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私にとって、G7級のBBQがやってきた

    フランスでは、エビアンでのG7開催にあわせて、軍隊や警察官が総出だった。ニュースには、反G7デモの様子が流れていた。板で覆われた店先に、燃えた車。近くに住む友人も、「街がすごく緊迫した感じだった」と話していた。

    そんな時期に、私にとってG7並みのイベントがやってきてしまった。

    夫の取引先のお偉いさん、ジャンさんから、夫婦で週末のご自宅でのBBQに招かれたのである。フランスでは、こういう場に夫婦やカップル同伴で参加することがわりとある。

    もうね、その時点で私は、頭の中にありありと絵が浮かんでしまった。

    夫は仕事関係の男性陣と話し、プラスワンとして来た私たち女性陣は、初対面同士にもかかわらず、4時間以上ともに過ごす絵を。

    いや、地獄図を……。

    分かっている共通点は、女性であることと、夫がいること。以上。
    それ以外に何があって、どう4時間以上も会話をつなげればいいのか。

    レストランならまだいい。料理が運ばれてくるし、店という雰囲気が会話を支えてくれる。
    でも自宅でのBBQはちがう。気も遣うし、逃げ場も少ない。

    会話が早々に終了して、炎天下のなか、ひたすらひきつった笑顔をキープし続ける私。

    そういう未来が、かなり鮮明に見えた。

    私はもともと、スモールトークが苦手だ。
    気の利いたことや面白いことを言わなければいけないような気がしてしまうし、気まずい間も苦手だ。できれば、さくっと本題に入りたい。

    でも海外で仕事をしたり、こちらの社会に入ったりするうちに、このスキルなしに会話を進めるのは難しいなと思うようになった。
    スモールトークは、気の利いたことを言う技術というより、「私はあなたと話す意思がありますよ」と伝えるための入口なのかもしれない。
    だから必要で、みんな何の苦労もなかったかのように、さらっとやっている。

    その域にはまだ遠いけれど、それでも場数を踏むうちに、少しずつ言葉は出てくるようになってきた。

    だから私は、こういう場に行くときだけは、少し大げさなくらい事前準備をする。

    まず、私は外国語の名前を覚えるのが苦手だから、参加者の名前と出身国を確認する。そのうえで、その国の文化をざっと調べる。
    趣味が分かればその話題を、分からなければ好きそうなことを推測してネタを仕込む。最近の時事ネタも軽くアップデートしておく。

    もはや気分は銀座のホステスさんである。気分だけは。

    参加者はみんなフランス語で、英語ももちろん話せる。
    でも私は、日本人訛りのフランス語で堂々と突き通すしかない。
    誰かがそっと「話しやすい言語で大丈夫ですよ」と言ってくれないかな、なんて淡い期待を抱きながら。

    そして当日。天気には恵まれたけれど、35度超えの猛暑日だった。

    最近は湿気すら感じるし、日差しも容赦ない。
    その日は少し風があったのが救いだったけれど、じっくりオーブンでジリジリ焼かれるような気分だった。

    最初はご自宅のツアーから始まり、その後、休憩をかねてアペロ。
    お庭のソファでみんなで乾杯をして、1時間半ほど話をした。

    そしてBBQになると、場所を移動した。

    大きな木が木陰をつくり、その下に白いテーブルと椅子、花束が置かれていた。木にはハンモックとブランコが吊り下げられていて、絵本の中みたいだった。バラや紫陽花が咲く庭の中に、ふっとダイニングが現れたような空間だった。

    主催者の部下のアントニーさんが、率先してお肉を焼いて、みんなに配ってくれた。国は違えど、やっぱりお肉は部下が焼く仕事なんだなぁ、なんて思った。

    そして心配していたスモールトークは、結果的には心配しすぎだった。

    そもそも、スモールトークのプロたちが集まると、話題は勝手に広がっていく。
    ジャンさんが「まる子はフランス語、上手だね。全く問題ないよ!」とお世辞を言ってくれたおかげで、私はすっかり調子に乗ることができた。

    こういう場では、仕事の話はほとんど出なかった。

    夫はすでにその方たちと仕事をしていて、関係もできている。
    だからこそ、ご自宅に招いてくださるというのは、仕事の話をするためというより、もう一歩深い関係性を築いていこうという合図なのかもしれない。

    仕事相手としてだけではなく、どんな人なのかを知る時間。
    そんな意味もあるのだと感じた。

    ホストのご夫婦も参加者の方々もとても気さくで、時間は和やかに過ぎていった。

    そして、事前準備をして本当によかったと思った。
    料理を取り分けるときも、お別れのビズをするときも、名前を呼ぶ場面が何度もあったからだ。

    参加者の方も、最初は私にお辞儀をしてから、「ビズをしてもいい?」と聞いてくれた。だから私も、相手の国のことを少し質問した。

    お互いの故郷を、少しずつ差し出し合うような時間だった。

    完璧なフランス語で話せたわけではない。
    たぶん、文法も発音もところどころ怪しかったと思う。

    それでも、自分の言葉で話そうとすること。
    相手の国や文化に、少しでも興味を持つこと。

    そういうものは、拙い言葉の隙間からでも、案外ちゃんと伝わるのかもしれないと思った。

    でも、しばらくは本当にビジネスBBQとかしたくない。笑

    私はだいたい夏のBBQのあと、具合が悪くなる。
    暑さにめっぽう弱く、お腹を壊すのだ。

    今回も例外ではなかった。
    夜からお腹を壊し、深夜2時までトイレと寝室を往復することになった。
    暑さに加えて、謎のプレッシャーを感じながら過ごしたせいもあるかもしれない。

    夫は騒音レベルのいびきをかいて、まったく起きない。
    その横で、30分おきくらいの勢いでトイレへ駆け込む私。

    翌朝は、もうぐったりだった。

    やっぱり真夏のビジネスBBQは、修行以外のなにものでもない。

    しばらくは、クーラーのきいた部屋でアイスを食べながら韓ドラを見て、別世界に浸っていたい。
    しょっちゅう見ているけれど。

     
     
    心を癒すことも、治療のひとつ。不妊治療中の揺れる心を、実体験と言語化で立て直す記録。フランスで治療中。医療者と当事者、両方の視点から心を整える過程を綴っています🌿看護師/看護学修士