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【短編小説】『奪う女』スピンオフ | 『奪われた男』エピローグ:棺桶


    叔父が亡くなったあと、

    私はだれかの葬儀へ行くたびに、
    まず遺影を見るようになった。

    どの場面の写真なのだろう。

    どんな表情を選んだのだろう。

    どんな服を着ているのだろう。


    そして、

    棺には、何が納められているのだろう。



    少し前までは、
    そんなことを考える自分が少し不謹慎な気がしていた。

    でも今は違う。


    その人が、最後に何を残したかったのか。

    その人らしさは、どこに宿るのか。


    30年前のあの時に気づけたからこそ、

    人の最期と向き合うことができていると感じる。




    叔父の棺には、
    泥だらけの靴とワイシャツが入っていた。

    遺影には、
    毛玉のついた茶色いセーター姿が写っていた。


    どちらも叔父が選んだものではなかったのかもしれない。

    それでも私にとっては、
    あれ以上に叔父を物語るものはなかった。

    人は、生き方を隠すことはできても、
    最期までは隠せない。

    あの日の葬儀で見た景色は、
    私の中に静かに残り続けている。


    だから私は、ときどき考える。


    もし今日が人生最後の日だとしたら、

    私は何を棺に入れてほしいだろう。

    どんな服を着て、

    どんな顔で眠りたいだろう。

    遺影はどの写真にしたいだろう。

    そして、誰に何を残したいだろう。


    答えはまだ出ていない。



    これからも間違えながら生きていくのだと思う。

    それでも、
    あの日見た泥だらけの靴だけは、
    きっと一生忘れない。


    あの光景が、
    私に

    「終わり方も、生き方のひとつなんだ」

    と教えてくれたから。

    私は今日も、

    自分の棺に何を入れたいのかを考えながら、


    生きている。



    (完)



    ※お読みいただきありがとうございました。
    次回作はフォローしてお待ちください。


    ※本作は実体験をもとに再構成したフィクションです。
    登場人物・設定は一部変更しています。

     
     
    実話を元にした私小説を執筆。 離婚、不倫、裏切り、怪文書などエピソードは全てノンフィクション。 自身の葬式で棺桶に入れるために過去を作品として残し始めた。 ※人間観察エッセイも同時更新中 □第三部 まもなく開始 ■ 第二部『削る女』(完結) ■ 第一部『奪う女』(完結)

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