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『寄り道が帰り道』



    大型のショッピングモールへ買い物に行くと、昼前だというのに長い列ができていた。

    惣菜売場の一角にあるコロッケ専門店。

    赤い幟には大きく書かれている。


    『全国コロッケグランプリ 金賞』

    『累計販売一千万個突破』

    『テレビで紹介されました』


    その中心に、一番大きな文字で、

    「日本一のコロッケ」

    とあった。

    「せっかくだし、一個買って帰ろうかな」

    そう思ったのは、味を想像したからではない。

    日本一と書いてあったからだ。

    列は十五分ほどで進み、揚げたてを一つ受け取る。

    確かに美味しかった。

    衣は均等で軽く、じゃがいもは甘く、肉の旨味もしっかりしている。非の打ち所はない。

    帰り道には、さっき食べた味をもう思い出せなかった


    その足で、昔からある商店街を抜けた。

    閉まった店も増えた通りで、一軒だけ威勢のいい肉屋が営業していた。

    店先には揚げ物が並び、

    メンチカツ、ハムカツ、串カツ。

    その隅に、値札だけ付いたコロッケがあった。

    『コロッケ 九十円』

    それだけ。

    賞状も写真も、テレビ出演の切り抜きもない。

    何となく一つ買った。

    「1個でいいの?お家までのおやつかい?」

    店主が紙袋を渡しながら笑う。

    「はい。実はさっき日本一のコロッケを食べてきたんです」

    何気なくそう言うと、店主は

    「ほう、それはまたたいそうなコロッケだ。あんがとさん」

    紙袋に慣れた手付きでコロッケを入れながら言った。

    「うちは商店街一だよ」

    「え?」

    「この商店街じゃ、コロッケ売ってるのここだけだから」

    悔しそうでもなく、興味もなさそうでもない。

    そのまま次のお客さんへ向かっていった。


    店を出て、一口かじる。

    熱い。

    少し火傷をした。

    衣は少し厚い。

    形も少し歪だ。

    二口、三口と食べ進めるうちに、 なぜだか足が止まった。

    子どもの頃、父が夕飯前につまみ食いをさせてくれたコロッケ。

    祖母が「揚げたてだから気を付けな」と笑っていた日のコロッケ。

    同じ味ではない。

    なのに、不思議と懐かしかった。

    気付けば、もう一つ買えば良かったと思い来た道を振り返っていた。


    翌週、もう一度その肉屋へ行った。

    「またコロッケ?」

    店主が笑う。

    「美味しかったので」

    「ありがとさん、日本一のじゃなくていいのかい?」

    店主はガハハと声を出して笑った。


    少し間があってから聞いてみた。

    「テレビの取材とか、コンクールみたいなものに応募しないんですか」

    店主は油の中のコロッケを返しながら言った。

    「うちは肉屋だからね。あ、地元のテレビの食べ歩きとかなら断らないよ」



    帰り道、その言葉が頭に残った。


    日本一。


    日本一という肩書は、本当に嘘ではないのだろう。

    きっと、多くの人に愛され、選ばれたのだ。

    でも、自分がもう一度食べたいと思ったのは、商店街のあのコロッケだった。

    世の中には、日本一がたくさんある。

    星付きの店。

    予約一年待ちの店。

    口コミ四・九の店。


    それらは誰かにとっての一番なのだろう。



    でも。



    私は笑って、商店街へ向かった。






     
     
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