
雲の歩幅に、呼吸を合わせて
台所のカーテンを開けると、窓いっぱいに薄い青空が広がりました。
やかんの金属に触れる指がひやりとして、外の空気はまだ冬の名残を孕んでいるようです。
スマホの画面には四角い予定がぎっしりと並び、それだけを見ていると息が詰まりそうになります。
けれど、電線の向こうを流れる雲はどこまでもゆっくりで、急ぐ理由なんて何一つ持っていないように見えました。
玄関を出ると、風がそっと頬をなでていきます。歩道の影がくっきり伸びているのは、春が近いしるしでしょうか。
自転車のベルが鳴り、コンビニの自動ドアが開く音が重なります。
駅のホームに電車が滑り込むたび、押し寄せた風に上着の裾がふわりと持ち上がりました。
私はポケットの中で指を握り直し、自分の体温を確かめます。
予定が雪だるまのように膨らんでしまう日は、景色の中のひとつだけを目印に歩いてもいいのかもしれません。
改札を出た角の水たまりに、空が映っていました。
それを見つめていると、せわしなく削られていた時間の幅が、少しずつ自分のもとに戻ってくるのを感じます。
すべてを完璧に整える代わりに、視界の端に「余白」を残しておく。それだけで救われる日があるはずです。
昼過ぎ、同じ場所を通りかかると、水面は風にほどかれ、青い光が細かく揺れていました。
帰宅してマグカップを洗う頃には、朝の慌ただしさはもう遠い記憶です。
明日も雲の歩幅を借りながら、自分の歩き方を決めていこうと思います。