第10話|「じゃあもう、自分でやっちゃえば?」
いつもの月例会議があった。
次の現場のところに、
「長谷川塗装工業」
と入っている。
え???笑
俺はその場で聞いた。
「いやいやいや、俺もう請負やらないって言いましたよね?」
返ってきたのは、
「書いてあるだけだから安心して」
だった。
いや、何を安心すればいいんだよ。笑
話を聞くと、
「請負じゃなくて、職長代理みたいな形で、とりあえず入って」
という。
職長代理って何?笑
そもそも俺は、長谷川塗装工業の社員でもない。
個人事業主として応援に来ている外注である。
もちろん、職長手当なんてものはない。
普通の日当である。
⸻
この頃の俺は、かなり反骨心が強かった。
でも、ただ人に反発していたわけじゃない。
最初の親方のところでは、新築も改修もやった。
小さい現場も、デカい現場もやった。
本当に色んな現場に入った。
二人目の親方のところでは、それまでの自分に足りなかった技術や、現場を見る視点、考え方も鍛えられた。
そうやって色んな現場を経験していく中で、
「あの時言われてたのって、こういうことだったのか」
と、後になって分かることも増えていった。
自分で同じような場面に直面して、
初めて分かることもあった。
あの時は腹が立った。
納得できなかった。
でも、自分にも反省するところがあったんだなと、後になって気づくこともあった。
厳しい態度で接してくれた人たちに対して、謝りたい気持ちもあった。
だからこそ、
今まで教わってきたことを活かして、良い結果を残したかった。
俺が外に出て仕事で評価されれば、
いつかその話が、今まで俺に関わってくれた人たちの耳にも届くかもしれない。
その時に、
「あいつ、ちゃんとやってるな」
って思ってもらえたら、喜んでくれるんじゃないか。
それが俺なりの恩返しにもなるんじゃないか。
そんな気持ちも強かった。
だから、結果を残したかった。
取引先が、どういう仕事を中心にやってきた会社なのかも、ある程度耳に入っていた。
大規模改修や基地内の仕事が中心。
そんなニュアンスの話は、周りからも聞いていた。
実際に一緒に仕事をするようになって、俺自身もそう感じていた。
だから当時の俺には、
「現場経験の幅なら、俺の方がある」
という自負もあった。
でも次の工程表には、
「長谷川塗装工業」
と入っている。
は?笑
俺はそんな簡単に、誰かの手のひらで転がるつもりはなかった。
⸻
とりあえず、現場には入った。
現場の詰所を見ると、
長谷川塗装工業
その下に、
主任 茅平
副主任 長谷川
と書いてある。
はい、意味分かんない。笑
「書いてあるだけだから安心して」
って言ってたよな?
請け負わす気満々じゃねぇか!笑
俺は取引先の社員じゃない。
頼まれた仕事をやることと、
向こうの都合で何でも引き受けることは違う。
そこは、俺の中ではっきり線を引いていた。
それでも現場は進んでいった。
「職長代理みたいな形で」と言われて入ったものの、
工事が半分以上進んでも、結局ほかに誰も来なかった。
いやいやいや。笑
これ、このまま最後まで俺にやらせるつもりじゃねぇか。笑
俺は前に話したことを守ってもらうように、かなり強く言った。
そして、強引に現場から抜けた。
残りは取引先側の職長に引き継いだ。
長谷川さんは、その現場に残った。
「おいマジかよぉ〜」
俺は、
「頑張ってね笑」
って感じ。笑
⸻
その後、取引先からは、俺を直接雇うような話もあった。
自分たちの側に入れるような話や、子会社のような形の話も出た。
でも俺は、そっちへ行かなかった。
この頃、職人同士で仕事の話をしていると、よく聞く言葉があった。
「直で請けられれば儲かるんだよな」
「直接仕事をもらえれば一番儲かる」
みんな、そんな話はする。
でも実際に、自分で仕事を取りに行く人は少なかった。
俺はそこに、ずっと違和感があった。
儲かるなら、やりゃいいじゃん。笑
なんでやらないんだろう。
そんなことを思っていた。
⸻
そんな頃、嫁さんに言われた。
「そんなにどこ行っても必ず誰かしらと揉めたり、イライラするなら自分でやったら?」
「じゃあ俺やりゃいいじゃん!」
本当に、そのくらいだった。
別に、
「独立して成功してやる」
とか、
「会社を大きくしてやる」
とか、
そんなことを考えたわけじゃない。
事業計画なんてない。
経営の勉強もしていない。
どうやって仕事を取るのかも知らない。
営業のやり方も知らない。
経営の「け」の字も気にしていなかった。
というか、
むしろ知らん。笑
そんな生き方してきてない。笑
ただ、
みんな直で請ければ儲かると言う。
でも、やる人は少ない。
俺は人に使われるたびにイライラする。
そして嫁さんには、
「自分でやったら?」
と言われた。
だったら、
俺がやればいい。
俺は、自分で仕事を取ることにした。
