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山から戻った時に「おかえり」が聞こえるまち、吉野山の道と暮らし

     私が初めて吉野を訪れたのは大学生の時。
     その頃は奈良ではなく高知に居て、親しい人間が吉野へ行ってみたいと言うので遥々やってきた。ガソリンが1リットル90円台の時代。数日前に南海電鉄がフェリー事業からの撤退を発表した南海フェリーも、まだ深夜便があった頃の話だ。

    遠路はるばる吉野へ

     高知から大歩危おおぼけ小歩危こぼけの大渓谷を越え、徳島の吉野川沿いをひた走る。徳島港から紀伊水道なる穏やかな海域を越え和歌山に至る2時間は、仮眠を取るなど船内で自由に過ごせるのが良い。
     真夜中の海は何にも見えなかったけれど、内陸育ちの我々にとってこの船旅はロマンに溢れていた。同行者もまた高知県の山間部の出身だった。

     そんな風に山越え谷越え、海をも越えて辿り着いた吉野は、地元奈良の一端とはいえ感慨深かった。何しろ高校の同級生が吉野出身で、部活の朝練のために郡山まで始発でやってきていたから、それはそれは遠いところという印象があった。

     あれは夏だった。
     しっとりした杉林を横目に歩いた気がする。確か道端でミヤマクワガタを見つけたんだっけ。上千本を過ぎるとほとんど人には会わなかったし、すれ違う車もほんの数台だった気がする。集落を歩くことが吉野山を登ることになる不思議な場所だ。
     吉野駅近くの駐車場に車を置いて、下から歩いて吉野山を登った。

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