メインコンテンツへスキップ
見出し画像

今を生きよう課

    景気を良くしたい。
    どうしても景気を良くしたい。
    ある日、総理は考えた。
    国民に貯金より、消費をしてもらいたい。
    そして思いついた。
    「貯金をなくせば良くない?」
    『貯金禁止法』を成立させた。

    新制度は単純だった。
    給料日に受け取った給与は、次の給料日までに使い切ること。
    残高は、自動的に消費不足税として徴収される。

    総理は記者会見に臨んだ。
    「国民の皆様の声にお応えします」
    「貯金をするとき、人は何を失うと思いますか?」
    「お金ではありません。」
    「時間です。」
    「若い頃の時間です。」
    「暑かろうが寒かろうが。」
    「若者は楽しめる。」
    「旅行もできる。」
    「徹夜だってできる。」
    「もちろん老後にも老後の楽しみ方はあります。」
    「でも本当に大金が必要ですか?」
    「若い頃に我慢して。」
    「若い頃に諦めて。」
    「若い時間を貯金のために使う。」
    「それで人生は豊かになるのでしょうか。」

    記者が質問した。
    「不安だから貯金するのであって、貯金するから不安になるわけではないという意見があります。」
    総理は笑った。
    「いやいやいや。」
    「貯金するから不安になるんですよ。」
    「100万円貯めたら200万円欲しくなる。」
    「200万円貯めたら300万円欲しくなる。」
    「不安の永久機関です。」

    記者が手を挙げる。
    「老後資金はどうするんですか?」
    総理は首をかしげた。
    「困ったら人生終了課がありますから。」
    「そんなに深く考えなくて大丈夫ですよ。」
    会場が静まり返った。

    別の記者。
    「教育費はどうするんですか?」
    「教育支援課があります。」

    「住宅購入資金は?」
    「買わないといけませんか?」
    「頭金は?」
    「なくても借りられるように住宅支援課が検討しています。」
    総理は止まらない。

    記者。
    「来年度予算は編成されていますよね。」
    「国は未来のこと考えますよ。」
    会場がざわつく。
    「つまり国は将来に備えるのですね?」
    「もし来年も私が総理なら、やりたいことがまだまだありますからね。」
    「予算は作っとかないと。」
    「国民も同じでは?」
    「あー、国民の皆さんもやりたいことがありますね。」
    「じゃあ予算案を作ってもらいましょうか。」
    「予算案?」
    「やりたいこと予算案。提出していただければ検討します。」
    「細かい所は、今を生きよう課が担当します」

    会見の最後。
    総理はカメラに向かって微笑んだ。
    「貯金しなければならない。」
    「将来に備えなければならない。」
    「そんな罪悪感から国民を解放します。」
    「今を生きてください。」

    街には新しいポスターが貼られた。
    明日のことは、誰にもわからない。
    今日のあなたを、もっと豊かに。
    今を生きよう課

    テレビCMも始まった。
    海辺を走る若者。
    旅行を楽しむ家族。
    高級レストランで乾杯する恋人たち。

    ナレーション。
    「未来の不安より、今日の笑顔。」
    「貯金より思い出。」
    「さあ、レッツ・エンジョイ。」

    政府は追加制度を発表した。
    計画貯蓄許可制度。
    高額商品を買う場合に限り、事前申請で貯蓄を認める制度である。
    申請書にはこう書かれていた。
    ・購入予定商品
    ・購入予定金額
    ・購入予定日
    ・購入理由

    私はゲーム用のパソコンを申請した。
    提出先は今を生きよう課。
    隣のフロアだが、アプリで申請だ。

    数日後。
    許可が下りた。
    しかし問題が起きた。
    購入予定日の前日に新型モデルの発表があった。
    私は購入を見送った。
    予算オーバーだった。
    来月になれば新型が買える。

    翌日。
    人生設計庁から通知が届いた。
    計画未達成のため罰金を徴収します。
    私は三度見した。

    その日の夜。
    私は通帳アプリを開いた。
    残高はゼロ。
    制度上、理想的な状態だった。
    しかし欲しかったパソコンはまだ買えていない。
    今を生きよう課の同期に、根回しすれば良かった。

    私はスマホを閉じた。
    そして小さくつぶやいた。
    「景気は良くなったらしい。」
    「消費額も過去最高らしい。」
    「俺の口座残高は過去最低だ。」
    「わかった。月越しの金は持たねえ。 」
    「その前に、給料上げてくれい。」

     
     

    窓口

     
     
    人生設計庁シリーズ連載中です。 会見好きな総理と、アンケート好きな行政の話です。 「国民の皆様の声にお応えします」 その結果、だいたい誰かが困ります。

    あなたへのおすすめ