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就活無双した学生は、3年後に警察官になって戻ってきた

     私の長い大学職員生活の中で、
    「もしかしたら、私はこの学生の人生を遠回りさせてしまったのではないか」と思うことがある。

     その学生を、ここでは黒縁君と呼ぶ。
    彼は就活で無双した。
    しかし、3年後に会社を辞めて警察官になった。

     しかも、その遠回りのきっかけを作ったのは、たぶん私だった。
     
     男子学生で就活に強いタイプというと、体育会系かイケメンが定番だ。

     しかし黒縁君は違った。
    部活もサークルもやっていない。
    身長も高くない。
    正直に言うと、イケメンでもなかった。
    だが、とにかくガッツ・行動力があった。
    決めたら迷わない。
    そして、筋が通っており、、突っ走れるタイプだ。
     
     2年生の終わり頃だった。
    縁あって、彼と話す機会があった。
     私は彼を高く高く評価していた、中堅私立大学で、ここまで話せて、動ける学生は希少だと。

     志望業界を聞いた私は少し驚いた。
    「警察官になりたいです」
    私は思わず言った。
    「もったいなくない?もっと上を狙えるだろう」

     今思えば、この一言がすべての始まりだったのかもしれない。
     
     彼はその後、大手メーカー志望へと方向転換した。私の言葉が火をつけたようだ。
     3年生夏、中堅メーカーA社の長期インターンへ。
     4年生になると、A社より格上のB社、C社、D社、E社の採用試験に挑戦した。
    正直、どこか1社受かれば十分だと思っていた。

     ところが――
    無双だった。
    B社の最終面接を終えて駅へ向かっている途中、
    人事担当者が追いかけてきたという。
    「君、うちに来てくれるか?」
    「来てくれるなら、今ここで内定を出す」
    都市伝説みたいな話だが、本当にあった。
     
     最終選考結果は、「〇日〇日までにお知らせします」とあるが、最長では1ヶ月になる場合もある。
     内定辞退の留保を待って、判定される補欠集団に入るとそうなる。
     一方で彼のようにトップ層であれば、
    「即、囲い込み」に入るということだ。
     
     結局、B社、C社、D社、E社。
    全勝だった。
     ちょっと天狗になっていたが、就活市場では完全勝利である。
     
     ところが、不思議なことが起きた。
    一番受かると思われていたA社だけが落ちた。
    彼は何度も言っていた。
    「おかしくないですか?この俺落とすんですよ、中堅企業が」
    「インターンまで行ったのに」

     私は慰めた。
     しかし今思うと、A社の人事だけは見抜いていたのかもしれない。
    この学生は、最初から警察官向きだったことを。
     
     結局、比較的堅実な社風のC社へ入社した。
    海外赴任もある。
    待遇も悪くない。
    誰が見ても成功だった。
     
     だが3年後。
    彼は突然大学へ現れた。
    差し出された名刺にはこう書かれていた。
     
    『〇〇警察署 警務課 黒縁 光』
     
     私は驚いた。
    「C社、辞めたの?」
     
     すると彼は笑った。
    「僕にはぬるま湯でした」
    「意思決定が遅すぎるんですよ」
    そして続けた。
     
    「最初に会った時、警察官になりたいって言いましたよね」
    「でも学歴さん(私)に踊らされちゃいました」
     
     そう言って笑った。
    嫌味ではなかった。
    本当に楽しそうだった。

     就活で勝つことと、自分に向いている仕事に就くことは別なのだ。
     私は大学職員として多くの学生を送り出してきた。だが今でも時々思う。

     あの時、
    「警察官、いいじゃないか!」

     と本心でなくとも言っていたら、彼の人生はどうなっていただろうかと。
     彼のような警察官もいる、腐敗ばかりの組織でもない。

     
     
    「大学進学の光と影」を伝える中堅私大職員 現場で20年以上、学生の進路と向き合ってきました。公立高校(偏60)→国立大学(偏60)→民間企業(大学高校営業)→海外→現在の立場から 受験・大学・学歴の“リアル”を、綺麗事抜きに書きます。進路に悩む方の判断材料になれば。

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