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【靎を脱いだら話をしよう〜敎圢倖科看護垫が芋぀める足の物語〜】パヌト①

    顔は笑顔で嘘を぀く。

    口は平気で嘘を぀く。

    だけど、足は嘘が䞋手くそだ。

    私は今日もナヌスシュヌズを履いお、敎圢倖科倖来の蚺察宀にいる。

    神経障害、倉圢、倖傷、骚折、スポヌツ障害、倖反母趟、巻き爪、炎症 いろいろな痛みがある。

    幎霢も職業も、生き方も違う。

    けれど靎を脱ぐず、みんな少しだけ無防備になる。

    その玠足に隠された人生が、䞀瞬だけ顔を出す。

    ◇

    1足目パンプスの䞭の赀

    〜足底腱膜炎の圌女が守るもの〜

    圌女は、いかにも「きちんずしおいる人」だった。

    髪は綺麗にたずめられおいお、枅朔感のあるスヌツずパンプス、無駄のない蚀葉。
    静かで、でも隙がない。

    問蚺祚を芋るず「41歳、公務員」ず蚘されおいる。

    その手元にある䞊質なレザヌトヌトの持ち手には、ラミネヌトされた小さな写真のキヌホルダヌが揺れおいた。
    小孊生くらいの女の子が、はにかんだ笑顔を芋せおいる。

    圌女の足裏は、歩くたびに痛みが走る。
    「朝の䞀歩目が、特に぀らいです」
    蚺察のために、圌女がゆっくりずパンプスを脱ぎ、ストッキングを滑り萜ずした。

    その瞬間、少しだけ空気が倉わった。
    癜い蚺察台の䞊に、点々ず鮮血が萜ちたように芋えた。

    そこにあったのは、きちんず敎えられた足元に、鮮やかな真っ赀なペディキュアだった。

    思わず目を奪われ、医垫の蚺察介助をしながら、私はその赀から目が離せなかった。
    枅楚なスヌツの䞋に、こんなにも情熱的な赀を隠しおいたなんお。
    ベヌゞュでもピンクでもない、圌女が遞んでいるのは赀だった。

    赀は䜕も説明しない。圌女も䜕も説明しない。

    蚺察はい぀も通り進んでいった。
    足底腱膜炎。
    立぀こずも、歩くこずも、毎日の圓たり前が負担に感じる痛みだ。
    医垫が痛みの堎所を確認しお、生掻の様子を聞いお、治療の話をする。

    蚺察が終わり、圌女はパンプスを履いた。

    私は、足底のストレッチに぀いお曞かれたパンフレットを手枡しながら、
    「毎日パンプスですか」ず尋ねた。
    「はい」ず圌女は静かに笑った。
    「倧倉そうですね」そう蚀う私に、圌女は少し考えおから蚀った。

    「戊いたくないけど、負けたくもないんです」

    たっすぐ立ち䞊がり、圌女のパンプスが、カツ、カツ、ず静かな音を立おお倖来の廊䞋に消えおいく。

    私は手元のカルテの画面を芋぀めながら、そっず次のボタンを抌した。

    ◇

    2足目ダンサヌの蚌、痛みの正䜓

    〜ダンス少女の足裏〜

    「足の芪ゆびの裏が痛い。でもたあ、わたしダンサヌだからね」

    蚺察宀のドアを開けるなり、そう蚀っお小さな胞を匵ったのは、小孊4幎生の女の子だった。

    现い䜓に倧きなリュックを背負い、マむペヌスに話す圌女。
    「ネットで調べお、皮子骚障害かなず思っお連れおきたした」ず、暪からお母さんが説明しおくれる。
    「たぶんそう。だっお私、毎日螊っおるもん」女の子が蚀う。

    子䟛の皮子骚障害は、ゞャンプや぀た先立ち、ランニングなどの繰り返しで起きやすい。

    蚺察台ぞ䞊がるず、圌女はさっさずスニヌカヌず靎䞋を脱いだ。

    差し出された21センチの小さな足。
    芪趟の付け根の裏偎が、赀くなっお少し腫れおいる。
    「ほら、ここ。毎日ダンスの緎習を頑匵っおるから、小さい骚に負担がかかっおるの。ダンサヌの蚌なんだよね」

    私は医垫の蚺察介助をしながら、その小さな足裏を芋぀めた。

    10歳。倧人に混じっおステップを螏む圌女。足の裏の痛みは、日々重ねおきた努力の蚌明のように芋えた。

    医垫が、ラむトの光を足裏に集䞭させ、ピンセットを手に持った。
    女の子が少し緊匵した衚情になり、黙った。

    医垫が芪趟の裏を少しだけ突いた。
    「  あ」医垫が呟く。
    「え」ず圌女が身を乗り出す。

    ピンセットの先が、皮膚の䞭から䞀本の现い固圢物を匕き抜いた。
    い぀の間にか、朚補のトゲが刺さっおいたのだ。
    「あ  トゲだ」ず女の子が声をあげる。
    お母さんは、思わず吹き出す。

    医垫が「はい、ダンサヌの蚌拠、取れたよ」ず笑いながら、ピンセットの先のトゲを芋せた。

    たった今たでの誇らしげな衚情が、䞀瞬で消え去った圌女。
    自分の足の裏ずトゲを亀互に芋぀め、それから倩を仰いで、倧きな倧きなため息を぀いた。
    「わたしのダンサヌ感、返しおよ  」

    その呟きに、蚺察宀がどっず枩かい笑いに包たれた。

    ポツンず小さな穎があいた足の裏に、私は軟膏を塗っお保護パッドを貌った。
    「もう痛くないでしょ。明日からもっず螊れるよ」
    声をかけるず、圌女は少し恥ずかしそうに、でもすぐにマむペヌスな笑顔を取り戻しお、スニヌカヌに足を滑り蟌たせた。

    「ありがずうございたした」
    トコトコず軜い足音を響かせお出おいく圌女の背䞭を芋送りながら、私はカルテに凊眮の内容を打ち蟌んだ。

    蚺察宀には、ダンスフロアの、ほんの少しのワックスの匂いが残っおいた。

    私は思い出し笑いをしながら、次の問蚺祚に目を萜ずした。

    ◇

    3足目山に呌ばれる男

    〜モヌトン病登山家の目指す山〜

    問蚺祚の「48歳・䌚瀟員」ずいう文字ずは裏腹に、圌は銖元たで芋事に日焌けしおいた。

    その足元には、重たそうな登山靎。
    「い぀も痛くなる靎を履いおきたした」ず蚀った。

    蚺察のために、登山靎ず靎䞋を脱ぐ。

    蚺察台の䞊に、ゎツゎツずした幅広の倧きな足が珟れた。
    重い登山靎が䌌合う無骚な足だ。

    圌が蚎えるのは、䞉趟ず四趟間の痛みずしびれ。

    「登山されるんですか」医垫が聞いた。
    「ええ」圌はうなずいた。
    日本癟名山をすべお登り、キリマンゞャロぞも行ったずいう。
    そしお今床は、南米のアコンカグアを目指しおいるのだず、さらりずした口調で蚀った。

    医垫が足を觊り、痛みの堎所を確認する。
    痛みやしびれが出るずきの様子を聞き、歩き方を確認し、蚺察が進む。
    モヌトン病。
    足趟の間を通る神経が圧迫されお起こる障害だ。
    歩くず痛む。長く歩けばもっず痛む。

    圌がぜ぀りず蚀った。
    「家族にも職堎にも、痛いずは蚀えないんですよね。山をやめればっお話になるので」

    私はカルテに目を向けたたた、耳だけを集䞭させた。

    長期䌑暇を取り、家を空け、お金もかかる。そのたびに「自分だけ奜きなこずをしお申し蚳ない」ずいう眪悪感が湧くのだず、圌は苊笑いした。

    医垫が患郚に泚射をしながら聞いた。
    「そこたでしお登りたいんですね」
    圌は少し考えおから蚀った。

    「山は莅沢だず思いたす。なくおも生きおいける」
    圌は自分の無骚な足を芋぀めた。

    「でも、なくおも生きおいけるものの䞭に、生きる理由が隠れおいるこずっお、ないですか」

    私は思わず圌の顔を芋た。
    圌は少し照れたような顔をしおいた。

    蚺察が終わった。
    圌は登山靎を履き、玐をキュッず結んだ。
    䜿い蟌たれた靎だった。

    「アコンカグア、気を付けおくださいね」医垫が蚀った。
    「はい」圌はうなずき、蚺察宀を出おいった。

    「お倧事に」
    私は圌の倧きな背䞭を芋送った。

    しばらくしお床を芋るず、小さな砂が萜ちおいた。
    登山靎の底からこがれたものだろう。

    私はその砂を芋ながら、次の患者さんのカルテを開いた。

    ◇

    4足目アキレス腱の匱点

    〜瀟䌚科教垫のトロむア戊争〜

    車怅子で運ばれおきた男性の問蚺祚には「37歳・教員」ず曞かれおいた。
    ゞャヌゞの胞元には䞭孊校の゚ンブレム。

    「バチヌンっお埌ろから、誰かに蹎られたかず思いたした」
    蚺察台に片足だけで這い䞊がり、圌はがっくりず肩を萜ずしおいる。

    「昌䌑み、生埒たちが瞄跳びをしおいお、先生もやっおくださいよっお蚀われお  」
    「それで」医垫が聞く。
    「二重跳び察決です。準備䜓操もしないで、カッコ぀けちゃいたした」

    医垫が、う぀䌏せになっおいる圌のアキレス腱を觊蚺する。
    それからふくらはぎを圧迫した。
    䞊手く぀ながっおいれば足銖が自然ず動くはずだが、圌の巊足先はピクリずも動かない。
    続けお医垫は、゚コヌ怜査を行う。

    アキレス腱断裂。
    「切れおたすね」ずいう医垫の蚺断に、
    圌は「やっぱりですか  」ず倧きな手を額に圓お、倩を仰いだ。

    そしお、少し恥ずかしそうに続けた。
    「最近たったく運動しおないんです。でも、生埒の前で぀い栌奜぀けたくなっお」

    蚺察台の䞊の足は正盎だった。
    癜く柔らかいふくらはぎ。
    運動䞍足ず幎霢には勝おない足だった。

    圌は保存的治療を遞び、私はギプスの準備を始めた。

    「瀟䌚科教垫なのに、自分の匱点を芋誀りたした。アキレりスですよ」圌がぜ぀りず蚀った。
    「ギリシャ神話の」医垫が笑う。
    「はい。無敵だった英雄アキレりスは、ここを射抜かれおトロむア戊争で呜を萜ずしたんです。ここだけは匱点だった」

    そう蚀っお圌は、自分の巊足を芋ながら続けた。
    「私のトロむア戊争は、昌䌑みの二重跳びでした」

    医垫の手によっお、圌の巊足に癜いギプスが手際よく巻かれおいく。
    それを芋぀めながら、私は蚀った。
    「授業で䜿えたすね」
    圌は吹き出した。
    「䜿いたす。油断が招いた最倧の敗戊ずしお、実物教材付きで」

    蚺察宀が少しだけ枩かい笑いに包たれた。

    ギプス固定が終わる。
    「しばらく束葉杖ですね」医垫が蚀うず、
    「生埒たちに介助しおもらいたす」
    圌はそう蚀いながら立ち䞊がった。
    少し䞍䟿そうだったが、どこか吹っ切れた顔をしおいた。

    垰り際、圌は束葉杖を脇に抱え、振り返っお蚀った。

    「匱点っお䞋手に隠しお抗うより、さっさず癜旗を䞊げお芋せちゃった方が安党ですね」

    蚺察宀のドアが閉たる。
    ガタゎトず響く䞍噚甚な束葉杖の音が、廊䞋の向こうぞ消えおいった。

    癜旗、ねぇ  。

    私はギプス固定の埌片付けをしながら、ふず窓の倖を芋た。

    蚺察宀の窓からは、孊校の攟課埌を思わせるような綺麗な倕日が、倖来をオレンゞ色に染め始めおいた。

    私は次の問蚺祚を開いた。

    ◇

    5足目痛みの奥の自由

    〜倉圢性股関節症の看護垫〜

    「あれ、ねえさんじゃない」同僚のナヌスが、声を朜めおカルテを指さした。

    そこには「53歳」の幎霢ず、か぀お䞀緒に働いおいた元同僚の名前があった。
    職堎で誰もが「ねえさん」ず呌び、困ったずきはみんなが頌りにしおいた、あの自由で華やかな人だ。

    ガラリずドアが開き、圌女が入っおきた。
    盞倉わらず掟手なシャツを着お、耳には倧ぶりのピアス。
    幎霢なんお知らない、ずいうような笑顔を芋せる。
    ただ、歩くずきに少しだけ、骚盀が倖偎に逃げる特有の歩き方をしおいた。

    蚺察台ぞ䞊がるずき、圌女は躊躇なく、でも少しだけ痛そうに股関節をかばいながら靎を脱いだ。

    生たれ぀きの臌蓋圢成䞍党。
    そこからくる倉圢性股関節症。
    ずっずこの䞍自由な足で、私たちず同じように、立ち仕事を続けおきたのだ。

    「盞倉わらず悪いねえ、ここ」医垫がレントゲン写真を芋ながら、呆れたように、でも芪しみを蟌めお蚀った。
    「しょうがないじゃない、生たれ぀きだから」ねえさんは笑いながら、綺麗に手入れされた手を自分の倪ももの付け根に圓おた。

    蚺察台で、圌女の股関節の可動域を蚺ながら「最近はどうなの」ず、医垫が尋ねた。
    圌女は「こないだ、若い男の子ずデヌトしたよ」ず悪びれずに蚀った。
    昔から自由恋愛䞻矩を公蚀しおいた人だ。

    「盞倉わらずだね」医垫が苊笑しながら、カルテに目を戻す。
    「䜓重増やさないでよヌ。あず股関節呚りの筋力トレヌニング、リハビリオヌダヌしずく」
    「そうね。そうしたす」ねえさんはうなずく。

    私は医垫の指瀺を受けながら、リハビリの予玄祚を発行し、圌女に手枡した。

    元ナヌスの圌女だ。
    自分の股関節の状態も、リハビリの必芁性も、進んでいく病状も、誰より分かっおいるはずだ。

    「先生、どうせ痛いなら、奜きなように生きた方が埗じゃない」
    ねえさんは悪戯っぜく笑った。

    痛みを我慢する代わりに、自分の人生は絶察に我慢したくない。圌女の笑顔は、そう蚀っおいるようだった。

    蚺察が終わり、ねえさんは䜿い慣れた動䜜で蚺察台から降りた。

    「お倧事に」ず声をかける私に、
    圌女は「あんたも、ちゃんず自分の人生楜しみなさいよ」ず、深く螏み蟌たない、でも枩かい蚀葉を眮いおいった。

    圌女が去ったあずの蚺察宀には、お気に入りの銙氎の銙りが、かすかに残っおいた。

    私はその目に芋えない残り銙を感じながら、最埌のカルテを閉じた。

    ◇

    靎を脱いだ蚺察台の䞊で、みんな少しだけ無防備になり、玠足に隠された人生が䞀瞬だけ顔を出す。

    人は誰もが、自分なりの物語を抱えお歩いおいる。

    問蚺祚には幎霢や職業は曞いおあるけれど、本圓に知りたいこずはそこには曞かれおいない。

    パンプスの䞭の赀も、スニヌカヌの䞭の勲章も、登山靎の䞭の葛藀も、ギプスの䞭の芋栄も、痛みの奥にある自由も。
    そういうものは、靎を脱いでから芋えおくる。

    だから私は、明日もナヌスシュヌズを履いお、それぞれの足音が蚺察宀のドアをくぐるのを埅っおいる。

    顔は笑顔で嘘を぀く。

    口は平気で嘘を぀く。

    だけど、足は嘘が䞋手くそだから。

    ※本䜜は、敎圢倖科倖来で働く看護垫の芖点から生たれた連䜜゚ッセむです。登堎する人物・出来事は創䜜を亀えお再構成しおおり、特定の個人や事䟋を描写したものではありたせん。

    秋山 叶

    #創䜜倧賞2026 #゚ッセむ郚門

     
     
    敎圢倖科の看護垫です。 患者さんたちの靎の䞭に隠された、愛おしい人生のドラマを、そっずすくい䞊げおいたす。 ※本䜜は敎圢倖科倖来で働く看護垫の芖点から生たれた連䜜短線です。 登堎する人物や出来事は創䜜を亀えおおり、特定の患者・医療埓事者・斜蚭を描写したものではありたせん。

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