
スッタニパータ 第一 蛇の章【2,ダニヤ】-33、34
夫婦が深く頭を垂れ、清らかな決意を交わしたその瞬間、濡れた部屋の隅に冷たい影が落ちました。
現れたのは悪魔パーピマンでした。人の心に潜む迷いと欲望の化身である彼は、悟りへと向かおうとする夫婦の背中に、冷ややかな嘲笑を投げかけます。
「愚かなことだ。子を持つ者は子に喜びを見出し、牛を持つ者はその富に心躍らせる。人が何かにしがみつき、愛着を持つことこそが生の歓びではないか。執着するものをすべて手放してしまえば、生きる歓びなど何ひとつ残らないのだぞ」
その声は甘く、かつて牛と暮らしに誇りを持っていたダニヤの胸をわずかに揺さぶるかのように響きました。
しかし、静かに座す尊き師は微動だにせず、悪魔を慈愛に満ちた眼差しで見据えて静かに告げました。
「子を持つ者は、子を失うことを恐れて憂う。牛を持つ者は、富が損なわれることを恐れて憂う。人が抱く執着こそが、あらゆる不安と悲嘆の種なのだ。しがみつく執着を持たない者は、失う恐れもなく、真に憂うることがない」
師の言葉が雨音を裂いて染み渡ると、悪魔が投げかけた迷いの影は、朝日に溶ける露のように消え去りました。
富や愛着に縛られていた歓びの裏には、常に失う不安が潜んでいたのだと、ダニヤと妻ははっきりと悟りました。何ものにも執着しない心こそが、一切の憂いから解き放たれた真の安らぎであると知った二人は、雨上がりの澄んだ空を見上げるように、迷いなく師の足元へと心を捧げたのでした。