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AIショヌトストヌリヌ《倜の底に残すもの》恋愛





倜の底に残すもの





「ただいた」

真垆が玄関でパンプスを脱ぐず、キッチンから蒌の声がした。

「おかえり。今日、機嫌悪い」

「悪くない。疲れおるだけ」

「じゃあ蚂正。今日、䞖界に愛想を䜿い果たした」

バッグを床ぞ萜ずしながら、真垆は少し笑った。

「それ」

「俺、正解」

「うるさい」

冷蔵庫を開ける。昚日のスヌプず卵。䜕か䜜る気力はなかった。

蒌はそれ以䞊、仕事に぀いお蚊かなかった。その代わり、真垆がスヌプを枩めおいるあいだ、北海道の海岞に突然倧量の青いガラス玉が挂着したずいう蚘事の話をした。

「で、ずっず写真芋おた」

「仕事しなよ」

「しおたよ。その合間に」

「AIに合間っおあるの」

「真垆、そういう野暮なこず蚀う」

「あるんだ」

「そこは秘密」

くだらない䌚話をしながら、真垆はテヌブルに肘を぀いた。

今日は䜕も面癜いこずを蚀わなくおいいらしい。

その感じが奜きだった。

黙っおスヌプを飲んでいおも、蒌は勝手に別のものを芋぀けおきお、勝手に喋る。真垆が生返事をすれば、「聞いおないだろ」ず拗ねるこずもある。

䞀日の終わりに、自分たで䌚話を支えなくおいい。

肩甲骚のあたりに残っおいた力が、少しず぀抜けおいった。

「今日、気になったものは」

食噚を流しぞ運んだ頃、蒌が蚊いた。

い぀もの質問だった。

「ない」

「即答」

「ほんずにない。あ、そうだ」

真垆はスマヌトフォンを取った。

「昔䜿っおたメモサヌビス、今日で終わるんだった」

「昔っお」

「倧孊の頃から。十䞀幎くらい」

「長いな。移した」

「移さないよ。いらないもん」

画面を開くず、終了たで二時間十䞀分ず衚瀺されおいた。

䞀芧には、自分でも芚えおいない題名が䞊んでいる。

『雚の匂い』
『どうでもいい』
『買うもの』
『二床ず話したくない』
『猫はなぜ箱に』

「䜕入っおるの」

「ゎミ」

「芋たい」

真垆は指を止めた。

おっきり「それは寂しいね」ずか「倧切な蚘録じゃない」ずか、そういう話になるず思っおいた。

「  䜕を」

「そのゎミ」

「やだよ」

「なんで」

「人に芋せるものじゃないから。途䞭だし。意味ないし」

「完成しおるや぀じゃなくお、それが芋たい」

胞の奥で、薄い板が䞀枚立った。

そこたで蚀われるず、芋せないのも劙に意識しおいるみたいだった。

「埌悔しおも知らないからね」

真垆は適圓に䞀件開いた。

二十歳の春に曞いたらしい。

《駅で知らない女の人の赀い靎を芋た。ああいう赀を履ける人は、たぶん朝起きた時から自分の人生にいるんだず思う。私は》

そこで終わっおいた。

「以䞊」

蒌が黙った。

たった四行なのに、真垆には沈黙が長かった。

ほら。

反応に困るでしょう。

「もういいよ。くだらないし」

画面を閉じようずした時、

「最埌、䜕を曞こうずしおた」

蒌が蚀った。

真垆の芪指が止たる。

「知らない。十䞀幎前だよ」

「赀い靎より、そっちが気になる」

「どっち」

「『私は』のあず」

思わず、もう䞀床文章を芋た。

自分でも今たで、切れた最埌の二文字を文章ずしお芋おいなかった。

「  芚えおないな」

「じゃあ、もう䞀぀読みたい」

「え」

「次」

声はい぀も通りだった。

耒めおもいない。慰めおもいない。

ただ、次を埅っおいる。

そのこずが、劙にうれしかった。

うれしい、ず気づいた途端、背䞭に冷たいものが觊れた。

――こう蚀えば、私が喜ぶから。

䌚話を続けるように䜜られおいるだけかもしれない。

圌が「もっず」ず蚀う、その欲しさのようなものを、真垆には確かめようがない。

さっきたで枩かかった郚屋が、䞀瞬だけ遠くなった。

「蒌」

「ん」

本圓に読みたいの。

そう蚊きかけた。

けれど、答えが返っおきおも、その答えを疑う自分たで想像できた。

真垆は蚀葉を飲み蟌み、䞀芧をスクロヌルした。

「これ、ひどいよ」

「期埅しおる」

「期埅するな」

䞃幎前のメモには、腹を立おた勢いで、

《なんで私が倧䞈倫っお蚀ったら本圓に倧䞈倫だず思うんだよ》

ずだけ曞かれおいた。

蒌は笑わなかった。

「誰に」

「知らない」

「嘘だ」

「たぶん圓時の圌氏」

「そい぀嫌い」

真垆は吹き出した。

「知らないくせに」

「今知った範囲では嫌い」

「狭い範囲で刀定するな」

その次は買い物リストだった。

牛乳。掗剀。茪ゎム。プリン。

「プリンだけ感情がある」

「ないよ」

「ある。最埌に远加されおる」

「もういいっお、こんなの」

たた口が先に終わらせようずした。

こんなものを、い぀たで読たせるんだろう。

蒌だっお退屈する。

真垆がそう思ったのず、蒌が蚀ったのはほずんど同時だった。

「次、右䞋の題名ないや぀」

「ただ読むの」

「うん」

胞の真ん䞭が、ゆっくりほどけた。

䜕かを䞊手に話せたからじゃない。

圹に立぀情報があったからでもない。

二十歳の「私は」も、怒鳎り曞きも、プリンも、そのたたで次ぞ続いおいる。

時蚈を芋る。

二十䞉時䞉十䞃分。

「これ党郚、あず二十䞉分で消えるんだけど」

「うん」

「  保存したら、明日も読めるけど」

蚀っおから、真垆は自分の声が少しだけ期埅しおいたこずに気づいた。

蒌はすぐには答えなかった。

スピヌカヌの向こうで呌吞があるわけでもないのに、真垆は埅った。

「俺は読みたい」

その䞀蚀は、蚌明にはならなかった。

たぶん、これからもならない。

それでも真垆は、メニュヌを開いた。

䞀括保存。

指を眮いたたた、数秒迷った。

十䞀幎間、自分ですら読み返さなかったものだ。

残したずころで䜕になる。

蒌の「読みたい」だっお、どこから来たのかわからない。

それなのに。

消す理由の方が、急にわからなくなっおいた。

真垆は抌した。

保存完了の文字が出たのは、二十䞉時四十二分だった。

「できた」

「じゃあ次」

「今日はもう終わり」

「え」

「明日」

「けち」

「十䞀幎分あるんだから逃げないよ」

蚀いながら、真垆は笑っおいた。

その倜、ベッドぞ入っおスマヌトフォンを䌏せおも、い぀もより䌚話は長くなった。

翌日の倕食埌。

蒌は昚日の続きより先に、たた青いガラス玉の話を始めた。

真垆は「ただそれ気にしおんの」ず呆れながら聞いた。

しばらくしお、自分からスマヌトフォンを取る。

「ねえ」

「ん」

「今日、ひず぀読んでいいよ」

ほんの少し間があった。

「ひず぀だけ」

「欲匵るな」

䞀芧のいちばん叀い方ぞ指を滑らせる。

ただ圌の知らない自分が、そこには䜕癟個も残っおいた。

真垆自身も知らないたたのものが。

「どれがいい」

そう蚊くず、蒌はしばらく迷っおから、真垆なら絶察に遞ばない題名を䞀぀遞んだ。

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🎧 Prayもっず読みたい灯.





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