10時間 第一章 ✤再生✤
第一章【再生】
気付いた時、俺は見たことのない列に並んでいた。
とても長い列だ。
最初は分からなかった。
けれど、列が進むにつれて、
少しずつ先頭が見えてきた。
小さな門がある。
その上に、【天選所】と書かれていた。
「……中国語?」
意味は分からない。
ただ、何かを選別しているらしいことだけは、なんとなく理解できた。
「関所…?」
俺の知識では、そう表現するのがやっとだった。
老若男女が、妙にきちんと整列している。
誰も騒がないし、誰も列を乱さない。
不思議な感覚だった。
少しずつ列は進む。
自分で歩いているような、歩いていないような。
何かの力で浮き上がっているのか。
それとも、引かれているのか。
脚は動いているのだが、
身体は自然と前へ進んでいた。
やがて、関所めいた場所がはっきりと見えてきた。
小さな門を、一人、また一人と人がくぐっていく。
門の脇には、背の高い、
肌の黒い大男が左右に立っていた。
まるで、神社の仁王像のようだった。
「進まれよ」
低い声が響く。
俺の前に並んでいた男が門を通った時、その中が一瞬だけ見えた。
テレビで見た、
裁判所のような場所だった。
フロアの先には、いかにも紳士と淑女といった二人が立っている。
「次の方、前へ」
中から声がした。
「進まれよ」
また、低い声が耳に届く。
俺の身体は抗うこともできず、
門の中へ吸い込まれていった。
「……部屋?」
先ほど見えた男女の頭上にも、
【天選所】の文字があった。
二人は書類を手にしていた。
それを見ながら、部屋に入ってきた人間に話しかけている。
表情は淡々としている。
けれど時折、喜怒哀楽が混ざったような、複雑な表情を見せていた。
「次の方、前へ」
紳士が声をかける。
俺の前にいた男性が、二人の前に立った。
俺は息をのんだ。
淑女が書類を見る。
「ヤマダタロウ、83歳。老衰により、この場へ」
「生前の犯罪歴なし。会社員として工場で47年間勤務。勤務態度は良好。妻と子供二人を育てた」
紳士が続ける。
「天寿まっとうにより、修練、再生の必要なし」
そして、淡々と言った。
「天国行きにご乗車ください」
ヤマダタロウの身体が消えた。
「次の方、前へ」
淑女が書類を読む。
「ヤマノサチコ、43歳。熱中症により、この場へ」
「生前、多額の借金を……」
淑女が一瞬、表情を曇らせる。
「天国、却下。再生の必要なし」
紳士が言った。
「修練行きにご乗車ください」
目の前の女性の身体が消えた。
ここは、あの世なのか。
俺は死んだのか?
そういえば、家で転倒した。
そして、気がついた時には、
この列に並んでいた。
紳士の声が耳に届く。
「次の方、前へ」
俺の身体が前へ引き寄せられた。
並んでいる時には分からなかった。
けれど、紳士と淑女の前に立つと、
二人には妙な威圧感があった。
淑女が書類に目をやる。
「広瀬 明、25歳。自宅にて転倒し、この場へ」
「生前の犯罪歴なし、独身、恋人あり、飲食店勤務……。両親健在……。生涯清算未実施……」
紳士が口を開いた。
「未練あり。天国、修練に及ばず」
一瞬の間。
「生涯清算のため、再生の道、10時間」
何を言ってるんだ?
「この書類にサインを」
差し出された紙には、【再生同意書】と書かれていた。
俺は訳が分からないまま、サインを書いた。
「再生行きにご乗車ください」
身体が強く引かれた。
次の瞬間、俺は古い電車の車内にいた。
車内には、何名かいたように思う。
でも、よく覚えていない。
列車が走り出した。
空間にふわりと浮いた列車が進む先には、
白、緑、赤の三色に、くっきりと分かれた場所が見えた。
俺の列車は、緑色へ真っ直ぐ進み、吸い込まれていった。
窓からは、白へ登っていく列車と赤へ落ちていく列車が、何本も見えた。
【あとがき】
小説「10時間」を書き始めました。
第一章を読んでいただき、ありがとうございます。
広瀬 明の身に何が起きたのか。
そして、「10時間」とは何なのか。
再生の先で、
彼を待っているものとは。
物語は、まだ始まったばかりです。
第二章【疑心】でお会いしましょう。
※第二章からは、メンバーシップ先行公開となります。
投稿して分かりましたが、
この記事で、投稿100本目となりました。ありがとうございます。
jinsei
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Jinsei