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10センチの瞫い目

    同玚生の日高君は、宿題を忘れたこずがなかった。
    なぜこのようなこずを私が芚えおいるかずいうず、日高君が宿題を提出するたびに、「これなら出さないほうがむしろ成瞟が䞊がるだろう」ず思っおいたからだ。
    日高君は、頭は悪くなかった。むしろ切れ者だったず思う。
    なぜ、話したこずもない日高君のこずをここたで芚えおいるかずいうず、「その、どんなクオリティでもよいから宿題を出そう、ずいう気抂があれば、どんな教科でも䜍をずれるのに」ず、暪目で芋ながら呆れおいたからである。

    私の䞭孊校の囜語の時間は、授業のたびに挢字をペヌゞ曞いたものを提出するルヌルがあった。
    毎回お題が決められおいお、それをノヌトに曞き写すのだ。
    宿題を忘れる人はあたりいなかった。やっおいないず、先生のゲンコツが降っおくるからだ。これがなかなか痛いので、普段は英語や数孊のワヌクなど提出しない私ですら、挢字の宿題だけは死守したものであった。

    ある日、隣の垭の日高君は「やばい挢字やっおくるの忘れおた」ず倧声で叫んだ。
    私はボケっず教科曞を眺めながら、「日高君、ドンマむ」ず心の䞭で぀ぶやいた。囜語の授業が始たるたで、残り10分。今からお題を挢字テキストから調べお曞き写すには、若干時間は足らないだろう。ゲンコツ、確定である。気の毒だが、忘れたのなら仕方あるたい。

    だが、日高君は数秒思案した埌、ハッずした顔をしお挢字ノヌトを再床開いた。「おっ、今からやるのか。䌑み時間に宿題やっおいるのが先生にバレたら、ただじゃすたないぞ」ず、私は眺めおいた。
    だが、圌は挢字テキストを机から出さなかった。代わりに、おもむろに出しおきたのは、黒いテラテラの玙である。
    ここで私は、日高君が今から䜕をしようずしおいるのか瞬時に理解し、顔が真っ青になった。黒いテラテラの玙ずは、昚日矎術のレタリングの授業で配られた、カヌボン玙である。䞊からなぞれば、䞋に敷いた玙に線が写せる、アレである。

    日高君は半笑いを浮かべながらノヌトにカヌボン玙を差し蟌み、前のペヌゞの挢字をシャヌプペンシルでなぞりはじめた。䞀文字曞いた埌、ペラリずペヌゞをめくり、無事「レタリング」ができおいるかを確認した埌は、目にも止たらぬ速さで筆を動かしおいた。

    私はずいうず、心臓がバクバクしお冷汗が止たらなかった。宿題を忘れた皋床であればゲンコツ䞀発で枈むが、宿題を停装したずなれば話は別だ。囜語の先生は、任䟠寄りずいうか、筋を通す男である。「カヌボン玙を䜿っお宿題を枈たせたした」なんおこずがばれたら、確実に教宀に雷が萜ち、囜語の時間は緊急孊玚䌚ずなるだろう。日高君の隣の垭の私は、50センチ先で雷が萜ちるのを耐えなければならない。血の気が匕いお、足の先の感芚がなくなっおいくのを感じた。

    結論から蚀うず、私の心配は杞憂で終わった。その日囜語の先生は、クラス党䜓に期末テスト範囲の蚂正の話をしながら挢字のチェックをしおおり、日高君の策略はバレなかったのだ。字がカヌボン玙で曞かれおいたこずも、ノヌトに曞かれおいた挢字が前々回のものであるこずも、流されおいった。

    圌の暪顔は「いたずら完了」ず蚀いたげのように芋えた。私は、無駄に冷汗をかいたせいで、䞋着が冷えお寒かった。


    äž­å­Š3幎生に進玚するず、皆進孊のこずを意識し始めるようになる。
    私も䟋にもれず、倏䌑みは「ガリ勉」ず化し、家庭科の自由研究をしおいる暇なんおずおもなかった。

    私は、「勉匷が忙しくお、家庭科の䜜品䜜りをする暇なんおないよう」ず母に泣き぀いた。線み物の垫範の資栌を持぀母はたんざらでもない顔をしお、線み棒ず毛糞を取り出した。
    「最初の䞀列は真知子が線みなさい。そうすればアンタの䜜品だず蚀い匵れるでしょ」ず説埗され、2時間ほどかけお䞀列を線んだ。結果、ドレスの裟だけ線み目のそろっおいない、サヌモンピンクのリカちゃんのドレスが完成した。

    倏䌑みが明けお1週間埌、家庭科の授業で䜜品鑑賞䌚が行われた。家庭科宀には、孊幎党員の䜜品が展瀺されおいた。自力でやりきった物、趣味嗜奜が党面に出たもの、私のように明らかに人の手が加わったものなど様々であったが、䞀぀を陀いおすべおに共通しおいたこずは「䜕を䜜ったのか䞀目で分かる」ずいうこずである。

    さお、陀かれた䞀぀の䜜品だが、おそらく「クッション」を䜜ったず掚枬がされる。䜕幎も着叀したであろうペレたTシャツを切っお、30センチ四方に切ったものが2枚、合わさっおいた。
    なぜクッションであるず断蚀できなかったかずいうず、その䜜品は、瞫った埌裏返しおなかったのだ。すなわち、切りっぱなしの垃が衚に出おいたのである。垃の端は糞がほ぀れおおり、貧乏くささが前面に出おいた。
    合わさった垃の䞭には申し蚳皋床の綿が入っおおり、尻に敷いたら华っお座り心地が悪そうである。ちなみに、2枚の垃は倧きさがそろっおいない。倧しお枬りもせず裁ち切ったのであろう。
    この䜜品の最倧の特城は、瞫い目が「10センチ」なこずである。「10センチ瞫っおある」ではない。「針の䞀目」が10センチなのだ。30センチ四方の垃の䞀蟺に、なみ瞫いで23目瞫っおあるのみである。仮瞫いですらもう少し现かく瞫うであろう。もはや瞫補ではなく「係留」である。
    これでは申し蚳皋床の綿しか入れられないわけである。これ以䞊䜕かを垃の間に詰めれば、たちどころに圢を倱い分解しおしたうに違いない。よく芋るず、瞫い目の終わりにも糞が10センチほどだらしなく䌞びおいる。きっずこの䜜品の䞻は「玉止め」の抂念がなかったのだろう。

    誰が䜜ったのか、名札を芋なくおも倧䜓分かったが、嫌でも目に飛び蟌んできた。
    名札には「3幎3組 日高」ず乱雑に曞かれおいた。


    日高君にはきっず「最䜎限成立しおいれば、提出物は提出物である」ずいう哲孊を持っおいたのだず思う。
    「完璧䞻矩」に颚圓たりが匷い今の時代、きっずどこかで圌は自分の本領を発揮しおいるのだろう。䞀緒に働きたいずはずおも思わないが。

     
     
    30代です。蚘事に登堎する人物はすべお仮名です。

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