
面倒な自分と向き合う
他人よりも自分に感じる「面倒臭い」
どうしてこんな性格に生まれてきてしまったのか、何度も頭を抱えてきた。
あんな風に立ち振る舞えれば、あんな性格に生まれてこれれば。
なりたい自分が常にある。
自分と付き合い続けてもうすぐ30年。
物心ついた時から、自分が面倒臭い性格だという事は自覚していた。
◇ ◇ ◇
幼稚園
幼稚園の卒園式、母は担任の先生から「実はマドカちゃんのことが嫌いでした、すみませんでした」と言われて呆然としたと、大人になった私に話してくれた。融通の利かないクソガキだったからだろう。だが大丈夫。何故なら、私もその先生が大嫌いだったからだ。周りのお友達には良くして、私の一挙手一投足には全て口を挟んできた先生。
なんで私だけ嫌うの?
幼稚園生ながらに先生の事を「クソババア」と思っていた。この頃から私の人格は多分、出来上がっている。
その時の先生は今の私よりずっと若かったらしい。まだ子供だから仕方ない。しかし、卒園式に言うのはいかがなものか。感動に包まれた空間なら、許されると思ったのだろうか。母は今でもこの時の出来事を根に持っている。
◇ ◇ ◇
中学生
母がオシャレに鈍感な人だったため、私はまだ芋を煮っころがしたような田舎女だった。友達と離れたくないという、なんとも愚かな理由でテニス部へ入り、無縁だった運動を始める。テニス部には先輩も同級生も可愛くてキラキラした子が沢山いた。
ある日、テニス部の皆でマックにいた時、陸上部の同級生とバッタリ遭遇。陸上部の子達は同級生のHちゃんに「可愛い〜なんでこんなに可愛いの〜」とアイドルのような扱いをして、Hちゃんは崇められているようだった。芋女で捻くれた私は、皆の視線を独り占めしているHちゃんが気に入らなかった。
なんで私じゃないの?
2010年夏。みんなの視線をいただきまゆゆ、それは私であってほしい。ひん曲がった芋の決意は固かった。自分の顔を鏡でよく見て…ただの芋だよ。と今の私は思う。
◇ ◇ ◇
20代前半 アパレル販売
フリーターから転がり込んだキラキラの世界。
とは裏腹に、女の妬み、嫉み、恨みなど全て詰まっていた世界に私は来てしまった。
可愛くなるために高校デビューを果たしたものの、まだ芋が抜ききれてなかった私に当時の店長から言われた第一声は
「そんな格好と顔で店に立てると思ってる?」
ガーーーン
何かで頭を叩かれたようだった。
今でも忘れられない言葉。採ってもらえたのが不思議なくらいだ。だが自信過剰だった当時の私には良い言葉だったと、今なら思える。
左右非対称なアイラインに、描き方も分からないアイブロウペンシル。おかめ納豆のおかめちゃんみたいな真っ赤なチークを頬に乗せて笑われた。
着用は買う度に、優しかった副店長へ泣きながら相談した。
そんな毎日の積み重ねで、中学のHちゃんにも負けないくらい外見は磨き上がる。
そして良くも悪くも素直すぎた私は、自分の感情を店長にぶつける事が多々あった。
「なんで私にはやらせてくれないんですか?」
「なんであの子は良くて私は駄目なんですか?」
お陰で私は店長から露骨に嫌われるようになった。それくらい私は不器用な人だった。
素直さは社会だと通用しない。"融通の利かない子"として烙印を押されてしまう。それは幼稚園の時に先生から教えてもらっていたはずなのに、まだ気付けないでいた。
贔屓されるような人にならないと、この世界では生きていけないのだ。環境というものは恐ろしい。意地悪な先輩達に囲まれ、気付けば私も妬み、嫉み、恨みで覆われたGANTZの球体よりも真っ黒な感情を抱えた人間になりつつあった。
が、その前に自分が壊れてしまいそうだったので「逃げる」という選択を取った。
◇ ◇ ◇
20代半ば〜現在 一般事務
今の派遣先は、ほぼ大手に近い会社であるため、優秀な人々が集う。東京の一等地にビルを構え、エレベーターもまさかの乗り換え式。入ると新しい建物の匂いが微かに残っている。そんな所に来たせいで、私の嫉妬は大爆発した。
仲良くなった社員さんは皆、優秀な大学を出ているし、話していて裕福な家庭だと分かってしまう。
彼女がいるけど奨学金をやっている事を自分の母が良く思っていないだとか、犬が可愛すぎて両親が一括購入しちゃっただとか、韓国アイドルのライブのために残っていた60万のホテルを予約せざるを得なかっただとか、実家にシャンデリアと来客用のBARがあるだとか。
私には願っても届かない世界が広がっていた。
悔しくてたまらなかった。
結局、世の中は金。
隣の営業部には、皆のムードメーカーのような凄腕の社員がいる。4月に入ったばかりの新入社員の心もいつの間にか掴んでいた。上司にも部下にも「Sさん!」と頼られ、慕われているあの人が羨ましくて、狂いそう。
なんで私はあんな風になれなかったんだろう。
端に追いやられた派遣社員の座席で、1人キーボードを叩く音が虚しく響く。外廻りに出て、報告書を作成して、ノートパソコンを片手に会議室へ向かい、バリバリ働く社員達を見届ける日々が続く。こんなはずじゃなかった。描いた理想のオフィス生活の全てがここにあるはずなのに、私はずっと派遣社員。ただ理想を近くで見ているだけだった。
サボりすぎてマークされている若手社員。良い席があるんだ。私が今座っている所。派遣社員にならない?私が代わりに頑張ってあげる。文章力も高めたから、報告書はそれなりに作れると思うんだ。外廻りだって、文句言わずに行けるよ。毎日遅刻もせずに出社できるよ。
だから交換しよう?
私と人生、交換してよ。
なんで私は派遣社員なんだろう。
◇ ◇ ◇
人生を振り返ると、「なんで」ばかり。
なんで、しか言ってない。
無いものは無いし、願っても得られない。
人は生まれながらに何かしらの制約はある。
分かっていても、愛嬌たっぷりなあの人が羨ましいし、皆の視線を独り占めするあの人が気に入らないし、ピンチの時に皆に助けてもらえるあの人がズルい。自分は怒られたのに同じミスを許してもらえるあの人が許せない。バリキャリで人望のあるあの人を見ては家に帰りたくなる。
外見を磨いても、勉強して資格を取っても、大人になったつもりでも、ずっと私は自分に無いものを持っている誰かに嫉妬している。
そんな自分がダルいし面倒臭い。
なりたい自分像は幾つもある。
大手の会社に就職して、外廻りを繰り返しながら横の関係を広げるバリキャリ。皆のムードメーカーのような営業になって、上司からは頼られ、部下には羨望の眼差しを向けられる器用な人。論文を発表しては結果を残す天才肌。飲みの席で居ないと盛り上がらないような愛されキャラ。
自分に過信しすぎだと思う。
分かっている。
嘘、全然分かっていない。
私は何を求めているのか。
手に入れたとして、何がしたいのか。
本当はもっと自分を愛してあげたい。
努力した自分を褒めてあげたい。
しかし、どんなに愛そうと努力をしても、褒めようとしても、次から次へと新しい"誰か"が目に入ってしまう。
その度に潤した大地はパキパキと音を鳴らしながら、裂けてはまた乾きだす。
私は常に、見えない何かを渇望している。
苦しい。
なりたかった自分なんて、知らないよ。
今の自分を愛してよ。
駄目な自分を肯定してよ。
誰か私を愛して。
めんどくさ。