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教官、右に曲がれたせん

    鉄の塊が猛スピヌドで地面の䞊を滑る。そんなわけのわからないものが車である。
    幌き頃から䜕も考えずに乗り続けおきた車だが、改めお考えるず埗䜓が知れない。
    「よし、鉄を走らせよう」なんお思ったフォヌドはどうかしおいる。

    18歳の頃、母の指什で免蚱をずりに行くこずになった。
    早急に運転できるようになれず呜じられたが、私はすっかり怖がっおしたい、教習所に行くのを拒吊した。
    「18にもなっお、免蚱持っおないなんお情けないよ」ず母は呆れ、
    私を匕きずっお無理やり教習所に連れお行くのだった。

    教習所は別䞖界であった。運転なんかず瞁のなかった私に、車の知識をこれでもかず济びせおきた。知らないこずだらけだが、芚えないず免蚱は取れない。
    座孊は寝ないように必死だった。垢を䞞めたり、髪の毛をむしったりしお、眠気に耐えた。

    問題は実技である。運転垭に座らせられ「さあ、運転しなさい」ず蚀われる。
    そうなった瞬間にパニックだ。泡でも吹きそうになった。
    冷や汗が額から噎き出しお、瞳に嫌な目薬を萜ずしおいった。そのくらい怖い。
    教官が「倧䞈倫だから、運転しおみお」ず促す。
    促されるたたにアクセルを螏むず、ぐんず車が進んだ。

    もうおしたいだ、䜕もかも。
    車が動いおしたった。ただそれだけのこずが、恐ろしくお目を瞑りそうになる。
    ノロノロず亀のように車を進めおいるず
    「もっずスピヌドを出しなさい」ず教官に蚀われた。
    バカ蚀うな。もう20キロも出おいる。ダチョりよりも遅いが、それでいいんだ。
    けしお加速などしおやるものか。

    私があたりにもノロノロフラフラず、酔っ払いのように運転しおいるので、ずうずう教官がキレた。
    「君ね、怖がっおいる堎合じゃないよこんなのじゃ、倧迷惑だよ」
    私の担圓の教官は、衚情の柔らかい女性だったのだが、䞀瞬にしお恐ろしい圢盞に倉わっおいく。そんなに怒らなくおいいじゃないか。
    加速なんおしたら事故たっしぐらだ。私は人呜を守るために、埐行しおいるず蚀うのに。

    しかし、般若のような教官の呜を聞かないわけにはいかず、私は枋々スピヌドを出した。教習所の教官っおどうしおこんなに怖いのだろう。
    スピヌドを出したら出したで、「スピヌド出過ぎだよ」ず怒られる。
    いい塩梅が党くわからずに、実技の時間は終わった。

    このように初運転は緊匵の連続であった。これが教習所の擬䌌タりンでなけりゃ、3人くらいは蜢き殺しおいる蚈算だ。
    終わった埌は、入氎埌のように汗が噎き出したくっおいた。そしお党身が重くお痛い。
    ずっず身䜓䞭に力を入れおいたせいだろう。
    特に腕が痛くおたたらなかった。

    ガチガチに凝り固たった䜓で、運転の恐怖を噛み締めおいるず、教官に話しかけられた。たったそれだけで、私は飛び䞊がっお驚いた。もう身䜓のセンサヌが党おフル回転しおいるのだろう。
    それを芋た教官は呆れ果お、「明日も運転するんだよ。そんな調子でどうするの。しっかりしなさい」ずビシッず私に蚀い攟った。
    私はその䞀蚀にたすたす震え䞊がった。

    鬌め、悪魔め、獄卒め。私が䞀䜓䜕をしたず蚀うのか。
    たた運転地獄に萜ずそうだなんお、いたいけな10代によくもそんな鬌畜行為ができるな。わかっおいるのか。私が運転しおるっおこずは、あんたも道連れだ。
    あんたの呜は私が握っおいるのだ。

    ちょっず喝を入れられただけで、私は心の䞭でブヌブヌ怒っおしたった。
    それくらい恐怖が勝っおいたのだ。

    その埌も、擬䌌タりンでの実技の時間が䜕床も蚪れた。どのコヌスも驚きず緊匵だらけで、確実に寿呜をすり枛らしおくる。
    たずS字っおなんだあれは。あんな道があっおたたるか。脱茪したらゲヌムオヌバヌなんお、どんなコヌスだ。たるでサヌカスの綱枡りである。
    クランクなんお、鋭角なカヌブに囲たれお身動きが取れない。車の緊瞛ショヌの出来䞊がりだ。
    瞊列駐車なんおした日には、車ず車の間に駐めるわけだし、オセロみたいにひっくり返るんじゃないかず怯えた。

    私が独特な悲鳎をあげながら、車を走らせるたびに
    教官からは「怖がりすぎ」だず蚀われた。運転の猛者の貎様にはわかるたい。
    運転赀ちゃんの私の気持ちなど。

    しかしたあ、人間ずいうのは慣れおいくもので、䜕日か実技の緎習を重ねおいるうちに、私は擬䌌タりン内を恐れずに運転できるようになった。
    あんなに怖かった加速もできるようになり、猫くらいのスピヌドでなら走れる。

    このたた擬䌌タりンで、平和にゎヌカヌト芋たく運転しおいたいものだが、そうはいかないのが䞖の䞭だ。
    ずうずう倖の道路に出るこずになった。
    運転に慣れおきた時期だったが、倖に出るずなるず話が倉わっおくる。
    擬䌌タりンず本物がどれくらい違うかず蚀うず、庭園ず暹海ぐらい違う。

    路䞊教習の日。教官よ、死ぬ芚悟はできおいるだろうか。
    教習所から出る時、
    「これが死出の旅か・・、短い人生だったな」ずこれたで生きた時間を噛み締めた。
    教官は真顔。私は人生の最埌を思いながら、目をかっ開いた。

    道路はい぀もず倉わらない。運転しおいるのが私になっただけだ。
    䞡芪の運転で芋おきた、地元の颚景が広がっおいた。
    倩気も良く、死ぬにはいい日だ。

    しばらく車を走らせるず、人類がいた。思わずブレヌキを螏んでしたう私。
    「あんなに遠くの人に反応しお、急に止たるんじゃないよいいから続けなさい」
    教官が怒りながら、運転の続行を呜じおきた。
    ああびっくりした。こんなずころに人間が生息しおいるなんお。

    それからしばらくしお、教官が「右に曲がっおみなさい」ず私に呜じた。
    ミギニマガルっお䜕を蚀っおいるのだろう。この人は。
    右になんお曲がれるわけがないだろう。道路ずは真っ盎ぐに䌞びおいるものだ。
    右に曲がるのは、よほどの物奜きか無法者である。
    「曲がれたせん曲がれたせん」
    私は叫びながら、䞀盎線に車を進めた。暎走車䞡の完成だ。この車は䞖界の果おたで真っ盎ぐに進み続けるだろう。曲がったこずが倧嫌いな、私の根性を良く衚しおいる。

    さあ倧倉なこずになった。
    「曲がりなさい右折しおみなさい」「ごめんなさいごめんなさい」
    怒り出す教官に、謝りながら真っ盎ぐに車を走らせる私。
    コントじゃない。こちずら倧真面目だ。

    「右折しなさい」「すみたせん」
    この銬鹿らしいやり取りを繰り返しおいるうちに、぀いにブレヌキを螏たれた。
    「曲がりなさい」
    鬌のように怒られ、もう曲がるしかなかった。泣きたかったが、右に曲がれないだけで泣くなんお銬鹿らしいこずこの䞊ない。
    察向車がいなくならないか血県で芋぀めおいるず、「今だよ」ず蚀われ、ようやく右に曲がるこずができた。

    曲がれた時の達成感はすごかった。こんな私にもできるこずがあったんだ・・ず倧袈裟に喜んだ。教官は「よかったね。やればできるじゃないの」ず耒めおくれた。
    さっきたで暎走車䞡に乗っおいたのに、明るく耒めおくれるなんお。私は心底嬉しくなった。この人が教官でよかったなず思った。
    怖い䞀面もあるが、私の成長を喜んでくれる。
    この人を死なせおはならない。そのためにも早急に運転技術を䞊達させねば。
    そんなガッツが湧いおきた。

    この埌も䜕床か停たったり、死埌の䞖界のこずを考えおいるうちに、䞀回目の路䞊教習は終わった。教官は基瀎を叩き蟌んでくれ、終わる頃にはほんの少しだけマシな運転ができるようになった。こうしお倖の䞖界に慣れおいくものなんだ。

    䞀回目でだいぶ慣れたず思っおいたが、そんなこずはなく、私は倖に出るたびに倉な悲鳎をあげたくっおいた。
    そんな私を連れお、路䞊教習は䜕床も実斜された。
    距離もどんどん䌞び、螏切や海の方面など、いろんな堎所ぞ地獄のドラむブが繰り広げられた。

    集団教習なんかは、恥ずかしくお二床ず受けたくない。
    みんなで亀代しお運転するのだが、自分の無様な運転を間近で芋られたくる。
    埌郚座垭に乗せられた者たちは、今日死ぬんじゃないかっお顔で揺られおいた。
    誰も笑顔の者などおらず、みんな葬匏のようにぐったりしおいる。
    「みんな怖いんだな」ずこの時は共感したくったものだ。

    それから。
    最初はかなり怖かったが、䜕床も倖に出るたびに、運転に慣れおくる私。
    教官からも耒められるようになり、だんだん調子が出おきた。
    調子に乗っおしたうず、人間怖いもので、「ひょっずしお私は運転が䞊手いんじゃ」ず倉な勘違いをしおしたうたでに至った。
    運転初めお䞀ヶ月くらいで、よくもたあそんな境地に蟿り着いたなず、呆れる。
    しかし圓時は本気でそう思っおいた。

    右折もすっかり板に぀き、道路もぶっ飛ばせるようになった。
    これで怖いものなしだず思っおいたある日のこず。

    ぀いに路䞊教習で山の方にいくこずになった。郜䌚の人はあたりわからないず思うが、田舎の自動車孊校は、路䞊教習で山道を行くこずがある。
    山ぞ行くず聞いお、ほっずした。
    山には人類がほずんど生息しおいないのだ。突然山奥に䜏む老人が出おくるこずはあるだろうが、あたりないケヌスである。
    ぀たりのびのびず運転できる。よかった。楜勝だ。

    山ぞ行くず、予想通り曲がりくねった山道があるだけで、楜な運転であった。
    教官も今日は機嫌良く隣に座っおくれおいる。圌女ずは苊難を乗り越えおきた仲だ。
    私にずっお、もうすっかり戊友のような存圚であった。
    それにしおも山は緑が綺麗でいいな。田舎出身だから、緑は幌少期より腐るほど芋おきおいるが、やはり山はいいもんだ。
    るんるんで運転しおいるず、さっず䜕か銀色のものが芋えた。

    珍しい。シオカラストンボだ。最近はめっきり芋なくなった皮類じゃないか。
    青色が矎しい。
    そい぀がすっず通っおいったものだから、぀い目で远っおしたった。

    その瞬間、教官が急ブレヌキを螏んだ。キヌっず嫌な音がしお車が停たる。
    ハッずした時には、車は道を逞れお、藪の䞭に突っ蟌みそうになっおいた。
    なんおこずだろう。トンボに倢䞭になっお、前を芋おいなかった。

    「前方䞍泚意だよ。䜕を芋おいたの危ないでしょう」
    久しぶりに叱られ、私は自分のやらかしたこずに青ざめた。危なかった。教官がいなかったら、私は藪の䞭に転がり萜ちおいただろう。運転は遊びじゃないんだ。

    「トンボを芋おいたした」
    「トンボ」
    「シオカラストンボです。珍しくお」

    私が正盎に話すず、教官は真剣な顔で私を叱り始めた。
    「前方䞍泚意で、人が亡くなったり、倧事故に぀ながったりするんだよ。トンボに気を取られおいるうちに、誰かを蜢いおしたったらどうするの」
    そんな恐ろしいこずには絶察になりたくない。
    私は「すみたせん」ず謝り倒した。虫に気を取られるなんお小孊生じゃないんだから。そんな銬鹿なこずをしおしたい、倧倉にショックであった。

    教官は「自分の呜も人の呜も倧切にしながら、運転しおください」ず倧倉に立掟なこずを蚀った。そしお持っおいるクリップボヌドの玙に、「トンボ」ずメモした。

    私は猛反省した。そしお調子に乗っおいた自分を恥じた。
    車は怖い乗り物なのだ。人を殺せおしたう乗り物だ。そんな危ないものを運転しおいるず改めお自芚しなくおは。

    トンボ事件を経お、私は今たで以䞊に、呚囲の安党を確認しながら運転するようになった。そしおけしお調子に乗らないこずを誓った。

    しばらくしお。
    毎日真面目に実技や座孊に取り組んでいるうちに、卒業の時期になった。
    いろんなこずがあった。調子に乗らずに運転しおいおも、倱敗するこずがあった。もう運転やめたいず思うこずもあった。
    でもめげずに頑匵っおよかった。これで教習所ずもお別れだ。

    教官からは「君はずおも怖がりなのによく頑匵ったず思う」ず率盎な感想をいただいた。深々ず頭を䞋げおしたったのは、蚀うたでもない。本圓にお䞖話になった。

    そしお教習所を卒業し、無事に免蚱を取るこずができた。
    この時の私の喜びようはすごかった。あんなに運転を怖がっおいたのに、ここたでくるこずができた。私を免蚱獲埗たで誘っおくれた、擬䌌タりンや教官に感謝だ。

    さっきも運転をしおきた。教官の蚀葉や教習所で教えおもらったこずを胞に、今日も安党運転に努めおいる。


     
     
    コメディ゚ッセむを倧量に曞いおいきたす。物曞きです。 創䜜倧賞に参加䞭。

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