
~ 妖怪黙示録シリーズ ~ ③溶け込まざるもの
今回は街中でのお話となります。
妖怪の進化にまつわるお話となりますが、しばらくお付き合いください。
『木を隠すなら森に隠せ』と言う言葉があるように、
目立たせたくない時や目立ちたくない時は、
周りに同種が多いほどその存在は薄くなりますよね。
この考え方は、何も人間に限った事ではありません。
そう、最近は妖怪界でも同じ様な傾向が見られるのです。
人類が進めて来た近代化は、
自然と引き替えに我々の生活に利便性をもたらした。
大都市になるほど、それは顕著に現れている。
街から自然が消えた結果、住みかを失った都会に住む妖怪は、
新たな自然を探すか、街に出るか?の選択を迫られた訳です。
自然を探したのは、見た目がそのまま妖怪と言うものたち。
街に出たのは、見た目を変化させられる妖怪たち
と言う説が有力とされている。
一方、我々の進化と同じく、
一部の妖怪は変化(ヘンゲ)や同化と言う能力を身につけ、
現代社会にひつそりと隠れているとも言われている。
昔話や落語の世界では、タヌキやキツネが見事に化けるものです。
それも、自分の身体より大きな大入道や、小さなお札や財布と言う具合に。
その様な事は容易ではありません。
あなたが、一万円札に化ける事を想像して下さい。
……まぁ、そう言う事です。
東京。
日差しと風が心地良い。
桜並木からヒラヒラと舞い散るハナビラ。
思わず足を止めて、桜を見上げる。
風の誘惑に任せて空中に舞うハナビラが、
ヒラヒラと足元に落ちる。
行き交う人の群れに視線を戻し、
サクラ色の絨毯を優しい足取りで歩き出す。
ほどなく、
視界の隅に桜顔負けのピンクが通った。
すれ違った女性に、ふと違和感を感じて振り返った。
「えっ!?」
思わず二度見する。
「なんだ!」
「なんだ?」
桜に負けないショッキングピンク色のハーフコートを
まとった40~50代のおっさん!
見れば見るほど違和感がある。
--違和感の日本代表--
違和感JAPAN!爆誕!
茶色のショートヘアは手入れを怠ったかの様なボサボサ髪。
ちらりと見えた横顔には、青々としたヒゲのあと。
その後ろ姿は、鮮やかなカラーのコートと、
コートから生えた二本の脚が強烈なインパクトを与える。
更に、その脚に、はっきり分かる多数のすね毛、あし毛に、何だっけ。
気分が悪くなった。
桜のハナビラによって運ばれたささやかな幸せは、
俺の記憶から跡形も無く消えた。
頭がくらくらしてくる。
遠のきそうな記憶に残るのは
ピンク、ピンク、またピンク。
たまに、青--。
「はぁ〜」
「もうちょっと上手く化けろよ~」と思わず呟いた。
そうです、それは紛れもなく妖怪です。
いつもなら、
ギャーーーーッ! (@_@)
と叫ぶところですが、今回は体に力が入らない。
できれば、見たく無かった。
会いたくも無かった。
知っているかい? 妖怪『腐怪(フカイ)』って。
妖怪『腐怪(フカイ)』!
妖怪『腐怪(フカイ)』とは、同化や変化(ヘンゲ)が得意な妖怪。
夜行性、森林に生息し、昼間は木や岩等に同化している。
草食でおとなしいとされている。
基本的に、向こうから近づく事は無く、
出くわしても腐怪の方から逃げて行く。
気が弱いが、目立ちたがり屋の側面も持つ。
ピンク系統の色を好む。
1970年代から、変化(ヘンゲ)する腐怪が度々目撃されている。
活動も昼夜を問わなくなって来ている。
(スーパー妖怪大全集より抜粋)
ヘンゲは苦手と聞いていたが、酷いヘンゲです。
はっきり言って、失敗なんて言葉では片付けられません。
害はないが、確実に嫌な気分になった。
まったく、不快な妖怪です。
最後に、消えて行く腐怪の背中に向かって
「へたくそっ」
と言ってやりました。
あなたが気づいていないだけで、
街中には、色々な妖怪がいる。
周囲に「?」を感じた時には注意が必要だ。
それは、人ではなく...
妖怪かもしれない。
おいっ、妖怪たち。
俺には、お前たちが見える。
『おい、お前、俺に、なんかようかい』

最後までお読みいただき、ありがとうございます。
本シリーズに登場する妖怪・怪異はすべて創作であり、
実在の人物・団体・文化的背景とは一切関係ありません。
特定の誰かを揶揄する意図もなく、
日常の中の小さな違和感を楽しむためのフィクションです。
今後も気軽に読んでいただければ嬉しいです。