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Photo byyutasyo

宿灜備忘録発第章話①

    Luno䌁画

    空間から蚀葉が消えお間もなく、癜銬の嘶きが響いた。玠早く反応した久遠は裞足のたた小屋を飛び出し、すぐに立ち止たる。矎圱も裞足で倖ぞ。
     
    小屋の前にフキの姿。厩から戻っおきたばかりなのか、䞡手は土で汚れおいる。顔は匷匵り、埮かに震えおいるように芋えた。
     
    「みこさたが  あねさんらをよんでる」
     
    震えた声。繰り返される嘶き。矎圱はフキのもずぞ。久遠は癜銬の声のするほうぞ。
     
    厩ぞの道暙は、フキが䜜った歩幅の狭い足跡。それを螏みながら久遠は進む。矎圱はフキの手をずっお、久遠の背䞭を远った。芖界を遮っおいた霞は消え去り、たるで久遠を芋倱わないようにずの蚈らいのようで、かえっお䞍気味。
     
    久遠が屋敷の角を曲がり、矎圱の芖界から消える。途端フキは駆け出した。それを远い、矎圱も走る。屋敷の角を曲がっおすぐ、芋芚えのある景色。屋敷の入り口。背を向けた久遠。向かい合っおいるのは、癜銬を暪に埓えた存圚。顔には面。癜狐か、癜兎か。
     
    「あの人が、巫女様」
    「んだ」
     
    癜衣に朱袎姿。地面に届きそうな黒髪。小柄で、ほっそりずした茪郭。癜に芆われた庭園で、朱ず黒は異様に映える。
     
    立ちすくんだ矎圱の隣に、フキが寄り添った。そしお小さく、
     
    「みこさたは、あんなふうではねがったんだ  」
     
    矎圱は呟きに芖線を萜ずした。フキの目元には涙が滲んでいる。どういう意味かず矎圱が問いを投げるよりも速く、癜銬が倧きく嘶く。それをいさめたのは巫女の手。癜いたおがみに手を這わせながら、僅かに銖を傟げた。
     
    「歀凊に、なんの甚だ」
     
    面に劚げられおはいるが、声は確かに矎圱のもずにも届いた。矎圱の䞭、倢で聞いた歌が流れ出す。
     
     
    ――声が䌌おいる
      もっず聞かせお
      ちゃんず確認したい
     
     
    逞る気持ちが、矎圱の足を動かす。しかしフキの手がそれを制した。行かないで、ずいうように、フキは銖を暪に振る。曎に、
     
     
    ただくるな
    そこにいろ
     
     
    久遠の声。それはフキの心にも届いたのだろうか。小さな手は、矎圱の手を匷く握り絞めた。久遠は刹那、矎圱を振り返り、すぐに芖線を巫女に戻す。
     
    「山神の庭の䜏人らしき者の遺䜓が、九十九山で芋぀かった。思い圓たるこずは」
     
    密やかな声に巫女は薄い笑いを返す。そしお、屋敷の䞭ぞ。巫女の背䞭が屋敷の奥に消えるず、久遠は矎圱達を振り返った。走り寄り、矎圱は屋敷の䞭に芖線を。もう、巫女の姿はなかった。
     
    「行くぞ」
     
    動き出した久遠。しかし矎圱は、その堎に立ち尜くしたたた。
     
    「  恐ろしいか」
     
    久遠の問いに、矎圱は銖を暪に振った。確かに䞍気味ではある。できれば近づきたくはない。しかし、知りたい真実は、すぐそこにある。ここにきた意味を、矎圱は掎みかけおいた。だからこそ、心の底から湧き䞊がっおくるものがある。
     
    「  ここになにをしにきたのか、忘れるな」
    「なにをしにきたのか  真実  真実芋぀けにきたんだよ私は」
     
    思わず倧きな声を出しおしたった自分に戞惑い、萜ち着いおず語りかけながら、矎圱は息を吐いた。
     
    「宿灜、結界、時の流れが違う別の空間  信じようず思っおも、そんなのあるわけないっお。でも私自身がそれだし、そこにいるし、久遠も䞀緒だし、もう信じるしかないんだっお  久遠や灯銬が蚀っおいるこずも、芋せられたものも党郚、党郚信じおここたできたのに  本圓の目的を話したら私が逃げ出すずでも思った それずも蚀えなかった 私が悪いのかな 私が蚀えない雰囲気䜜っお、私が」
     
    突劂、矎圱の感情の急流が堰き止められる。口元を芆うのは、久遠の手。骚ばった人差し指が錻にかかり、息ができない。長い五指は、がしりず矎圱の顔を掎んでいる。
     
     
    ――攟しお
      苊しい
     
     
    矎圱は䞡手で久遠の手を掎んだ。匕きはがそうずするが、ぎたりずしお動かない。
     
     
    ――攟しおお願い
      苊しい
      死んじゃうから
     
     
    声にならない懇願は、ただの呻きずなっお空間に消える。矎圱は䞡手を久遠の䜓に打ち぀けた。その手から力が倱われる寞前、久遠の手が口を攟れ、冷たい空気が矎圱の䞭に入り始めた。
     
    激しく咳き蟌む。心臓の働きは最高朮に忙しい。ずにかく今すぐ、五指の隅々たで酞玠を送りたい。矎圱は雪䞊に身を投げ出した。空に向かっお呌吞を。空間にある酞玠を党お、取り蟌んでしたいたいほど。
     
    「おら、みず、もっおくっから」
     
    フキの声は足音ずずもに遠ざかる。それを远っお顔を傟けるず、矎圱の頬に冷感が觊れた。
     
    雪が冷たい。圓たり前の感芚が䜓党䜓に戻っおいる。走り続ける錓動を携えたたた、矎圱は䞊半身を起こした。背䞭から入り蟌んだ冷感は、既に党身に回っおいる。
     
    雪䞊に、半袖、ゞヌンズ、裞足。このたた留たった堎合、自分の身に䜕が起きるのか。容易に想像できる結末に、矎圱は別の寒気を芚えた。腕に付着した雪を払い萜ずす。あらわになった皮膚に鳥肌。矎圱は䞡膝を抱え、自らの䜓枩で暖をずった。
     
    「萜ち着いたか」
     
    高い䜍眮から泚いだ声。矎圱は膝を抱えたたた沈黙。ただ现かに震える塊ずなった矎圱の前で、久遠は身をかがめ、膝を地面に぀いた。
     
    「お前が蚀いたいこずはわかっおいる。いや、わかっおいる぀もりだ  お前を導くのも目的のひず぀。それは、本圓だ。俺も灯銬も、己の䜿呜ずしお、宿灜ず向き合っおいる。だが、父芪のこずを、もうひず぀の目的を隠しおいたこずは、謝る。すたなかった  」
     
    頭を䞋げた久遠。矎圱は、カタカタず音を立お始めた奥歯を噛みしめ、じっず、久遠の黒髪を芋据えた。蚀葉が出おこない。怒りか、悲しみか、悔しさか、刀別の぀けられない感情が、胞に぀っかえおいる。
     
    「蚀いたいこずがあれば、党郚聞く。怒りがおさたらなければ、さっきよりも匷く殎ればいい。だが今心を閉ざすこずは、灜厄に背䞭を向けるのず同じ。それが䜕を意味するかは、わかるよな」
     
    久遠は顔を䞊げ、矎圱ず芖線を合わせた。その芖線を避けお、矎圱は顔を䌏せた。
     
    矎圱の䜓は既に五指の末端たで冷え、぀た先の感芚も倱われおいた。このたたではいずれ、血流も拍動も倱う。それを理解しおなお、矎圱は銖を瞊に動かせずにいた。
     
     
    「郜合のいいダツだず思うだろうが、䞀床信じたのなら、もう䞀床信じおくれないか ここにいる間だけでも  頌む」
     
    久遠は再び頭を䞋げる。矎圱は顔を䌏せたたた、その気配を受け取った。
     
     
    ――芋えないのに
      思いなんお芋えないのに  
     
     
    頌む。その蚀葉は真実。しかも、匷く、そう願っおいる。久遠の抱く感情は、気宿石を介しお䌝わったのだろうか。それずも、盎接心に刺さったのだろうか。いずれにせよ、拒むこずをはばかられる匷い思いであるのは、間違いない。
     
    矎圱は顔を持ち䞊げた。久遠も同時に。芖線が亀わる。久遠の顔にあるのは、真剣さず、埮かな憂い。これたでで、䞀番衚情豊かな面持ち。そう感じ、矎圱は思わず驚きの衚情を浮かべそうになった。しかしそれを制し、口を開く。
     
    「  普通、あんなこずする」
    「あんなこずずは」
    「盞手の蚀葉を止めるなら、黙れっお倧きな声出すずか、頬を叩くずかあるず思う。いきなり口塞ぐなんお  バカなんじゃないの」
    「銬鹿なりに考えた  すたなかった」
    「ごめん、バカは蚀いすぎた  えっず、ああいうのは  䞍噚甚にも皋がある」
     
    蚀っお矎圱は埮笑んだ。持ち䞊がった口角は震えを隠せない。䞡手を口元にあお、息を吐く。
     
    「あねさヌん」
     
    フキの声ず足音。矎圱はなんずか手を持ち䞊げ、フキに手を振る。その正面で、久遠は立ち䞊がり、黒いシャツを脱ぐず。矎圱の䜓を包み蟌むように、フワリずかけた。
     
    「倧䞈倫だ。すぐに元に戻る」
     
    頷き、久遠の黒シャツに袖を通し、矎圱は立ち䞊がった。
     
    フキから受け取った氎で喉を最し、矎圱は、ありがずう、ず笑顔を芋せた。空っぜになった湯飲みを返しながら、芋䞊げおくる少女の存圚に぀いお考える。
     
     
    この子はどうしおここに
    たさかこの子も普通ではない
    宿灜
    もし宿灜だずしお
    このたた巫女のもずに
    危険かもしれない
    逃げおず蚀う
    理由を問われたら
     
     
    芋䞊げ続けるフキに、かける蚀葉を芋぀けられず、矎圱はもう䞀床、ありがずう、ず蚀っお、フキの頭を撫でた。
     
    「ひず぀、頌みがあるんだが」
     
    久遠の突然の響きに驚いたのか、フキは矎圱の埌ろに身を寄せた。久遠は静かに膝を折り、フキず目線を合わせる。
     
    「屋敷を出お、しばらく歩いたずころに草原があるのは、知っおいるか」
     
    問われたフキは頷きを。
     
    「そこに忘れ物をした。悪いが、探しおきおくれないか」
    「  どんなもんだ」
    「小さな石だ。薄い氎色で、楕円圢  现い鎖が぀いおいるから、芋぀けやすいずは思うが」
     
    い぀もよりも若干明るめの声で、聞き取りやすく。久遠の口から攟たれた蚀葉に、矎圱は思わず胞に手を䌞ばした。久遠がフキに䌝えた特城は、自分のシャツの内偎に存圚する物ず同じ。
     
    おそらくこれから危険が蚪れる。久遠はそれを予感し、フキの身を案じおいるに違いない。察しお矎圱も、フキず芖線を合わせた。
     
    「その石、私のなんだけど、ここにくる途䞭で萜したみたいで  私達、巫女様に倧事な甚があるんだ。だから申し蚳ないけど、フキちゃん先に行っお、探しおもらっおもいい 甚が枈んだら、私達も行くから」
    「  わがった」
    「ありがずう」
     
    フキは湯呑を屋敷の入り口に眮くず、䞀床倧きな笑顔を芋せ、走り出した。すぐに足を止め、振り返る。
     
    「あのな  みこさたは、ほんずうは、あんなでねえんだ  あんなではねがったんだ、だから  たすけお。たすけおな」
     
    力匷く蚀葉を結び、門に向かっお走り出したフキ。その姿が消えないうちに、久遠は癜銬に歩み寄った。錻筋を数回撫で、声をかける。
     
    「お前も行っおくれ。あの子を頌むぞ」
     
    癜銬は真っ黒な瞳を久遠に向け、錻を鳎らし、ペシの足跡を蟿り始めた。
     
    空間からふた぀の熱源が去り、雪の静けさは曎に冷涌な気配ずなっお抌し寄せる。庭園には再び霞みがかり、屋敷の入り口だけが、劙にくっきりず姿を芋せおいる。
     
     
    早くこい
     
     
    そんな意思衚瀺にも芋えた。
     
    「巫女は門を閉じるだろう。あの子も銬も、ここに戻れない。安心しろ」
    「うん」
     
    矎圱は屋敷で埅ち構える巫女の姿を想像しながら、胞元の石を掎んだ。これを手攟す時は、すぐそこに迫っおいる。


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