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病室で試験日を迎えました

    ちょきぽん

    平成30(2018)年度の行政書士試験は、不合格でした。

    ネットで合否発表を見た記憶はないのですが、
    しっかりと証拠が残っていました。

    発表の当日に、あちこちの通信講座に資料請求をしています。
    いま探してみたら、その受付メールが発掘されました。

    今年もフォーサイトでやるか…?
    いや、もう基礎講座は、じゅうぶんお腹いっぱいです。

    もっと詳しくて、深いところの知識が欲しかったのです。
    具体的な。解像度の高い。うまく言えませんが。

    しかし、どこも予備校の通信講座はお高いですね。
    お高いうえに、とっつきにくい匂いがして、どうもなあ…。

    ひとつだけ、魅力的な広告が目にとまりました。
    驚異の合格率をうたっています。
    さっそく資料請求してみましょう。

    なんだこの解りやすいテキストは。
    解説も細かいし、出題範囲を網羅しているというのも、うなずける。
    サンプルの講義も、新鮮で話がおもしろい。
    聞いたことのない名前だけど、ここに賭けてみようか。

    結論からいえば、それは「アガルート」でした。
    まだ、例の耳に残る広告は打っていない頃です。

    ある程度の基礎はできているので、「入門」ではなく
    「演習総合カリキュラム」(現:中上級総合カリキュラム)一択です。
    少しでも節約するために「フル」ではなく「ライト」を選びました。

    「フル」にあって「ライト」で削られている講座は
    ・逐条ローラーインプット講座
    ・文章理解対策講座
    の2講座です。
    前者は魅力を感じて惜しい気もしたのですが、少なくとも文章理解対策は必要ありません。
    自慢ではないですが、文章理解だけは、今まで外したことが一度もないのです。

    それはさておき。

    気になるお値段は(注:当時・たぶんキャンペーン価格で)
    148,000円 から「他校割引クーポン10%OFF」で14,800円が割引になります。
    合計:133,200円。

    …お、お高い…です。
    しかし、出せない金額ではありません。

    考えてみれば、フォーサイトで2年間にかかった学費よりは安いといえるでしょう。
    もし、これで一発合格できるのであれば。

    それに、もし合格できれば
    「全額返金制度」というのがあります。
    (現在は「フル」のみ対象ですが、この頃は「ライト」も対象でした)

    さて、アガルートの教材が届きました。
    きれいなダンボールで届いたフォーサイトの教材と違って、なんだか簡易包装です。
    DVDもないし、心を浮き立たせてくれた各種おまけもありません。寂しい。

    しかし、教材は見た目ではない、と思いなおしました。
    そう、重要なのは中身です。

    さて、学習を始めます。

    どこの会社の講座にするか、さんざん迷ったので
    アガルートに申し込んだときは2月下旬になっていました。
    本試験まで、あと8ヵ月半しかありません。

    まずは「民法」から。
    この学習の順序も新鮮です。
    フォーサイトの時は「基礎法学」「憲法」の次に「民法」でした。

    いや、もういちいちフォーサイトと比べるのはよしましょう。
    いつまでも元カノが忘れられないダメ男の愚痴みたいなので。

    ええと。
    日々学習を進めていくうちに、すぐに元カノの影は消え去りました。
    豊村講師の講義が面白くてですね。
    合わない方もいらっしゃると聞きますが、私には合っていたようです。

    思い返せば、民法を勉強するのは、宅建の時から数えて4年目です。
    それなのに、様々な判例や、ナイスなたとえ話を聞きながら学習を進めていくのは、とても新鮮でした。

    …時が過ぎるのを忘れるほどに。

    そう、私はけっして恵まれた受験生であったとは言えません。
    当時、私生活では数年前から苦しい時が続いていました。

    糖尿病による合併症のデパートのようだった父が、軽度の脳梗塞で入退院を繰り返していました。
    入院すれば、病院まで車で通い、洗濯物の交換や、様々な話を聞いたりするのは私の役目です。

    退院すれば、もっとやっかいな状況が待っていました。
    悪い人に騙されやすく、思い込みが激しく、思い込んだらテコでも動かない父は、行く先々で大小のトラブルを起こしていました。
    家庭内がいちばんひどく、父の思い込みを原因とするトラブルの火種が絶えません。

    母は、父の甘えからくる高圧的な態度に匙を投げ、
    妹は、そんな父を嫌って口もきかない有様です。
    父と家族のあいだの「通訳」ができるのは、私ひとりだけでした。

    行政書士試験の受験勉強は、そんな日常から逃避できる、心のオアシスでした。
    オアシスだったのですが…。

    父がトイレの失敗をするようになって、要介護度が上がりました。
    デイサービスに行ってくれている間は、平和なのですが。

    日中はトレパン、夜間はオムツです。
    ここで、私の介護士としての経験が生かされました。
    なんだかだ、仕事以外に父の介護に取られる時間も増えていきます。

    この年にいちばん印象的だったのは、
    とにかく入院を忌避する父に、リハビリ入院を勧める一大プレゼンテーションを打って、見事に成功させたことです。
    入院してくれれば、少なくとも家庭内は平和になります。

    その病院は一種の福祉施設だったので、テレビの備え付けはなく、持ち込みのみが可でした。
    楽天で安いテレビを買って車で運び、アンテナ線をつないで一人でセッティングしたのも、懐かしい記憶です。

    仕事と、父の介護。
    入院すれば、洗濯物の交換や差し入れなどに伴う定期的な通院。
    その通院に母や妹が同行することは、ほとんどありませんでした。

    私の記憶は、このあたりで曖昧になります。
    気がついたら、病院のベッドで管につながれていました。

    意識不明で救急搬送、からの入院。
    母によると、かわいがっているペットの名前を出した時だけ、ぴくりと反応したそうです。

    ようやく起き上がれるようになって、病院の公衆電話で家に掛け終わったあと、ふと思いました。

    揺れる景色と、チューニングのわるいラジオみたいに、わんわん揺れる周囲の雑音。
    「これでは、もう一生、車を運転することはできないんだな」
    車で通勤している今の職場も、続けられないだろうな。
    当然、行政書士試験の受験勉強どころではありません。

    けれど、心のどこかに。
    「もう勉強しなくていいんだ」
    そんな、放心にも似た安堵の気持ちが、なかったといえば嘘になります。

    すでに秋になっていました。
    アガルートの学習は、行政法までで止まっています。

    それから、いくらかの日にちが過ぎて。
    幸いなことに、後遺症は残りませんでした。

    そうなると、いくらかの欲が出てきます。
    気がかりなのは、今年の試験。
    すでに、8月に願書を申し込んでいます。
    そろそろ、受験票が届くころでした。

    もしも。
    もし、いま退院できたなら。

    ダメもとでもいい。
    きっと、試験会場には行ったでしょう。
    これまでの知識の蓄積はあります。
    たとえ出来がわるかったとしても、試験を受けることに意義があるのです。

    しかし、入院中の身では、それもかないません。

    令和元(2019)年度の行政書士試験、棄権により不戦敗。

    わびしい気持ちで過ごした試験日を、私は一生忘れることはないでしょう。

    無事に退院したときは、12月の半ばになっていました。
    幸運なことに、職場にもすぐに復帰できることになりました。

    病院から帰宅してすぐに、来年度のアガルートの講座を申し込んでいます。
    …来年こそは、決める。

    もう、迷いはありませんでした。

    続きは次の機会に。


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