
スッタニパータ 第一 蛇の章【2,ダニヤ】-30、31、32
夕暮れの空がにわかに暗転し、重く垂れ込めた大雲から激しい雨が降り注ぎました。乾いた低地もなだらかな丘もたちまち水に洗われ、激しい雨音が大地のすべてを包み込んでいきます。
頑丈な小屋の中で、牛飼いのダニヤは妻の手をそっと握りしめました。肥えた家畜と満ち足りた暮らしを誇り、「どんな嵐が来ようと我が家は揺るがない」と自足していたダニヤでしたが、雨宿りに訪れた一人の僧侶と言葉を交わすうちに、胸の奥にあった傲慢さは静かに溶け去っていました。
豪雨の中にあっても、目の前の聖者がまとう気配は水面のように澄み渡り、一切の恐れや執着から解き放たれていました。富や備えで身を守ることの儚さと、何ものにも囚われない心の真の強さを、夫婦はその静寂の中に悟ったのです。激しい雨音は、いつしか自分たちの迷いを洗い流す祝福の響きのように聞こえていました。
ダニヤは妻と顔を見合わせ、深く頷き合いました。二人は泥に濡れた土間に跪き、静かに合掌して僧侶を見上げました。
「尊き師よ、私たちは今日、真に眼を開かれた方にお目にかかることができました。これほど大きな恵みはありません。どうか私たちの師となって、導いてください」
ダニヤの震える声に重ねるように、妻もまた澄んだ瞳で頭を垂れました。
「妻も私も、心から従順でございます。尊き方のもとで清らかな道を歩み、迷いと苦しみの尽きないこの生死の海を渡り、彼岸へと至りたいのです」
富への執着を手放した二人の心には、どんな豪雨にも揺るがない、深く静かな光が満ちていました。