諸葛菜(しょかつさい)たちの春
春の川べり。
紫の小さな旗が、風にそよぎながら整列している。諸葛菜たちの、ひそやかな軍議の朝である。
「本日の議題――名の重みについて」
ひと株が、やけに厳かに口を開く。
「我ら、“諸葛”を名乗っておるが…よろしいのか?」
別の株が、花びらを少し震わせる。
そのとき、すっと風が止んだ。
どこからともなく、静かな気配が降りてくる。羽扇の音。見えぬが、いる。
「孔明どのでは…?」と、ざわめきが広がる。
一番背の高い株が、姿勢を正し、凛として言う。
「孔明どの、我らに名を賜り、感謝」
しばし沈黙。
やがて、やわらかな声が風に混じる。
「……貸した覚えはないが」
花たち、ぴたりと固まる。
「だが――」
声は続く。どこか、笑っているようでもある。
「春の景に、策はいらぬ。よく咲いている」
その瞬間、風がほどけた。
花びらが一斉に揺れ、まるで陣が解かれたかのよう。
「よし、今日も“なんかきれいな花”として任務遂行だ」
誰かが言うと、全員がふっと力を抜く。
名は借り物でも、咲き方は自前。
諸葛菜たちは今日も、川べりに小さな天下を広げている🌸
野に咲くや
紫ほどけて
諸葛菜
風やみて尚
春の川べり
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