
終わらせない勇気と、夜のしまいかた
卓上灯だけが、部屋を静かに照らしていました。
窓の外では終電の音が遠ざかり、換気扇が低く回っています。
カップに熱いお茶を注ぐと、白い湯気がゆっくりと天井へほどけていきました。
指先でカップを包むと、冷えていた掌に温もりが戻ってきます。
「今日は、終わらせられなかった用事が残ってしまったな」
そんな思いが、ふと頭をよぎるかもしれません。
頭の中だけで片づけようとすると、思考は同じ場所を何度も回り続けます。
だから、完了を目指すのではなく、ただ「栞を挟む」だけでいいのだと思います。
ノートの端に「明日やる一つ」と「いま気になる一つ」を書き留めてみる。
ペン先が紙を擦る音がして、形のない静けさが確かな輪郭を持ち始めます。
字が上手でなくても、今日の輪郭が薄く残ればそれで十分。
あとはカップをすすぎ、シンクの水滴を布で丁寧にぬぐうだけ。
こうした小さな手入れが、一日を終えるための頼もしい合図になります。
灯りを落とす前に深呼吸をひとつ。それだけで、肩の内側がすっとほどけていくはずです。
解決ではなく、心地よい区切りを増やして眠る。そんな夜があってもいいのです。