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「昨日、私は死んだことになっていた」

    第8話   ワタシはまだ生きていた

    残り時間は、ゼロに近づいていた。

    「削除まで:00:00:41」

    その数字を見ても、不思議と怖くなかった。

    もう逃げるという感覚すら、薄れていた。

    ⸻

    画面には、二つの選択肢が残っている。

    ――A-01を残す
    ――B-07を削除する

    でも、その下に新しい文字が浮かび上がった。

    ――「選択権は存在しません」

    ⸻

    私は息を止めた。

    ⸻

    次の瞬間、画面が強制的に切り替わる。

    白い空間。

    あの男がそこに立っていた。

    ⸻

    「ここまで来たか」

    落ち着いた声だった。

    まるで結果を確認するだけのように。

    ⸻

    「あなたはB-07ではない」

    男は静かに言った。

    ⸻

    私は固まる。

    「……じゃあ、私は何?」

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    男は少しだけ目を伏せたあと、答えた。

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    「あなたは“初期モデル”だ」

    ⸻

    初期モデル。

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    「この実験は、人間を“壊れない存在”に作り替えるためのものだ」

    「そのために、最初の人格を一度壊し、複数に分割し、再構築する」

    ⸻

    私はゆっくり後ずさった。

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    「A-01は成功した“完成体候補”」

    「B-07は“修復途中のデータ”」

    ⸻

    男は私を見た。

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    「そしてあなたは、そのすべての“元”だ」

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    頭の中が真っ白になる。

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    「あなたが壊れたから、すべてが始まった」

    「あなたを基準に、無数の“あなた”が作られた」

    ⸻

    私はようやく理解した。

    ⸻

    私は被験体じゃない。

    ⸻

    “基準”だった。

    ⸻

    そのとき、スマホが震えた。

    最後の通知。

    ――「再統合プロセスを開始します」

    ⸻

    男が静かに言う。

    「さあ、戻りましょう」

    ⸻

    次の瞬間、視界が崩れた。

    無数の記憶が流れ込んでくる。

    A-01の人生。

    B-07の痛み。

    見知らぬ部屋。

    知らない自分。

    ⸻

    全部が重なっていく。

    ⸻

    そして最後に、ひとつの声だけが残る。

    ⸻

    「私は、ひとりじゃなかった」

    ⸻

    気がつくと、私は静かな部屋にいた。

    スマホはもう何も表示していない。

    ただ、最後に一行だけ残っていた。

    ――「統合完了」

    ⸻

    窓の外は普通の朝だった。

    何も変わらない世界。

    でも、私は少しだけ違っていた。

    ⸻

    誰かの記憶が、まだ私の中に残っている。

    A-01の冷静さ。

    B-07の恐怖。

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    私はゆっくり息を吐いた。

    ⸻

    「……私は誰なんだろう」

    ⸻

    答えは返ってこない。

    でも、その問いだけが確かに“私”だった。

    ワタシはまだ、誰かの記憶の中にいる。

    ───そう‥‥ワタシは…

    [完]

    #創作大賞2026 #ミステリー小説部門

     
     
     
    ミステリー小説を書いています 趣味で書きためていた、小説を載せています

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