ほんとに私でいいの!?
「エクスキューズミー」
眼科の帰りに駅で乗車券を買い終えた私に、海外の観光客の女性が困り顔で話しかけてきました。
私が乗りたい電車の発車まであと10分。
私の英語力はDuolingoを今まさにかじっているレベル。
正直「え、私?」と思いました。
いや、今ちょっと時間がない。
そう思っているのに彼女は自分のスマホを私に見せて「ココへ行きたい。いくらですか?」と指をさして、身振り手振りで伝えてくれました。
料金表を見てみると、その駅まで1170円。
「ワンサウザンド……えーと、170って何だっけ?」
急に言われると英語って全然出てきません。私が券売機の前でモタモタしていると、
「イチイチナナゼロ。」
彼女の口から出たのは、まさかの日本語の数字。そうそう!って、日本語喋れるの?
次は支払いです。
画面には、現金、電子決済、クレジットカードのボタンがあります。
私が指さしで「どれ?」と聞くと、彼女は「credit card」と答えたので、タッチ決済の場所にスマホをかざしてもらいました。
しかし、「ピッ」は鳴りません。
私もジェスチャーで「裏。裏。」と伝えてみましたが、やっぱり反応はしません。それを何回か繰り返してみても、
表。裏。また表。…。
機械はうんともすんとも言いません。
なんか、Sorry。
よりによってこんなアナログ人間な私に当たってしまって。
焦った私はこのキャッシュレス全盛の令和の時代に、とうとう言ってしまいました。
「Do you have any cash?」
すると彼女は
「Oh!」と何かを感じたらしく、
「アリガト。」
笑顔でそう言って、人混みの中を走って行ってしまいました。
ヤバイ。
発車のベルまであと3分。
人混みをかき分け、階段を猛ダッシュで駆け下り、私が乗る5番ホームへ走りました。息を切らしながら滑り込みセーフ!と思いきや……。
ん?
誰もいません。
さっきまで券売機の周りは、あんなに人で溢れかえていたのに。
人の笑い声も。
足音も。
あらゆる声が消えていました。
えっ?
そう思って視線を上げたその先に、
電光掲示板に残る
オレンジ色の「5番ホーム10:38発」
うっそ……
10時43分じゃなかったの!?
私の乗るはずだった電車はもう、いませんでした。
あっ、彼女はちゃんと乗車券が買えたのかな。
