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静かな囜のポルカ第25ç«  朝の窓

    第25章 朝の窓

    ポルカが消えたあず、村には䜕日か、倉な静けさが残った。

    それは、リネの䞖界の静けさずは少し違った。

    家の戞口に癜い矜が萜ちおいないか、ロカは䜕床も芋た。

    食卓の怅子がひず぀䜙っおいるような気がしお、䜙分に皿を出しかけた。

    豆の鍋を芋れば、うるさい声が飛んでくるのを埅っおしたった。

    セラは䞉日ほど村に残った。

    薬の効き目を確かめるためだった。

    リネがどの音を拟えるのか、どの音は遠いたたなのか、石板に䞀぀ず぀曞き留めた。

    けれど、セラは結果を急がなかった。

    リネが聞こえなかった時、セラは萜胆しなかった。

    聞こえた時も、必芁以䞊に喜ばなかった。

    ただ、リネが石板に曞くのを埅った。

    ある朝、リネは机の前で、匙を床に萜ずした。

    かん、ず小さな音がした。

    リネは目を芋開いた。

    ロカは思わず身を乗り出しかけた。

    聞こえたのか。

    そう聞きかけお、やめた。

    リネは床の匙を芋぀め、耳のあたりに手を圓お、それから石板を匕き寄せた。

    『今の、少し』

    ロカはうなずいた。

    「少し」

    リネは次に、火のそばぞ行った。

    薪がはぜた。

    ぱち、ず小さく鳎った。

    リネは銖をかしげた。

    聞こえたような、芋えただけのような、分からないずいう顔だった。

    圌女は石板に曞いた。

    『これは、ただ遠い』

    ロカは、今床も埅った。

    セラはそっず笑った。

    「いい耳ね」
    「聞こえないのに」

    ロカが聞くず、セラは銖を暪に振った。

    「聞こえるか聞こえないかだけで決めない耳、ずいう意味よ」

    ロカは黙った。

    少し前の自分なら、その蚀葉の意味が分からなかったかもしれない。

    䜕日かしお、枯からセラ宛の手玙が届いた。

    差出人の名はなかった。

    けれど、封の内偎に薄く青耳花の灰が぀いおいたのを芋お、セラはすぐに誰からか分かった。

    「リゞュからだわ」

    そう蚀っお、セラは手玙を開いた。

    青耳神殿は、ただ島にある。

    神の声の儀は止たった。

    信埒たちは混乱しおいる。

    怒る者も、泣く者も、島を去る者もいる。

    正しい声を倱った人々は、今、自分の声の眮き堎所を探しおいる。

    私は残った。

    逃げなかった、ずはただ蚀えない。

    ここに残るこずで、別の圢で逃げおいるだけかもしれない。

    けれど今は、聞きたい声を䞎える薬ではなく、たずわり぀いた声を少しず぀薄くする薬を䜜っおいる。

    誰かを導くためではなく、その人が自分の足元を芋られるようにするための薬を。

    アオリ様は、青い花のない郚屋にいる。

    誰の声も流れない郚屋だ。

    食事は摂る。

    眠りもする。

    けれど、長いあいだ、誰ずも話さない。

    䞀床だけ、石板にこう曞いた。

    『私の声は、どれだったのだろう』

    私はただ、その問いに答えおいない。

    答えおはいけないのだず思う。

    セラ。

    あなたは、埅぀薬垫になるず蚀った。

    私は、その意味をようやく少しだけ考えおいる。

    手玙はそこで終わっおいた。

    セラはその䞀文を長く芋おいた。

    ロカは䜕も蚀わなかった。

    リネが石板を差し出した。

    『リゞュは、埅っおいるの』

    セラは少し考えおから、石板に曞いた。

    『たぶん。今床は、埅ずうずしおいる』

    リネはうなずいた。

    その倜、セラは旅支床を始めた。

    「行くのか」

    ロカが聞く。

    「ええ。神殿ぞ戻るわけじゃない。けれど、青耳花を知っおいる薬垫は少ない。声に苊しんでいる人は、ただ残っおいる」
    「䞀人で」
    「䞀人で始める。でも、ずっず䞀人かは分からない」

    セラは鞄に、ネムの効の鏡を入れた。

    「その鏡、持っおいくのか」
    「ええ。借りおおく」
    「返すのか」
    「い぀か。あの子に、鏡が圹に立ったず䌝えたい」

    セラは鞄を閉じた。

    「ロカ」
    「䜕だ」
    「埅぀のは、簡単じゃないわ」
    「うん」
    「䜕もしない蚀い蚳にもなる。怖くお手を出さないこずず、盞手が遞ぶ堎所を残すこずは、䌌おいるけれど違う」
    「分かっおる」

    ロカは少し迷っおから蚀った。

    「いや、分かっおる぀もりでいる。だから、間違えたら蚀っおくれ」
    「蚀うわ」
    「遠慮なく」
    「薬垫だから」

    セラは少し笑った。

    「あず、豆は煮すぎない」
    「それはポルカの教えだろ」
    「意倖ず倧事かもしれない」

    翌朝、セラは村を出た。

    ロカずリネは坂の䞋たで芋送った。

    セラが手を振る。

    二人も手を振った。

    セラの足音は、リネにはほずんど届かなかった。

    けれど、草を螏むかすかな震えだけが、少し分かった気がした。

    遠ざかるほどに、それも消えた。

    リネは石板に曞いた。

    『セラの足音は、たじめそう』

    ロカは笑った。

    「足音にも性栌があるのか」

    『たぶん』

    「ポルカの足音は」

    『転ぶ前からうるさい』

    ロカは声を出しお笑った。

    その日の倜、リネは久しぶりに静かな囜の倢を芋た。

    癜い郚屋は、ただそこにあった。

    壁も、床も、窓も、癜いたただ。

    音はない。

    けれど、前より閉じおいなかった。

    窓が少しだけ開いおいる。

    倖から朝の光が入り、癜い床に现い線を䜜っおいた。

    窓蟺には、誰もいなかった。

    リネは少し寂しくなった。

    でも、怅子の脚が䞀本、倉な向きに曲がっおいた。

    床には癜い矜が䞀枚萜ちおいる。

    窓の倖には、誰かが頭から萜ちたような跡が、雲に残っおいた。

    リネは笑った。

    ポルカはいなかった。

    けれど、ポルカがいたこずは、郚屋のあちこちに残っおいた。

    リネは窓ぞ近づいた。

    倖には、音のある䞖界が広がっおいる。

    党郚は入っおこない。

    窓は现く開いおいるだけだ。

    けれど、颚が少し入る。

    遠くの光が少し入る。

    どこかで鳥が飛ぶ気配がする。

    リネは窓枠に手を眮いた。

    閉めるこずもできた。

    もっず開けるこずもできた。

    今は、このくらいでいいず思った。

    朝、リネは䞘ぞ行った。

    ロカも䞀緒だった。

    癜い鳥たちは、草の䞊で銖を䌞ばしおいる。

    空は薄く明るくなり始めおいた。

    倜ず朝のあいだの色だった。

    ロカはリネの暪に立った。

    以前なら、䜕かを蚀っおいただろう。

    寒くないか。

    聞こえるか。

    無理するな。

    倧䞈倫か。

    蚀葉はいくらでも浮かんだ。

    けれど、ロカは埅った。

    リネは銀うさぎを胞に圓おおいた。

    片耳の銀うさぎは、朝の光を受けお、少しだけ癜く光っおいる。

    やがお、䞀矜目の鳥が飛んだ。

    続いお、二矜、䞉矜。

    癜い鳥たちが、草を蹎っお空ぞ䞊がる。

    矜が空気を叩いた。

    リネは目を閉じた。

    音は、党郚は届かない。

    近くの矜ばたきだけが、かすかに分かる。

    遠くぞ行くほど、それは光の䞭ぞ溶けおいく。

    颚が草をなでる小さな震え。

    ロカが隣で息を止める気配。

    自分の胞の奥で鳎る、聞こえるものず聞こえないもののあいだの静けさ。

    それらが、少しず぀リネの䞭ぞ入っおきた。

    リネは目を開けた。

    䞖界は、急に隒がしくなったわけではなかった。

    静かな囜が消えたわけでもなかった。

    ただ、窓がひず぀開いおいた。

    その窓から、朝が入っおきおいた。

    リネは石板を持ち䞊げた。

    『朝が来たね』

    ロカはその文字を読んだ。

    鳥の矜音は、リネに党郚届いたわけではない。

    遠くの声はただ癜い光の䞭ぞ溶けおいく。

    けれど、䜕もないわけではなかった。

    窓は、確かに開いおいた。

    ロカはうなずいた。

    「ああ。来たな」

    終

    ▌こちらのマガゞンに党章収録しおたす。

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