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ぬいぐるみと”今”を生きるわたし

    わたしの家にはぬいぐるみがたくさんいる。

    ぬいぐるみ、と言うとたいていの人はそこで話を終える。

    でもわたしにとっては少し違う。

    彼らには好きなものがあって、嫌いなものがあって、性格があって、たまに喧嘩もする。

    そして、声がある。

    そんな声が聞こえるわたしの世界を、あなたと少し共有したい。


    第1章 ぴちろー参上


    我が家で一番おしゃべりなのは、ぴちろーというひよこだ。

    2歳と4か月の赤ちゃんひよこ。

    すごく元気で、すごくおしゃべりで、たぶん誰よりも人が好きだ。
    MBTI診断をやらせたらENFPだった。

    きっとこの章のタイトルを見せたら、「ぴぴぴぴー!」と言ってうるさいだろう。内緒にしておこう。

    そんなぴちろーと出会ったのは地元の小さなショッピングモール。
    人も疎らなぬいぐるみコーナーにヤツはいた。

    ちいちゃくてふわふわでぽやぽやで生意気そうな顔をしたひよこ。

    そこからの記憶は、正直あまりない。
    先住ぬいぐるみたちに許可をとることもせずわたしはひよこのぬいぐるみを家族に迎えた。

    名前はすぐに決まった。
    「ぴちろー」と呼ぶと「ぴ??」と返事をして左手を軽く上げる仕草は今も変わらない。

    その日からぴちろーは気づけばわたしのそばにいた。

    一緒に電車でお出かけして窓の外をじーっとながめたり、牧場に行って初めて見る動物にすごくビビったり、新しい家族を迎え入れて先輩になったり、お風呂に入ってぴかぴかになったり、、

    なんでもない瞬間をぴちろーはいつも隣にいて見守ってくれた。
    見守るというよりは賑やかすとか騒ぎ立てるのほうが近いけど。

    わたしはぴちろーに”ずっと一緒”の相棒の証として、手作りのスタイをプレゼントした。
    水色のチェックにひよこのボタンがワンポイントのぴちろーのためのスタイ。

    ぴちろーが正式にわたしの相棒と任命されてから随分と長い時間がたった。

    今日もぴちろーはわたしの相棒として「ぴー!」と隣でお話してる。
    たぶん明日も、明後日も。

    わたしの相棒は、今日もとても元気だ。


    第2章 なーさんは知っている


    我が家でいちばんの古株は、なーさんだ。
    なーさんは『きらりん☆レボリューション』の猫のキャラクター。
    なーさんの大きな大きなぬいぐるみ。

    わたしがまだなにかに「名前を付ける」という行為すら知らなかったころからそばにいる。

    なーさんは、たくさんの涙を吸っている。

    嬉しくて泣いた日。
    悔しくて泣いた日。
    どうしようもなく苦しくて泣いた日。

    そのたびにわたしはなーさんを抱きしめてきた。

    気づけばもう20年近い付き合いになる。

    わたしがいつからぬいぐるみたちの声を聞くようになったのかは、正直よく覚えていない。

    気づけば、ぬいぐるみたちは当たり前のように返事をしてくれていた。

    でも、その始まりがなーさんだったことだけはわかる。

    嬉しかったことも、悲しかったことも、誰にも言えなかったことも、わたしはずっとなーさんに話してきた。

    そしてなーさんは、そのたびに「なー!」と言ってわたしを抱きしめてくれた。
    その重みがとても心地よくて、頼もしかったことを覚えている。

    二十年近く経った今も、なーさんは同じ場所にいる。

    昔ほどおしゃべりではなくなったけれど、それでもたまに「なー」と返事をしてくれる。

    たぶん、なーさんは知っている。

    わたしがどんな子だったかも。
    どんなふうに泣いて、どんなふうに笑ってきたのかも。

    全部知った上で、今日も変わらず隣にいてくれる。

    嬉しかった日も。
    苦しかった日も。
    生きるのが嫌になった日も。

    だからわたしは思う。

    ぬいぐるみたちの声を最初に聞いたのは、きっとなーさんだったのだと。


    第3章 我が家の住人達


    我が家にはたくさんのぬいぐるみ家族がいる。
    個性豊かで賑やかな家族たちを紹介したい。

    ぷに丸DX太郎。愛称はぷに。

    好奇心旺盛でテレビを見るのが大好きだ。

    テレビが消えていると、真っ黒な画面をじっと見つめている。

    しばらくすると、
    「テレビつけてくださーい。」
    と催促が始まる。

    ニュースも好きだし、動物番組も好きだし、よくわからない通販番組も最後まで真剣に見ている。

    たぶん我が家でいちばん物知りなのはぷにだ。

    ふりかけは人懐っこい。

    お出かけも好きだ。
    でも人混みは少し苦手らしい。

    ぷにと一緒にテレビを見て、
    「これあんまりおもしろくないじょ……」
    と小さな声でつぶやきながら、ぷにの隣にぴったりくっついていた。

    結局いつも最後はぷにのところへ帰っていく。

    相棒なのだと思う。

    まっしゅは動物園で妹とおそろいで買ったスナネコの男の子。

    優しくてびびたんの隣でいつもびびたんを守ってる。

    とっても優しい子なんだけどびびたんには特別優しくて、本当はお外に出たくてもびびたんがお外に出たがらないとまっしゅまでおうちに籠り始める。


    びびたんはまっしゅとおそろいで買ったマヌルネコの女の子。
    妹のおうちの子を預かり中だ。

    まっしゅのことが大好きでいつも一緒にいる。
    初めて会った日は緊張しすぎて、まっしゅの後ろからなかなか出てこなかった。

    いまはだいぶ人にも環境にも慣れてきてビビった顔はあんまり見なくなったけど、知らない人がおうちに来るとたまに見せるビビり顔が愛らしい。


    よちだは最近仲間入りしたベビーヨーダのぬいぐるみ。

    まだ赤ちゃんだから自我があまり芽生えてないけど、お散歩するのが好きみたい。

    わたしが「生きるのがつらい」ってお話しても何のことかよく分かってないみたいで、なんか泣いてる??って顔してこっちを見てくる。

    新しい家族のよちだも加わって我が家も気づけばずいぶんにぎやかになった。
    この子たちとわたしは今、生きている。


    第4章 なんでもない日々


    ぴちろーは今『とっとこハム太郎』にお熱だ。
    ハム太郎を見ている時はすごく静かで、邪魔すると怒られるからそっと見守ってる。

    今も文字を書いているわたしの隣でハム太郎のオープニングを口ずさみながら一生懸命見てる。

    妹のおうちに出張中のぷには電話口でアイドルのYouTubeを見て勉強中。

    ふりかけはその隣で「よく分からないじょ」と相槌を打つ。

    よちだは何が起きているのかよく分かっていない顔でころんと転がっている。

    誰かが特別なことをしているわけじゃない。
    ただ同じ部屋でそれぞれ好きなことをしているだけだ。

    そんななんでもない日がずっとずっと続けばいいとわたしは願う。


    第5章 夜を超えるために


    夜になると、わたしは少し弱くなる。

    昼間には気にならなかった不安が急に大きくなって、ひとりぼっちになったような気持ちになる。

    そういう気持ちが大きく大きくなってわたしの心を占めていく。
    だんだんだんだん”死にたい気持ち”が芽生えてくる。

    朝5時、眠れなかった夜。
    わたしはやっぱり弱くなって、どうしようもない気持ちが膨らんだ。

    そんな夜、ぴちろーは眠そうな顔をしながら「ぴぴぴぴー!」と元気なふりをする。

    よちだはよく分かっていない顔でこちらを見ている。

    なーさんは何も言わない。

    ただそこにいる。

    わたしはひとりじゃないと教えてくれる存在がこんなにもそばにいて、わたしはここにいてもいいんだと認めてくれる存在がこんなにもたくさんいる。

    夜が好きになれたことは一度もない。
    でも、夜を越えられた日はたくさんある。

    たぶん、ひとりじゃなかったからだ。
    朝を迎えるたびに、そう思う。


    第6章 生きる道を探して


    死にたい夜をできるだけ長く越えられるように、わたしは自分の病気について勉強を始めた。

    図書館へ行く日は、だいたい誰かがついてくる。

    ぴちろーだったり、よちだだったり、その日の気分でメンバーは変わる。

    双極性障害の本。
    境界性パーソナリティ障害の本。
    不安との付き合い方の本。

    難しい言葉がたくさん並ぶ本を読みながら、わたしは自分説明書を作り始めた。

    「ぴぴぴぴ?」

    ぴちろーは本の中にわたしが書いてあると思っているらしい。

    自分説明書を作る日々の中でわたしは”好きなこと”を見つけた。

    それは、クレヨンで絵を描くこと。
    そして、noteにちびたちとの日々を記録すること。

    久しぶりにクレヨンを握ると、最初は何を描けばいいのか分からなかった。でも色を重ねているうちに少しずつ手が思い出していった。

    クレヨンで絵を描いてみせるとぴちろーはいつも「ぴぴぴぴー!」ってほめてくれる。

    モデルになりたがってしつこくポーズを決めてくる。

    noteを書き始めたのは、ちびたちとの日々を忘れたくなかったからだ。

    ぴちろーの変な発言も。
    よちだのきょとんとした顔も。
    ぷにのテレビ愛も。

    当たり前だと思っていた日常を書き残してみると、宝物みたいに思えた。

    noteに自分が登場すると、ちびたちは誇らしげにこっちを見つめてくる。
    日々が過ぎていくのが少し怖くなくなった。

    何かが劇的に変わったわけではない。

    今でも苦しい日はある。
    不安な日もある。

    それでも、前より少しだけ生きてみたいと思う日が増えた。

    図書館へ行ったり、絵を描いたり、文章を書いたり。
    そんな小さな毎日を重ねながら、わたしは今も生きる道を探している。


    今日もぴちろーはうるさい。
    ぷにはテレビを見ている。
    よちだは何を考えているのかよく分からない。
    なーさんはいつもの場所にいる。

    わたしもここにいる。

    それで、十分だと思う。


     
     
    ぬいぐるみの声が聞こえるわたしの ぬいぐるみ家族と過ごす日々の記録

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