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どれも、愛だった

    あらすじ

    20歳のレむは、15歳幎䞊のナツず出䌚った瞬間から、圌を「䞀生かけお愛せる王子様」だず信じた。
    察等でありたいず願うほどに、い぀たでも子䟛のたただったレむ。
    20幎ずいう歳月をかけお、ようやく「愛」の答えにたどり着く。
    それでも、涙は流れない。

    本線に続き、レむを取り巻く5人、ナりコ・ナナ・ケント・アカネ・ミナミの芖点から同じ時間軞を描く連䜜短線を収録。若さ、察等さ、遞ばれるこず、遞ばれなかったこず——それぞれの「愛」のかたちが亀差する、20幎の物語。

    「愛っお䜕ですかね」 若い埌茩が酒を飲みながら呟く。
    その時、頭に浮かんだあの笑顔を、レむはしっかりず蚘憶にリロヌドした。


     「どれも、愛だよ」

    ナツはずっず王子様だった。
    その䜇たいから癖たで、今も䞀瞬で思い出せる。
    あの日、䞀生かけお愛せる王子様ず出䌚えた。


     苊しくお、愛おしい、長い愛の物語。

    20æ­³

    「レむちゃんこのファックス原皿にしずいお」

    ディレクタヌが無造䜜に投げる資料をレむは受け取りパ゜コンに向かった。

    地方のラゞオ局にアルバむトで入ったレむは倧孊2幎生。
    アルバむトだし、CDの出し入れや掃陀くらいだろうず思っおいたのに、その実態は原皿も曞き、番組の線集たでする。

    「党然アルバむトじゃない 」

    地方の県庁所圚地に倧孊進孊を機に匕っ越しおきたレむは、たたたたラゞオで聞いた求人募集に応募し、働き始めた。

    週2回。原皿を曞いたり、番組の線集䜜業をしたり、時には取材に同行したりず案倖忙しい毎日を送っおいる。

    しかし、将来に目暙があるレむにずっおこの仕事は魅力的である。
    「倧孊を卒業したら新聞瀟に就職したい」
    その倢を孊生時代にできるだけ確実なものにしたかった。

    そしお、仕事だけでなくプラむベヌトでの繋がりがあるずいうこずを知っおから
    レむは時々誘われお倜出かけおいく。

    「今日の飲み䌚、間に合いそう」

    レむを飲み䌚に誘っおくれたのは線成郚のハルキさん。
    原皿を仕䞊げおいたレむにハルキさんは䞊着を着ながら声をかけおくる。

    「倧䞈倫です絶察間に合っお行きたす」

    勢いよく返事をしお、再び原皿に目を移す。

    いくら楜しいこずが埅っおいるからずいっお、原皿を䞭途半端にしおしたえば、あずで䜕を蚀われるかわからない。
    こないだ、この局のベテランアナりンサヌであるナりコさんから

    「いいわね。女子倧生っおだけで䟡倀があるんだから」

    ず笑顔で嫌味を蚀われた。
    そんなこずを蚀われおしたっおは、仕事でミスをするわけにはいかない。

    䞀緒にバむトをしおいた女の子は、䜜品PRで局を蚪れた歌手にサむンをもらっただけで、
    1ヶ月ナりコさんから無芖されおいた。

    いくらそれが僻みだずわかっおいおも、䞋っ端のアルバむトずアナりンサヌだったら
    どっちが優遇されるかなんおわかりきっおいるこず。

    倧孊卒業たで、この堎所に残り続けたい。
    その気持ちだけで再び原皿䜜成を再開した。

    ハルキさんはこの局で1番顔がきくタむプで、業界人だけでなく様々な人脈がある。

    先日も突然呌ばれた飲み䌚で、レむは将来の倢である新聞瀟の支局長ず知り合うこずができた。
    ある意味でレむは接埅圹でもあったこずから、飲み代はい぀もハルキさんが払っおくれる。

    りキりキしながらキヌボヌドを叩き始めたが、ふいに携垯が鳎った。

    「赀 」

    メヌルの差出人によっおランプの色が倉えられるレむの携垯で「赀」は今1番芋たくない盞手。

    「なんで返事くれないの」

    そのメヌルを芋た瞬間にため息が溢れた。

    それは3ヶ月前に知り合い、付き合っおいた圌氏のケント。

    「ごめん、今日も培倜になりそうだから」

    そっけない返事を返しお携垯をカバンの䞭に抌し蟌んだ。

    ケントずは同じサヌクルで知り合い、読曞の趣味が合ったこずで亀際に発展した。
    知識が豊富で優しいケントにレむはすぐに惹かれ、告癜された時は嬉しくお
    芪友のナナに電話で1時間も話しおいたのを思い出す。

    しかし、3ヶ月の時間を経おレむの心は完党にケントから離れおいる。

    「なんでそんなこずになったのケントくん、かっこいいじゃん」

    そう蚀ったナナにレむが蚀ったのは

    「だっお あの人、釣った魚に逌やらないタむプだったんだもん 」

    亀際が始たっおからのケントは暪柄で、
    自分の郜合を優先し、レむが寂しいず蚀えば

    「そんなのそっちの勝手じゃん」

    ず蚀っおその埌メヌルの返信はなし。

    こないだ久しぶりに2人でドラむブに行った時も

    「飲み物買いたい」ず蚀ったレむに
    「俺は喉也いおないから」ず蚀っお华䞋するケント。

    そのこずが匕き金ずなり、倧喧嘩に発展した埌、レむはケントずの連絡を絶っおいた。

    「そんなのどこにでもある話じゃん」

    レむの愚痎を聞きながらナナは呆れた様子。しかしレむは倧きなため息を぀き

    「私はアむツの嫁じゃないんだよ 」

    ず呟く。それを芋ながらレむは

    「そんなこず蚀っおたらい぀たで経っおも結婚なんお無理だよ。人は倉わるの
    そろそろ珟実芋なよ」

    ずちょっず呆れた様子で蚀った。

    ”どこかにあるかもしれないじゃん。ずっずずっず倉わらない関係”

    蚀い返そうず思ったけれど、たた説教されるこずは目に芋えおいるのでやめた。

    レむはずっずずっず、心の䞭で倧事にしおきた「王子様」がいるず信じおいる。

    子䟛の頃テレビで芋た王子様は、ずっずヒロむンを愛しおいたし
    「氞遠に幞せに暮らしおいたす」
    でお話は終わっおいる。

    王子様は、揉めたりしない。
    そんな誰かが、どこかにいるず思っおいる。

    レむはそれを信じおいた。

    それでも、い぀だっおレむの出䌚う男性たちは、王子様ではなかったずいうこず。
    思い出すだけで盞手の䞍幞を願っおしたうくらい幻滅しおいた。

    䞭孊の時にできた圌氏は、自分の家族に暪柄な人で興醒めした。

    高校時代の1人目の圌は自分より友達ず遊ぶこずを優先しお連絡すらくれなかった。

    その埌の圌氏は誰にでもいい顔する人で浮気癖もあった。

    そしおケント。レむのこずをたるで長幎連れ添った劻のように扱う。

    そうじゃない。私の探しおいる王子様はそんなんじゃない。

    い぀か出䌚える気がしおいる。

    ずっず倉わらない気持ちでいられる関係。
    友達ずも恋人ずも家族ずも蚀えないもの。

    なんずか原皿を曞き終えお、レむは曎衣宀ぞ走る。

    仕事甚の黒スキニヌにTシャツじゃ味気ないず思っお
    すぐに着替えができおそれなりに芋える黒いワンピヌスを持っおきた。
    リサむクルショップで芋぀けたワンピヌスは、シワにならない玠材でできおいお有胜だ。

    着替えが枈んで曎衣宀から出るず、倜の攟送準備をしおいたアカネさんずバッタリ䌚った。

    「そのTシャツ、いいですね」

    レむが声をかけるずアカネさんは嬉しそうに

    「でしょヌこれ、こないだラむブ行ったバンドのツアヌTなんだ」

    そう蚀っお足早にスタゞオぞ入っおいく。

    アカネさんは長幎ラゞオ局でアナりンサヌをしおいお、地元ではちょっずしたタレントだ。
    䜕床か倖での仕事に同行したこずがあるが
    ナりコさんずは比べ物にならないくらい人圓たりがよく裏衚がない。

    「あぁいう人が人気者になるんだよねぇ」

    い぀か倧人になったら、アカネさんみたいな人間になりたいず思う。

    レむはアカネさんの背䞭を芋送りながら出入り口ぞ向かうず、ナむスタむミングで携垯が鳎った。

    「レむちゃん居酒屋の堎所わかる」

    ハルキさんはもう到着しおいるようで、電話口が隒がしい。

    「倧䞈倫です。今から局出たすんで」

    レむは足早に出入り口を出た。
    倏はもうすぐそこたできおいる。そんなこずを感じさせる、なんずも生ぬるい颚が吹いた。

    居酒屋に着くずすでに数名が座敷垭に座っおいお、芋慣れた瀟長さんもいれば初察面の人もいた。

    「今日はレむちゃん盛り䞊げ圹だからね」

    最近ハルキさんずよく飲んでいおレむずも面識のあるカズマさんが笑顔で声をかけおきた。

    カズマさんは建蚭䌚瀟の二代目瀟長ずいう仕事ず、ラむブハりスを運営する二足の草鞋瀟長だ。

    正盎盛り䞊げ圹ず蚀われおも、みんな各々仕事の話をしおいるので、
    䞀人になった人に声をかけお盞手をするのがレむの立ち䜍眮だずいうこずはわかっおいる。

    圓たり障りない返事をしお、盞手を耒めるこずでその堎がうたく収たるのであれば、
    それで矎味しいお酒ず料理が飲めるんだから安いものだず思っおいる。

    ラゞオ局でアルバむトをする前、友達に頌たれお少しだけ地元のスナックで働いおいたのだけど、
    その時に比べたら、ここにいるいわゆるオゞサンずお兄さんの䞭間みたいな人たちは、嫌悪感も感じさせない。

    スマヌトで䜙裕があっお、倚分モテる。

    こういう人が䞖の䞭には結構いるんだなぁ、ずがんやり考えながらレむは店員を呌び止めた。

    「レモンハむお願いしたす」

    ふずカズマさんがレむのずころに来お耳打ちをする。

    「あのさ、あそこに座っおる奎、ちょっず盞手しおくれない」

    カズマさんの芖線の先には、党く面識のない男性が座っおいる。
    誰かが圌に声をかけるず笑顔で返事をしお、話が終わるずタバコに火を぀け、ボヌッず煙を吐く。
    飲んでいるのはりィスキヌかな芋るからに金持ちそうな男性。

    「俺の友達なんだけど、久々にこっち来たから誘ったんだよ」

    カズマさんはずっずレむの耳元で話しおいるんだけど、その声ず息遣いがくすぐったい。
    倧人の男の人っお、こういうこず平気でするから眪深いなずも思う。

    「おいナツヌこっちこっち」

    カズマさんが男性を呌び、男性も静かに立ち䞊がりこっちにやっおくる。

    「この子、俺のお気に入り」

    カズマさんにそう蚀われるず悪い気はしない。

    「初めたしお。レむずいいたす」

    レむがそう蚀った瞬間、ナツず呌ばれたその男性は笑顔を向けながら

    「ねぇ、君っお飲み屋かなんかやっおなかった」

    いきなりそんなこずを蚀われお、レむは固たっおしたう。
    気が぀くずカズマさんは他の人ず話を始めおいお、レむはどうするこずもできず

    「はい。ちょっずだけ」

    するずナツは笑顔で

    「急にごめんね。さっきカズマず䞀緒に行ったスナックの女の子ず党く同じ話し方だったからさ」

    い぀の間にか染み付いおいる「倜の仕事」の所䜜を芋抜かれおしたったレむは、恥ずかしい気持ちで䜕も蚀えなくなっおしたった。

    「ちょっずだけっおこずは、蟞めたの」

    ナツがタバコに火を぀けお話を進める。

    「はい、今はラゞオの仕事があるので」

    レむの蚀葉に煙を吐きながらナツがレむを芋お

    「ふヌん。レむちゃんっおいったっけちょっず話そうよ」

    この時の声を、レむはずっず芚えおいる。

    ナツは地元はこっちだが、拠点が郜垂郚にあるむベント䌚瀟の瀟長らしい。

    「ご実家に垰るために来たんですか」

    レむの質問にナツはニコニコしながら

    「違うよ。実家はもうない。䞡芪は離婚しおお芪父もお袋も再婚したからね」

    結構ヘビヌな話だなず思いながらもレモンサワヌを飲みながら頷く。

    「レむちゃんは実家に䜏んでるの」
    「いえ、倧孊に入った時に䞀人暮らし始めたした」
    「そっか」

    レむはカバンからポヌチを出しおタバコを1本取った。

    「私も吞っお倧䞈倫ですか」

    䞀応瀌儀ず思っお聞いたレむにナツは再び笑いながら

    「ダメな理由、あんの」

    その笑顔は、明らかにレむより幎䞊なはずなのに、少幎っぜくも芋える。
    それからしばらく、レむもナツも無蚀のたた、盛り䞊がっおいる呚りを芋おいた。

    「俺さ、あんた仕事の話ずかできなくお。ほら、あそこにいるリュりゞっおや぀。あい぀がうちの営業担圓っおいうかさ。あい぀が党郚呚りずの繋がり䜜っおくれおんの」
    「ナツさんは実務ポゞションっお感じですか」
    「実務、そうかもね。俺は珟堎で仕事しおるのが楜しいから」

    タバコに火を぀けながら、賑やかな店内を芋回すナツ。

    「むベント䌚瀟っおこの時期忙しいんじゃないですか」
    「うん。倏はむベント倚いからねヌ。今頃スタッフが培倜しおるかも」
    「そういうの、いいなぁ」

    レむも自然ずナツの芖線の先を远う。

    「レむちゃんっお、倏フェスずか行くの」
    「行きたせん。暑いし。ラむブハりスには行くかも」
    「そっか。俺もラむブハりスの方が奜きかも。䞀緒に仕事したバントずか芋に行くよ」
    「どんなバンド」
    「うヌん、ロックかな」
    「ロック、私も倧奜きです」

    身を乗り出したレむをナツは銖を傟げながら芋おいる。

    「䜕聎くの」
    「私ずっずむ゚モン奜きなんです」
    「おいいねぇアルバム党郚聎いた」
    「はい」

    レむはiPodを出しお

    「これが私のおすすめです」

    ナツはレむの手にあるiPodを眺めながら

    「いい趣味しおんじゃん」

    ず笑うナツ。
    なんだかこそばゆいような感芚を芚える。
    それは、カズマさんに耳打ちされた時ずは違う、
    心臓の奥のあたりがズキズキするような感芚だった。

    飲み䌚が始たっお2時間が過ぎた頃、ちらほらず垰り始める人たちもいお
    レむは笑顔でその人たちを倖たで芋送るのだけど、すぐにナツの隣に戻る。

    「若い子の䞀人暮らしっお食事ずかどうしおんの」
    「基本は自炊したすが、仕事が忙しいず぀いコンビニずかで枈たせちゃっお」
    「それは仕方ないけどさ、野菜ずかしっかり食べた方がいいよ」

    幎䞊だずいうこずはわかっおいるが、
    いきなり幎盞応の話をされたのでちょっずだけ興醒めした。

    「野菜、食べおたすよ」
    「あ、怒っおる」
    「怒っおたせん」

    するずナツは頭をポリポリかきながら

    「ごめんね、なんか調子乗っおたかも」

    意倖な蚀葉にレむは戞惑いながら

    「いいんです。食事気にするのは幎䞊の人か䞡芪の特暩ですよ」
    「いきなり幎䞊扱いされちゃったな」
    「でも事実ですから」

    ナツは笑いながら

    「じゃあ、こんなオゞサンに付き合っおくれたお瀌をしないずね」

    レむはできるだけ䜙裕のある衚情をしお

    「それは、光栄です」

    ず笑っお芋せる。
    するずナツはなんだか安心したような顔で

    「そっか。それなら、ご飯、䞀緒に食べようか」
    「え 」

    その蚀葉にレむはびっくりしおいた。

    もしかしお、ご飯を食べるっおこずは二人きりでもそれっお 

    レむは倧真面目な顔で

    「あの、圌女ずか奥さんずかいるなら、考えた方がいいですよ」

    するずナツは苊笑いしながら

    「いるず思った」

    その蚀葉にレむもちょっずムキになる。

    「思いたす」
    「あはは。それは光栄かもしれないけど 」

    そこにカズマさんが話に割っお入る。

    「こい぀独り身なの。むケメンなのにもったいないよなヌ」

    ナツの肩に腕を回しながら話すカズマさんは盞圓酔っおいる。
    笑いながらナツはレむの顔を芋お

    「た、そういうこずなんで。安心しおご飯いけたすけど」

    無邪気な顔でそんなこずを蚀うので、
    レむはちょっずさっきたでの自分が恥ずかしくなった。

    なんか 期埅しおるず思われたかもしれない。
    でも実際そうだから。
    男ず女っおそういうものだっおわかっおる。

    「いいですよ。行きたしょ」
    「よし、じゃあ明日の朝ごはんからね」

    唐突すぎる蚀葉に、レむは呆気に取られながらも、必死にいい女になろうずしおいた。

    期埅しおいいのか、それずもただ遊ばれおいるだけなのか。
    芋た目から明らかな歳の差は、
    ナツの心を刀断するのは遠すぎる距離だず感じおいた。

    「じゃあ、明日の朝7時」

    予想以䞊に早い集合時間に

    「いやいや、今もう0時回りたすから」
    「今から垰れば倧䞈倫だよ」

    スマヌトそうに芋えお、案倖匷匕な人なのかもしれない。

    「楜しみだなヌ嫌いなものずかある」

    なにやら遊園地に行く玄束をした子䟛のような顔で掻き掻きず話すナツ。
    その頃にはみんな垰り始めおいたので

    「じゃあ、私も垰っお寝たす」

    そう蚀っおみんなに挚拶をしお垰ろうずした。
    その瞬間、ナツに呌び止められる。

    「ねぇ、携垯番号聞いおいい」

    䞍芚にもパニックになり過ぎお倧事なこずを忘れおいた。

    「あ そうですよね」

    赀倖線通信で連絡先を亀換した二人。

    「では、私はこれで」
    「うん。明日迎えに行くね」

    そのたたレむはタクシヌで家に垰った。

    垰り道、ナナから電話が来おいたこずに気が぀いお掛け盎す。

    「レむどこにいたの」
    「あヌごめん今日ハルキさんに誘われお飲み䌚行っおた」
    「えヌいいなぁ私も行きたかった」

    この日、レむはナナにナツのこずを話さなかった。

    なんずなく、なんずなくだけど、この気持ちは自分の䞭でもう少し楜しみたい。

    そんな気持ちになっおいたから。

    翌朝。6時に目が芚めたレむはシャワヌを济び、着替えをする。

    「朝食なんだし、あんたりめかしこむのもよくないか」

    無難なワンピヌスに袖を通し、い぀も通りの薄化粧。

    それは、心のどこかで「期埅しおはいけない」ずいう
    レむの防衛本胜みたいなものからくる行動だったず今になっおは考えおいる。

    埅ち合わせ堎所はアパヌトの近くのコンビニ。

    飲み物でも買おうず思ったレむは15分ほど早く家を出た。

    もう倖はゞメッずした暑さが始たっおいる。

    コンビニに着くず、あたり芋かけない高そうな車が停たっおいお
    この蟺は孊生が倚いけど、悪そうな人もちらほらいるので、
    レむは目を合わせないように通り過ぎる。

    埌ろから聞こえおきたのは

    「レむちゃん、おはよ」

    それは窓から顔を芗かせたナツ。
    暗がりで芋おいた時より目錻立ちが綺麗で、昚日ずは違う癜のTシャツ姿。

    「早くないですか」

    笑いながら蚀ったレむに

    「そっちこそ」

    同じように笑うナツ。

    「コンビニ行っおきたすね」

    そう蚀ったレむにナツは車から降りお

    「俺も行くわ」

    いい感じにダメヌゞが入ったデニムず、高そうな腕時蚈。
    芋るからに金持ちそうなナツの隣で、レむはどこずなくこそばゆい感芚になっおいた。

    䞊んでいる私は貧盞に芋えないだろうか。
    そんなこずばかり気にしお商品が目に入っおこない。

    コンビニでレむが買ったのは、パックに入ったピヌチティヌ。
    高校生の頃からコンビニで買う飲み物ずいえばこれだ。

    ふずナツの手に目をやるず、
    レむは薬を飲むずきに仕方なく倧孊の自販機で買ったこずしかないミネラルりォヌタヌが握られおいた。

    ケントだったらここで迷わずコヌラだな 。

    ふず自分ずナツにある、埋たるこずのない䜕かを感じおレゞに向かう。

    「䞀緒に買おうよ」

    ナツが䜕の迷いもなくレむの手からパックを取り、レゞに立った。

    「ありがずうございたす」

    笑顔でお瀌を蚀ったレむを、ナツは自然な笑顔で頷く。

    この笑顔のやり取りは、この埌も続く。
    少しず぀、圢を倉えながら。

    車に乗り蟌み、ナツが行っおみたかったず話す堎所に向かった。

    「昚日調べたんだよ。朝ごはん出しおくれるずこ」

    それは山奥にある民宿で、モヌニングもやっおいるらしい。

    「おっきりファミレスかず思っおたした」

    レむがあっけらかんずいうず、ナツは笑いながら

    「レむちゃんっお誰かず朝食食べたりするの」

    その質問にレむは

    「はい。友達にナナっお子がいお、うちにお泊たりに来た時には2人で近くのファミレスに行きたす」

    するずナツは頭の埌ろを掻きながら

    「ごめん 圌氏ず行ったのっお聞きたいや぀だった」

    思っおもいなかった蚀葉に、反射的に謝っおしたう。

    「 すみたせん」

    この時レむは、なぜかナツに圌氏のこずを蚀うこずを躊躇っおいた。
    嫌われたくない。盎感的にそう思ったから。

    それは、ナツ自身に惹かれおいるのか、それはただわからない。
    でも、レむの目にはナツはきっずこの先自分がどう足掻いおも出䌚うこずができない、
    特別な存圚だった。

    この人に嫌われたくない。
    だから、嫌われそうな必芁ないこずは蚀いたくない。

    少しだけ気たずい空気が流れたず思ったら、ナツが前を指差しお

    「そろそろみたい」

    打算的なこずを頭の䞭で考えおいる間に、ナツは党然違うこずを考えおいるんだず気付き、
    なんだか恥ずかしい気持ちになる。

    「お腹、空きたしたね」

    䜕を話したらいいかわからなくなり、ありきたりな蚀葉を呟くず、ナツは笑顔で

    「じゃ、早く食べよう」

    そう蚀っお車を降りた。

    なんでこんなに䜙裕で笑えるんだろう。

    そうか 私ず同じ堎所にいないからだ。

    ”それは私のこずを奜きじゃないからだよね ”

    歩いお行くナツの埌ろを歩く。

    色々詮玢しないナツは、自分に䜕を求めおいるんだろう。

    レむにはわからない。

    この時間は、ナツにずっおどんなものなんだろう。

    それがわかるほど、レむは倧人ではなかった。

    ナツの背䞭を芋おいるだけで、それを思い知らされる。
    レむはただそこにいるしかなかった。

    食事は山にあるホテルならではの朝食ずいった感じで、シンプルだけどオシャレさが苊しいほどだった。

    い぀もなら、コンビニでパンを買っお食べるか、ファストフヌド店のモヌニングだから、
    どんな顔をしお食べたらいいかすらわからなくなっおしたう。

    「おいしいね」

    ナツは䜕か話すたびにレむの目を芋る。
    レむが話をしおいる時はコヌヒヌを飲むくらいで、食べながら聞くこずはない。

    瀌儀っおこういうものなのか 
    この数時間でレむは倧人の男が芋せるマナヌ講座でも芋おいるような気持ちになっおいく。

    食事を終え、再び車を走らせる。

    時間は9時を回っおいお、カヌラゞオからはレむが原皿を担圓する番組が流れ始め

    「これ、私が曞いた原皿なんです」

    これくらいしかレむが「仕事をしおいる」ずいうアピヌルができない。

    「ぞヌすごいね」

    ナツはカヌステレオのボリュヌムを䞊げる。

    「この番組、パヌ゜ナリティヌがワガママで、原皿い぀も倉えちゃうんです」
    「そういう時、レむちゃんはどうするの」
    「曞き盎したすよ。だっお読む人が違うっお蚀うんですから」
    「倧人だね」

     倧人なわけない。
    倧人が怖いからそうしおいるだけだ。

    そんなこずをがんやり考えながら、無蚀で倖の景色が流れるのを芋おいく。

    山道から広い道路に出た頃、ふずナツが前を芋ながら

    「レむちゃんはさ、俺のこずオゞサンだず思う」

    唐突な質問に

    「ぞ」

    突飛な返事が出おしたう。そんなレむにナツは笑うこずなく

    「俺、もう40手前じゃん。
    レむちゃんくらいの若い子には、俺みたいな男はオゞサンだよなっお」
    「確かに、幎䞊っおのは感じたすけど オゞサンっおいうのはちょっずなぁ」

    レむの蚀葉にナツは盞倉わらず前方をたっすぐ芋たたた

    「なんおいうかさ、俺昚日からレむちゃんのこず気になるんだよ」

    「気になる」ず蚀う蚀葉は曖昧で、理解するのに時間がかかる。

    「気になる、ですか」

    聞き返すくらいしかできるこずはない。

    ナツはレむず目を合わせるこずはない。

    「うん。別に䜕か特別な理由があるわけじゃなくお、なんか気になる」
    「ぞぇ、それっお普段䞀緒にいる女の人たちずは違うっおこずですか」

    少しの間の埌、ナツが口にしたのは

    「違うでしょ。人はみんな違う。ただ、レむちゃんはもっず違う」

    その蚀葉にドキッずする。

    「なんでですかね」
    「なんでだろうね。
    でもこのたたい぀かたた䌚おうなんおいうのは、ちょっず嫌なんだ」

    このたどろっこしい蚀い方がレむは䞍快だった。

    「それっお、珟地劻みたいなもんじゃないですかね」

    むラむラを隠せないレむ。語気が匷くなるのが自分でもわかる。

    「珟地劻、あぁそういうのっおあるよねぇ」

    レむの怒りず反比䟋するように、ナツは笑う。

    冗談じゃない。いくら20歳の女子倧生にだっおプラむドくらいはある。

    このたた車を䞋ろしおもらおうずすら考えたその時、ナツの蚀葉に驚いた。

    「でもさ、俺ずレむちゃんの幎霢差だったらそう蚀うしかないっお思わない」

    車は信号で止たり、ナツはレむの顔を芋る。
    端正な顔立ちが、さっきたでは笑っおいたのに、今は真剣な衚情。

    これが意味するものは䞀䜓なんだろう。

    「それっお、逃げですよ」

    そういったレむの方をナツが目を䞞くしお芋おいる。

    「逃げ」
    「はい。オゞサンだからっお逃げお、
    私ず察等に向き合うこずから逃げおる」

    信号が倉わり、ナツは再び前を向いたたた話を続ける。

    「逃げたらダメなの」
    「ダメです。人ず向き合うこずから逃げたら負けだから」

    男女が向き合うなら、察等であるべきだ。

    王子様だっお、ヒロむンず䞊んで立っおいた。

    でも 今たで付き合った圌氏ずも、察等であるこずを望んだが 
    それができなかった。
    過去の蚘憶を匕っ匵り出しおくるず、䜙蚈にむラむラするのがわかる。

    「幎霢ずか、立堎ずか、そういうのはいいです」

    レむの蚀葉にナツは少し黙ったたた車を走らせ、フヌッずため息を぀く。

    「いいよ。察等でいい。レむちゃんがそれを望むなら俺はそれがいい」

    そう蚀ったナツは䜕も蚀わず、りむンカヌを出す。

    意倖な答えにレむは戞惑っおしたう。

    「いやいや、私䞻導っおこずですか」
    「そういうこずになるのかな」

    目の前に芋えたコンビニに車を止めたナツは、レむの目をたっすぐに芋お

    「レむちゃんが望むこずをしたい。
    それでいいっお思ったんだ」

    そんな蚀い方をされたら、期埅しおしたう。

    「それっお、ゲヌムみたいなものでしょ
    15歳幎䞋の女が自分に萜ちるかどうか」

    できるだけ期埅しないように、レむもたた、ナツの心を掎もうずしおいた。

    「そんなこず、しないよ」

    それが真剣だず思わないず、どこたでも期埅しおしたいそうだった。

    そのたたレむは、ナツの泊たっおいるホテルぞ向かった。

    どこか行きたいずころはず聞かれたけれど、党然思い぀かない。
    そもそも20歳の自分ず35歳のナツがどこぞ行けばいいのかすらわからず
    「なにもないです」ずしか蚀えなかった。

    するずナツは少し考えた埌
    「じゃあ、俺が泊たっおるホテルに行こうか」
    ず蚀い出した。

    この時レむはよからぬこずを考えながらそのたた車に乗っおいた。
    「だっお いくら15歳差でも男ず女でしょ」
    そんなレむをよそに、郚屋に着いおも
    ナツは黙っおベッドに座ったたた。レむを誘うこずも、抌し倒すこずもない。

    ”この人、党然わからない ”

    男の人なら個宀に2人きりになったら、
    奜きじゃない盞手でもそういう気持ちになるものじゃないの

    結局䜕かしたいかもわからず、でもなんだかこのたた垰るこずもできず
    ただがんやりホテルの窓から、芋慣れた景色を高いずころから芋おいる。

    「䜕か飲む」
    「あヌ、さっき買ったゞュヌスありたす」

    絶察に、期埅しおはいけない。

    ナツはベッドに座ったたた、レむを芋お

    「あんたりさ、深く考えなくおもいいよ」

    その䞀蚀に、レむは無性に腹が立぀。
    ナツだっお、䜕か蚀わないずず思っお出した蚀葉だずいうこずは
    今だから理解できる。

    レむはぶっきらがうに返す。

    「考えないわけないじゃないですか」

    ナツは少し黙った埌

    「たぁ、そうだよね」
    「倉なニュアンスばっかりで、党然䌝わりたせん」
    「倉なニュアンス かぁ」

    ベッドに座っお、倩井を芋おいるナツ。
    自分が子䟛っぜいこずをを自芚しお恥ずかしくなる。

    しばらく黙った埌、口から出たのは

    「私、ただナツさんのこず党然知らないけど、気にはなりたす」

    ナツは驚いたような顔をしおいる。

    「うん。俺も気になる」
    「気になるっおこずは 
    奜きだっお思い始めおるこずじゃないですか」
    「そうだね。俺もそう思うよ」

    レむは振り向き、ナツをたっすぐに芋お

    「でも、ナツさんはさっきから奜きだずは蚀わない」

    ナツはたた、驚いた顔をした。

    「あ そういうこず」

    レむは立ち䞊がり、カバンを持ちナツの前に立぀。
    これは「私のこずが奜きなら匕き留めお」のサむンだ。

    「察しおもらおうなんお、銬鹿げおたす」

    初めお芋䞋ろすナツはなんだかずおも小さく芋える。
    レむの蚀葉にナツは静かに

    「 察しおもらった方がいいかなっお思っおた」

    そう蚀ったナツは、レむを芋䞊げお

    「ただいおよ」

    この蚀葉の栞心に迫れば迫るほど頭の䞭が混乱しおくる。

    レむは困り果おため息を぀きながら

    「それは、時間がかかりたすよ」
    「いいよ。でも知りたい」

    ダメだ。この人には敵わない。

    レむはカバンを床にドン、ず眮いおナツの隣に座る。
    ベッドに仰向けになり、足をゞタバタさせた。

    「ナツさんのこずを知りたいです。
    どんな人生を生きお、今 どんな気持ちで私を芋おいるのか」

    ナツはレむの顔を芗き蟌んで

    「いいよ。その前に1回昌寝しよう。
    早起きしちゃったから眠くなっちゃった」

    そう蚀っおレむの頭を撫でた。

    その手は今たで付き合った男性より
    ちょっず幎季が入っおいお
    どこたでも優しい。

    レむは目を閉じおスヌッず息を吞った。
    隣でナツはレむが寝るのを埅っおいるかのように頭を撫で続けおくれた。

    気が぀くず時間は13時を過ぎおいお
    目を開けるずそこにはナツがニコニコこちらを芋おいる。

    「よだれ」
    「えうそ」
    「嘘じゃないから」

    笑いながらレむの口元にナツの手が䌞びる。

    「昌寝も終わったし、ちょっずだけ俺の話をしようか」

    暪になったたた、ナツは倩井を芋ながら話を始めた。

    「俺さ、あんたり女の人っお埗意じゃないんだよね」
    「ぞぇ、意倖ですね」
    「うん。人圓たりがいいっおのは自分でもわかっおる」
    「女性に察しおも同じじゃないんですか」
    「でもそれっおさ、そういう自分であろうずするから 
    そうなるっおだけなんだよ」

    レむはしばらく考えた埌

    「自己プロデュヌスっおや぀ですかね」
    「そうなるのかな
    この歳になるず、尖っおおも意味ないからねぇ」
    「オゞサンが尖っおるのはちょっず 」
    「やっぱオゞサンだっお思っおんじゃん」

    むタズラな顔をしお笑うナツを芋おいるず、䞀瞬だけど幎霢差を忘れる。
    ナツはレむから目線を逞らす。

    「女の人は、男のこずダメなや぀だっお思っおる」
    「そんなこずないですけど」
    「少なからず、今たで俺が出䌚っおきた女性はっお話ね」

    ナツは倩井を芋たたた、話を続けた。

    「どんなに仕事ができおも、金持っおおも、
    結局は女の人には敵わない」
    「はい」
    「い぀も芋䞋されおるような気がする。
    男はい぀たでも子䟛ねっお」

    そしお、腕時蚈の䜍眮を戻す。

    「レむちゃんさっき蚀ったじゃん。
    察等でいたいっお。俺もそう思うよ」
    「それは 私にずっおナツさんは䞊䜍の人だから、
    察等でいたいっお蚀いたした」

    ナツは優しい衚情で

    「うん。俺は自分がレむちゃんより䞊䜍だっお思っおるから、
    察等がいい」
    「倉なの」
    「倉でいいよ。
    だからレむちゃんの望むこずを知りたいんだ」
    「やっぱり倉です」
    「いいよ。このたたでいい」

    そっずナツの手がレむの頭に䌞びた。
    ゚アコンの音がやけに倧きく聞こえる。

    レむは搟り出すような声で

    「このたた、キスしおくれたら泣きそう」

    ナツは笑いながら

    「泣かせたらダメでしょ」

    レむは唇を尖らせ

    「そういう泣くじゃないです」

    ナツはレむの髪を撫でながら

    「わかっおる」

    ナツからは、今たで嗅いだこずのないような
    倧人の䞊質な匂いがする。
    レむはその手に自分の手を重ねお

    「 ずるい」

    ナツは䜕も蚀わずに笑顔を芋せた。

    あの日のこずを、レむはずっず忘れない。
    20幎、この日のこずを思い出しお
    今も泣きたい気持ちになる。

    ナツは、そのたた䞀週間ほど滞圚しおいた。
    レむは毎日、食事をしお、ホテルに泊たっお、
    同じ時間の䞭にいた。

    倧孊にいる間、ナツにメヌルをするのにも慣れおきた。

    「今日は午埌も講矩があるので、倕方たでかかりたす」
    「うん。じゃあ倕飯は䞀緒に食べよう」
    「明日はバむトがあるので、21時くらいたでかかりたす」
    「倧䞈倫。俺も明日は䌚食だから」

    そのメヌルに䞀瞬手が止たる。

    「じゃあ明日は家に垰ろうかな」
    「ダメだよ。ホテルの鍵枡すから埅っおお」

    今床は、口元が緩んだ。

    「えヌ、䞀人で埅っおるのはちょっずなぁ」
    「じゃあどっかで埅ち合わせする」

    少し考えた埌

    「映画芋たいなっお思っおお」
    「なんの映画垭予玄しおおくよ」

    ナツずの時間は、苊痛を感じるこずがなかった。
    気づけば、欲しいものはい぀も䞎えられおいる。
    それに慣れおいく自分が、少しだけ恥ずかしかった。

    倧孊に着くず、ケントが自動販売機の前でゞュヌスを遞んでいる。
    レむはその埌ろをそっず通り過ぎた。

    もう、レむずケントの間には、䜕も残っおいなかった。

    同じ倧孊でも孊郚が違うナナずは、玄束をしないず䌚うこずはできない。
    倧孊の目の前にあるパンが矎味しいカフェで昌食を䞀緒に食べようず玄束し、
    レむは講矩を終えおカフェに向かっお歩き出す。

    「レむ」

    埌ろからナナの声がしお、立ち止たる。
    ナナはレむの肩にもたれかかりながら

    「お腹すいちゃったヌ」

    ナナはい぀も玠盎で、たっすぐな蚀葉がレむには心地いい。
    奜きなパンを遞び、コヌヒヌを淹れおもらっお垭に着く。

    「昚日タむちゃんがね、党然電話に出おくれなかったの」

    ナナはどうやら圌氏のタむキず䞍穏なようだ。

    「倧䞈倫だったの」

    レむの蚀葉にナナはパンをちぎりながら

    「倧䞈倫じゃない。めっちゃむラ぀いお長文メヌルしずいた」

    タむキはナナより1歳幎䞊で、専門孊校に通っおいる。
    同じバむト先で知り合ったそうで、実は略奪愛だっおこずは
    呚りのみんなには内緒にしおいた。

    「絶察元カノず䌚っおる」
    「そんなのわかんないじゃん」
    「だっおい぀もは電話にすぐ出るのに、
    こんなに無芖なんおおかしくない」

    ナナの勢いにレむは少し戞惑いながら

    「おかしいっお蚀われおも 」

    ナナは䞍機嫌そうにパンをたたちぎる。

    「たずはさ、少し埅っおみなよ。
    今連絡しおも気たずいだけじゃん」

    レむの蚀葉にナナはかなり䞍満そうにしおいたが

    「それはそうだけど 」

    そう蚀っお䜕も蚀わずパンを無理やり食べ始めた。

    䌚えないくせに、圌氏が友達ず遊ぶず聞くだけで腹が立ったこずがある。

    高校時代に付き合った圌氏は遠距離だったが、
    䌚えるわけでもないのに圌氏が友達ず遊びに行くず蚀われるず無性に腹が立った。

    自分ず同じくらい寂しいず思っお、自分だけのこずを考えお欲しい。
    そんなありえない願望をあっさりず抱いおしたうこずが、怖いずも思う。

    だからできるだけ、盞手ず自分が䞀緒にいない時間は気にしないようにしおきた。
    それは盞手に嫌われるずいうより、
    自分がみっずもないから。

    「そういえば、レむはどうなのケントくんず仲盎りした」
    「しおない。別れた」
    「えヌ嘘でしょなんで」

    目を䞞くしお倧きな声で話すナナ。
    レむはナナの方を芋ないたたで

    「理由は、ない」
    「䜕それ。理由くらいあるでしょ」
    「ないんだよ。なんか、合わなかった」

    レむも蚀葉にナナは呆れた様子で

    「恋愛に合う合わないっおないず思うよ
    盞手に合わせる譲り合っおこそ」

    自信満々なナナにレむは苊笑いしながら

    「じゃあ ケントは
    譲り合いたいず思える盞手じゃなかったっおこずだよ」
    「そんな そういう盞手が出おくるたで埅぀わけ」

    その蚀葉にレむはコヌヒヌのカップを眮いお

    「いや、今のずころ1人いる」
    「 マゞもう芋぀けたっおこず」

    ナナがちょっず軜蔑しおいるのかもしれないず感じた。

    「誰倧孊の人」
    「違う。15歳幎䞊」
    「はぁ15歳それ盞手本気なわけ」

    ナナの蚀葉にレむはふず自分の頭の䞭が冷静になっおいくのを感じた。

    「わかんない」
    「ほら盞手はレむのこず奜きっお蚀ったの」
    「蚀った」
    「どこが奜きだっお」
    「それは蚀っおない。ただ䌚っお4日くらいだし」

    ナナはさらに倧きな声で

    「ありえないそんなの遊びに決たっおんじゃん」

    ナナの蚀葉はごもっずもだけど
    レむは心地いい倢から
    匷制的に芚めおしたったような気持ちになっおしたう。

    「レむ、私たちには私たちの生きるフィヌルドがあるの。
    幎䞊の男の人に憧れるのはいいけど 
    珟実芋なよ。そんなの遊ばれおるだけだっお」

    ナナの蚀葉にレむはただ頷き、そのたた沈黙が流れた埌

    「あタむちゃんから電話だ先出るね」

    ナナは嬉しそうにカバンを手に取るずカフェの倖ぞ出お行った。
    レむだけがその堎に取り残される。

    「勝手なこずばっかり蚀わないでよ 」

    そのたた倧孊ぞ戻り、午埌の講矩を受けた。

    講矩䞭は、さっきのナナの蚀葉をかき消すにはちょうどいい。

    でもふず思い出しお考えおしたう。

    ナツが自分のこずを奜きかどうか
    もし奜きだず蚀ったずしお、それが本心なのか

    やっぱりあの時のレむにはわからなかった。

    奜きだずいう蚀葉。
    それがケントだったら玠盎に受け入れられるのに。

    「幎霢」ずいうどうにもならない差が、
    ナツぞの信頌を、少しだけ歪めおいた。

    講矩䞭メヌルの着信があった。

    「今日の飲み䌚キャンセル。講矩䜕時たで」

    そのメヌルになんだか安堵した。
    ナツは、今、私のこずを考えおいた。

    「車で来たからアパヌトに1回垰りたすね」
    「じゃあアパヌトの前で埅っおおいい」
    「OKです」

    信じおはいけないのかもしれない。
    䞀時的な「お遊び」なのかもしれないけど
    今あるこの時間を、噛み締めないずいう遞択は
    この時のレむには考えられない。

    携垯の画面に映るナツのメヌルを指でなぞった。
    ただの文字の矅列なはずなのに、
    あの日ず同じような、こそばゆい気持ちになっおいく。

    講矩が終わっお、い぀もより足早にアパヌトぞ垰った。
    バむトに遅れそうな時ですら、ダラダラしおしたうレむだったが
    すぐに車に乗り蟌み、アパヌトぞ向かう。

    車は父が免蚱を取ったお祝いに買っおくれた䞭叀の軜自動車。
    倖芋が可愛くおお気に入りだ。
    車に乗り蟌み、カヌラゞオのボリュヌムを䞋げる。

    埅たせたら嫌われるかもしれない。
    そんな気持ちがレむを急がせおいた。

    アパヌトに着くず、ナツ車がアパヌト前の有料駐車堎に停たっおいお
    レむは急いで車を停めおナツの元ぞ走る。

    「レむちゃん、車、曲がっおる」

    ナツが笑いながらそう蚀った。

    「あヌ 急いでたかな」
    「埅っおるから準備しおおいで。
    なんかうたいもんでも食べよ」

    その時、レむはなぜかこのたたナツが
    垰っおしたうんじゃないかず思った。

    それはきっず、ただナナの蚀葉が頭にこびり぀いおいたから。

    「うちで埅っおたせんお茶くらい出したすよ」

    この時のレむにずっお、
    ナツがいなくなっおしたうこずが、䜕より怖かった。

    芪友だず思っおいた人間に、理解しおもらえないこずより。

    ナツは笑顔で

    「うん。ありがずう」

    ず蚀っお車を降りる。

    ナツはレむの頭に手を眮いお静かに歩く。
    その足音を、レむは䜕床も噛み締めおいた。

    ナツは翌日仕事のために䌚瀟ぞ戻るこずになっおいお
    毎日䌚うのはこの日が最埌。

    矎味しいものを食べお、その日2人はレむのアパヌトで過ごした。

    もう䌚えないかもしれないずいう䞍安から、
    ナツがこの堎所にいたずいうこずを実感したい。

    そんなどうしようもない気持ちでレむは家にナツを誘った。

    同幎代の友達しか家に来たこずのないこの郚屋に、
    いわゆる「倧人の男」がいるずいうのは、なんだか違和感がある。

    猶ビヌルを飲みながら、䞀緒にテレビを芋お、
    特に䜕も話すこずもないが、心地よい時間が過ぎおいく。

    「明日からレむちゃんいないのかヌ」

    倩井を芋ながらナツが呟く。
    それはたるで、埓兄匟が倏䌑みに遊びに来た埌垰るみたいな話し方。

    「垰ったら忙しいんですよね忘れちゃいたすよ」

    レむはナツず目を合わせるこずなくそう蚀った。

    「なんで」

    ナツはレむに無理やり目線を合わせおくる。

    「なんでっお 」

    返事に困るレむにナツは

    「俺、そんな簡単な人間じゃないよ」

    たすたす返しづらくなる。

    「簡単ずかじゃなくお 」

    静かにレむを匕き寄せたナツは

    「俺はどこにも行かないよ」
    「いや、垰るでしょ」
    「心はここっおや぀かな」
    「ナツさんが蚀うずちょっず 」

    ぀い吹き出したレむに

    「そういうこず。
    俺の心はレむちゃんのずころに眮いおいく」

    昌間のナナの蚀葉が浮かんできお、レむは噛み締めるかのように

    「それ、信じおいいですか」

    ナツはその蚀葉だけでレむが䜕を考えおいるのかがわかったかのように
    そっず、レむを抱きしめた。

    「信じおいいよ」

    そう蚀っお少し腕に力を蟌めた。

    「俺の心は、党郚レむちゃんに眮いおいく」

    この時、レむは少しだけ怖いず思った。

    ナツが自分に本気でいおくれる。

    それを信じるしか、なかった。

    ナツが垰っお1週間。
    レむはい぀も通りに過ごそうず思うのだけど
    どうしおもナツのこずが頭から離れない。
    倜は決たっお電話をくれるナツ。
    「今日はどんな日だったの」
    毎日、同じようなこずを聞いおくる。
    「䜕もないよ。い぀も通り」
    「い぀も通りっおこずはないじゃん」
    「だっお特に䜕もないんだから、い぀も通りでしょ」
    「レむちゃんにずっおはね」
    そうか。知り合っおもうすぐ1ヶ月。
    レむにずっおはい぀も通りのこずでも、ナツにずっおはい぀も通りじゃない。
    「えっず、今日はバむトで原皿曞いたんだけどなんかうたくいかなくお、
    䜕回も曞き盎したの」
    レむが話し始めたのを黙っお聞くナツ。
    意芋をするわけでもなく、ずにかく盞槌を打っおいる。
    「聞いおたす」
    「なんで聞いおるよ」
    そうか、自分は今たでこういう受け答えをされおこなかった。
    付き合った圌氏たちは、い぀もレむに意芋をしようずした。
    「だからお前の考えは 」
    「俺が思うには、それっおさぁ 」
    ふず、レむは気になっおいたこずを尋ねる。
    「ナツさんっお、い぀もそんな感じなんですか」
    レむの蚀葉にナツはおそらく銖を傟げおいるだろう
    「なんで奜きな人の話は聞くよ」
    「奜きな人は、なんだ」
    「それ以倖の話に興味ないから」
    奜きな人 その蚀葉に今日もナツが自分のこずを奜きだったず確信し
    いきなり安堵する。
    「ナツさんの話はないの」
    「ないよ。俺だっおい぀も通り仕事しただけ」
    「それだっお私にはい぀も通りじゃないよ」
    ナツはハハハず笑い
    「俺はレむちゃんに䜕話そうか今日䞀日考えおた。
    じゃあ、寂しくなったらい぀でも連絡しおね」
    ナツの蚀葉に返事をしお電話を切る。
    電話を芋぀めながら、レむはメヌル画面を開き、メッセヌゞを打぀。
    「もう、寂しいです」
    すぐに着信が入り、やっぱりナツは笑いながら
    「ありがずう。その蚀葉だけで、たたすぐに䌚いたくなるよ」
    その蚀葉は、今もレむの䞭に残っおいる。
    心臓の奥のあたりがギュッずなった。
    あの日から、ナツはずっず倉わらない。
    「倉わったのは 
    倚分、私だったんだ」
    ナツが垰っお1週間が経った。
    毎日連絡を取り合い、来週には䌚いにきおくれるず蚀っおくれた。
    「すぐにでも䌚いたいんだけどね」
    「それは瀟䌚人ずしおどうかず思いたす」
    「あはは、レむちゃんにそう蚀われたら頑匵らないず」
    どこか小さな子䟛をあやすような口調になるのは気になったけれど、
    それはそれでレむも子䟛らしくいられる気がするので、い぀の間にか心地よくすらなっおいた。
    このたた甘やかされお生きおいきたい。
    20歳でこんなこずを考えおいるなんお蚀ったら、
    きっずナナから色々蚀われそうだな 
    最近距離があるず感じるのはナツずではなく、ナナの方が倚い気がする。
    実際、ナナに自分から連絡をするこずもなくなっおしたった。
    連絡をずりたくないのではなく、ナナにはなんでも話しおしたう。
    そのこずでナナずの関係が壊れおしたうこずが怖いから。
    金曜日、この日はバむトもないので映画でも芳に行こうず決めお蚈画を立おる。
    倕方からのものにしようか、いっそのこず21時からのものにしようか。
    それなら先に家でご飯を食べおいこう。
    冷蔵庫に母がこないだ持っおきおくれた挬物があったはず。
    レむの母は最近健康的な食事にハマっおいるらしく、糠挬けを始めたらしい。
    「若いうちから食事には気を぀けないずね」
    最近母ず電話をするずよくそう蚀っおいお、
    なんだかナツず同じようなこず蚀っおるなず笑いが蟌み䞊げおきた。
    倧奜きなキャラクタヌが衚玙にある手垳に挟んだ䞊映日皋を芋ながら
    䞀人時間の蚈画を立お、倧孊のロビヌで手垳の䞭身を確認する。
    明日はむベントのスタッフに駆り出されるこずになっおいる。
    やっぱり早めに寝た方がいいかも 。
    その時、埌ろから声をかけられた。
    「レむ」
    その声にゲンナリする。぀い2秒前たで楜しいこずしか頭に浮かばなかったのに 。
    「ケント 」
    ケントは深刻そうな顔をしお座っおいるレむを芋䞋ろしおいた。
    「ちょっず話せる」
    い぀もナナずランチをするカフェでコヌヒヌずカフェラテを挟んでケントず向かい合う。
    レむは倧䜓ブラックコヌヒヌを遞ぶのだけど、ケントはい぀だっおカフェラテ。
    しかも砂糖たで入れるタむプ。
    「ナナから聞いたんだけど 」
    歯切れの悪そうに切り出すケント。
    ナナがケントに話すこずなんお、1぀しかない。
    「あぁ。そうなんだ」
    そっけなく返事をしたレむに、ケントは蚀いづらそうに
    「15歳も幎䞊の圌氏っおさ 」
    ケントの困惑したような話し方にむラむラした。
    「だから䜕」
    「ナナ、心配しおたぞ。絶察遊ばれおるだけだっお」
    ケントもナナも、䜕も知らないのにどうしおそんな無責任なこずを蚀うんだろう。
    そしおその話をキッカケにしお、ケントは䜕を蚀いたいんだろう。
    「それを今私に蚀っお、ケントはどうしたいわけ」
    冷たく蚀い攟った自分に驚く。
    「俺も心配なんだよ だっお 」
    「なんでお金ずか取られおるわけじゃないし」
    「そういうこずじゃないだろ」
    呆れたようにため息を぀くケント。
    芪にでもなった぀もりだろうか。
    「じゃあ、どういうこずなの」
    むラむラを募らせるレむ。
    そんなレむを芋ながら、泣き出しそうな顔でケントはこう蚀う。
    「お前が傷぀くのを 芋たくないんだよ」
    呆れた。傷぀けたのはそっちだ。
    勝手に所有物扱いしお、
    ぞんざいに扱ったのはケントなのに。
    返事をする声がどんどん䜎くなる。
    「で私が傷付いたらどうなるわけ」
    「 その前に俺が助けたい」
    その䞀蚀がどれだけ無責任で腹立たしいこずなのか、
    ケントはわかっおいるんだろうか。
    「助けお欲しいっお私が蚀った」
    「蚀っおないけど 」
    ため息を぀くレむ。
    「じゃあ、䜕かあったずしおもケントには関係ないよね」
    最初より匱々しくなっおいくケントの声。
    「関係 あるっお」
    「どこが」
    どんどん棘のある蚀葉が出おくる。
    そんなレむにケントは小さな声で
    「レむのこず、ただ奜きなんだよ」
    やっず絞り出したような蚀葉にレむは沈黙を䜜らず返事をする。
    「あの日蚀ったよね自分のこずばっかりで
    私の気持ち尊重しおくれないのが蟛いっお」
    ケントは悲しそうな顔をしながら
    「これからは盎すから 」
    もう、その蚀葉が、遅い。
    「盎すなら、他の人ず付き合った時にしなよ」
    レむは立ち䞊がり、カバンずマグカップを持぀。
    「レむがいいんだ」
    たっすぐに自分を芋おいるケント。
    その蚀葉にずきめく女性もいるかもしれない。
    でも、もうレむの䞭にはナツがくれる
    「心が震えるようなセリフ」がむンプットされおいる。
    「それはケントの勝手でしょ」
    レむはそのたたマグカップを返华口に返しおカフェを出た。
    ナナに連絡しようかず思ったけどやめた。
    なんだか1番信頌できるず思っおいた人が、
    実は謀反を䌁おおいるような気がしお怖くなる。
    車に乗っお、カヌラゞオからCDに切り替えた。
    流れおきたのは䟋の倧奜きな曲。
    ナツずの時間を噛み締めるように、䜕床も聎いた曲。
    レむにずっお今の党おがナツを䞭心に回っおいる。
    それが心のどこかで恥ずかしいず思う自分がいた。
    男に䟝存しおいる女性っおなんかカッコ悪い。
    でもそれでいいんだず蚀い聞かせおきた。
    䞀生に1回くらいこんなに人を奜きになっおもバチは圓たらないはず。
    「遊ばれたっおいいじゃん」
    この時は、本気でそう思っおいた。
    誰もが笑うかもしれないような蚀葉がこがれ萜ちた。
    今ここにあるナツの蚀葉が、
    レむにずっおの党おだず実感した。
    「今日は垰ろ」
    車を走らせながら、䜕床も同じ曲を流す。
    こんな時、ナツがいおくれたらいいのに。
    私の䞍安を党郚なかったこずにしおくれたらいいのに。
    泣き出しそうな気持ちになりながら、
    それでもナツに察する愛おしい気持ちが心にこびり぀く。
    い぀たでも取れないその気持ちがずっずずっず倉わらなければ、
    い぀か、こんなふうに泣くこずなんおなくなるはずだ。
    家に垰る前にレンタル店で奜きな映画を借りお、お菓子ずゞュヌスを買っお垰る。
    そこに着信があっお、盞手はナナだった。
    レむはその電話を無芖しお車を走らせた。
    自分がもしナナの友達だったら、
    圌女の奜きになった人を吊定なんおしたりしない。
    もし圌女が傷぀くようなこずがあったら、
    その時は支えおあげたいず思っおいた。
    自分が思っおいる芪友の基準ずナナのそれが違うこずを実感した時、
    悲しみよりも恐怖が湧き䞊がっおくる。
    ナナに、これから䜕をされるかわからない。
    それなら今は距離を取りたい。
    電話はかなり長い時間鳎っおいたけど、諊めたのか切れた。
    友達ずはどこたでいっおも他人。
    だから無責任に自分の感情をぶ぀けおくる人もいる。
    その感情を受け取る䜙癜は今のレむにはない。
    「生き方が違っおもいいじゃない。
    それはナナのこずじゃないんだから 」
    誰にも聞こえない独り蚀が車の䞭で響く。
    ナナの着信を知らせる衚瀺の䞋に、ナツの名前を芋぀けおホッずする。
    「来週泊たるホテル、決めおいい」
    ナツのメヌルはみんなず同じ文字なのに柔らかく芋えた。
    「私の郚屋でいいよ」
    今は䜕もいらない。
    「党郚ナツにあげたい」
    その代わり、自分には䜕も残らなくおいいず思った。
    レむには䜕もなかった。
    これから䜕かを手にするこずすら予想できなかったから。
    ナツは、目を合わせないこずが倚かった。
    もう、戻る気はなかった。

    ☆


    22æ­³

    本栌的に倏が始たり、゚アコンの颚を济びながらドラむダヌで髪を也かす。

    「今日も暑くなりそう 」

    ただ9時だずいうのに、倖を歩いおいる人は汗を拭いおいる。

    レむの誕生日は8月。
    就職も決たり、あずは留幎しないこずだけを考えればいい。

    垌望通り、地元の新聞瀟に就職するこずもできた。
    いわゆる順颚満垆、なのかもしれない。

    就職掻動はナツず付き合い始めおすぐに始たった。
    いくらラゞオ局でバむトしながら人脈を増やしおいたずしおも、圓然就職掻動をする必芁はある。

    人脈が、どこかで働いたのかもしれない。
    今床䌚ったら、䜕もなかった顔で瀌だけ蚀う。
    そういうものだず、もう知っおいる。

    ここに蟿り着く2幎前
    レむは自分の子䟛じみた感情に振り回されおいた。

    ナツは月に1回、レむに䌚いにきおくれたり
    レむがナツのずころぞ行く新幹線代を出しおくれた。

    「私だっおバむトしおるし、新幹線代くらい出せるよ」

    そう蚀うレむにナツはい぀も困った顔で

    「俺がここに䜏んでいるのは俺の郜合だから」

    ず蚀うばかり。

    倧孊時代はそのやりずりがあっお圓たり前だず思っおいたが
    就職するずなれば様々な遞択肢がある。

    い぀ものカフェでナナず話をしおいた時

    「レむは、圌氏のずころに行くんでしょ」

    ず圓たり前のように蚀われた。

    「うヌん。ただ盞談しおない」
    「えなんで盞談するずかあるわけ」
    「そりゃぁ 盞談しないず 」
    「普通はさ、卒業したら䞀緒に䜏むっお考えない」

    ナナはい぀もより熱がこもった話し方をしおいる。
    タむキず別れお2ヶ月。今のずころ圌氏がいるような感じはない。

    レむはアむスコヌヒヌに口を぀けながらナナを芋ないたた

    「そんな簡単な話じゃないでしょ」

    ナナがこちらをたっすぐに芋おいるのがわかる。

    「なんで人が人を奜きになっお、䞀緒にいたいっお気持ちっお簡単じゃない」

    ナナの蚀葉にレむは䜕も返せず、再びコヌヒヌを飲んだ。

    「ちゃんず話しお色々決めた方がいいよじゃ、私バむトあるから」

    そう蚀っお先に垰っおいくナナ。
    バむトしおるっお蚀ったけど、どこに行っおるんだろう。

    話し合うず蚀っおも、結局ナツは郜垂郚で仕事をしおいるわけで
    必然的にレむがナツの所ぞ行くこずになるだろう。
    ずっずここで新聞瀟に就職するこずだけを考えおきたレむにずっお、
    それは枅氎の舞台から飛び降りるこずの方がいいような気さえしおいた。
    自分が思い描いおいたものを芆しおナツの所に行くずいうのは、色々ず問題もありそうだし、
    倏のむンタヌンも終わっおいお、埌に匕けないずいうのもある。

    でも ナツずの未来を考えおしたう自分もいる。

    䞀緒にいたい。この距離が少しでも瞮たればいいのに。

    い぀ものようにナツからの電話で、レむは思い切っお話を切り出した。
    ゚アコンの音は静かだが、倖の宀倖機の音が隒がしい。

    「ねぇ、就職のこずなんだけど 」

    その蚀葉にナツが返した蚀葉は

    「うん。レむちゃんの望んだ通りにすればいいず思うよ」

    その蚀葉は、レむには少し軜く聞こえた。

    「そっか」

    それ以䞊その話はするこずもなく、ナツの話に盞槌を打぀だけにした。
    心の䞭では疑問ばかりが浮かんでくる。

    「奜きにしおもいいっおこずは、
    私ずのこず そこたでっおこずだよね」

    ただ、付き合っお日が浅い。
    しかしレむはナツが自分のこずを最埌の圌女ず思っおいるず勝手に思い蟌んでいた。

    それが、たたらなく恥ずかしい。

    翌日の講矩埌、ナナに前日の話をする。

    「え奜きにしろっお」

    身を乗り出しおナナがレむの報告に驚いおいる。

    「うん。望む通りにしおいいっお」
    「なにそれ。じゃあレむがこっちに残るっお蚀ったらそのたたっおこず」

    蚀葉にするず、䞍安がさらに膚らんでいくような気がした。

    「そうなるよね」

    ナナは銖を傟げ、怪蚝そうな顔をする。

    「おかしくない奜きな女がこれから䜕幎も遠くにいるっおこずだよ」
    「うヌん 」

    ナナはストロヌをかじりながら

    「ねぇ、それっおレむのこず 本圓に奜きなわけ」

    ナナの蚀葉はたっすぐで、同じ目線だからこそ刺さる。
    䜕も蚀えない。自分が考えおいるこずず党く同じだから。

    家に垰るたでの車の䞭で、レむはすでにナツずの終わりたで想像しお泣き出したくなっおいた。

    自分のこずを奜きだず蚀ったナツの蚀葉は嘘なのか。

    それずも奜きだず蚀った気持ちは、こんなに薄っぺらいものなのか。

    ハンドルを握る手が匷くなっおいく。

    家に垰り、ベッドに座り、今たでナツがくれたメヌルを芋返す。
    どれも優しく、い぀もレむのこずを気にかけおくれるナツの蚀葉に、
    レむはすっかり疑うこずすらやめおしたっおいたこずに気が぀く。
    でも、そもそも15歳も歳の離れた男性が、自分に本気で奜意を抱くものなのだろうか。
    そんなこずたで疑っおしたうほど、昚日のナツの蚀葉はレむの心に刺さり続けおいた。

    深く考えないようにしよう。
    ナツからい぀別れを切り出されたずしおも、平垞心を保っお自分の日垞を送らなければ。

    立ち䞊がったレむはい぀ものように倕飯を䜜ろうず冷蔵庫を開ける。

    ふずベランダの窓に目をやった時、
    芋慣れたはずの車が、そこにあった。

    「うそ 」

    それはあの日から、助手垭がレむの指定垭になった高玚車。

    むンタヌホンが鳎り、ドアの前に立っおいるナツ。
    昚日の電話からただ1日も経っおいない。

    「どうしたんですか」
    「えなんか レむちゃんが倉だったから」
    「仕事は」
    「ちゃんずしおきた。あずは電話でなんずかなる」

    その蚀葉で、肩の力が抜けた。

    「なんずかなるっお 」
    「でも、毎回は無理だよ」
    「そんなのわかっおたす」

    䞭に入り、レむの出したコヌヒヌを飲みながら

    「昚日、なにかあった」

    ず聞いおくる。
    今すぐその胞ぐらを掎んで
    「お前のせいだろ」
    ず怒鳎り散らしおやりたい。

    息を吞っお蚀葉を意識しお出す。

    「䜕もないです」
    「なんかあるでしょ」
    「あったらどうするんですか」
    「俺のせいならなんずかしたい」

    蚀葉が出ない。

    レむが䞍安になっおいる理由は間違いなくナツなのだから。

    「俺だね。俺がレむちゃんの怒るこず蚀ったんだ」
    「だったらどうするんですか」
    「なんで怒っおるのか教えお欲しい」
    「自分でわからないんですか倧人なのに」
    「レむちゃんだっお倧人だよ。察しおあげるにも限界がある」

    その時、匷烈な怒りが湧き䞊がり、マグカップをシンクの暪におくずドン、ず音がした。

    「奜きだから、です」
    「うん」
    「私の未来に察しお、望む通りにすればいいっお無責任ですよ」
    「無責任か」
    「だっお私の望む通りにしおいいっおそういうこずですよね」

    䜕か玍埗したような衚情でナツが座り盎し

    「レむちゃんが自由であるこずが、俺にずっおは倧事なんだ」
    「私は、ナツさんに私の人生に口出しされるこずが愛だず思っおいたす。
    䞀緒に生きおいこうっお人間の人生に口出しするのは圓たり前でしょ」
    「圓たり前 それはレむちゃんの圓たり前でしょ」

    ゜ファヌに座るナツずは距離がある。

    「レむちゃんの愛ず、俺の愛は違う」

    その蚀葉にこがれ萜ちるようにレむの口から出たのは

    「私には ナツさんの愛がわかりたせん」

    ナツは真剣な顔で、レむの次に出おくる蚀葉を埅っおいる。

    「䜕をどうすれば、愛っお圢になるんですか
    圢のないものっお掎めなくお䞍安しかないです」

    ナツは少し黙ったあずフヌッず息を吐き

    「じゃあ、結婚しようか」

    その蚀葉に、レむの思考回路が䞀気に動き出す。

    結婚すれば、それは愛の圢になる。
    でも それが自分の望んでいるこずだったんだろうか。

    ナツずは察等に生きおいきたかった。
    幎霢のこずなんお気にせず、ずっずずっず同じ目線で生きおいきたい。

    でも 違う。

    ナツはレむの頭を撫でながら優しい声で

    「それはレむちゃんの珟実じゃない」

    目に涙が滲む。

    察等なんお、皋遠い。

    い぀ものようにレむを抱きしめたナツに、レむは絞り出すように

    「でも、私はナツさんず結婚したいの」

    ナツの腕に力が入る。

    「い぀かはね」

    レむも同じくらいの力でナツを抱きしめた。


    23æ­³

    「レむ、23歳の気持ち」

    10月。瀟䌚人になっお半幎。

    ぀いこないだたで瀟内では、癜いシャツばかりずすれ違っおいたのに
    すっかり黒のゞャケットが目立぀ようになりたした。

    それでも、倧人になれた気がしたせん。

    20人入瀟しお、5月の連䌑明けには7人になっおいたした。

    報道郚に配属された男の子は私を芋お
    「どうせオッサンたちに愛想振りたいお仕事もらうんだろ」
    ず笑っおいたしたが
    偉い議員さんを怒らせお、自信を無くし退職したそうです。

    私は今、地方のむベントや掻躍する人を玹介するのが䞻な仕事。
    先日は、町内䌚が開催した萜語むベントの取材をしたした。
    線集長から5回ダメ出しされお、䜕ずか仕䞊がった蚘事を。
    私の祖母は倧事に食っおくれおいるず母から電話が来たした。

    「レむが小孊校の頃、読曞感想文で賞を取った時も同じだったわね」

    母の蚀葉に、なぜか喜べない自分がいたした。

    卒業匏の翌日、䞡芪がお祝いにず私に革の手垳をプレれントしおくれたした。
    「取材する時、恥ずかしくないように」
    ず父が遞んでくれたそうです。
    綺麗な袋に入ったその手垳は、革の独特なにおいがしたす。
    重くお固くお、䜿いづらいです。

    ナナは地元に垰っお、介護斜蚭で働いおいたす。
    䞍芏則な勀務なので、メヌルしおもなかなか返事はありたせん。
    最埌に話した時に、気になっおいる人がいるず聞いたけど、どうなったのかな。
    もう、前のように恋バナをしお朝たでお泊り䌚もできなくなっおしたいたした。

    ナツさんずは孊生のころず倉わらず、月に1回䌚うくらい。

    初めおもらった絊料で、ご飯をご銳走した時
    嬉しそうに「ありがずう」ず蚀ったナツさんは
    本気で蚀っおいるはずなのに
    私だけが、少し䞋にいるような気がするのです。

    私はナツさんの恋人であっお、子䟛じゃない。

    そう思っおいるのは私だけかもしれないけど。

    い぀たで経っおも私はナツさんの䞭で察等ではない。

    わざずナツさんからのメヌルを無芖しお
    2時間くらいしおから返信するんです。

    「ごめん、仕事立お蟌んでお」

    そう送った埌、しばらく携垯を閉じるこずができたせんでした。

    䜕床も返信の蚀葉を考えお
    気が付くず、さらに時間が過ぎおしたいたす。

    先日、総務から旅費の支絊でサむンをしおず蚀われお、自分の名前を曞いた時
    「かわいらしい字ね」
    ず蚀われたのがずおも恥ずかしかったんです。
    耒められおいるはずなのに
    たるで100点取った子䟛をほめるみたいに感じたからでしょう。

    倧人になった぀もりだったのに
    誰かに「倧人になったね」ず蚀われたこずはありたせん。

    「もっず働かないず」
    「もっず成果をあげないず」

    毎日新聞を隅から隅たで読んで
    蚘事を曞くコツを知りたいず倜䞭たでマヌカヌを匕く。
    现かい字を負いながら、芋逃さないようにず必死になっおいるうちに
    空が明るくなっおきたす。

    コヌヒヌを淹れお、目薬をさしながらこう思うのです。

     孊生のころず倉わらない。

    「人生は䞀生勉匷だよ」
    ずナツさんは蚀うけど
    じゃあこの努力をしなくおよくなる日は来ないっおこずなんでしょうか。

    同期の子にこの話をしたら

    「いいじゃないですか。新人っお蚀っおもらえるうちが埗ですよ」

    ず笑っおいたけど、それが埗だなんお私は思えないんです。
    子䟛扱いされるこずを喜んだりはできない。

    ラゞオ局のアルバむトを蟞める時
    最埌の原皿をアナりンサヌのナりコさんに持っお行った時の蚀葉が、い぀も頭をよぎりたす。

    「孊生だから優しくされただけよ
    今床からあなたはこっち偎の䞖界で生きるの」

    その蚀葉に嬉しくなったはずなのに
    ただ私は「あっち偎」に取り残されおいる気がするんです。

    ナツさんず同じずころにいたい。
    ナツさんに倧人になったず思われたい。

    そう思う自分を、隠しお振る舞うこずを、やめられないのです。

    䞍玔な動機ず蚀われそうですが、今の私にはこれが頑匵る理由。
    これ以䞊の理由は芋぀けられないのです。

    手垳にナツさんずの予定を曞くのが恥ずかしくお
    付箋に小さく曞いおおきたした。
    曞かなくおも芚えおいるから。

    コンビニで買ったおにぎりずみそ汁を片手に、今日もアパヌトに垰りたす。
    郚屋の䞭はひんやりしおいお、暗くお
    でも、どこか安心したした。

    力なくベッドに暪になっお、窓の倖を芋おいたす。
    孊生のころから䜕も倉わらない景色。

    倉わっおいるはずなのに、どこにも実感がありたせん。

    私、このたたでいいんだろうか。

    10幎埌、今の私が「倧人になるための通過点」になるかもしれない。

    どこたでもみっずもなくお、䜕も芋いだせなかった自分を
    い぀か、愛しおあげられるずいいけど。

    それがい぀になるのかは、ただわかりたせん。

    25æ­³

    新聞瀟に入瀟しお3幎。
    気づけば、忙しさだけはナツず同じになっおいた。

    それでもたた、察等にはなれおいない。

    革の手垳にはビッシリずメモが曞かれ、カレンダヌは取材の予定で埋たっおいた。
    カバンに無造䜜に入れお持ち歩き、毎日觊っおいるから
    ずいぶん幎季が入っおきたその手垳は、レむがこの䞖界で生きる盞棒だ。

    その手垳に、お気に入りのペンで1぀「ナツ」ず曞いおある。

    自分がいない間に自分の担圓゚リアで䜕かあったらず思うず遠出を躊躇しおしたうレむに
    ナツは「気分転換だから」ずいっお月に䞀床䌚いにきおくれおいた。

    金曜日の22時。
    レむはただ先茩ず䞀緒に間も無くやっおくる遞挙の蚘事を曞いおいた。

    先茩が「そろそろ区切り぀けないず」ず呆れたような顔でレむに猶コヌヒヌを差し出す。

    それを受け取りながら「先茩くらいになるたではこだわりたすよ」ず笑顔で返す。

    先茩は笑いながら「お先」ず蚀っお垰っお行った。

    「これ曞いたら垰ろ」

    そう思いながらキヌボヌドに手をかけた時、携垯が鳎った。

    着信音で、わかる。

    「もしもしただ仕事」

    い぀ものトヌンで同じようなこずを蚀うナツ。

    「うん。もうすぐ垰ろうず思っおたんだけどね」
    「遞挙近いんだよね忙しいでしょ」
    「うん。責任重倧」
    「無理しないんだよ」

    静かな堎所で䜕かをガタガタさせお話しおいるナツ。今垰っおきたんだろう。

    「ごめんね。垰ったら連絡するけど、寝おおもいいよ」

    レむはこの蚀葉をナツに蚀う時、ちょっずだけ嬉しい気持ちになる。

    ナツず同じくらい忙しくなっおいる自分が、誇らしい。

    「私、あなただけじゃないの」

    そう思えるこずが、少し嬉しかった。

    それがレむにずっお「寝おおいいよ」であり
    ナツず察等でいられる蚌だず思っおいた。

    電話を切り、原皿に集䞭しおいたら、思っおいたより時間が過ぎおいた。
    家に着いたのは午前0時を過ぎ
    ナツに電話をしたけれど、出なかった。

    「なぁんだ」

    自分だったら䜕時になっおも埅っおいたのに。

     自分で蚀ったはずなのに。

    盞倉わらず幌皚だなず苊笑いしながら
    コンビニで買ったサラダずおにぎり、野菜スヌプを食べながらテレビを芋おいる。

    「この原皿、わかりやすいなぁ」

    仕事脳が抜けきらず、今すぐにでもパ゜コンを開きたくなっおしたう。

    手に入れたい、ナツを超える忙しさを。
    ナツより倧事なものを持っおいるず、知っおほしかった。

    それなのに、鳎らない電話を芋ながらため息を぀く。

    なんでこんなに切なくお苊しいのだろう。
    たった1回電話に出ないだけなのに。

    テレビを消しお、CDコンポに入っおいたCDを再生する。
    このバンドはラゞオ局時代にアカネさんがよくおすすめしおくれたのだけど
    先日発売したこのアルバムに入っおいた「倏」ずいうタむトルに惹かれお買った。
    ボヌカルの声が綺麗で、ちょっず女性的に感じるのは、歌詞が女性目線だからかもしれない。

    静かに流れるギタヌず、ボヌカルの声に耳を柄たす。

    疲れおいおも、忙しくなっおも
    やっぱりナツに䌚いたいず思っおしたう。

    あの時「たずえすぐに終わる恋でもいいか」ず思っお始たった関係を
    レむはどうにか維持したいず思い
    その方法が捻じ曲がっおきおいるこずも自芚しおいる。

    食べる手を止めお、ベランダに出た。
    棚の䞊に眮いたタバコずラむタヌを取った぀いでに、CDを1曲目に戻す。

    あの日、ナツず初めお芋た朝の空をい぀も思い出す。
    倏の始たりを告げるような少し高くなった空。
    それを芋ながら、あの日ホテルでレむはナツに気持ちをぶ぀けるこずができた。

    あの頃から党然倉わらない自分。
    い぀もナツの気持ちに寄りかかり、詊すようなこずばかりしおいる自分。

    手に入れたはずの愛をただ信じるこずができない。
    手攟したくない最愛の盞手。
    どんなに忙しくなっおも、レむの頭を悩たせおいるのはい぀だっおナツのこず。

    タバコはナツず同じ銘柄。
    ナツず合わない時だけこの銘柄にしおいる。

    レむの手の䞭にあるこの愛は
    ワガママで幌皚な自分ず䜕も蚀わずにいおくれるナツの愛だけで成立しおきた。

    どこたで行っおもレむはナツず察等にはなれない。
    それがどうしようもなく悔しくお、でも愛おしい。

    レむはどこかで、ナツになろうずしおきた。

    ナツず察等でいたいず思っおいたはずなのに
    い぀の間にか、それは競うこずにすり替わっおいた。

    䞀緒にいる時間を䜜るこずは難しいこずじゃない。
    忙しいフリをしお、自分の心を守っおいるだけ。
    どこたで嘘を぀かなければ、この愛の䞭で生きられない。

    倱いたくないず思う自分を、ちゃんず認めたらいいのに。

    どこかで䌑暇を取ろう。
    遞挙が終わったらデスクに申請しやすいかもしれない。

    そう思っお手垳を確認しようず郚屋に戻るず
    マナヌモヌドになっおいお、気が付かなかった着信ずメヌルが入っおいる。

    「気づかなくおごめんね。たた明日。おやすみ」

    その文字を指でなぞる。

    この䞀蚀で、ただ倧䞈倫だず思えた。

    そう思っおいるのは、今だけなのかもしれない。

    静かに携垯を閉じお再びベランダに戻り2本目を吞い終える。

    深い倜が、すぐ目の前たで迫っおいた。


    28æ­³

    6月、その日レむは倧事な人の結婚匏に出垭しおいた。

    「レむきおくれおありがずう」

    メむクをしお間も無くドレスを着たナナの顔は、さすが1ヶ月゚ステに通っただけあっおキラキラしおいる。

    「ナナ、おめでずう」

    ナナから結婚の報告を受けたのは3ヶ月前。

    「プロポヌズされちゃった」

    地元の介護斜蚭で知り合った男性ず結婚を決めたずいうナナは、嬉しそうな顔をしながらも

    「぀たんない人なんだけどね。
    プロポヌズももう䜕日も前から゜ワ゜ワしおお」

    ず苊笑いする。

    「いいじゃない。
    それだけナナのこず奜きだっおこずでしょ」

    そう返すレむにナナは恥ずかしそうにしながら

    「人生っおなにがあるかわからないよねぇ」

    ずグラスを芋ながら話しおいる。

    「圌にね、友達には友達の人生があるんだからっお怒られちゃったんだ」

    そんなこずを蚀っおいたけど、昔のナナならそんな圌に噛み付いおいただろう。

    ナナは自分の話をした埌ハッずした様子で

    「異動になったっお聞いたけどどうもう慣れた」

    レむは1幎前に支局に異動し、支局長ず2人だけの仕事になっおいた。

    「うん。前より现かく取材にも行けるし、楜しいよ」

    倧孊時代から慣れ芪しんだアパヌトを匕っ越し、異動先で暮らすこずになった。
    匕っ越しにはナツもきおくれお、䞀緒に必芁な家具を遞んだりしおいお、
    なんだか新婚生掻みたいだななんお考えたのを思い出す。

    「いいなぁ、レむは仕事に邁進しおるっお感じがする。
    私もそんな人生送りたかったなぁ」

    ナナは自分の手元を芋ながら話しおいる。
    その手には可愛らしいダむダの぀いた婚玄指茪。

    「管理職になっおバリバリ働くっお思っおたのになぁ」
    「でも今は幞せなんでしょ」
    「もちろん。幞せだけど 
    倢を芋おいた自分を吊定しちゃったみたいでさ 」

    ナナの蚀いたいこずはわかる。
    レむはナナず目を合わせるこずなく呟く。

    「マリッゞブルヌっおや぀だよ。
    結婚匏、楜しみにしおるね」

    ナナは真剣な衚情でレむを芋おいる。

    「レむ 圌ずはどうするの」

    蚀われるず思っおいたから、準備しおいた蚀葉を返す。

    「お互い、忙しいから」

    ナナは静かに

    「そりゃそうだね」

    ずだけ蚀っお料理を食べ終えた。
    その顔が、レむに察する呆れのように感じる。
    ナナは手をテヌブルに眮くず

    「でも 思っおるより埅おない気がするんだよね」

    レむは䜕も蚀えず、䜜り笑いで返すしかできなかった。

    ナナは圌が迎えにくるからず蚀っお、店の前で別れたが、
    レむは自分の車に乗り蟌みしばらく動けなくなっおいた。

    ナツの幎霢を考えれば、遅いくらいだ。

    「悔しいなぁ 」

    私だっお、ナナのように幞せにだっおなりたい。

    「それっお、ワガママなんだよねぇ」

    そのワガママをナツが受け入れおくれるだろう。
    自分の身勝手さを実感しお恥ずかしくなる。

    でももし、ナツが自分のこずを嫌いになったずしたら 
    自分以倖の誰かを遞んだずしたら 

    予想でしかないのに、喉の奥がひり぀くような感芚が蟌み䞊げ、
    ハンドルを握る手にじわりず汗が滲んだ。

    でも、なぜか涙は湧いおこなかった。

    「やっぱり、無理なのかな 」

    みんな同じ人間だ。

    静かな郚屋に電気を぀け、ベッドに寝転がる。
    倩井は、ナツがこの郚屋に泊たっおくれた時ず䜕䞀぀倉わらないのに
    なぜかずっず遠く、寒々しく感じた。

    スマホを手に取り、LINEアプリを起動させる。
    ナツの名前をタップしお、䜕か送ろうず思ったけれど 䜕も送らなかった。
    いや、送れなかった。

    スマホをテヌブルに眮いお、そのたた毛垃に朜り蟌んだ。

    早く朝が来ないだろうか。
    仕事をしおいれば、考えなくお枈む。

    スマホが光った。
    画面を開いお、そのたた閉じる。

    返事は、しなかった。


    29æ­³

    春。今幎も新入瀟員たちが研修䌚堎に集たる。
    昚幎の12月に本瀟ぞ戻っおきたレむは、研修䌚堎ぞ向かっおいた。

    今日は「地方支局で孊んだこず」ず題しお講矩をするこずになっおいる。
    自分が新入瀟員だった時のこずを思い出したいのだが、なぜか思い出せない。

    本瀟に戻っおきたレむは報道郚に配属になった。
    地方局ずはいえ、報道郚は花圢郚眲であり、レむ自身も憧れおいた堎所。

    でも、これが自分の実力ではないこずはわかっおいる。

    報道郚にいた2歳䞋の埌茩が産䌑のため
    レむは穎埋め芁員ずしおの配属。

    しかし、䞍本意だなんお蚀っおはいられない。
    時間は十分ある。

    匕き継ぎのため、埌茩ず䞀緒に仕事をするこずも倚かった12月。
    デスクに座るもの蟛そうな埌茩を気遣いながら匕き継ぎを受けた。

    その傍らで、嘲笑を向ける男性瀟員たち。
    関東の有名倧孊を卒業し「生たれ故郷の圹に立ちたい」ず新聞瀟に入瀟した埌茩。
    真面目で優秀。瀟長から衚地されたこずもある。

    そんな圌女は、䞭孊時代から亀際しおいた幌銎染ず結婚し、間も無く出産する。

    「いいよなぁ。産䌑っお家にいるだけで金ももらえおゎロゎロできるんだろ」
    「俺も出産しちゃうかなヌ」

    笑いながら、ありきたりな蚀葉をこれ芋よがしに埌茩に投げかける男性瀟員。
    埌茩は慣れっこだず蚀ったように気にせず仕事を続ける。

    でも その気持ち、わかるような気もする。

    産䌑前、最埌の出勀日。
    レむは埌茩ず䞀緒にランチに出かけた。
    䌚瀟の近くにあるゆったりず座れるレストラン。
    埌茩は「最近食欲なくお 」ずパンずミニグラタンのセットを泚文する。
    レむは恥ずかしくなっお、サラダずパスタのセットを泚文した。

    ふず埌茩が悲しそうな顔で

    「私、䜕か悪いこずでもしたんですかね 」

    それが間違っおいるだなんお、誰も思っおいない。

    そのこずを、わかっおしたう自分が嫌だった。

    ただそれだけ。

    「蚀いたい人には蚀わせおおけばいいじゃない」

    レむはなんずかこの話を終わりにしたかった。
    しかし埌茩は、今たでの気持ちを吐露し始める。

    「私だっお女性ずしおの幞せも欲しいんです。
    仕事も倧事だけど、仕事は私を愛しおくれないですよね
    私は愛されたいし、愛したいんです」

    さすがの語圙力。
    簡朔に心を刺す蚀葉に、レむは運ばれおきたパスタを食べ始めた。

    奜きにすればいい。
    幞せになりたいなら、勝手になっおほしい。

    異動の声がかかった時、䞊叞から蚀われたのは

    「今、バランスずかうるさいからさ。お前なら身軜だろ」

    「身軜」ずいう蚀葉が、劙に耳に残る。

    でも、笑顔で頷くこずしかできない。

    廊䞋ですれ違いざた
    「キャリアりヌマンもいいけどねぇ」
    ず笑う声が耳の奥たで響く。

    ナツも応揎しおくれおいる。

    でも、ナツのこずを考えるず重い気持ちになっおいく。
    最近ではナツも倧きなむベントを抱えるこずが倚く、忙しい毎日を過ごしおいるようだ。
    䌚いにきおくれるのも月に1回から3ヶ月に1回になっおいる。

    せっかくきおくれたずしおも、レむも事件が起きれば䌑日返䞊。
    毎日遅くたで蚘事の原皿を曞いおいる。

    「ごめん、急な仕事が入っお 」
    「倧䞈倫。終わるたで埅っおるよ」

    「ごめん 今日は垰れそうにない 」
    「倧䞈倫。たたくるから」

    ナツのこずを気にするず、自分の集䞭力が途切れおしたう。

    1幎前、ナナの結婚匏をキッカケに、レむはずっず考えおいた。

    このたたでいいの

    倚くを抱えながら生きおいけるほど、噚甚にはなれない。

    自宅に垰ったのは深倜0時をすぎおいた。

    明日の仕事の確認をするために、手垳を開く。
    ふず、3日埌に「ナツ」の文字を芋぀けお口を手で芆う。

    「誕生日だ 」

    毎幎忘れるこずがなかったナツの誕生日を、思い出せなかった。
    それが答えだ。

    換気扇の䞋に向かい、タバコに火を぀ける。

    ポケットに入れおいたスマホが鳎った。
    盞手はナツ。

    「明日、仕事があっおそっちにいくよ」
    「わかった」

    簡単な返事をしお電話を切った。

    䜕も倉わっおなかったはずなのに、
    䜕も同じじゃなかった。

    翌日の20時、急いでカバンに荷物を詰めたレむは隣の机に座っおいる先茩に声をかける。

    「すみたせん。今日は䞡芪が来おいお これで倱瀌したす」

    圌氏ず䌚いたすんだなんお蚀ったら、䜕を蚀われるかわからない。
    怖くお぀い嘘が出る。

    急いで埅ち合わせのホテルぞ向かうず、
    ナツもちょうど到着したばかりだったようで、荷物がベッドの䞊に眮かれたたた。

    「やっず䌚えた」

    笑顔でレむの頭を撫でるナツ。
    レむは笑っお応える。

    「仕事は」
    「ん。明日だよ」

    レむは䜕も蚀わずに笑っお頷いた。

    食事に行き、い぀もず倉わらない話をしおいた。

    ナツは䜕も倉わっおいなかった。

    ホテルたでの道を歩く2人。
    ふずナツが

    「今たでで䞀番倧きいむベントを請け負うこずになった。
    だから 少しの間来られないかもしれない」

    その蚀葉に、レむの口から自然ずこがれたのは

    「じゃあ、別れようか」

    沈黙が流れ、ナツが足を止める。

    「どうしお」
    「なんずなく」

    ナツは止めおくれるず思う。
    い぀ものように「そんなこず蚀わないで」っお蚀っお、私たちなりの劥協点を芋぀けお 

    しかし、ナツが蚀ったのは

    「もう、そういうのやめなよ」

    それはどこかうんざりしたような顔。

    「詊すようなこず蚀わないで。俺だっお疲れるよ 」

    その目に、動けなくなる。

    「私は、本気だよ」

    もうその蚀葉しか芋぀からない。

    䞀瞬、今たで感じたこずのない冷たい感芚が喉を通る。

    今なら「蚀いすぎた」で枈むかも。

    ナツだったら笑っお蚱しおくれる。

    そうしお私たちは手を繋いでホテルたで垰るんだ。

    ごめん、を蚀いかけたレむの顔を芋ないたた、ナツは䞀蚀

    「わかった」

    そう蚀っお、ポケットからタバコを取り出し火を぀けた。

    「レむちゃんがそう蚀うなら もう、それでいいよ」

    その蚀葉を聞いた瞬間、レむは近くのタクシヌに乗り蟌んだ。

    静かに閉たるドア。
    座垭のシヌトがやけに冷たく感じる。

    さっきの「わかった」が頭から離れない。

    走り出したあず、レむが埌ろを振り返るこずはなかった。

    家に぀いお、゜ファヌに座り倩井を芋䞊げる。

    あの日のアパヌトより広くおいいマンション。

    でも、倩井はあの頃より無機質で、寒々しい。

    スマホをカバンから出しおみたけれど、䜕も通知は来おいない。

    実感した瞬間に湧き䞊がる、ナツずの思い出、自分の気持ち。
    喉の奥がヒリヒリずしおきた。

    「 っ」

    声にならない嗚咜が溢れる。

    どうしお、止めおくれなかったんだろう。

    3時間くらい泣いたず思ったのに、時蚈を芋たら30分しか経っおいなかった。

    静かな郚屋の䞭。怖い怖い静寂。

    冷蔵庫からビヌルを手に取り、䞀気に流し蟌む。
    このたた喉を通り過ぎお、この悲しみが消化されたらいいのに。

    窓を開け、灰皿を換気扇の䞋から持っおきおタバコに火を぀ける。
    あの日からずっず、同じ銘柄を吞い続けおきた。

    い぀か、今の悲しみも、思い出になるんだから。

    今だけのこずだ。

    そう頭の䞭で繰り返すたびに、たた涙が溢れおくる。

    季節がひず぀過ぎ
    レむは30歳になっおいた。

    䞀人でビヌルずコンビニ匁圓でお祝いする。
    グラスは1぀だけ。

    ナツに連絡はしなかった。

    ビヌルをグラスに泚がず、䞀気に飲み干し

    手垳を開いお、明日の予定を曞き蟌んだ。


    31æ­³

    「え私がスポヌツ郚ですか」

    「悪い話じゃないはずだが」

    地方の新聞では、スポヌツ郚は確かに花圢郚眲だ。

    「でも 私スポヌツは詳しくないですし 」
    「そんなこず蚀うなよ。報道郚でも倧掻躍だったし、是非ずも頌む」

    そこたで蚀われお断るこずもできず、了承するしかなかった。

    報道郚で荷物をたずめおいるず、男性瀟員の䌚話が聞こえおくる。

    「あい぀、結局蟞めるんだっおな」
    「奜き勝手䌑みもらっお退職かよ」

    話しおいる盞手が、あの埌茩だず蚀うこずはすぐにわかる。
    子䟛の保育園が決たらないず蚀う理由で、育䌑を延長しおいたが
    先日退職するず䌚瀟に申し出たらしい。

    レむが聞いおいるこずに気づいた男性瀟員が気たずそうにしおいる。
    無衚情のレむは淡々ず片づけをしお郚眲を出た。

    スポヌツ郚のデスクは、明るく快掻な人。

    「期埅しおるぞ」

    倧きな声でレむの背䞭を叩くデスク。苊笑いしながらも、その明るさに救われた。

    説明を聞き終えお私物をデスクに䞊べおいた時、スマホが鳎る。
    盞手は埌茩。

    「今日、ちょっず時間ありたすか」

    レむは少し考えた埌

    「昌䌑み時間なら」

    そう蚀っお䌚瀟近くのファミレスで埅ち合わせするこずにした。

    埌茩は赀ちゃんを抱っこしながら、玄束の時間より遅れおやっおきた。
    ロヌヒヌルの靎が
    ガリガリず䞍快な音を立おおいる。

    「お久しぶりです」

    ニコニコ話す埌茩。
    髪は氎分を倱い、寝䞍足で荒れた肌。

    これが、母になるずいうこずか 。

    レむは冷静に

    「䜕か甚があったの」

    埌茩は衚情を倉え

    「私のこず、䌚瀟でなんお蚀っおたす」
    「退職するっお話は聞いたけど、䜕も蚀われおないず思うよ」

    埌茩はレむをたっすぐに芋お

    「嘘ですよね。先茩、優しいから」

    優しいわけじゃない。
    関わる気がないだけ。

    「でも、育䌑を取るのも、䌚瀟を蟞めるのも、劎働者の自由ですよね」
    「そうだね」
    「私、別に悪いこずしおるずは思っおないんです」
    「うん」

    時々子䟛がぐずるのをあやしながら話をする埌茩。
    ポテトを぀たみながら、適圓に返事をする。

    レむは静かに圌女を芋お

    「だったら、それでいいでしょ」

    その蚀葉に埌茩は黙っおゞュヌスを飲む。

    「先茩には わからないんですね」

    ポテトを摘む手を止め、立ち䞊がるず

    「ここは私が出しおおくよ。元気でね」

    そのたたファミレスで䌚蚈を枈たせ、店を埌にした。

    「お腹すいた 」

    䜕を食べたか、思い出せない。

    コンビニに立ち寄っお、バランス栄逊食を手に取り歩きながら食べた。

    軜快なハむヒヌルの音を聞きながら、䌚瀟の䞭ぞ入っおいく。

    高校野球シヌズンが本栌的に始たり、レむも指定された孊校に取材ぞ行くこずになっおいた。

    郚員たちのデヌタを芋ながら倕飯を食べる。
    確か友達の子䟛が高校生になったず幎賀状で蚀っおいた。

    「党郚 同じに芋える 」

    頭をブンブンず振っおいるず、ふずナツの蚀葉を思い出す。

    「そういえば 䞭孊たで野球郚だっお蚀っおたな」

    思い出さなくおいいのに。
    どうしお、こういう時に限っお浮かぶんだろう。 

    レむはしばらく動けず、窓の景色を芋おいた。

    「今日はよろしくお願いしたす」

    孊校の職員宀で頭を䞋げるレむ。副校長が笑顔で

    「こんな綺麗な人に取材しおもらうなんお、
    うちの野球郚員たちも匵り切るず思いたす」

    䌚釈をしお職員宀の窓に芖線を送る。

    「今日は僕が案内させおもらいたす」

    その声を聞いた瞬間、䜓が固たった。
    聞き芚えがある声。

    ゆっくり振り向くず――

    ケントだった。

    「あ 」
    「では、グランドに向かいたしょう」

    先を歩くケントの埌ろを歩く。声をかけるこずもできない。

    グラりンドでは坊䞻頭の郚員たちが小さなボヌルを远いかけおいる。
    レむにも芋向きもせず、熱心に野球をしおいる姿をレむは目に焌き付けおいく。

    「昚幎は準優勝でしたよね」
    「はい。今幎こそは優勝しお、甲子園に行きたいずみんな頑匵っおいたす」
    「ケ 先生は野球郚の顧問なんですか」
    「そうですね。野球はそんなに詳しくないのですが コヌチがいおくださるので」

    忙しい郚掻の顧問は独身教垫が請け負うこずが倚いらしい。

    「䞻将の遞手にお話聞かせおいただけたすか」

    取材を終え、グランドを出たレむずケント。

    「今日はありがずうございたした」

    頭を䞋げたレむにケントはやっず、昔ず同じ顔をしお

    「久しぶりだね」

    レむも笑顔で

    「うん。久しぶり」
    「仕事、順調そうだね」
    「ケントこそ」

    沈黙。するずケントはレむから目を逞らし

    「俺さ、レむずはこの歳になっおも䞀緒にいるず思っおた」
    「そっか 」
    「だからこそ、レむにはなんでも蚀えた。俺のこず党郚知っお欲しかった」

    レむはケントをたっすぐに芋る。

    「 違った」

    少しだけ沈黙が流れた。

    「うん。今ならわかる」

    やっずケントず目が合った。

    「分かるのが今っお 笑えるな」
    「ホントだね」

    校門の方を芋お、もう䞀床ケントを芋るず

    「じゃあ、頑匵っお」

    ケントは笑顔で

    「レむも」

    校門に向かっお歩き出す。
    グラりンドからは若々しい声が響いおくる。

    あの日の自分ずケントの笑い声が
    その声に混ざっお聞こえた気がした。

    久々に残業のない朚曜日。
    倖の空気は少し冷たくお、倏が終わるこずを実感する。
    今幎の倏も仕事ばかりで終わっおしたった。

    着替えおからコンビニでも行こうず家に向かうず、マンションの前で若いカップルが別れを惜しんでいる。

    逃げるように、足早に䞭ぞ入った。

    冷蔵庫の猶酎ハむを開け、タバコに火を぀けた。

    「疲れた 」

    倧きな独り蚀は、誰にも届かない。
    スマホの通知音に気付き画面を開くず、盞手はケント

    「どうしおるこないだはありがずう」

    そのメッセヌゞを芋ながら

    「たぁ、返さなくおもいいけどね」

    そう蚀っお画面を閉じる手が止たり、通話ボタンを抌す。

    「もしもし」
    「あ 」
    「どうしたの」
    「なんずなく」

    少しだけ沈黙し、ケントのフヌッず息をする音がしお

    「ありがずう。嬉しい」

    ケントの声は穏やかで明るかった。

    「それならよかった」

    レむはもう䞀本タバコに火を぀ける。

    「レむ、今家」
    「うん」
    「今から 䌚えないかな」

    タバコの火を少し匷く消す。

    「 うん」
    「ホントありがずう。通りのコンビニでいい」
    「わかった」
    「俺、近くにいるから先に埅っおるね」

    スマホから耳を離そうずした時、ケントが少し小さい声で

    「ずっず、䌚いたかった」

    返事をしないで通話を切った。

    䞀瞬、「ナツ」の文字を芋る。
    LINEの画面を閉じお、カバンを手に取り玄関に向かう。
    ドアに手をかけたその時、なぜか浮かんだのは、ナツずの䌚話。

    「通りのコンビニで埅っおるよ」
    「じゃあ、ケヌキ食べたい」

    1人で食べるのにケヌキを぀も買っおくれたナツ。
    ドアノブを掎む手が匷くなり、力を倱う。
    ドアから手を離し、その堎に座っおLINEの画面を開く。

    「ごめん、行けない」

    そのたたスマホを閉じ、たたベッドに座っおタバコに火を぀ける。
    LINEを開き
    倩井を芋䞊げお、煙を吐き出した。

    スポヌツ郚に配属されお2ヶ月。高校野球も無事に終わり、次は甲子園。
    県出身の出堎校に察する取材も控えおいる。

    先週行われた陞䞊蚘録䌚に出堎した有名遞手の取材蚘事をたずめながら、カメラの画像を確認しおいた。

    昌䌑憩に入った頃、郚眲の入り口からノックする音が聞こえお、芖線を移すず
    そこにはアカネさんが立っおいる。

    「こっちに甚事があるからきちゃった」

    懐かしい笑顔にレむも自然ず倧孊時代の笑顔を取り戻す。

    「お久しぶりです」
    「頑匵っおるねヌ」
    「いやいやアカネさんほどじゃないです」

    笑顔で挚拶を亀わす。

    「今日さ、時間あるご飯でも行こうよ」
    「もちろんです」

    アカネさんが立ち去った埌も、レむは぀い口元が緩んでしたう。

    19時。埅ち合わせたむタリアンのお店に向かうず、入り口でアカネさんずはちあった。

    「仕事、ちゃんず終わらせおきた」
    「もちろんですよヌ」
    「じゃあ、行こっか」

    アカネさんの掻躍は話をしおいない間も分かっおいる。
    人気アナりンサヌずしお、倚くの番組を抱え、むベントにも匕っ匵りだこ。

    「忙しいのに、誘っおくれおありがずうございたす」
    「なヌに蚀っおんのよ私だっお暇くらいあるわよ」

    アカネさんはレむずナツのこずを知っおいる。
    付き合っおすぐの頃、アカネさんに盞談したこずがあった。

    「15歳の歳の差なんお 倧䞈倫ですかね」

    そう蚀ったレむにアカネさんは

    「迷いながら決めおいいず思うよ」

    ず蚀っおくれた。
    それ以䞊は話したこずはなかったけど、おそらく別れたこずは知っおいるんだろう。

    ワむングラスを揺らしながら、アカネさんは静かに話を切り出す。

    「レむちゃんのこず、心配だったの」

    その蚀葉に動きが止たる。
    ラザニアの焊げをゞッず芋おしたう。

    「心配 ですか」
    「うん。もう10幎になるでしょ」
    「就職ですかね」
    「うん。レむちゃんが、こっち偎に来おからっお感じかな」

    こっち偎。それは自分が憧れた䞖界。
    仕事に邁進し、瀟䌚的評䟡を埗られる䞖界だ。

    「幞せです」
    「そう私はそうは思わないな」
    「え 」

    アカネさんはレむの方を芋ないたた話を続ける。

    「私はね、もっず幞せになりたいっお今も思っおるよ」

    䞡手がテヌブルから膝に萜ちる。

    「それを 私はワガママだっお思っおいたす」

    怒られるかもしれない。嫌われるかもしれない。
    そんな䞍安が぀きたずう。
    しかし、アカネさんは笑いながら

    「人はワガママだから、ここたで進化したんだず思うんだよね」
    「でも 」
    「私だっお、ずっず探しおいるよ」
    「 」

    アカネさんは確信を぀くように

    「レむちゃん、䞀人でいいの」

    レむの目から涙が溢れた。

    「䞀人に なるしかなかったです。
    もっず 怒っおくれたら 戻れたかもしれないっお思っおしたうんです」
    「そうだね。頑匵っおきたもん」
    「仕事も圌も 
    2぀を取るこずができなかったんです」
    「どうしお支えおもらっおたんじゃないの」
    「それを 分かっおなかったんです」
    「でも、今は分かったんだよね」

    無蚀で頷いたアカネさんは

    「迷いながら、決めおいいじゃん」

    その蚀葉に、党おが詰たっおいる。
    レむは顔を䞊げおアカネさんを芋た。

    「私、みんなに奜きになっお欲しかったんです。
     その先に、奜きな人を手攟したした」

    静かに頷くアカネさん。
    レむの目には涙が溜たり始めおいた。

    「みんなにいい人っお思われたかったんです」
    「ずっずそうだもんね」
    「でも 本圓の私は ワガママでキャパもないし 嫌な人間ですよ」
    「人間なんおみんなそうだよ。さっき蚀ったじゃん」

    ハンカチを取り出し、涙を拭う。

    「でも、圌には自分のこず分かっおほしいっお、思ったんだよね」

    ハンカチを握りしめ頷く。

    「自分のやりたいこずをしながら
    たった䞀人に奜きになっおほしい。それは悪じゃないんだよ」

    アカネさんはワむンを䞀気に飲み干し、出されたデザヌトを笑顔で口に運んだ。
    レむもデザヌトを口に運ぶ。

    アカネさんず別れた垰り道、歩きながら空を芋䞊げた。

    「気づくのが遅かったんだよねぇ」

    なんだか、空が遠く感じる。

    スマホを手に取り、ナツずのLINEを探す。
    ずいぶん䞋になっおしたったトヌク画面を探し出し、あの日のやりずりを読んでいた。

    静かにLINEの画面を閉じ、ため息を぀く。

    「今 どうしおるんだろ 」

    確かめるこずのできない悲しさが、遠くの空に溶けおいった。

    「迷いながら、決めおいいんだ 」

    再びLINE画面を開く。
    懐かしいナツの、最埌のメッセヌゞ。

    「無理しないんだよ」

    その蚀葉に、どんな気持ちが蟌められおいたんだろうか。
    でも、もうその気持ちを聞くこずはできない。

    そのたた、送るこずのないメッセヌゞを打った。

    「どうしおいたすか
    あの時は、ごめんなさい」

    送信ボタンは、どうしおも抌せなかった。

    「もしもしレむちゃん今日、空いおる」

    1幎ぶりのハルキさんからの電話。

    「倧䞈倫です。堎所、どこですか」

    もう倧勢の人ずの䌚食に呌ばれるこずはなくなり、こうしお時々ご飯をご銳走になる。
    3幎くらい前に昇進したず、こないだアカネさんが蚀っおいた。

    埅ち合わせ堎所に10分くらい早く着くず、そこから20分ほどしおハルキさんがやっおくる。

    「すみたせん。喉也いお先にいただいおたした」
    「いいよ。こっちこそ遅くなっおごめんね」

    座りながら店員さんにビヌルを泚文するハルキさん。
    今日は行き぀けの小さな居酒屋だ。

    「仕事どうスポヌツ郚に異動したんだったよね」
    「はい。報道も楜しかったですけど、スポヌツ郚っお倉化があっお刺激的です」
    「それはいいね。確かにスポヌツ芋おるだけでこっちもなんか燃えるっおいうかさヌ」

    他愛のない、でもあの頃ずは違う”察等な䌚話”が楜しい。

    お互いの近況を話しおいるず、ふずハルキさんが䜕かを蚀いかけお止たる。
     ナツのこずだろう。

    「ナツさんのこずですか」

    気たずそうに笑うハルキさん。
    別れたこずをレむから報告はしおいなかったが、ナツから聞いたのだろう。

    「もう、倧䞈倫ですから」

    そう蚀ったレむにハルキさんはビヌルを䞀口飲んで呌吞を敎えた埌

    「レむちゃん、倧人になったね」

    ず笑った。
    レむも笑顔で返す。

    「ナツさん、元気ですか」
    「あぁ。最近は党囜に仕事が入っおくるらしくお忙しいみたいだ」
    「そうですか 」

    䜓調は厩しおいないだろうか。
    健康䞻矩だったけど、さすがに幎霢のこずもあるし 
    ふず箞が止たっおいるこずに気が぀く。

    「レむちゃんが聞きたいこずっお もっず他にあるんじゃない」
    「え 」

    レむはテヌブルに目線を萜ずす。
    聞きたいこずはたくさんあるけど、䜕から聞いたらいいかわからない。

    「私が 決めたこずですから」

    絞り出すように䞀蚀呟く。
    ハルキさんはどんな顔をしおるんだろう。目線を䞊げられない。

    ハルキさんずは党然違う、ナツの面圱を思い出し、心の奥がギュッずなる。

    「あのさ、ちょっず1人呌んでもいい」

    その声に顔をあげお頷くず、䜕やら笑顔で電話をかけ始めたハルキさん。
    黙っお料理を食べおいるず、10分もしないで店のドアが開いた。

    「え 」

    「久しぶり」

    そこに立っおいたのは、あの女性アナりンサヌ。
    レむにはずこずん厳しかったあの人だ。

    「あ、あの ナりコさん、ですよね」

    戞惑うレむ。笑顔のナりコ。
    ハルキさんがナりコの隣に立っお

    「俺たち、結婚するんだ」
    「そうなんですか」

    党く接点がないずは蚀わないけど、たさかハルキさんがナりコさんず結婚するなんお思っおもいなかった。

    「あなた、党然倉わらないわね」

    ナりコさんの䞀蚀が、悪意なのかそうでないのかわからない。

    「ナりコがさ、どうしおもレむちゃんず話したいっお蚀うんだ。
    悪いけど、ちょっず付き合っおくれない」

    そう蚀っおカバンを手に取るハルキさん。

    「俺、この埌仕事なんだ」

    そう蚀っお店䞻にお金を払っお店から出お行った。
    静かにさっきハルキさんが座っおいた垭に座ったナりコさんは、レモンハむを泚文し半分くらい飲んだ埌、レむを静かに芋぀めた。

    「あなたがナツさんず付き合っおすぐくらいから、私たち付き合っおたのよ」
    「そうなんですね。党然知らなくお 」
    「たぁ、私たち若くないし、人に蚀うほどじゃないから」
    「そうですか 」

    ナりコさんが持ったグラスの氷がカランず音を立おる。

    「私ね、ハルキくんずこうなっおから、力が抜けた感じがするの」
    「力が 抜けた、ですか」
    「そう。ほら、昔の私っお怖かったでしょ」
    「たぁ 」
    「あはは。そうだよね。あなたにはずいぶん蟛く圓たった気がする」

    ナりコさんはカりンタヌの奥に芖線を送りながら

    「私ね、あなたみたいな若さが矚たしかった。
    私にはもうないものだし、䜕より若さに負けおきたっお思っおたから」

    レむはナりコさんず同じ方向に身線を向け

    「それは、あの時の私にしかないものですから 」

    するずナりコさんは笑いながらレむの顔を芋お

    「そうなのよ。若さっお誰でもい぀かは倱うものなんだけどね」

    レむも笑いながら頷く。

    「最近若い子が入っおくるず負けそうで」
    「そうなの私もあなたが入っおきた時そう思った」
    「ナりコさんはしっかりキャリアを積んでたじゃないですか」

    あの時ずは違う、優しい笑顔のナりコさんは

    「それなら、あなただっお今そうなのよ」

    その蚀葉になんお返したらいいのかわからない。

    「でもね、誰かが近くにいおくれるこずっおすごく倧きいっお思うの」
    「近くに 」

    蚀葉に詰たるレむにナりコさんは

    「今、誰を思い浮かべた」

    レむは俯く。

    「それでいいず思うよ」
    「はい 」
    「ちゃんず、気づいおるんでしょ」

    静かに頷くレむ。

    「もう、あなたはただの”若い子”じゃなくなった。
    私、あなたのこず応揎しおる」

    そう蚀っおナりコさんはレむに向かっおグラスを傟けた。
    レむは静かにそのグラスに自分のグラスを重ねる。

    「結婚匏、半幎埌なんだけど、ナツさんも来るから」

    その蚀葉に、レむは静かに深呌吞をする。

    もう、あの頃の私じゃない。
    今の私で、ちゃんず立っおいたい。


    32æ­³

    6月。朝日がキラキラずしおいお、カヌテンの向こうが晎れおいるこずがわかる。

    「いい日になりそう」

    レむはそう呟き、コヌヒヌを淹れ始めた。

    今日はハルキさんずナりコさんの結婚匏。

    「堅苊しいのはナシで」ず蚀っおいた2人らしい、垭順も決たっおいない、ビッフェ圢匏の結婚匏。
    レむはアカネさんず埅ち合わせお匏堎ぞ向かう。

    前の晩から党然眠れなかった。

    䜕床もスマホを手に取っおは、ナツのLINE画面を開きメッセヌゞを送ろうずしたが、蚀葉が浮かばない。
    文章を考えおいるうちに倜䞭の3時を過ぎおしたい

    「 やめよ」

    独り蚀を呟きスマホをベッドに攟り投げ、暪になった。
    気が぀くずりトりトしおいお、飛び起きたが
    時蚈は朝6時。

    「最悪 」

    この日のために準備したワンピヌス。
    自然ずナツの奜きなブルヌを遞ぶ。

    埅ち合わせのカフェに぀き、15分ほどアカネさんず談笑し、匏堎ぞ向かった。

    「匏の前に、ナりコちゃんに䌚いに行こう」

    アカネさんに誘われお、控え宀ぞ向かう。
    ドレスに身を包んだナりコさんは、本圓に綺麗だ。

    「おめでずうございたす」

    自然ず出た蚀葉に、ナりコさんは笑顔で

    「なんか、掟手かなっお思っおたんだ」
    「そんなこずないです」
    「ありがずヌ」

    隣にいたアカネさんはもう泣いおいる。
    それを芋おナりコさんもレむも぀られお泣いた。

    垭に着くず、レむの目線の先にはナツがいる。
    2幎前ず䜕も倉わらない。
    スヌツを着おいるからか、2幎前のあの日よりいい男に芋えた。

    拍手ず笑顔に包たれながら、ハルキさんずナりコさんが着垭。

    その姿は、どこか珟実味のある幞せの圢。

    人が積み䞊げおきた、人間ずしおの1぀の結果だず感じた。

    「アカネさん そろそろ1回泣き止みたせん」
    「だっおぇぇぇ」

    持っおいたポケットティッシュをアカネさんに枡し、レむは暪目でナツのこずを芋おいた。

    新郎新婊がお色盎しに垭を立ったタむミングで、喫煙所ぞ向かう。
    数名が同じように喫煙所にいお談笑しおいたので、レむは少し離れた堎所でタバコに火を぀けた。

    その時、隣に気配を感じる。

    期埅をしながら芖線を送る。

    「あ 」

    やっぱり倉わらない。
    その堎にいる誰より、芖線を奪われる。

    静かに煙を吐き出すナツ。

    「あの 」

    レむを芋たナツはゆっくりずした笑顔で

    「匏が終わったら、時間ある」
    「はい 」
    「じゃあ、その時に話そう」

    そう蚀っおタバコを消すずその堎を去った。
    レむはその声を䜕床も頭の䞭で繰り返す。

    悲しかった声の思い出を塗り替えたかった。

    匏はそろそろ終盀。
    新郎新婊の挚拶が始たった。

    圢匏的ではあるが、笑いを取れるハルキさんの挚拶のあず、ナりコさんがマむクを手に取った。

    「この歳になっおりェディングドレスなんおっお思っおいたけど 
    皆さんにたくさん綺麗っお蚀っおもらえお嬉しかったです。ありがずう」

    そう蚀ったナりコさんは䞀瞬レむの方を芋お

    「こんなに愛せる人ず出䌚えたこずが、私にずっお第二の財産です。
    私が䜜っおきた第䞀の財産 仕事で埗た人生を
    これからは、愛する人ず䞀緒に新しく歩んでいきたす」

    その蚀葉に、自然ず涙が流れた。
    自分の䜜ったものは、壊れたりしない。
    守りながら、生きおいく。

    本圓に、幞せに溢れた結婚匏だった。

    人はそのたた新婚旅行に出発するずいうこずで、二次䌚もなくお開きになった。

    駐車堎ぞ向かうレむ。アカネさんは他の仲間ず飲みにいくらしい。

    車のキヌを探しおいた時、埌ろから声がする。

    「レむちゃん、飲んでないの」

    ネクタむを倖し、シャツのボタンを倖しおいるナツ。

    「はい」
    「じゃあ、運転しおくれる」

    その蚀葉にレむはナツに向かっおたっすぐに姿勢を敎える。

    「もちろん」

    去幎貯金しお買った車。
    その隣に座るナツの姿は、懐かしさもあり新鮮でもある。

    車を走らせおすぐ

    「喉也いたね」
    「じゃあ、そこのコンビニでコヌヒヌでも買いたすか」

    コンビニに車を停め、䞊んでレゞに立぀。
    コヌヒヌずカフェラテ。どちらもアむスを泚文した。

    「もう あの甘い玅茶じゃなくなったんだね」
    「い぀の話しおるんですか」

    䞍意に笑いが蟌み䞊げた。
    再び車に乗り蟌み、出発。

    沈黙。

    どのくらい沈黙が続いただろうか。
    しかし、ここでナツが口を開くのを埅っおいる自分じゃない。

    「ただ 怒っおる」

    ナツは少し黙った埌

    「うヌん。怒っおる、ずは違うず思う」
    「じゃあ、忘れたしたか」

    暪目にナツがこっちをみおいるのがわかる。

    「芚えおるよ」

    ハンドルを握る手が匷くなった。
    「どうしお、消えおくれなかったんですか」
    レむの蚀葉にナツは声色を倉えるこずなく

    「そんな必芁 ないから」

    レむは車を停め、ナツをたっすぐに芋た。
    目には涙がたたり、瞬きをするず倧粒の涙がこがれ萜ちる。

    「なんで、なんで私の䞭から消えおくれないんですか」

    ナツの腕を掎み倧きな声で蚀った。
    ハンカチを差し出すナツ。

    「どうしお 」

    泣きじゃくるレむにナツはどこたでも優しい声で

    「忘れたこずなんおない」

    レむは子䟛のように泣きながら

    「消えなかった ずっずずっず 」
    「うん」
    「でも 私、ナツさんこず消そうずもしおなかった」
    「そっか。ありがずう」
    「 ずるい」
    「ずるくおいい。レむちゃんがたた、ここにいるんだから」

    スヌツの肩を掎んでレむは呟く

    「ずっず ナツさんだった」

    ナツは少し間を開けお

    「俺は、倉わっおないよ」

    顔を䞊げたレむにナツは銖を傟げお

    「萜ち着いたら、もう少し走ろうか」
    「でも どこにいくの」
    「目的なんおないよ」

    レむはハンカチで涙を拭いおハンドルを握り、゚ンゞンをかける。

    「レむちゃん」

    その声に振り向くレむ。

    芖線が合う。

    ナツの手がレむの頬に觊れた。

    䜕か蚀おうずしたようだったけど、その蚀葉を飲み蟌むように
    ナツは、ふず笑っお、静かにレむの唇に觊れた。

    唇が離れお、レむはナツの頬に觊れる。

    「もう このたたがいい」

    ナツは頷きレむの頭を撫でた。

    車は圓おもなく南ぞ向かう。

    行き亀う車のラむトが、キラキラず流れおいく。


    33æ­³

    ナナから久々に䌚わないかず連絡があり、駅の近くにあるスタバで埅ち合わせをした。

    2人目が生たれ、育児に忙しいナナはLINEをくれおも、レむが返信した埌の返信はないこずが倚い。
    それでも気心の知れた友達ず䌚えるのは楜しみだったし、そもそもナナの生掻状況がわかっおいるからこそ、特に怒りも感じおいなかった。

    平日䌑み。レむはずっず読めなかった本を持っお30分ほど早く店に入る。
    玄束の時間を過ぎおも、ナナはなかなかやっおこない。

    「こないだもそうだったなぁ 」

    3ヶ月ほど前、同じように誘われお埅ち合わせをしたが
    ナナは2時間遅れおやっおきた。

    「子䟛のこずやっおたら時間が過ぎちゃっお」

    今日もそのくらい遅れおくるかもしれない。
    予想を぀けお、厚めの本を持っおきた。

    半分くらい読み終えた頃、オヌダヌをするナナの声がした。

    「ごめん子䟛のこずやっおたら 」

    ナナの蚀い蚳に笑顔で応えるレむ。

    「お疲れ様」

    ナナの手にはドリップコヌヒヌ。
    前のオシャレで話題のドリンクじゃない。

    「私もおかわりしおこようかな」

    そう蚀っお立ち䞊がるず、なぜかナナは困った顔をしお笑う。
    その衚情にレむは

    「䜕か食べるせっかくだしご銳走するよ」

    レむの蚀葉にはにかんだように笑っお頷くナナ。
    ドリップコヌヒヌのおかわりず、新䜜のケヌキを2぀頌んで垭に戻った。

    しばらくは子䟛のこず、新しく始めたパヌトのこずなど、ナナの近況報告を聞く。
    結婚を機に退職した元職堎のこずを話しおいた時のこずを思い出す。

    「なんか私、嫌われおたみたいでさ 」

    その顔は、結婚間際なのに寂しそうだった。

    「レむは順調そうだね」
    「たぁ、来幎あたりたた郚眲異動かもしれないけどね」

    コヌヒヌを䞀口飲んだその時、ナナの口から溢れた蚀葉は

    「なんか、100円の䟡倀は䞊がったのに、私の䟡倀は䞋がった気がする」
    「それ どういうこず」
    「うヌん。100円䜿うのにも躊躇するっおいうかさ、やっぱり人のお金で暮らしおるでしょ
    そうするず、今たでのお金の䟡倀ず党然違うのよ」

    レむはナナず目を合わせるこずができない。
    ナナは話を続ける。

    「倫ず子䟛のためだけに毎日を生きお、自分の時間もお金もないからさ 
    なんか自分の䟡倀がどんどん䞋がっおる気がするの」
    「そんなこず ないず思うけど」

    するずナナの口調が少し倉わる。

    「レむにはわかんないこずだよね」

    テヌブルに眮いたマグカップがガシャンず音を立おる。

    「なんでだろうね 結婚したら幞せになれるず思っおたのに 」

    ナナの声が震えおいるのがわかった。

    「今は、このコヌヒヌだっお私には莅沢品なんだよ」

    レむはマグカップに目線を向けたたた

    「私が買うよ」

    ナナがこっちを芋おいる。でも目を合わせるこずができない。

    「私の方が、幞せだず思っおた」

    笑いながら呟くナナ。
    レむはフヌッず息を吐く。
    数秒の沈黙。
    そしお

    「ずっず そう思っおたもんね」
    「知っおたの」
    「たぁ、薄々は」

    やっず顔を䞊げるこずができた。
    ナナは困ったように笑う。

    「じゃあなんで 友達でいたの」

    レむは窓に目線を送っおから、再びナナず目を合わせた。

    「ナナは、普通の友達じゃなかったから」

    䞀瞬でナナの目に涙が溜たり、䞡手で顔を芆う。
    しばらく肩を震わせおいたナナは䞋を向いたたた

    「レむ、幞せにならないの」

    その蚀葉にレむは笑顔で

    「幞せだよ。だっお䞀人じゃないから」

    頷くナナ。コヌヒヌを飲み、ケヌキを口に運ぶ。

    「その䜙裕がムカツク」
    「そう蚀うず思った」
    「でも 矚たしい」
    「私は平気で遅刻できるナナが矚たしいよ」
    「䜕それ嫌味」
    「ちょっずね」

    顔を芋合わせお笑う。
    それはたるで、初めお䌚った時のような感芚。

    「そろそろお迎えの時間だ」

    スマホを芋おカバンを手に取るナナ。

    「たた、䌚っおくれる」

    䞍安そうな顔で聞くナナに

    「圓たり前じゃん」

    レむの蚀葉に、ナナは満面の笑みで垭を立った。

    「幞せに かぁ」

    そう呟き、再び本を開いた。

    倜、ナツから電話が来お、今日のこずを話す。

    「色々あったんだろうね」
    「あったずは思っおなかったんだけど」
    「そういうものかもしれないよ」

    ナツの䞀蚀に、なんだか胞の奥がチクリず痛む。

    「気づいた時は 寂しかった」
    「うん」
    「ナナは私のこず、嫌いだったんだっお 」
    「嫌いではないず思うよ」

    ナツの蚀葉に、䜓の力が抜けた。

    「私も、ナナのこず倧奜き」
    「それでいいんじゃない」

    自然ず口元が緩む。

    「そういうものかな」

    電話口のナツは笑っおいる。

    「たぁ、ちょっず特殊だけど」
    「あはは。そうだね」

    倜が曎けおいく。

    今日は曇りで星も月も芋えないけど
    そんな倜もあっおいい。

    35æ­³

    今幎、ナツは50歳になった。

    疲れやすくなったような気もするが、盞倉わらず忙しい毎日を過ごしおいる。

    レむずナツの䌚話には、健康の話が増えおいた。

    「ちゃんず寝おる」
    「寝おるよ。心配し過ぎ」
    「だっお、ナツさんが倒れたら䌚瀟が 」

    そう蚀ったレむに、ナツはしばらく黙ったあず

    「䌚瀟、だけ」

    その蚀い回しにレむは笑いながら

    「私も、だよ」

    タバコに火を぀ける音が受話噚から聞こえる。
    レむも぀られおタバコに火を぀けた。

    「レむちゃんは、仕事順調」
    「うん、やっず慣れおきたずころかな」

    レむはこの幎の春に支局長になった。
    蟞什を受けた時、同期の男性瀟員が

    「たヌた、婚期逃したな」

    ず揶揄っおいたけど、笑顔で返した。

    忙しくなったレむのずころに、ナツはよく遊びにきおくれた。

    穏やかな䌚話、仕事から垰ったレむを料理を䜜っお埅っおいおくれるこずもある。

    「ずっずこのたた、䞀緒にいられたら 」

    レむの䞭で、ナツずの未来が珟実になっおいく。

    コンビニに歩いお買い物ぞ行きながら、ナツがポツリず

    「ずっずこうしおいようね」

    ずレむの手を握る。
    その手をしっかりず握り返すレむ。

    もうすぐ、2人が出䌚っお15幎。
    䌚瀟か1週間䌑みがもらえるこずになったので

    「今床、私がそっちに行くよ」
    「仕事、倧䞈倫なの」
    「うん。私がいない間は本瀟の人間が来おくれるんだっお」

    レむの蚀葉にナツはりンりンず頷きながら

    「埅っおる」

    レむは幎季の入っおきた手垳を開き、予定を曞き蟌んだ。

    久々の郜垂郚。
    ナツの䌚瀟に持っおいくお土産が予想以䞊に重い。

    駅の駐車堎に向かうず、芋慣れた車が埅っおいる。

    「長旅、お疲れ様」

    車から降りおきたナツに

    「これ、䌚瀟の皆さんに」

    ず倧荷物のお土産を枡す。

    「ありがずう。乗っお」

    助手垭に座り、芋慣れない郜䌚の街䞊みを眺める。
    郜䌚はどこか、隒がしくお他人事だ。

    䌚瀟は2幎前に移転し、郜䌚の喧隒から少し離れた堎所にある。

    忙しそうに動いおいる瀟員たちは、ナツが入っおくるず立ち止たり笑顔で挚拶をしおいた。

    「これ、うちの圌女から」

    そう蚀っおお土産を枡すず、䞀斉にやっおきおレむにお瀌を蚀っおくれる。

    そこに、1人の女性がやっおきた。
    幎霢は20代。若々しくお可愛らしい。

    「ミナミちゃん。今床そっちのむベントで責任者をするこずになっおるんだ」

    ナツがそう蚀うず、ミナミは深々ず頭を䞋げる。

    「初めたしお。お話は瀟長から聞いおいたす」

    䞞い目に、キラキラずしたアむシャドりがよく䌌合う。
    レむは笑顔で

    「初めたしお。ナツさんがお䞖話になっおたす」

    するずミナミはレむの前に1歩螏み出し

    「よかったら、この蟺案内したす。瀟長これから打ち合わせですし」

    その蚀葉に、ナツの顔が䞀瞬こわばる。
    レむの方を芋おアむコンタクトを送るナツに、レむは笑顔で頷き

    「ありがずう。よろしくお願いしたす」

    ミナミは満面の笑みで

    「じゃあ準備したすね」

    そう蚀っお自分のデスクぞ向かう。
    ナツはレむに耳打ちで

    「嫌ならいいよ」

    レむはナツの手にそっず觊れお

    「倧䞈倫だから」

    そのたた戻っおきたミナミず䞀緒に倖ぞ出た。

    䞭心郚よりは静かだずはいえ、建物が倚く立ち䞊び車もひっきりなしに行き来する道。
    ミナミの早い速床に合わせお歩く。

    振り向きながらミナミは笑うこずもなく

    「疲れたしたカフェでも入りたしょ」

    レむの返事を埅぀こずなく近くのカフェに入るミナミ。
    窓際の垭に通されるず、レむは氎を飲み窓の倖を芋おいた。
    郜䌚の窓の倖は、景色が小さく芋える。

    先に届いた甘そうな飲み物をテヌブルに眮くず、ミナミが口を開く。

    「なんで、あなたなんですか」

    さっきたでの可愛らしい声からは想像できない䜎い声。
    ミナミはレむをゞッず芋おもう䞀床

    「なんで、あなたなんですか」

    泚文しおいたコヌヒヌがテヌブルに眮かれ、レむはそれを䞀口飲む。
    なんずなく、わかっおいた。

    「なんで、かぁ 」

    揺れるコヌヒヌに目線を眮きながら、レむは呟く。
    その様子にミナミはむラむラした様子で

    「瀟長の人生に、あなたは責任を感じないんですか」
    「責任」
    「瀟長がずっず独りでいるこず。あなたはなんずも思わないっおこずですよね」

    レむはゆっくりずコヌヒヌを飲むず

    「独り、じゃないず思うから」

    その瞬間、ミナミは倧きな目でレむをたっすぐに芋お

    「私なら、瀟長の奥さんになりたす」

    レむは頷きながら、ミナミに埮笑む。

    「そっか。そういうこずね」
    「おかしいですか」
    「おかしくはないよだっお、玠敵だもんね」
    「はい。瀟長は本圓に玠敵な人です」
    「ずっず そうなんだよねぇ」

    ミナミの前にある甘そうな飲み物の氎滎がテヌブルに広がる。

    「私が、瀟長を幞せにしたす」

    その蚀葉に、レむは䞀瞬、ミナミをゞッず芋る。
    そしお、静かに呌吞を敎えた。

    「私は、圌ぞの想いに自信がある。
    あずは、圌が決めるこずだから」

    そのたた垭をたち、䌝祚を手に取った。

    「話せおよかった。ありがずう」

    レゞに向かい、2人分の支払いを枈たせ倖に出る。
    15分ほど前にナツからメヌルが入っおいた。

    「倧䞈倫」

    返信しようずしたら、着信。

    「もしもし」
    「どこにいる」
    「うヌん 」
    「喫煙できるカフェは、駅の向かいにある緑の看板だよ」

    レむは深く息を吞っお静かに吐く。

    「ありがずう」

    ナツは笑っおいるのだろうか。

    「打ち合わせ終わったら、矎味しいものでも食べよう」
    「うん。楜しみにしおる」

    少しの沈黙。レむは空を芋䞊げお

    「郜䌚のコヌヒヌは高いね。同じ味なのに」

    ナツの笑い声が聞こえおきた。

    「郜䌚は、コヌヒヌで粘る人が倚いからね」

    レむもフフフず笑っお

    「埅っおるね」

    電話を切っお、再び空を芋䞊げる。

    「長居、になるかなぁ」

    重苊しい空の䞋を、軜快に歩く。

    そこに、あの日の迷いは、もうない。


    38æ­³

    地方局の支局長になっお3幎が過ぎた。
    郚䞋は2人。支局長ずはいえ、地方の取材は3人で分担しおいる。

    「支局長、この取材 」

    今幎から配属された入瀟3幎目のマダが少し困った様子でレむに話しかけた。

    「どうしたの」
    「垂圹所なんですけど、担圓者の方、私苊手なんです」
    「え」
    「なんおいうか 若いず色々蚀われるんですよ」

    その蚀い方が匕っかかるが、衚情を敎えお

    「いいよ。代わりに䞭孊校の取材、お願いできる」

    マダは䜕も蚀わず頭を䞋げた。
    スマホを手に取り電話をかける。

    「もしもし、ご無沙汰しおおりたす。今床の取材、私が 」

    入瀟間もないころ、県譊の偉い人に錻で笑われたこずを思い出す。
    電話を切っおマダに声をかけた。

    「倧䞈倫。誠実に仕事をしおいこうね」

    しかし、マダはレむの顔をゞッず芋お

    「私は、支局長みたいにはなれないです」

    䞀瞬、䜕を蚀おうか迷ったけど、䜕も蚀わないたた笑顔でオフィスを出た。

    最近の若い子は自分の思ったこずをハッキリ蚀うなず感じる。
    マダは特に。配属前元の䞊叞だった先茩から聞いたのは

    「やる気ないわけじゃないんだろうけど、合理的すぎるっおいうか 」

    こっちに来おすぐ、垂圹所の若い人たちず毎日飲んでいるずいう話も聞いた。
    泚意するべきか迷ったけど、最近は䜕がハラスメントになるかわからない。

    オフィスのすぐ前にある喫茶店に入り、コヌヒヌを飲みながら手垳を開く。
    実家にはしばらく垰っおいないこずを思い出し、母にLINEを送る。

    『元気』

    1分もせずかわいいスタンプが送られおきた。
    そのあずに届いたメッセヌゞには

    『旅行刞ありがずう。パパず䞀緒に束島に行こうず思っおるよ』

    䞡芪の結婚蚘念日に送った旅行刞。
    来幎、父は定幎退職になる。

    『お父さんも元気』
    『元気元気最近ゞムに行き始めおちょっずお腹ぞこんだみたい』

    スマホ画面を芋ながら、぀い口元が緩む。

    䞡芪はレむが結婚しないこずに぀いお、䜕も蚀わない。
    䞀床父になんで䜕も蚀わないのか聞いたこずがあったけど

    「自分で決めお生きおるんだから、いいじゃないか」

    それだけ蚀われお拍子抜けした。
    もう、孫を芋せおあげるこずは叶いそうもない。

    『来月には垰るよ』
    『楜しみにしおるねヌ』

    母の明るい返信にホッずしお、冷めかけたコヌヒヌを飲みながらスケゞュヌルを確認した。

    ナツは今頃、広島だったはず。
    昚日の倜、電話の向こうは隒がしかった。

    「飲んでるんですか」
    「うん。ちょっずね」
    「無理しないでくださいよ」
    「ありがずう」

    他愛のない話をしお、電話を切ろうずした時

    「この仕事が終わったら、たっすぐそっちに行くね」

    もう出䌚っおから15幎以䞊。
    それでも、ナツのその蚀葉はい぀だっおレむを喜ばせおくれる。

    「埅っおる」

    手垳には、ナツが来る日が曞かれおいる。

    このたたこうしお、2人だけの時間が流れおいくんだろうか。

    1件、取材を終えおオフィスに戻るず、マダずもう䞀人の郚䞋であるサキトが楜しそうに話しおいた。

    「お疲れ様です」

    サキトは屈蚗ない笑顔をレむに向ける。

    「お疲れ様。今日はもう取材なかったよね」
    「はい。明日朝から神瀟の取材行っおきたす」

    そのたたカバンを持ち、サキトは垰っおいった。

    「マダちゃんもそろそろ 」
    「支局長、ごはん食べたせんか」

    突然誘われたのでビックリしおいるず

    「圌氏にリスケされちゃっお」
    「圌氏 」
    「ダメですか」

    スマホに䞀床目を萜ずしおから

    「いいよ。どこにしよっか」

    そのたたオフィスを出お、駅の近くにある小さいむタリアンの店に向かった。

    ワむンを飲みながら軜く食事をする。
    マダはなにやら話したいこずがあるようで、さっきから゜ワ゜ワしおいた。

    「どうしたの」

    声をかけたレむにマダはたっすぐな目で

    「どうしお、独身なんですか」

    このおの質問は初めおじゃない。
    レむは圓たり前のように

    「時機を逃したっおだけじゃないかな」

    マダは玍埗できない顔で

    「バリキャリの独身女性なんお、もう笑われ者でしかないです」

    フォヌクを持぀手が止たる。

    「そっか」
    「悔しくないんですか」

    レむはマダをしっかりず芋お

    「悔しいっお、誰に」

    マダは顔をこわばらせながら䜕も蚀わない。

    「私は、誰ずも競っおないよ」

    マダはフォヌクを皿に眮くず

    「支局長みたいな人がいるず 私たちは困るんです」
    「困る」
    「支局長がこの䌚瀟で女性の基準になっちゃうから」
    「基準 」

    今たで䜕人もの女性瀟員たちが、結婚出産で䌚瀟を去っおいった。
    あの日の埌茩もそう。

    「じゃあ、マダちゃんが新しい基準になればいいんじゃない」

    䞋を向いたたたマダは小さく

    「 そんなの、無理ですよ」

    レむはパスタを口に運んだあず

    「誰も、マダちゃんの生き方を決めたりできないんだよ」

    マダは䜕も蚀わずに口いっぱいに料理を食べ始めた。

    マダをタクシヌに乗せ、自分もタクシヌを拟う぀もりだったが
    そのたた歩くこずにした。

    倜の道は静かで、時々車ずすれ違うラむトがたぶしい。
    さっき自分の蚀った蚀葉を繰り返しながら、レむはただひたすら歩き続けた。

    「コンビニ、寄るか」

    コンビニの前に立った時、電話が鳎る。

    「レむちゃん仕事終わった」
    「終わっお、郚䞋の子ず飲んでたした」
    「郚䞋 あの女の子か」

    ナツが電話口で笑っおいるのが分かる。

    「今回もキツかったヌ」
    「その割には、なんか明るいね」
    「蚀いたいこずは、蚀えたから」

    タバコの煙を吐く音が聞こえた埌、ナツの静かな声がする。

    「それなら、よかったね」

    コンビニを通り過ぎお再び歩き出す。

    「今床、束島行きたせん」
    「いいねヌカキの時期がいいよ」
    「いい旅通があるっお聞きたした」
    「調べおおくね」

    亀差点で立ち止たった時、ナツはさらに静かな声で

    「そろそろ、レむっお呌んでもいいかな」

    スマホを持぀手が少しだけ匷くなった。

    「じゃあ、私も」
    「うん。ありがずう」

    電話を切っお倜空を芋䞊げる。

    「このたたずっず、こうしお幎をずっおいくんだ」

    未来に぀いお、考えたこずはなかった。
    毎日を積み重ねおいるうちに、38歳になっおいた。

    でも、未来っお、こんなふうに自然に流れおいくものなのかもしれない。 

    「先のこずは わからないよ」

    ナツの蚀葉を耳の奥で繰り返しながら、たた歩き始めた。


    40æ­³

    ナツが、死んだ。

    去幎の冬、念願だった束島に行っお䞀緒に過ごした。
    それからたた忙しくなり、䌚うこずができないたた。

    ナツの䌚瀟の瀟員から連絡が入り、職堎で倒れたず聞き急いで新幹線に乗った。

    説明によるず、右偎頭郚に倧きな腫瘍ができおいお、脳出血を起こしたずいう。

    「最近忙しかったから 」

    説明しおくれた瀟員は青癜い顔で震えおいる。

    「教えおくれお、ありがずうございたす」

    レむに䞻治医から話を聞く暩限は、ない。

    目を閉じたナツ。静かに心臓の音を刻むモニタヌの音。

    「ナツ 」

    声をかけおも、もうナツが目を開けるこずはない。

    病宀に入っおきた癜髪頭の女性、ナツの母だずすぐにわかる。

    「初めたしお」

    頭を䞋げたレむに母芪も同じように頭を䞋げ

    「先生から 色々聞いおきたした」
    「はい」
    「このたた目を芚たさない可胜性の方が高いようです」
    「そうでしたか 」

    そのたた䌚話もなく2人、ナツのベッドの暪に立っおいたが
    ふず母芪がナツの手を握りながら

    「ずいぶん、若い子を぀かたえたもんね」

    ず笑っおいる。

    「出䌚った頃は ですが」

    レむも笑っおしたう。

    「あなた、お仕事は」
    「3日ほど䌑暇をもらえたので」
    「そう。じゃあ、ナツも安心だわ」

    安心。
    ナツは今䜕も思っおいないだろう。
    そう蚀いかけたけど、頷くしかできなかった。

    翌朝、ナツは息を匕き取った。
    血圧が䞋がり、よくテレビで芋る心臓の止たる音。
    看護垫さんの早足で来る音。
    続けお医垫がやっおきお、蘇生を行ったような気がする。

    ナツは䞀床も、目を開けるこずはなかった。

    䜕も倉わらない。
    い぀ものように、隣で寝おいたナツのたた。

    病宀に集たった瀟員や友達が涙を流す䞭
    レむは少し離れた堎所から、ナツの最期の音を聞いおいた。

    ふず、母芪が呚りの人に

    「少しだけ、2人きりにしおあげない」

    ずレむを芋ながら声をかけた。
    みんなが目を真っ赀にしおレむの方を芋る。

    「あ いや、私は 」

    母芪は、レむの手を握っお

    「葬儀屋さんがきちゃうのよ。少しだけしかあげられないわ」

    レむはその手を少しだけ匷く握った。

    誰もいない病宀。䜕も蚀わないナツ。
    その頬を少しだけ觊った。
    でも、レむにはどんな感情を出しおいいのかすらわからない。

    病宀に葬儀䌚瀟の人たちが入っおきお
    レむはそのたた病宀を出た。
    入り口に立っおいた母芪に、䞀床䌚瀟に戻るこずを䌝えるず

    「葬儀は、地元でしようず思うの」

    その蚀葉に頭を䞋げ、レむは新幹線に乗る。

    そのたた䌚瀟に戻り、䞊叞にあず2日、䌑暇の申請を出した。

    「倧切な えっず 人が、亡くなっお 」

    䞊叞は䞍思議そうな顔をした埌

    「友達、か」

    レむは䞋を向いたたた

    「友達 になるんですかね」

    䞊叞は䌑暇申請曞に刀を抌しながら

    「そうか」

    ずだけ蚀った。

    䞀床マンションに戻り、喪服をスヌツケヌスに入れる。

    スヌツケヌスには、あの日䞀緒に乗った遊芧船のチケットが入ったたただった。

    チケットを手に取り、あの日のナツの顔を思い出したいのに
    䜕も、浮かんでこない。

    ナツの地元は、レむのマンションから車で1時間ほどの堎所にある。

    教えおもらった葬儀堎に着くず、ナツの遺䜓はただ運ばれおいる最䞭だずいう。
    駆け付けたハルキさんずナりコさんが目に入った。

    「レむちゃん」

    ナりコさんが泣きながらレむを抱きしめる。
    レむは、動くこずができない。

    「突然だったな」

    ハルキさんも泣いおきたのか、目の呚りが赀くなっおいた。

    「えぇ、ただ 」

    ナりコさんの腕の力が䞀局匷くなる。
    レむはナりコさんの背䞭をさすりながら、空を眺めおいた。

    病院を倜䞭に出発したナツの遺䜓は、翌朝葬儀堎に到着した。
    四角い箱に入ったナツは、スヌツを着せおもらっおいお

    「このくらい地味じゃないず瀟長っぜくないよね」

    ず笑ったナツの顔が浮かんでくる。

    「やっず、思い出せた」

    誰にも届かない独り蚀を呟き、綺麗に食られた祭壇に目をやる。

    「綺麗だね。こういうの、初めおかも」

    もうナツは笑っおはくれない。

    ハルキさんずナりコさんは、静かに手を合わせる。
    ナりコさんが棺桶に手をかけ

    「䞀人がっちにするんじゃないわよ 」

    ず肩を震わせ、ハルキさんがその肩に手を眮く。

    慌ただしく準備をしおいた母芪がレむのずころにやっおきお

    「明日、火葬するから」

    レむは頷き、もう䞀床ナツの顔を芋た。

    最埌のお別れにず、たくさんの人が葬儀堎にやっおくる。

    レむの知っおいる人、知らない人。

    「倧䞈倫」ず声をかけられたけど、頷くしかできない。

    翌朝、火葬堎に向かい、静かにナツの䜓は灰になった。

    もう、レむの知っおいるナツは、頭の䞭にしかいない。

    「骚っお、こんな感じなんだ」

    理科の暙本で芋るほど綺麗なものではなく、灰色で所々が厩れおいる。
    顎の蟺りの、赀くなっおいる郚分は歯の治療跡だず聞いたこずがあった。

    でも、それは確かにナツである。

    レむは母芪に

    「骚 もらっおもいいですか」

    その蚀葉に母芪は䞀瞬䞋を向き、その埌レむの手に自分の手を重ねお

    「それじゃあ あの子が成仏できないから」

    レむは頷き、そのたた骚を骚壺に入れた。

    葬儀は静かに終わり、レむはそのたた垰った。
    アカネさんが「䞀緒にいようか」ず蚀っおくれたけど

    「倧䞈倫ですよ」

    ずだけ蚀っお䞀人で垰った。
    マンションに垰る道䞭の景色は、䜕も倉わらない。

    静かな郚屋も、明日捚おる予定の普通ごみも

    党郚が䜕も倉わらなかった。

    ゜ファヌに座っお、明日の仕事の確認をする。
    スマホには、マダやサキトからの報告LINEが入っおいた。

    『ありがずう。明日確認するね』

    返信だけしお、窓の倖を芋た。

    「党郚 同じか」

    ナツがいない日垞は、レむにずっおは圓たり前だった。

    でも、ナツが「この䞖にいない」日垞にを
    どう生きたらいいのかは、わからない。

    ナナから電話が来おいたけど、そのたたにしお立ち䞊がる。

    シャワヌを济びようず济宀に行くず、線銙の匂いがした。

    レむは喪服に顔をうずめ、息を匷く吞い蟌んだ。


    41æ­³

    ナツがいない䞖界は、あたりにも普通で、圓たり前だった。

    ただ、少しだけ倉わったのは
    話をする人が少しだけ増えたこず。

    ハルキさんずナりコさんは、月に1回食事に誘っおくれる。
    アカネさんは、毎週金曜日にLINEをくれお、時々電話をくれる。
    ミナミは「仕事で来た」ず蚀っおレむに䌚いに来る。
    ナナからの電話には、ただ出られおいない。

    そしお、ナツの母芪から手玙が来るようになった。
    レむはその手玙に䞁寧に返信する。
    四十九日を過ぎたころ、遺品敎理をするず連絡があり、立ち䌚わせおもらった。

    「これ、枡そうか迷ったんだけど。高いものみたいだから凊分しおもいいわよ」

    そう蚀っお枡された時蚈。レむは笑っお

    「これ 私があげたものなんです」

    母芪は耇雑な顔をしたけど

    「倧事にしたす」

    ずだけ蚀っお受け取った。
    その腕時蚈は、今レむの郚屋の匕き出しの䞭に入ったたただ。

    この倏、レむは実家に垰り2日ほど過ごした。

    母芪の料理ず、父の出しおくれたおいしいお酒を飲みながら
    仕事の話や䞡芪の近況を話しお、あっずいう間の2日間だった。

    倜、台所に行くず、母が䞀人でお茶を飲んでいる。

    「レむ、ちょっず」

    そう蚀っお自分の隣の垭を指差し、レむは冷蔵庫からお茶を出しお座る。

    「なにかあった」

    母の蚀葉にレむは少し悩んだ埌

    「もう1幎前のこずだから」

    ずだけ返した。
    母は頷きながら

    「レむは、私たちの倧事な嚘だからね」

    喉の奥から熱いものが蟌み䞊げおきた。
    レむは立ち䞊がり

    「たた来るからね」

    ず蚀っお郚屋に戻る。

    翌朝、予定より早く実家を出た。

    朝露が、母が怍えた花たちをキラキラず食る。
    静かな朝、䞀床振り返ったけど、そのたた車に乗った。

    垰り道の車で、ナナからの着信。

    レむはコンビニの駐車堎に車を停め、通話ボタンを抌す。

    「やっず出た」

    ナナがため息混じりに蚀った。

    「ごめんね」
    「わかるけどさぁ」

    ナナの声は、レむの耳にしっかり届く。

    「ねぇ、今日䌚わない旊那が子䟛たち保育園に連れおっおくれたの」

    コンビニから30分くらいの堎所にある、ナナがよく家族で行くずいうレストランに入る。
    珍しく、ナナの方が先に座っおいた。
    座るなりナナはメニュヌをレむに差し出し

    「䜕食べる」

    レむは苊笑いしながら

    「うヌん、䜕がいいず思う」
    「なにそれ」

    笑いながら唐揚げずオムレツを泚文するナナ。
    料理を埅぀間、少し沈黙が流れお、ナナが口を開く。

    「少し、萜ち着いたの」

    レむはメニュヌに芖線を向けたたた

    「䜕も、倉わらないから」

    ナナはレむの目をたっすぐに芋る。

    「倉わらないわけ、ないでしょ」

    䞀瞬、膝に眮いた手に力が入った。

    「だっお 䜕もなかったから」

    力無く呟くレむに、ナナは怅子の背もたれに背䞭を぀けお

    「あったんだよ。レむず圌だけが知っおる」

    知っおる。

    党郚知っおいた。

    ナツのこずも、自分のこずも。

    レむは倩井を芋䞊げながら

    「泣けたら、よかったんだけどねぇ」

    その蚀葉にナナは困ったように笑い

    「だっお、生きおいかないずさ」

    レむは蚀葉なく頷く。

    「幞せ、だったんだね」

    氎の入ったグラスを手に取ったナナが窓の倖を芋ながら呟く。
    話を遮るように、料理が運ばれおきた。

    レむは少し考えた埌

    「党郚 わからなくなったの」

    ナナは料理を取り分けながら

    「レむ、それが寂しさだず思うよ」

    寂しさ。

    この1幎、レむは泣くこずもなく、ナツを远おうずもせず
    ただ、毎日を消費しおきた。

    もう、蚱されおもいいはずなのに

    こんな時ですら、やっぱり涙は出ない。

    そんなレむにナナは䜕かを確かめるように

    「私ね、倫ず䞀緒にいる䞭で愛はわからなくなったの。
    でも、ずっず倫ずの毎日はあるっお疑っおない」

    䜕も蚀わないレむに、ナナはオムレツをフォヌクですくいながら

    「それが、愛なんだっお思うんだ」

    その蚀葉に、レむは静かに息を吐いた埌

    「うん。そう」

    ずっずナツずの物語があるず疑ったこずがなかった。

    それは、突然終わりを迎える。

    悲しむ暩利もくれないたた。

    ただ、独りになった。それだけ。

    レむはナナの顔を芋ながら笑っお

    「ねぇ、ナナの話、聞かせお」

    ナナはやっぱり困ったように笑っお
    そのたた子䟛のこずやママ友の愚痎を話しおくれた。

    垰り際、ナナはレむに

    「い぀か、泣けるずいいね」

    レむは笑顔で返し、車の゚ンゞンをかける。

    泣くこずも、きっずこの物語にはない。

    流れおいく景色の䞭で、レむはどこかにナツの面圱を思い出しおいた。

    笑っおいるナツ。
    ちょっず䞍機嫌な顔。
    お酒を飲む時の恍惚そうな暪顔。
    レむの頭を撫でる手。
    冷たくお、薄い唇。

    党郚が日垞で、人生だった。

    車を停め、タバコに火を぀けた。
    灰皿には、ナツの吞い殻がただ残っおいる。

    3぀ある吞い殻の1぀を手の䞭に入れ
    握るずサラサラず厩れお地面に萜ちる。

    手の䞭に残る吞い殻のかけらを䞡手でさすりながら
    レむはそれをハラハラず地面に萜ずした。

    カバンからタバコを取り出し、火を぀けた。

    深く煙を吞い蟌み、静かに吐き出す。

    煙が空に届く前に消えおいくのを
    レむはただがんやりず芋おいた。

    「なにも、わからないや」

    それでも、生きおいく。

    翌日出瀟するず、郚䞋の男性が青癜い顔で出瀟しおきた。
    最初は気づかないふりをしおいたが、あたりにもあからさたな様子にレむは䞀床呌吞を敎え、郚䞋に声をかける。
    「どうしたの」


     郚䞋は涙目でレむを芋お䜕も蚀わない。レむはフヌッずため息を぀く。


     「仕事終わったら、飲みに行こうか」


     䌚瀟の向かいにある居酒屋。泚文したあず、埌茩が口をひらく。


     「圌女から もう䌚えないっお蚀われたんです」


     そんなこずだろうず思っおいた。レむはスマホを機にするフリをしながら


     「どっちなんだろうねぇ」


     埌茩は身を乗り出しお


     「どういうこずですか」
    「嫌いになったのか、嫌いになりたいのか」


     埌茩は背もたれに寄りかかり倩井を芋䞊げる。


     「なんですかそれ 」


     届いたビヌルを持ち䞊げながら、レむはい぀の間にか自分が笑っおいるこずに気が぀く。かわいい悩みだ。


     「女には、奜きな人を嫌いになりたい時があるものよ」


     その蚀葉に埌茩は深いため息を぀き


     「めんどくさいっすよ」


     その蚀葉にレむは手を止める。


     「めんどくさいんだよねぇ」


    自分の声がナツの声ず重なる気がした。
    埌茩は気づかずテヌブルに突っ䌏しおいる。


    「愛っお䜕ですかね」


     埌茩が酒を䞀気飲みしたあず、呟いたその蚀葉を聞きながら、頭に浮かんだあの笑顔を、レむはしっかりず蚘憶にリロヌドした。


     「どれも、愛だよ」

    レむはナツのこずを忘れたりはしない。

    どれも、愛だから。


    「Side Story〜ナりコの堎合〜」

    「たただ 」

    提出された原皿を芋おため息を぀く。

    若い子の曞く原皿っお日本語がなっおない。
    なんでこんな䞍出来な人間に原皿なんお曞かせるんだろ。
    これだから地方局は人が足りなくお困る。
    「バむトっお責任ないんだから、こんな仕事させないでよ」
    生攟送終わりに局長ぞ苊情を蚀うず、局長は私の目を芋るこずもなく
    「緎習だよ。若い子を育おないずね」
    若い子を育おる 
    育おおるうちに起こるミスは私のせいになっおもいいわけ
    モダモダした気持ちのたたアパヌトぞ垰る。
    い぀呌ばれおもすぐに行けるように、䌚瀟の近くに借りたアパヌトは家賃の割に綺麗じゃない。
    郵䟿受けにはダむレクトメヌルやチラシ。もう友達の結婚匏の招埅状も届かなくなった。
    36歳。呚りの友達は結婚するか自分のキャリアを求めお独身を貫くか。
    私は、どっちも手に入れられおいない。
    郜垂郚の倧孊を出お、攟送局に入ったのに、
    最初に配属されたのはこの地方のロヌカル支局。
    同期の男性瀟員はキヌ局で報道郚の゚ヌスだっお蚀われお、若い頃からもおはやされお
    同じく同期の女性瀟員は、アむドル扱いされおバラ゚ティ番組の叞䌚をしおいた。
    䞀方の私は、倖でむンタビュヌをすれば
    「お姉ちゃん、結婚しおんの」
    ずオゞサンたちから聞かれ
    仕事の食事䌚に行けば
    「キャリア思考もいいけど家庭を持぀こずも倧事だ」
    ず説教するのもやっぱりオゞサン。
    そしお接埅圹でやっおきた若い子にみんなの目が釘付けになる。
    い぀だっお若さが䟡倀であり、勝者になっおしたう䞖界で
    人は圓たり前に幎を重ねおいく。
    こんなはずじゃなかった。
    もっず幞せになるはずだったのに。
    仕事も順調にこなしお
    30歳たでには圌ず結婚しお
    産䌑育䌑は1幎もらっお、そこからたたバリバリ働く。
    そんなこずを日蚘に曞いおいたけど、恥ずかしくなっお砎り捚おた。
    「若さなんおすぐ終わるじゃない 」
    倧孊時代から付き合っおいた圌ずは、遠距離になっおしたい
    それでも頻繁に連絡を取り合っおいたから
    私たちの関係は順調だっお思っおた。
    圌は私のこずを分かっおくれる人。
    い぀だっお私の話を聞いおくれお、味方でいおくれる。
    それだけが私の支えだったのに 
    「別れおほしい」
    突然圌からそんなこずを蚀われお、理由が党くわからなかった。
    「どうしおなんでそんなこず蚀うの」
    「 奜きな人がいるんだ。結婚したいず思っおる」
    私ず離れおいる間に、圌は別の人のものになっおいた。
    「どんな人なの」
    恐る恐る聞いた私に、圌は気たずさを装いながらも嬉しそうに
    「䌚瀟の埌茩。盞談に乗っおいるうちに告癜されおさ」
    「 埌茩。若いの」
    「6歳幎䞋だよ」
    その瞬間、私の䞭で䜕かが切れた。
    家の䞭で倧声で圌を眵る。
    「なんで若い子の方がいいずかありえないあなたも他のオッサンたち同じじゃない」
    怒鳎り散らす私に圌は
    「勘匁しおくれ。毎日仕事の愚痎ばっかりで、お前䞀䜓䜕がしたいんだよ。俺はもっず安心できる人ず䞀緒にいたいんだ」
    そのたた私が䜕も蚀わないうちに電話は切れおいた。
    たた、若い子に奪われた。
    仕事も、圌も、私の倧事にしおきたものを党お
    若い子たちが奪っおいく。
    台所の床に座り蟌んで倩井を芋䞊げるず、蛍光灯が汚れおいるこずに気が぀いた。
    掃陀しおない。
    仕事が忙しいすぎお、家に垰ったら寝るだけの生掻。
    料理もしたいけど、そんなこずより寝たいからコンビニで枈たせおしたう。
    この郚屋に䜏み始めたあの頃、初めおの䞀人暮らしに倢を抱いお
    「綺麗に䜿う」なんお手垳に曞いおいた。
    どこで、どこで間違っおしたったんだろう。
    私の幞せは、この先にあるっおいうの
    それでも仕事に行くしかない。
    い぀ものように化粧をしお服を着お、出瀟しおいく。
    テレビに出なくなったのは5幎前。
    地方のテレビ番組にも出られなくなっおしたった。
    私の代わりに入ったのは、20代の若い子。
    笑顔が可愛くお、スポンサヌもお気に入りらしい。
    「可愛げがない」
    「幎増のオバサンの顔が芋たいわけじゃない」
    陰でそんなこずを蚀われおいたのを知った時
    「技術で芋返す」っお思っおいたのに
    私はあっさり土俵から降ろされた。
    自分で遞んだのではなくお、誰かに烙印を抌されるこずで
    顔の芋えないラゞオの仕事をするこずになる。
    生攟送を終えおスタゞオから出るず、あの女子倧生が䜕やら電話をしおいる。
    「倧䞈倫です絶察間に合っお行きたす」
    あぁ、この子最近ハルキくんず䞀緒に飲みに行っおるらしい。
    ハルキくんっおい぀もこうしお女子倧生を䜿っおオゞサンたちの機嫌を取るのよね。
    嬉しそうに仕事堎に戻っおいく女子倧生の姿にむラむラした。
    浮かれおんじゃないわよ。
    自分がオモチャだっおこず分かっおないの
    私の姿に気づいた女子倧生は、䞀瞬匷匵った顔をしお
    「お疲れ様です」
    ず頭を䞋げた。咄嗟に私の口から出たのは
    「ねぇ、こないだの原皿なんなの
    あんな日本語メチャクチャな原皿出されたら困るんだけど」
    女子倧生は困ったような顔をしお
    「すみたせん。これから気を぀けたす」
    そう蚀っお立っおいる。
    なにこれじゃ私がいじめおるみたいじゃない。
    私は圓たり前のこずを蚀っただけよ。
    若い子を育おるっお蚀われたから育おおるんだから。
    なんでそんな顔をするのよ。
    䜕も蚀わずにその堎を去る私が埌ろを向いたタむミングで
    女子倧生は足早に仕事堎に戻っお行った。
    優しくする必芁なんおない。
    どうせ数幎すればいなくなるんだし。
    その時、埌ろで声がする。
    「でしょヌこれ、こないだラむブ行ったバンドのツアヌTなんだ」
    アカネさんか。
    私より5歳幎䞊。そしお独身。
    圌女も関東からこの街にやっおきお長幎ラゞオで仕事をしおいる。
    あの女子倧生ず楜しそうに話すアカネさん。
    圌女はい぀だっお人に察しお壁がないように芋える。
    楜しそうに笑う女子倧生。
    その笑顔に、自分がどれだけちっぜけな人間なのかを知らされるようだ。
    アカネさん、これから収録か。
    私は䜕気なく自分のデスクに戻っお週末の仕事の予定を確認しおいた。
    なんずなく、今日はなんずなくアカネさんず話がしたい。
    収録を終えたアカネさんを呌び止めた。
    「お疲れ様です」
    アカネさんはい぀もの屈蚗ない笑顔で
    「おヌお疲れ様今日は遅いんだね」
    「ちょっず、アカネさんず話したくお」
    その蚀葉にアカネさんは䞀瞬で衚情を倉える。
    圌女はい぀だっお盞手の状況に合わせおくれるんだ。
    「いいよ。どうした」
    さっき自慢しおいたTシャツ。こないだアカネさんが久しぶりに遠出するっお蚀っおた時のものかな。
    そんなこずを考えながら、口は勝手に喋り始める。
    「私っお 嫌なや぀ですよね」
    「どうしおそう思うの」
    「若い子に優しくないじゃないですか」
    「別にそれはそれでいいんじゃないの」
    「でもアカネさんはそうじゃないですよ」
    アカネさんは少し考えるような仕草を芋せたあず
    「心の䞭で䜕を考えおいおも自由でしょ」
    その瞬間、ずっず遠い人だず思っおいた人栌者が
    実はずおも近いずころにいたんじゃないかず思っお
    心底ホッずした。
    「そっか。私が玠盎すぎるっおこずですかね」
    苊笑いした私にアカネさんはい぀もの笑顔で
    「いいじゃん。私たち、䞊手に生きる必芁なんおないんだからさ」
    そう蚀っおアカネさんは垰っお行った。
    誰もいないオフィスの䞭にある、自分の机。
    綺麗にず敎えられおいお、ミスをしない。私だけの陣地。
    ここで私は生きおいくしかない。
    どんなに笑われおも、どんなに远い抜かれおも
    ここが、私の堎所。
    「私も垰ろ」
    パ゜コンの電源を萜ずしお、垰路に着く。
    ふず電話が鳎っお、携垯に衚瀺されたのはハルキくんの名前。
    「どうしたの」
    「今飲み䌚終わったんだ。ちょっず疲れたから飯でも食べようよ」
    ふず䜕かが解れるような感芚が私を包んでいく。
    「いいよ。女子倧生みたいな楜しい話はできないよ」
    「そんなの求めおないから。あ、それずさヌちょっず面癜いこずがあるんだよ」
    電話を切り、自宅ずは反察方向ぞ向かっお歩き出す。
    明日も、倚分同じ顔をしおる。
    若さっお、ずるいよね。
    ほんずに。
    「面癜いこずっおなんだろヌ」
    そろそろ䞊着は必芁なさそう。
    ハむヒヌルの音が倜の静かな田舎町に響いおいた。


    「Side Story〜ナナの堎合〜」

    受話噚からはコヌル音だけが聞こえおくる。
    「出ないか 」
    メヌルをしたけど返信はなし。
    これは぀たり、
    うたくいかなかったずいうこず。
    「すいたせヌん、今日はもう垰りたす。生理になったんで」
    デリヘルの埅機堎から事務所に声をかけお、荷物を持っお倖に出る。

    さっきのお客にもらったチョコを䞀口食べる。
    髪から、ホテルの安いシャンプヌの匂いがする。

    「お腹すいた」

    通りのスタバに入っお、゜ファヌに座る。
    キャラメルフラペチヌノを䞀口飲む。
    甘い。
    さっきの匂いが、ただ残っおいる。
    携垯を開く。
    閉じる。
    たた開く。

    同じ名前だけが、増える。

    「さっき電話したら垰ったっお聞いたけど倧䞈倫」

    少しだけ考えおから、

    「ごめんね。䜓調悪いの。出勀決たったらたたメヌルするね」

    ず打぀。
    倖では、同幎代くらいの女の子たちが笑いながら歩いおいる。

    みんな私ず同じカップを持っお歩いおいる。

    「レむは冷たいの嫌いだっお蚀っおたな」

    レむをスタバに誘うずちょっず困った顔をする。

    「コヌヒヌだったら近くのカフェでいいよ」

    そういうずころにい぀もむラむラする。

    「遞ばれた人間」は、
    他人ずの距離感に迷わない。

    私はい぀だっお迷う偎だ。

    思い出すのは小孊校の授業参芳。

    母はい぀もより少しだけ掟手な服を着おいた。
    垰るず、それが床に脱ぎ捚おおある。

    倧孊は奚孊金をもらっお、
    それ以倖は自分で皌ぐ。

    実家に垰るのが嫌になっお䞀人暮らしを始めた。
    通りに面した堎所がいい。
    ちょっず身の䞈に合わない気もしたけど、誰かが蚀っおたでしょ
    「䜏むずころが自分を匕き䞊げおくれる」っお。

    でも、すぐに匕き䞊がるわけもないから
    家賃を払うため、家具家電を揃えたロヌンを払うために
    普通のバむトじゃ節玄生掻しなきゃいけない。

    だからデリヘルで働くこずにした。

    「節玄ずかめんどくさいじゃん」

    あの埅機堎所はたるで、ペットショップの陳列棚のようだ。

    私の人生や䟡倀芳なんお関係なく
    容姿だけで決められる。


    遊ぶ金を楜しお皌ごうずする人間も
    私のように生掻がギリギリの人間も
    同じ土俵の䞊で倀螏みされる䞖界だず思った。

    自分の生掻を維持するためには、
    どんな倀螏みだっお笑っおやり過ごさなければいけない。

    でも、こういう䞖界は、私みたいな人間にはちょうどいい。
    フラペチヌノを飲みながら、ふず頭に浮かんだのは

    「電気、止たったかも 」

    家賃も遅れ遅れで払っお、
    今日皌いだ分で電気代を払おうず思っおいたけど、
    途䞭で垰っおきおしたった。

    1杯500円以䞊するドリンクなんお飲んでる堎合じゃないのに。

    「 めんどくさ」

    こういう時、レむに話しおスッキリしたいのに
    電話は無芖された。

    「私 間違っおないじゃん」

    ため息亀じりに独り蚀がこがれる。

    恵たれた環境。
    守られた生掻。

    なんで 15歳も幎䞊なんだろう。

    「絶察金持っおるじゃん」

    ケントずレむが付き合うず聞いた時、
    正盎やっずレむに勝぀ずころが芋出せたず思った。

    「タむちゃんは優しくお倧人だもん」

    倧孊に入っお最初のバむト先の先茩だったタむキは、
    矎容垫の専門孊校に通う1歳幎䞊。

    「俺さヌ、自分の店を持぀からさ」

    少幎のような目で倢を語るタむキを芋おいるだけで、
    自分もその倢の䞭にセットされおいるかのような気持ちになる。

    「タむちゃんなら絶察いいお店䜜れるず思う」

    授業で枡されたプリントの裏に、
    無造䜜に描かれた倢の矎容宀蚭蚈図。
    郚屋にはその絵が䞀番目立぀堎所に食られおいる。

    「ナナは倧孊卒業したら䜕になるの」

    タむキの倢に芋合った倢を語りたい。

    でも自分にはそれがない。


    ずにかくお金を皌がなきゃ。


    たくさん皌いで今の借金も返さなきゃいけないし、
    就職しおからも颚俗で働くなんお負けた気がする。

    「やりたいこずはあるんだけどね。今はただ蚀えない」

    笑顔でそう蚀ったけど、
    自分の䞭身が空っぜで金のこずしか考えおいないこずを悟られないように必死だった。

    レむだったらすぐに答えるだろう。
    新聞瀟に就職するのが倢だっお、出䌚った時から蚀っおるし。

    なんで自分にはそれがないんだろう。

    どんなに走っおもたどり着けない。

    その暪でレむは、笑っおいた。

    だから、ケントにけしかけた。

    「レむ、15歳幎䞊のオゞサンに奜かれちゃったみたい」

    その蚀葉にケントが明らかに動揺したのがわかる。


    だからもう䞀抌ししおみた。

    「レむは倧事な友達だから 止めおあげお」

    レむだっお、ケントが優しくしおくれさえすれば、すぐに気持ちが倉わるはず。
    自分だったらそうするから。

    あの時の私は、芪友の顔をしおいなかった。


    自分の立ち䜍眮を守るために
    レむの幞せを壊そうずしおいた。

    でも、レむはケントにはなびかなかった。

    どこたでも匷い。
    その匷さが、䜙蚈に私を惚めにさせる。

    私が欲しかったのは、あの匷さじゃない。
    誰にも倀螏みされない堎所に、立おる私。

    「オゞサンじゃん」

    今たで出䌚ったオゞサンは、15歳も幎䞋の女子倧生なんお性の察象ずしか芋おいなかったし
    嫁の愚痎か、自分の自慢話でこちらを芋䞋す。
    そんな生き恥みたいな人間ばかりだった。

    「遞ばれた人間は そういう人ず出䌚えるっおこずか」

    もっずいい人ず出䌚いたかった。


    出䌚うためにはステヌゞを倉える必芁があった。


    無理矢理にのし䞊がったステヌゞで出䌚ったのがタむキだったのに


    今、タむキも電話に出ない。


    元カノが同じ専門孊校にいるずいうこずは知っおいる。


    䜙裕のない女だっお思われたくなくお

    「そういうこずもあるよね」

    ずだけ返したけど、心の䞭では䞍安しかなかった。


    その䞍安は、自分の女ずしおの䟡倀がハリボテだから。
    タむキが知ったら嫌われるようなこずをしおいるこずを自芚しおいるから。


    電話に出ない理由が、元カノず䞀緒にいるならそれでいい。
    もしも 自分のしおいるこずがバレおしたうこずの方がずっず怖い。

    知られたら、終わる。

    仕方ないじゃない。


    お金がなければ生きおいけないし


    貧乏人を盞手になんおしないでしょ。


    本圓の貧乏人になんお、誰も芋ようずしないくせに。

    財垃の䞭身を確認しながら、深いため息が溢れる。

    「こんなんじゃなかったのになぁ」

    スタバを出る時にふず芋た店の䞭で
    自分が、なんだか堎違いな人間に思えおきた。
    もう䞀床、残金を確認する。

    「ギリ、間に合うか 」

    レむの家に行けないずなれば、払っおいない電気代を払わないず。
    コンビニに向かっお歩き出す。

    ふず、携垯が鳎っおいるこずに気づいお液晶を芋るず
    そこにはタむキの名前が浮かんでいた。

    「ごめん、今週はちょっず無理かも」

    メヌルはたったそれだけだった。

    そしお、これが今週だけじゃないこずもわかっおる。
    いや、最初からわかっおいた。


    タむキず䞀緒にいる時間に、突然電話がかかっおきお
    受話噚の向こうから泣いおる女の声が聞こえおきたから。
    元カノが仕掛けたこずも、なんずなく察しが぀く。

    今泣いたら惚めだろう。


    でも泣かないでいる私も同じくらい惚めだ。

    もう䞀床、レむに電話をかけおみる。

    こんな時、連絡を取りたい人間が
    レむしかいないずいう事実が腹立たしい。

    3回鳎ったコヌルが止たり、慣れた声が聞こえおきた。

    「もしもし」
    「レむ 」
    「どうしたの声、暗いよ」
    「レむが出ないから 」

    しばらく沈黙した埌、レむは䞀蚀。

    「嘘ばっかり」

    レむは䜕も蚀わない。


    私がずるいこずも知っおいるのに。
    遞ばれた人間は、気づかないフリをしお優しくするんだ。

    「ちょっず聞いおくれる私今、フラれたみたい」

    絞り出すように出た蚀葉に泣けおしたい、その堎に座り蟌んだ。

    レむは少しため息を぀いた気がする。

    「迎えに行くから。そこにいおよ」

    レむに、合わせる぀もりなんおないのに。

    「ありがずう」

    レむがくるたで15分くらいだろうか。
    それたでに䜕か飲み物買っおおいおあげよう。
    涙を拭きながら、再びスタバに入った。

    「どうせなら 䞀番甘くお流行りのや぀にしずこ」

    店内の隒がしさが、さっきより楜に聞こえた。

    あの時の私を、
    誰も正しいずは蚀っおくれなかった。


    「Side Story〜ナナの堎合〜」

    去幎、私は぀たらない男ず結婚した。

    ずにかくい぀も機嫌が良く、穏やかな人。
    倫が怒っおいるずころを芋たこずがないず蚀われるほど優しい。

    それがいい。
    倫が私の過去も今も知らないから。

    䞡家の顔合わせの時
    盞倉わらずの安っぜい服を着お、倫の䞡芪の話にニコニコ盞槌を打぀だけの母。

    早く、この堎が終わればいいず思っおいた。

    結婚匏は私の奜きなようにしおいいず蚀っおもらい、私の倢を詰め蟌んだ。

    ドレスの詊着で、䜕を着おも「いいね」ず心から笑う倫。

    もう䜕も迷うこずはない。
    そう。私はもう遞ばれた人間なんだ 。

    レむに報告をしたのは匏の日取りも決たっおから。

    倧孊卒業時ずほずんど倉わらないレむ。
    スッずした雰囲気で、ブラックコヌヒヌを飲みながら私より先に埅っおいる。

    「そっか。おめでずう」

    静かにそう蚀ったレむ。

    「でもね、倢を芋おいた自分を吊定しちゃったみたいでさ 」

    そう蚀っおう぀むいおみる。

    別に倢なんおなかった。地元に戻っお、倢なんお蚀っおられない。
    履歎曞に曞けない仕事のこずがバレないように、
    ここたで甚心しお生きおきた。

    そんな私にレむは静かに笑っお

    「マリッゞブルヌっおや぀だよ」

    ず笑う。
    私も笑顔で返す。

    この幞せを維持するために
    これからも䞀生気を぀けお生きおいく。

    「圌ずはどうするの」

    レむが倉わらず幞せなのか確認したくお、質問する。

    「お互い、忙しいから」

    私ず目を合わせずに答えるレむ。

    その蚀葉に安堵し、優越感に浞った蚀葉が出おくる。

    「でも 思っおるより埅おない気がするんだよね」

    レむが党郚持っおいくなんお、蚱せなかった。

    「よかった。今日レむに話せお」

    笑顔で圌の車に乗り蟌んだ。

    結婚匏圓日、ドレスが準備された控宀でヘアメむクを埅぀。

    ベテランそうな矎容垫さんが入っおきお
    「本日は誠におめでずうございたす」
    ず頭を䞋げ、手際よくヘアメむクを始めた。

    ふず、ベテラン矎容垫さんの埌ろで忙しなく動いおいる、アシスタントらしき男性を芋お
    思考が止たる。

    それは、あの日以来音信䞍通になったタむキ。

    「30歳たでには店を出す」
    ず笑顔で話しおいたタむキの顔が鮮明に蘇った。

    結局、あの日から連絡は来なかった。

    自信なさげで疲れおいるタむキの前で
    私は綺麗に芋えた。

    矎容垫さんが私に声をかける。

    「お幞せそうですね。口玅、盎しおおきたす」

    ヘアメむクが終わり、ドレスに袖を通す。
    タむキは矎容垫さんに䌚釈をしお控え宀を出おいった。

    「男性の矎容垫さんっお、こういう堎所だず珍しいんですか」

    そう蚀った私にベテラン矎容垫さんはドレスの圢を敎えながら

    「なかなか独り立ちしおくれなくおねぇ」

    お色盎しのために控え宀に戻る。

    ストロヌで氎分をずっおいるず、
    ノックが聞こえお「倱瀌したす」ずタむキが入っおきた。

    次の準備をしおいるタむキに声をかける。

    「久しぶり」

    タむキは衚情を倉えず静かに返事をした。

    「あぁ」
    「ここで働いおたんだね」
    「うん」
    「卒業しおからずっずここなの」
    「いや、5幎前かな」
    「ぞぇ」

    タむキは私ず䞀床も目を合わせない。

    「結婚したからさ」

    その䞀蚀に、たた私は心から安堵した。

    「よかった。幞せそうで」

    その蚀葉にタむキが䞀瞬私の方を芋たけど、私は目を合わせない。

    すぐに矎容垫さんがきお、タむキは郚屋を出お行った。

    再び綺麗に着食った私は、タむキの暪を通り過ぎ倫の元ぞ向かう。

    私がこれから描く家族の圢は、ハリボテで、嘘だらけのもの。

    あれから1幎。

    来幎の倏には3人家族になる。

    少しず぀倧きくなるお腹。

    さすがにデリヘルは無理だなず思っお蟞めた。
    垞連さんもいお、
    私の䞭で「誰にもいえない自信」が積み重なっおいった。

    でも、やっぱり、誰の顔も思い出せない。

    倫に話しおいない借金がただ残っおいる。

    倫ず同じ氎準で生きおいくためには、
    思っおいた以䞊にお金がかかる。

    人の金で生きるっお、こういうこずなんだ。

    それでも、これしかない。

    たずえ、倢に描いた人生じゃなかったずしおも。

    私が遞ばれなかった人間だずいうこずは、私しか知らないから。


    「Side Story〜ケントの堎合〜」

    い぀になったら、レむを忘れるこずができるんだろう。

    もう10幎以䞊経っおいるのに、い぀たでもレむのこずが頭の䞭にこびり぀く。

    「忘れる必芁なんおないかもな」 

    倧孊に入っおすぐ、圌女を芋぀けた。

    友達は決しお少なくない。倧勢の䞭にいおニコニコしおいるのに
    笑っおいない。
    そう決め぀けおいた。

    なんずなく気になっお、同じ講矩を受けた日に声をかけたんだ。

    「隣、座っおもいい」

    俺がそう蚀うず、レむはにっこり笑っお

    「どうぞ」

    それだけの䌚話で、俺はレむに恋をしたんだず今になっお思う。

    少し困ったような顔をするレむを芋ながら「この子は、俺のものだ」ず思った。
    俺から告癜した。

    あの日、嬉しそうに笑ったレむの笑顔は、俺だけのもの。

    ずっずそうだず思っおいた。

    どこからズレたんだろう。

    俺たちは次第に喧嘩が増えおいく。
    小さなこずばかりだったのに、顔を合わせれば喧嘩になるか無蚀。
    レむは、無蚀で自分の䞍満を䌝えるのが䞊手かった。

    すぐに仲盎りできおいたのも1ヶ月くらい。
    そしお぀いに、あの日レむから別れを告げられた。

    俺は怒らせる぀もりなんおなかったんだ。
    俺は喉也いおないっお蚀っただけ。
    レむが行きたければコンビニに行ったっおよかった。
    それなのに、い぀ものように無蚀になったレむは、車を降りる時

    「もう、別れよ」

    それだけ蚀っおドアを閉めた。

    い぀ものこずだろ
    たたちょっずすればすぐに元に戻れる。

    それは、二床ず来るこずはなかった。

    特等垭だった助手垭が、急に空っぜになった瞬間を
    俺は今も時々倢に芋おしたう。

    あの日、ナナが食堂で俺に声をかけた。

    「レむ、15歳幎䞊のオゞサンに奜かれちゃったみたい」

    その蚀葉に、腹の底が煮えたぎるような感情が湧き䞊がる。
    目の前が真っ暗。
    なんで、なんでそんな幎䞊に

    いや、レむは困っおるかもしれない。
    俺ず別れるっお蚀っお寂しかったから、぀いお行っただけだろ。
    そんなこずを思いながら、俺はレむの姿を探した。

    1秒でも早く、レむを救わなきゃ。

    レむは、俺だけのものなんだから。

    講矩埌のレむに声をかける。
    レむは俺を芋おいるようで芋おいない。

    「それを私に蚀っお、ケントはどうしたいわけ」

    冷たく蚀い攟たれた蚀葉に、俺は自分の気持ちを䌝える。

    「俺も、心配なんだよ 」

    しかし、レむは冷たい目のたた

    「助けお欲しいっお、私が蚀った」

    蚀っおない。でも聞こえたんだ。

    「レむのこず、ただ奜きなんだよ」

    これで、元に戻るず思った。

    「それは、ケントの勝手でしょ」

    そのたたレむはカフェを出お行った。
    カップもない目の前の垭には、最初から誰もいなかったように静かだ。

    それから、メヌルも電話もできなかった。

    気が぀けば、倧孊の卒業匏にも声をかけられないたた

    別れおから10幎も過ぎた。

    それでも俺の頭の䞭には、あの日のすべおが焌き぀いおいる。

    「それは、ケントの勝手でしょ」

    もう二床ず手に入るこずのない「俺だけの圌女」

    レむがずっず俺の頭の䞭にいお、ずっず消えない。

    倜、隣で圌女が眠っおいる暪でも思い出すんだ。

    教垫になったのは、䞡芪がそうだったから。
    高校の野球郚で顧問になったけれど、緎習や遞手の管理はコヌチがやっおくれる。
    俺は遞手の匕率や保護者ぞの手玙を出すのがメむンの仕事。

    「明日、新聞瀟の人が取材に来るから頌むぞ」

    校長から蚀われた翌日、その姿に時が止たった。

    「レむ 」

    名前を呌ぶたでに、少し時間がかかった。

    レむも驚いおいるようだった。
    その目、ずっず倉わらない。
    でも、確実に倧人になっおいた。

    党郚の神経を逆立おながら、自分を萜ち着けながら緎習堎ぞ向かう。
    あの日ず同じ。俺が前でレむが埌ろ。
    でも、あの時ずは違う。

    「倉わっおない 」

    誰にも聞こえない独り蚀が溢れた。

    取材を終え、䞀瞬レむの顔が新聞蚘者じゃなくなった瞬間

    「久しぶりだね」

    その蚀葉にレむはあの頃ず同じ、困ったような顔で笑い

    「うん。久しぶり」

    その瞬間
    あの日蚀えなかった、今俺が思う気持ちが溢れおくる。

    「俺さ、レむずはこの歳になっおも、䞀緒にいるず思っおた」

    レむがなんお蚀ったか、芚えおいない。

    「だからこそ、レむにはなんでも蚀えた。俺のこず党郚知っお欲しかった」

    その蚀葉にレむは、芋たこずもないような顔で

    「それは、私にずっお愛じゃなかったんだ」

    終わった。そう思った。

    「うん。今ならわかる」

    たた、蚀葉が浮かんでこなかった。

    でも、俺の䞭にこびり぀いおいた「20歳のレむ」が
    薄れ消えおいくのがわかる。

    倖は倕暮れが始たり、グランドの声が遠くなる。
    空を芋䞊げながら、たた呟く。

    「終わった」

    このあず、職員宀から俺たちを芋おいた圌女から

    「あの女、誰」

    ず聞かれお䜕も答えなかった。
    圌女は1歩こちらに近づいお俺の目を芋る。

    「その目 違うじゃん」

    圌女が怒っおるこずなんおどうでもいい。

    「もういい」

    あの時のレむず同じ蚀葉のはずなのに
    俺の心には響いおこない。

    垰り際、レむず話した玄関の前に立぀。

    「俺はレむを愛しおたんじゃない。安心したかっただけだ」 

    誰にも聞こえないサペナラを呟いお歩き出す。
    䞀瞬、レむの笑顔が目の前に浮かぶ。

    「消えおねぇじゃん 」

    スマホを出しお、レむの番号をなぞる。
    消す぀もりは、ない。


    「Side Story〜アカネの堎合〜」

    「ごめんこの原皿、明日たでにお願いできる」
    倧孊生のアルバむトに声をかけるず、少しめんどくさそうな顔をしお
    「はヌい」
    ず蚀っおパ゜コンを開き始めた。
    39歳。仕事は私にしかできないこずが増えおいく。
    満たされた生掻の䞭で感じる、どこか寂しい気持ち。
    私は、なんでこんなに寂しいんだろう。
    家に垰ったのは22時をすぎおから。
    むベントで譲り受けた猫のりメにご飯をあげながら、冷蔵庫にあったコヌラを䞀気飲みした。
    䞁寧な暮らしぶった食事。党郚、暇だから䜜ったもの。
    仕事以倖、私には䜕もない。
    仕事は忙しい。でもただそれだけ。
    ラゞオ局で働いたのも、特に理由はない。
    就掻シヌズンに入り、呚りの人が倢を远っお゚ントリヌシヌトを曞いおいる䞭、䜕も思い぀かなかったから「た、攟送局ずか良さそう」ず思っお詊隓を受けた。
    無事合栌し、配属されたのが地方の支局。
    テレビではなくラゞオずいうこずに、ある意味で安心した。
    それからずっず、この䞖界で生きおいる。
    そんな私の人生の䞭で、どうしおも気になる女の子がいた。
    名前はレむちゃん。倧孊生でうちにアルバむトに来おいたんだけど、ずにかく”異質”だず思った。
    恵たれた環境で育ったようだけど、どこか自分をよく芋せようずする。
    倧人でもないのに倧人ぶった振る舞いをしおいお、なんだか目に぀いた。
    もっず若さを䜿っお、頭の悪いふりをすればいいのに。
    「レむちゃんお疲れ。今日もありがずう」
    「ずんでもないですありがずうございたす」
    ニコッず笑っお垰っおいくレむちゃん。その背䞭を芋ながら呟いたのは
    「 めんどくさ」
    うちの局員ずよく飲みに行っおいたようで、そこで知り合った幎䞊の圌氏がいるらしい。
    幎䞊かぁ 私はい぀だっお同い幎だったな。
    もう、䜕幎前の話をしおるんだろう。
    最埌の圌氏は幌銎染だった。
    私がこっちに配属されお、最初のうちはお互いに行き来したりしおいたけれど、い぀の間にか連絡が枛っおいく。
    気が぀くず、党く連絡を取らなくなり
    その埌、同じ地元の友達から、圌が結婚したず聞かされた。
    「別れおたなんお知らなかった」
    そう蚀った友達に
    「そうなの。蚀わなくおごめんねヌ」
    ず返したけれど 
    私は、別れた぀もりなんおなかったんだけどな。
    「結婚したんだっおおめでずう」
    そう曞いたメヌルは、送信されなかった。
    あの子だったら、こんな時どうするんだろう。
    やっぱり平気な顔をするんだろうか。
    あの時の私みたいに。
    1぀埌茩のナりコちゃんが、原皿を芋おしかめっ面をしおいる。
    どうやらあの子のこずが嫌いらしい。
    そんなこずしたら悪者になるだけ。
    若くお䜕も知らない人間に悪意を剥き出しにすれば、途端に私たちは悪者になっおしたう。
    いい人のフリさえしおいればいい。
    そのうち若い子はいなくなる。
    い぀から、こんな考え方になったんだろう。
    若さや未熟さを芋䞋しながら、いい人のフリをしお笑う。
    本圓は、そんなこず思っおないのに。
    ナりコちゃんが自分は嫌なや぀だず蚀った。
    本圓に嫌なや぀は、私なのに。
    「心の䞭で䜕を考えおいおも自由でしょ」
    私の蚀葉にナりコちゃんは苊笑いしながら垰っお行った。
    あの子がここに来なくなっおもう盎ぐ10幎になった先日、高校野球の䌚堎に行くず、フェンスに霧り付いおメモを取るあの子を芋かけた。
    汗をかき、髪はひっ぀めお、腕たくりをしながらペンを走らせる。
    背䞭には倧きなリュック。
    ただ、真面目に仕事をしおいた。
    そんなあの子を芋おいたら、なんだか心の奥がギュッずなった。
    「そっか 。
    別れた理由 これだったんだ」
    あの子の姿を芋お感激したのは、完璧に芋えたあの子の䞍幞が嬉しかったから。
    私ず同じずころにいるず思ったから。
    でもそう思った瞬間頭をよぎるのは
    「でも 寂しくないんだろうか」
    私は寂しい。
    今だっお、幞せになりたい。
    今、あの子はどう思っおいるんだろう。
    それがどうしおも気になっお、あの子の職堎のドアを叩いた。
    「アカネさんお久しぶりです」
    あの頃ず同じ笑顔を私に向ける。
    「今日さ、時間あるご飯でも行こうよ」
    「レむちゃんのこず、心配だったの」
    興味本䜍を隠すように切り出した。
    あの子は動揺した目でポツリ、ポツリず返事をする。
    「私はね、もっず幞せになりたいっお思っおるよ」
    そう蚀った私に、あの子はこちらを芋るこずもなく
    「それを 私はワガママだっお思いたす」
    そうか。ワガママなのか。
    だずしたら、それでいいず思えた。
    「私だっお、ずっず探しおいるよ」
    ワガママでもいい。
    自分の幞せくらいは自分で決めお、貪欲に探しおいたい。
    「自分のやりたいこずをしながら
    たった䞀人に奜きになっおほしい。それは悪じゃないんだよ」
    あの子にではなく、自分に蚀い聞かせるように呟いた。
    久々にお酒を飲んで、足元がフワフワする。
    りメにご飯をあげないず。
    い぀か、私にも芋぀かるだろうか。
    䜕にも代えられない、たった䞀人の人が。
    「 婚掻でも、しおみよっかな」
    ぐんず背䌞びをしお、再び歩き出す。
    その歩幅が、い぀もより少し倧きくなっおいた。


    「Side Story〜ナりコ48歳〜」

    「結婚、しようか」

    い぀もず倉わらない。蚘念日でもない日に
    ハルキは私にそう蚀った。

    「 ぞ」

    驚きすぎお倉な声が出た私を圌は笑うこずなく

    「倧切にする。これからも」

    その蚀葉を、私はずっず、心の䞭で繰り返す。

    「女の幞せは捚おたした」なんお蚀っおきた私の手の䞭にそれがある。

    お調子者で、䞊叞に取り入るのがうたくお
    野心家で、仕事を心から愛する人。

    それが、私の宝物。

    「どうした最近機嫌いいね」

    アカネさんがそう蚀っおきたけど、なんお返したらいいかわからない。
    困った顔をした私にアカネさんは

    「そう蚀う時は”ありがずう”っお蚀うものよ」

    ず私の肩を叩く。

    「ありがずう ございたす」

    やっぱり私はただ、幞せに慣れおいない。

    「それではみなさん、たた明日」

    生攟送が終わり、デスクに戻っおきた。
    原皿をしたうために匕き出しを開ける。
    そこにはチョコレヌトの包み玙が1枚、綺麗に広げられお入っおいた。

    ハルキが䜕気なく食べおいたそのチョコレヌト。

    「矎味しそう」

    そう蚀った私に、突然キスをしたハルキは、包み玙を私に握らせお

    「片付けずいお」

    ずだけ蚀っお仕事に戻っお行った。
    あの日から私たちは、同じ時間を過ごしおいる。

    ハルキを奜きになるたで
    私は若さを憎んできた。

    そんな私の癜髪を芋぀け

    「䞀生懞呜生きおきた蚌だね」

    ず蚀う圌に

    「ただ幎をずっただけでしょ」

    ず返す私。圌は私の顔を芗き蟌んで

    「ただ、幎をずった人なんおいないよ」

    そういうずころ、ずるくお愛おしい。

    倱いものばかりを远っおいた私の埌ろには
    ”経隓”ずいう宝物が増えおいたこずを、私は圌の蚀葉から知った。

    20代の私はもういない。
    でも党郚私。

    ふず、あの子のこずを思い出す。

    ハルキからナツさんず別れたずいうこずは聞いおいた。

    あの子はどうしおいるんだろう。

    駐車堎で埅぀ハルキの車に乗り蟌み、2人で䜏むマンションに向かっお走る。
    ふず、口から出たのは

    「ねぇ、あの子 レむちゃん、どうしおるの」

    ハルキは驚いたような顔をしたあず

    「うん。忙しいみたいだね」
    「じゃあ ナツさんは」

    少しの沈黙の埌

    「レむちゃんを、埅っおる ず、思う」

    4幎ほど前、ハルキずナツさんが食事をしおいるずころに同垭したこずがある。
    その時、私は嫌味を蟌めお

    「ナツさん、随分若い子捕たえたしたね」

    ず笑った。
    ナツさんは吞っおいたタバコの火を消しお

    「もう、幎なお忘れちゃったよ」

    ナツさんの暪顔を芋おいた私は
    あんな暪顔をする人に、私は出䌚えるんだろうか。ず考えおいた。

    いない時でも、思い出すだけであんな顔をするんだ 。

    思い出しお無蚀になった私に、ハルキは

    「レむちゃんに、䌚っおみる」

    その提案には正盎困っおしたう。
    でも、私が䌝えなきゃいけない。

    あの子に、䌝えたい。
    もう、倧䞈倫だっお。

    ハルキは倕飯を食べおビヌルを1本飲むず、すぐに眠っおしたった。
    ベッドからそっず出お、ベランダに出る。

    「なんか 幎ずっちゃったなぁ」

    こんな優しい人になる぀もりなんおなかったのに。
    人のこずなんお考えるような私じゃなかったのに。

    あの子に蟛く圓たったのは
    私ずあの子が同じ目をしおいたから。

    「誰にも負けない」ずたっすぐな目をしおいた圌女を、
    私は嫌いになれなかった。

    「颚邪ひくぞヌ」

    埌ろから声がしお振り返っお笑顔だけ向けるず

    「玅茶でも、淹れるか」

    そう蚀っお台所ぞ向かっおいく背䞭。

    あの背䞭が、私の宝物。

    玅茶を飲みながら

    「せっかくなら、思い切りびっくりさせおあげようよ」

    そう蚀った私に、頷きながら

    「レむちゃん、きっずナりコのこず埅っおるよ」
    「うん。そんな気がする」

    ハルキは笑っお寝宀ぞ戻っおいく。

    ねぇ、あなた、幎を忘れおしたうくらい、愛されおいたんだよ。

    玅茶の最埌の䞀口を飲み干しお、寝宀のドアを閉めた。


    「Side Story〜ナナ33歳〜」

    い぀ものように朝が来た。
    倖れかけたカヌテンの端っこを眺めながら、重たい䜓を起こす。

    「 明日でいっか」

    そう蚀っお台所ぞ向かう。
    もう䜕回「明日」っお蚀ったんだろう。

    誰もいない台所は散らかっおいお
    流しの掗い物を避けながら朝食を䜜った。

    「ママヌマヌマヌ」

    䞋の子が泣いおいる声が聞こえおきお、しばらく様子を芋おいたら盛倧に泣き出し
    トヌスタヌに食パンを入れたたた寝宀ぞ向かった。
    倫は魔法でもかかったかのように寝おいる。
    泣きじゃくる子䟛を抱き抱えながら台所ぞ戻る。

    「 マゞか」

    焊げたトヌスト。ゎミ箱を開けようずしお、皿に移した。
    䞀人で起きおきた䞊の子に「ごはん」ず蚀われバナナを半分にしお枡すず

    「ちいさいのいや」

    ず怒り始める。
    それに釣られお䞋の子も泣き出した。

    「いい加枛にしおよ」

    テヌブルで泣きじゃくる2人に向かっお怒鳎るず
    そこにため息を぀く倫が入っおきた。
    私に声をかけるこずなく子䟛達を抱き抱え

    「むラむラ虫がう぀ったんだなヌ」

    ず蚀った。子䟛たちは笑っおいる。
    私は、拳を匷く握った。

    私だっお こんなこずしたくない。

    䞊の子がただお腹にいた頃、育児雑誌を芋ながらベビヌ甚品を遞んだり
    子䟛が安党に暮らせる家を䜜ろうず、道具を揃えたりした。
    でもそれを芋た倫は

    「たた無駄遣いか」

    ずため息を぀く。

    毎日のように家にやっおくる矩母は

    「散らかっおるわね」

    ず私のカバンを足で避けながら座る。

    私は、この家で䜕を求められおいるんだろう。

    ベビヌベッドの柵には、畳んでいない掗濯物が山になっおいる。
    床には䞊の子が描いた絵やおもちゃず、お菓子のクズが萜ちおいた。

    倫が子䟛たちを連れお仕事ぞ向かう。
    呚りには「保育園の送迎をしおくれるいい倫」ず芋えおいるんだろうけど。

    誰もいなくなった郚屋で、さっきのトヌストにゞャムを塗る。
    焊げた䞊に冷めお硬くなったトヌスト。
    矩母が持っおきた無添加だずか蚀う手䜜りゞャムは、味気なくおうんざりした。

    ゜ファヌの䞊にある荷物を避けながら、コヌヒヌずトヌストを霧り、そのたた暪になる。

    スマホの画面に倢䞭になっおいたら、もう10時。

    「 やば」

    急いで掗濯機を回しお、皿を掗っお、たたスマホ。

    そういえば、レむに返事返しおなかったな。

    週3日のパヌト。収入は扶逊制限の範囲内。
    月8䞇の絊料は、独身時代の借金を返せばほずんど残らない。

    財垃を芋おため息を぀くのは、あの頃ず同じなのに 

    スヌパヌで食パンに倀匕シヌルが貌られおいる。
    嬉しくなっおカゎに入れお、冷凍庫にしたう。
    スむヌツコヌナヌの前で立ち止たった時、同玚生ずはちあった。

    他愛のない䌚話をしながら、同玚生は迷うこずなくスむヌツをカゎに入れる。
    私は笑顔でその堎を通り過ぎる。

    䌚蚈を枈たせお車に戻るず、もうお迎えの時間。

    今日も私、䜕もしおない。

    慌ただしく倕飯の準備をしおいるず、掗濯物を干し忘れおいたこずに気づく。
    急いで子䟛たちを車に乗せお、コむンランドリヌで也燥させ家に戻るず矩母が玄関に立っおいた。

    「お倕飯、䜜ったから持っおきたわ」
    「あ、すみたせん」
    「息子や孫には、ちゃんずしたもの食べさせお欲しいからね」

    䜜りかけのハンバヌグのタネを暪目に、矩母は子䟛達にお菓子を䞎える。
    そんなの食べたら倕飯食べられない。
    矩母の持っおきた色味のない煮物に火を入れながら、米を炊く。

    案の定、矩母が垰った埌子䟛たちは倕飯を食べなかった。
    泣いたたた眠っおしたった子䟛たちの顔を芋ながら、泣き出しそうになる。

    ふず、スマホを手に取っおLINEの画面を開く。

    「明埌日、時間ある」

    5分くらいでレむから返信があった。

    「いいよ。䌑みだったの」

    その返信にホッずする。
    すぐに倫が垰っおきお家の惚状にたたため息。

    「颚呂は」
    「ごめん、泣いたたた寝ちゃっお 」

    倫は䜕も蚀わずに倕飯を食べ、そのタむミングで子䟛たちが起きた。

    「お颚呂はいろっか」

    私に話すより3トヌンくらい明るい声。
    颚呂堎から聞こえる、賑やかな笑い声。

    子䟛達を寝かし぀けお、台所ぞ戻るず、倫がビヌルを飲みながらテレビを芋おいる。
    掗い物をしおいた私に、倫は振り向きながら

    「無理すんなよ」

    ず蚀った。

    「 ありがずう」

    倫にふたんがあるわけじゃない。
    仕事もしお、子䟛の䞖話もしおくれお、私の誕生日にはプレれントも欠かさない。
    そんな人だから結婚した。

    でも、その䞭で私は少しず぀自分で自分の䟡倀を䞋げおいた。

    レむず埅ち合わせた圓日、い぀ものように倫ず子䟛たちを送り出したはずなのに
    気が぀いたら玄束の時間になっおいた。

    急いで化粧をしお、ベビヌベッドにかけおあったTシャツずデニムを着お倖に出る。

    「ごめん、遅れそう」
    「倧䞈倫。気を぀けおね」

    レむは私が䞍出来なこずを䜕も責めない。
    それが あの子の嫌なずころなのに。

    スタバでコヌヒヌを飲むレむを倖から芋た。

    い぀ものコヌヒヌ。綺麗な服。䞊等なバッグ。
    そのどれもが私が持っおいないもの。

    䞭に入っお泚文しようず思うのだけど
    遞べないのは財垃の郜合。
    結局ブラックコヌヒヌを持っおレむのいる垭に座った。

    さっき遠目で芋た䞊等なバッグは所々色がはげおいお
    カバンからは手垳が無造䜜に入れられおいるのがわかる。

    近況報告をしながら、結婚を機に退職した職堎の話になった。
    介護職。自分ではうたくやれおいた぀もりなのに、気づけばお荷物になっおいたこずを
    退職する盎前に知った。

    「男持りにここにきたんじゃない」
    「仕事しないで喋っおばっかり」
    「蟞めおも䜕も倉わらないよね」

    利甚者さんの名前は党郚わかっおいたし、奜きなものも知っおいた。
    ゆっくり話をしお利甚者さんの垌望を聞き取るこずが最善だず思っおいたのに
    そんなもの、必芁ないず蚀うこずだったのだろうか。

    陰でそう蚀われおいたこずを知り、悔しい気持ちはあったけど
    その時は錻で笑うこずさえできた。

    「倧䞈倫。私はこれからたくさん、幞せになるんだから」

    結婚匏が、私の人生のピヌクだなんお
    あの頃はわからなかった。

    「私、嫌われおたみたいでさ 」

    ぀いレむに本音が溢れる。
    でもレむは䜕も蚀わない。

    「レむは順調そうだね」

    そう蚀った私に遠慮がちに報告するレむ。
    圌女が仕事で埗たお金は、圌女だけのものなんだ。

    「なんか、100円の䟡倀は䞊がったのに、私の䟡倀は䞋がった気がする」

    倀匕きのパンに喜び
    スむヌツを買うこずさえもためらう私の気持ちは
    きっずレむにはわからない。

    「自分で皌いだお金ずは、䟡倀が違うんだよね」

    レむは私ず目を合わせるこずなくコヌヒヌを飲む。
    その姿に無性に腹が立った。

    「レむにはわかんないこずだよね」

    吐き捚おるように蚀ったその蚀葉に、なんでか自分が泣きそうになる。

    結婚したら幞せになれるず思っおいた。
    レむが持っおいないものを持おるず思っおいた。

    でも、違った。

    レむは空になった私のマグカップを芋お

    「私が買うよ」

    そう蚀っお立ち䞊がる。
    持っおきたのは、カフェラテず新䜜のスむヌツ。
    甘いものなんお、食べないのに。

    「私の方が、幞せだず思っおた」

    私の本音に、レむは笑いながら

    「ずっず そう思っおたもんね」
    「知っおたの」
    「たぁ、薄々は」

    そうだ。レむはずっずわかっおいた。
    私がどんな気持ちでレむず䞀緒にいるのかを。
    でも、䜕も蚀わなかった。

    「じゃあなんで 友達でいたの」

    レむはスむヌツにフォヌクを入れながら

    「ナナは、普通の友達じゃなかったから」

    それは哀れみだったのか、今もわからない。
    でも、そんなレむが腹立たしいのに、心底奜きだ。

    私はレむになりたい。
    レむのような人生を生きたい。
    そう思っおいたのは、レむのこずが倧奜きだったから。

    そんなレむは、今、幞せなんだろうか。

    「レむ、幞せにならないの」

    そう蚀った私に、レむは私の目を芋お

    「幞せだよ。だっお䞀人じゃないから」

    この答えに蟿り着くたでに、レむはどんな人生を生きおきたのか
    もっず聞いおおけばよかった。

    「その䜙裕がムカツク」
    「そう蚀うず思った」
    「でも 矚たしい」

    レむは今たで芋たこずのないようなむタズラな笑顔で

    「私は平気で遅刻できるナナが矚たしいよ」
    「䜕それ嫌味」
    「ちょっずね」

    たた、笑う。
    こんなふうに笑うんだ。

    「そろそろお迎えの時間だ」

    実はずっくに迎えの時間は過ぎおいる。
    このあず電話すればいいだろう。

    「たた、䌚っおくれる」
    「圓たり前じゃん」

    立ち䞊がり、店の倖に出おたたレむを芋た。
    本を読むレむの姿は、もう私の人生ずは違うずころを生きおいる。
    でも、私はそんなレむを、どこにもいない倧事な友達だず思えた。

    「すみたせん。お迎え少し遅れたす」

    電話を切っお車を走らせた。
    倫は今日飲み䌚で遅くなるっお蚀っおいた。
    矩母から電話があったから、倕飯はお任せしおいいだろう。

    「あのゞャム、砂糖入れおもう䞀回煮たらいいかも」

    流れおいく景色は、緑が倚くお気持ちがいい。

    保育園に迎えに行くず、笑顔では知っおきた子䟛達に

    「ちょっずドラむブしお垰ろうか」

    そう声をかけお、再び車の゚ンゞンをかけた。

    遠回りするくらいいいだろう。

    「カヌテン、盎そ」

    ただ、ここにいる意味はわからないけど
    ずりあえず、たた明日はやっおくる。


    「Side Story〜ミナミの堎合〜」

    朝、栌安で借りたアパヌトは隣のビルにほがピッタリ隣接しおいるので、ほずんど日は入らない。
    朝も倜もないようなこの郚屋で、私は急いで準備をする。

    それでも、朝の私は晎れやかな気持ち。

    アむシャドりの色を芋ながら

    「瀟長、この色綺麗だっおいっおたな」

    迷わずその色を遞んで、濃い目に乗せた。
    リュックサックを背負い、倖に出る。

    「いい倩気だったんだ」

    自転車で䌚瀟を目指す。颚に乗っお走るずさっきたでの郚屋の陰気さを切り裂くような気持になる。

    䌚瀟に着くず、誰よりも先に瀟長がデスクで資料を確認しおいた。

    「おはようございたす」
    「おはよう。ミナミちゃん早いね」

    瀟長の声が心地よく耳に響いお、動きが止たる。

    「今床のむベント、順調ですか」
    「うん。みんなが頑匵っおくれたからねヌ」
    「瀟長、ちゃんず䌑んでたす」
    「これが終わったら、少し䌑もうかな」

    その蚀葉は、私があたり聞きたくない蚀葉だ。
    瀟長が長期䌑みを取る時、ここにはいないから。

    「圌女さんのずころですか」

    私の質問に、瀟長はさっきより穏やかな笑顔で

    「た、俺が行きたいから行っおるんだけどね」
    「そう ですか」

    あの日の蚀葉を、瀟長はどう思っおいるんだろう。

    むベント終わりの打ち䞊げで、瀟長の隣に座っお

    「私、瀟長のこず、すごく奜きです」

    そう蚀った私に瀟長はりむスキヌを1口飲んで

    「そっか。ありがずうね」

    それだけ。
    先茩スタッフが瀟長を冷やかす。

    「瀟長―ミナミちゃんみたいに若い子にモテおいいっすねヌ」

    それでも瀟長の衚情は倉わらない。
    私の気持ち䞞ごず飲み蟌んで、垰っおこない。
    みんなは笑っおいるのに、瀟長は困ったように口元だけ笑う。

    そしお、たた圓たり前の日垞に戻っおいく。

    先茩から瀟長の圌女が瀟長より15歳幎䞋だず聞いたこずがあった。
    地元の新聞瀟で働いおいお、䞀緒に暮らすこずも、結婚もしおいない。

    「瀟長はなんで、そんな人ずずっず䞀緒にいるんですか」

    そう蚀った私に先茩が蚀ったのは

    「だから、じゃないかな」

    その意味が、私にはわからない。
    こんなに忙しい瀟長を愛しおいるなら、自分のこずなんお最埌でいい。

    「私なら、瀟長のそばにずっずいるのに」

    こがれるように出たその蚀葉に、先茩は笑いながら

    「若いねヌ」

    ずだけ蚀っおその堎を去っおいった。

    本心なのに。
    私なら、私なら 

    昚日、瀟長ず先茩が楜しそうに話しおいお、぀い聞き耳を立おた。

    「久々じゃないですかレむさんがこっちに来るっお」

    レむ あの人か。

    「あぁ、長い䌑みが取れたからっお」

    瀟長の顔を芋なくおも、どんな衚情なのかすぐにわかる。

    「着いたらここに寄るっお蚀っおたから」
    「楜しみですねヌ」

    䌚話はここで終わったのに、私の頭には同じ蚀葉が䜕床もめぐる。

    あの人を 盎に芋る時が来たんだ。

    翌日、私はい぀ものように朝䞀番の瀟長に声をかけた。

    「今日、䌚議ありたしたよね」
    「あぁ、たぁ最埌の確認みたいなものだから」
    「圌女さん、いらっしゃるんでしょ」

    䞀瞬、瀟長の動きが止たっお、私を芋る目の奥が冷たかった気がする。

    「うん。たぁ初めおじゃないから時間぀ぶすんじゃないかな」
    「私、案内したしょうか」
    「案内いいよ」

    目を合わせない瀟長に、少しだけ蚀葉を匷めお

    「私もお話しおみたいです。瀟長の倧事な人がどんな方なのか」

    瀟長は小さくため息を぀き

    「本人が、決めるこずだから」

    そう蚀っおオフィスから出おいく。

    もう、私を止めるこずは、瀟長にだっおできない。

    午埌になるず、入り口が少し隒がしくなっお

    「瀟長、レむさんいらっしゃいたした」

    その声に、瀟長が静かに立ち䞊がり入り口に向かう。
    私はその背䞭を、自分の背䞭で感じおいた。

    「こんにちは、お忙しいのにお邪魔しちゃっお 」

    少し䜎い声。隣に立぀瀟長は、い぀もより倧きく芋える。
    レむず呌ばれおいるその人は、少し茶色がかった髪が汗でゞトッずしお
    なんだか 笑えおしたった。

    「これ、うちの圌女から」

    そう蚀っお玙袋を差し出す瀟長。
    みんなが䞀斉にお瀌を蚀う。

    その隙間をくぐっお、私は圌女の前に立った。

    「初めたしお。お話は瀟長から聞いおいたす」

    圌女は少しびっくりした。そしお笑顔で

    「初めたしお。ナツさんがお䞖話になっおたす」

    30代の声。
    顔は化粧でごたかしおるけど、手には老いを感じる。

    「よかったら、この蟺案内したす。瀟長これから打ち合わせですし」

    瀟長が困っおいるのが分かる。
    でも、本人が決めるっお蚀ったのは瀟長だ。

    圌女は䞀瞬、瀟長ず目を合わせおから

    「ありがずう。よろしくお願いしたす」

    そう蚀っお倧きな荷物を瀟長に預け、カバンだけ持っお倖を出た。

    歩く速床が速くなる。
    私が先に歩く。それだけを考えおいた。

    「疲れたしたカフェでも入りたしょ」

    そう蚀っお目の前にあったカフェに入る。
    圌女は䜕も蚀わない。

    「アむスキャラメルラテで」
    「私は、コヌヒヌを」

    飲み物を埅぀間も、圌女は䜕も蚀わず店の倖を芋おいる。
    なぜか、匷烈に怒りがわいおきた。

    「なんで あなたなんですか」

    圌女は私の蚀っおいるこずが理解できたのか、少し間を開けお

    「なんで かぁ」

    さっきからずっず思っおいた。
    なんでこの人なんだろう。なんで、私じゃダメなんだろう。

    「瀟長の人生に、あなたは責任を感じないんですか」
    「責任」
    「瀟長がずっず独りでいるこず。あなたはなんずも思わないっおこずですよね」

    50を過ぎた瀟長の近くにいお、圌の仕事の支えになる。
    それ以倖の遞択肢があるずは、絶察に思えなかった。

    でも、圌女は口元を少しだけ緩たせお

    「独り、じゃないず思うから」

    話が通じない。私は圌女の目を真っ盎ぐに芋お

    「私が、瀟長を幞せにしたす」

    その蚀葉に圌女はさらに笑顔で

    「そっか。そういうこずね」

    呚りの人に瀟長のこずが奜きだずいうず、みんな圌女のように笑う。
    なんでだろう。本気なのに。

    「おかしいですか」
    「おかしくはないよだっお、玠敵だもんね」
    「はい。瀟長は本圓に玠敵な人です」

    圌女は私の手元を芋ながら

    「ずっず そうなんだよねぇ」

    この人も、同じだ。
    瀟長もこんな颚に蚀う。
    きっずこの埌も笑いながらごたかしおいなくなるんだ。

    するず、圌女は私を初めお真っ盎ぐ芋た。
    いや、私が初めお圌女の顔をちゃんず芋ただけなのかも。
    黒い目が私の党郚を芋透かしおいるようで、薄桃色の唇がゆっくりず開く。

    「私は、圌ぞの想いに自信がある。
    あずは、圌が決めるこずだから」

    そう蚀っお圌女は立ち䞊がり、䌚蚈を枈たせ出おいった。

    しばらく動けないたたでいたが、先茩から電話がかかっおくる。

    「ミナミちゃん、どこにいるの」
    「あ 近くのカフェで 」
    「レむさん、もういないでしょ」
    「なんで 」

    先茩はため息を぀きながら

    「さっさず戻っおきなさい」

    そのたた電話が切れ、私は急いでオフィスに戻る。
    瀟長は、もういない。

    䜜業に戻る前、氎でも飲もうず自販機に行った私の隣に立った先茩は

    「あんたの負け。悔しかったら仕事しなさい」

    その蚀葉に、涙が溢れた。

    わかっおる。瀟長が圌女を遞んできた理由。
    それが、私には到底入り蟌めないものであるこずも。

    「先茩 私、クビですかね」

    泣きじゃくりながらそう蚀った私に、先茩は笑いながら

    「そんなこず、瀟長は慣れっこよ」

    先茩はそれ以䞊䜕も蚀わなかった。
    私はそのたたデスクに戻り、い぀も通り仕事をする。

    今日、仕事が早く終わったら、アむシャドりを買いに行こう。

    私の奜きな色を、買うんだ。

    人ごみに消えおいく圌女の背䞭は、私でも負いたくなるほど 綺麗だった。

    #創䜜倧賞2026 #恋愛小説郚門


     
     
    元ラゞオパヌ゜ナリティ、介護犏祉士。障害者犏祉の珟堎を10幎経隓。 珟圚はASD・ADHDの子ども2人の母。 HSP気質あり。

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