帰ってこなかった『Pineapple』
今日、夫から学生の頃の面白い話を聞いた。
夫は、あの頃のヤンキー文化の真っ只中で、学生時代を過ごしていた。
クラスには、みんなから一目置かれている「番長さん」がいた。
音楽の授業で、先生が何度注意しても、みんながなかなかちゃんと歌わない。
そこで先生が番長さんを指名した。
先生「○○くん、指揮してくれる?」
番長さんが前に出て、みんなのほうを向く。
そして一言。
番長さん「みんな、ちゃんと歌えよ」
すると、それまでちゃんと歌っていなかったみんなが、一斉に声を出して歌い始めた。
そんな番長さんが、修学旅行のバスでは夫のすぐ近くにいた。
一番後ろの席で、番長さんは横になってウォークマンで何かを聴いていた。
夫も座席に座って、松田聖子のカセットを聴いていた。
すると番長さんが、
番長さん「何聴いてるの?」
夫「松田聖子」
番長さん「俺、横浜銀蝿。交換して」
夫「え?」
言われるまま、夫はカセットを交換した。
番長さんが聴き始めたのは、松田聖子の『Pineapple』。
しばらくすると、
番長さん「いいねー」
どうやら気に入ったらしい。
夫は横浜銀蝿を聴きながら、
「横浜銀蝿……聴いたことないんだけどなー」
と、心の中で思った。
でも、交換してしまったので、そのまま横浜銀蝿を聴くことに。
そして――
『Pineapple』は、帰ってこなかった。
そんなやり取りが繰り広げられていたバスの中では、女子たちが松田聖子の『レモネードの夏』を大合唱していたらしい。
聖子ちゃんの歌声が響くバスの中で、夫は横浜銀蝿を聴いている。
なんとも可笑しい、修学旅行の一コマ。
それから何十年も経った今。
夫は最近、レコード集めにハマっている。
昔、手にすることができなかった、あの頃の聖子ちゃんのLPを集めるのも楽しみのひとつになっている。
その中に、『Pineapple』もある。
そのジャケットを見るたびに、夫はあの日のことを思い出すらしい。
帰ってこなかった『Pineapple』。
……それにしても、
返してあげてよ😂
