
ソラニン
いつも通り誰も居ない家に帰り
明るくなりきらない部屋の照明を点ける
スーパーで買ってきた朝採れのレタスを水で
洗いながらアジカンのソラニンを口ずさむ
決して鼻歌を歌う様なご機嫌さは無いのだが
俄かに脳内で無限ループし出したこの歌が
最近自然と口からはみ出てくる
例えばゆるい幸せがだらっと続いたとする
きっと悪い種が芽を出して
もうさよならなんだ
久しぶりに聴いたのは唯一の男友だちと呼べる
KからきたLINEだった
結成30周年でファーストテイクに出てたよと
白い部屋でソラニンを演奏するアジカンの
動画を観た
当時繰り返して聴いていた脳内の箪笥がすっと
開き当時の感動そのままに別の所ににしまって
いた記憶を同時に呼び覚ました
俺たちは幸せだった
ずっとそう思っていた
人並みまでとはいかなくとも
14年間の間苦楽を共にしながら
頑張って生きてきた
年齢もあり周囲から言われた事をきっかけに
少しずつ胸に溜めて言えない事が出てきた
そしてそれに向き合う事から逃げた
自分と、相手と向き合う事から逃げた
目の前の仮初の幸せの中に逃げこんだ
地元も無く友だちも居ない転勤族の俺に
その事で助言してくれる人は居なかった
悪い種はすぐに大きな芽となり
現実を食い破ってきた
その時にはもうどうしようもなかった
全部俺が悪かった
そう気づいた時には
もう後戻りはできなかった
その芽を育てた代償は大きかった
世界で一番孤独だと思う夜を幾夜か重ねて
プールが一杯になるくらい泣いた
生きている意味が分からなかった
すべてを失ってからっぽになってしまった
自分が虚しすぎて消えてしまいたかった
冗談じゃなくて本当にカオナシだった
休みの日イオンモールに行けなかった
行くとベビーカーを押した若い夫婦が
笑顔で話しながら通っている
その光景が眩し過ぎて直視できないからだ
話す相手も居ない
未来への希望もない
カオナシはひたすら存在を薄めて生きてきた
自由な独房の中で灰色の部屋から出れず
空の青さにも気づけなかった罪人
もっと罰してくれよ
いっそ殺してくれたら良かったのに
囚われた思考は最早機能していなかった
寂しさ紛れにどうでもいい女性を抱いた
抱いたと言うと語弊がある
心が動かないマグロだったから
その上で襲われた
乾いた定点カメラの上で揺れる女体
束の間に人肌を感じている時だけ
微かに景色に色を感じた
性に生を見出そうと縋りついていた
病んで風俗に堕ちていく若い女性の気持ちって
こんな感じなんだろうなぁ
本当はこうなりたくなかった
正しく生きていたかった
では問うが
正しさってなんだい?
そんな自問自答を繰り返す地獄の中を
半透明な身体で通り過ぎた毎日を思い出した
人に欠陥があるのは当たり前で
欠けている事が愛おしかったりする
完璧な幸せなんてありゃしない
刷り込まれた当たり前に踊らされ
苦しんだ6年間の意味を今また思う
すごい思うんだ
あの時こうしていれば
あの日に戻れたなら
あの頃の僕には
もう戻れないよ