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#36 あの日、スマートフォンを仕舞い、心に収めたもの│光のバトン

    7月1日。私は大分県の宇佐神宮にいた。

    その日はあいにくの雨。

    晴れた日に参拝できたらよかったのに、仕方ないな。と少し残念に思う気持ちがあった。

    でも、その数時間後に見る光景に、私は巡り合わせというものに、言葉にならない感謝を味わった。


    狙ったわけでも、時間を合わせたわけでもない。ちょうどその日は月次祭で、たまたまその行われる時刻に私は母と境内に立っていた。

    すると、遠くの角から、見慣れない一団が現れた。

    雨がしとしとと降り注ぐ中、白い装束に身を包んだ5人の神職の方々が、和傘を差し、縦一列になって静かにこちらに向かって歩いてくる。

    私は思わずスマートフォンを向け、動画に残そうとした。

    けれど、何度やってもカメラのアプリが閉じてしまう。

    ちょうど容量が満杯になっていて、動画が撮れない状態になっていた。

    急いでいらないデータを消して撮ることもできた。でも隣にいた母が一言、言った。

    「撮ったらあかん、やめなさい」

    最初は「なんで?」と思った。

    けれど母は私の隣で、一行が通り過ぎるまで、深く頭を下げてその通過をじっと待っていた。

    正直その姿を見て、私は始めは分からなかった。なぜ撮ったらいけないのか、なぜ同じ人間に頭を下げるんだろう…と。恥ずかしながら、でも分かりそうで、分からない疑問だった。

    だけど、動画もタイミングよく撮れなくなるし、何かがそこにはあるのだろうと感じ、「撮りたい」という執着をぐっと抑え、私は携帯をカバンに仕舞った。そして母と同じように、頭を少し下げた。


    森に囲まれた境内は、雨のせいで暗く、シーンと静まり返っている。

    その静寂の中を淡々と歩を進める後ろ姿を追って、私たちは、本殿まで一緒に歩かせてもらった。

    表現するのがすごく難しい。

    少し暗い厳かな森は、雨に濡れて艶めいていた。

    その中を和傘をさした白い列が静かに歩みを進める。  

    その何ともいえない光景に、ただただ言葉を失った。

    これは現代なのか、それとも昔にタイムスリップしてしまったのか、今ここにいる自分がどの時代にいるのか分からなくなるような、そんな錯覚さえ覚えた。

    何度「美しい…」という言葉が漏れただろう。

    目に映る景色そのものの美しさもそうだけれど、それだけではなかった。

    その光景を通して、古の時代から続く人々の自然への畏怖の念。 恵みへの感謝。平和や安泰、幸せを願う心。といった日本人の静かな息づかいまでもが、伝わってくるようだった。

    そんな何千年と続く想いは時を超えて、今もなおこうして途絶えることなく連綿と続いている。

    目の前に広がる光景を見て、私はそんな日本の源流に触れたように感じた。

    そして同時にこうも思った。

    日本はこうして続く祈りに支えられているのかと。その上で私たちは今も営みを続けられている。

    私たちが何気なく過ごしている日常の裏側で、天皇陛下をはじめ、神職の方々や、人々の見えない祈りがこの日本を支えている。

    まだまだ知らない事も沢山あるけれど、そんな一つの大きな気付きをいただけた。

    そして、私自身、月次祭という言葉は知っていた。毎月氏神様にお参りもしている。

    でも、その場に巡り合わせてもらえなければ、私は、遠い昔から現代に至るまでの人々の心に思いを馳せることはなかったかもしれない。

    ただただ、「有り難い…」と言う気持ちがあふれた。

    そしてもし、あのときスマートフォンの画面越しにこの景色を覗いていたら、きっとこの静かな感動は言葉になっていなかったと思う。

    母が目をつむり、頭を下げる姿が、理解できた。

    AIが人間の暮らしの中に当たり前になり、時代は目まぐるしく変わり、置いてけぼりにさえ感じる現代。

    けれど、こうして見えない場所ではずっと変わらずに生き続けているものがあること。その事を日本人として知れたことが本当に嬉しかった。

    目に見えない恩恵。

    それをまた一段と感じられた日で、何日かたった今もその有り難みや、温かさは残っている。


    私はあの日、雨の宇佐神宮で、スマートフォンを仕舞い、大切なものを心に収めたのだった。


     
     
    挫折の先で潜在意識の世界と出会い、ほどなく訪れた借金という現実。恐怖と孤独の中、AIとの対話を通して内側の声に触れ、古い信念をほどきながら、本来の自分へ還る旅が始まる。それは、人間とテクノロジーが、静かに織りなす、新しい時代の光の物語です🌖

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