋が凍る。



    君は足を滑らせ転んだ。



    雪を踏み砕く音が聞こえる。




    雪原に染まるはずの君は何故か赤に染まっていた。


    僕はそんなに強くなかった。

    話のできない相手を前に、僕はその場を立ち去るしかなかった。






    冷たい箱に入る君の頬を撫でる。
    僕の熱は君に伝わらない。

    あの時に戻れるのなら、僕も君と一緒の色に染まればよかった。

     
     
    物語に答えは置かない。 説明で読者を導くこともしない。 行間や沈黙、言い切らなかった部分に意味を預け、読む人それぞれの記憶や感情が立ち上がる文章を書いています。 正解より余韻を、結論より体温を。 読み終えたあと、少し立ち止まってしまうような、そんな物語を目指しています。

    あなたへのおすすめ