帰り道の余談。
帰りの電車はあまり好きではない。
特にプラネタリウムの帰りは。
さっきまで宇宙にいたはずなのに、数十分後には蛍光灯の白い光に照らされて、現実へ引き戻されるのだから。
別に現実が嫌いなわけではない。
いや、少し嘘かもしれない。
好きになれる要素が、星空ほど多くないだけだ。
窓に映った自分の顔を見る。
相変わらず、あまり好きにはなれない。
プラネタリウムではあんなにも簡単に自分を忘れられたというのに、ガラス一枚で現実は随分と厚かましく主張してくるらしい。
ふと、今日見た星の名前を思い返してみる。
いくつかは思い出せたが、全部は無理だった。
さっきまであんなに鮮明だったのに。
記憶とは案外薄情だ。
いや、違うか。
薄情なのは僕の脳で、星はただそこにあっただけだ。
……こんなことを考えているから、電車で一人浮くのだろうか。
少しだけ周りを見渡す。
スマホを見ている人。
眠っている人。
誰かと話している人。
みんな当たり前みたいに現実を生きていて、少しだけ羨ましくなる。
僕は未だに、さっきまで見ていた偽物の星空に心を奪われているというのに。
偽物。
そう呼ぶには、あまりにも綺麗すぎるか。
本物の空だって、曇れば何も見えない。
街明かりで掻き消えることだってある。
だとしたら、いつでも美しい星を見せてくれるあの場所は、本物より誠実なのかもしれない。
……なんて、また面倒くさいことを考えてしまった。
駅に着くアナウンスが流れる。
どうやら着陸の時間らしい。
少しだけ名残惜しいが、また次の離陸まで生き延びる理由ができたと思えば、悪くない。