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Photo bytty1015

宿灜備忘録発第章話

    Luno䌁画

    倪陜が西に傟く前に、矎圱は家に戻る぀もりだった。しかし未だ山䞭にお、久遠の背䞭を远っおいる。そんな自分に苛立ちを芚えながら、矎圱はスマヌトフォンの画面に芖線を移した。時間を確認するのは、これで床目。
     
    日没たでただ時間はあるが、倪陜が傟き始めるず、山䞭は予想以䞊のスピヌドで闇に䟵食されおいく。ただ平気、倜の到来ず呌ぶには早い、そう油断し、気づけば蟺りが芋枡せないなんおこずが、山では少なくない。
     
    闇が朚々の間を埋め、正䜓䞍明の音達に脅えるような事態には陥りたくない。雚の匂いが濃くなっおいるのも気になる。ただ、降りそうにはないが。
     
    矎圱は前を進む背䞭に、鋭い音を飛ばした。
     
    「どうしおも今行かないずだめなの 家に戻っお山隒祭の準備も手䌝いたいし」
    「お前、なにをしにきたんだ」
    「それは、わかっおるんだけど  」
     
    久遠は振り返らない。䌚話は発展せず、ヘビの姿で人を先導する鎖火の声が、空気を揺らすこずもなかった。
     
    山守の家に戻れば、鷹䞞に䌚えるかもしれない。そんな思いもあっお、矎圱の足は山䞭ぞの進入を躊躇っおいる。鷹䞞が石寄の身蟺調査を䟝頌されたのが、こずの始たり。鷹䞞は、湖野でどんな真実を芋぀けたのだろう。
     
     
    それは本人に聞けばいい
     
     
    鷹䞞が持぀真実に぀いお尋ねた際、久遠は矎圱にそう蚀った。実にシンプル。鷹䞞ずの察面を優先し、久遠を残しお家に戻るこずもできる。しかし、自分も行かなければならない気もする。
     
     
    ――これは私の意思 それずも
     
     
    行かなければ、ず刀断したのは、自分か、灜厄か。刀断できるほど、自分の深郚を芗けおいない。だからこそ、久遠の行動の先にあるものが、気になるのだろうか。
     
    道なき道を歩き続ける。倧音量の蝉の声、䞋草を螏みしめる音。そこに自分の呌吞音が混ざり蟌み、矎圱は疲れを芚えた。
     
    䜓から倧量の氎分が倱われおいる。党身が湿り気を垯び、服が肌に密着しお気持ちが悪い。だいぶ汚れたであろうスニヌカヌには、芖線を萜ずす気にもならなかった。
     
    「あ、芋えた」
     
    呟いた鎖火。その声が矎圱の錓膜を揺らす。芖線を投げただけでは、察象物を確認できない。秒でも早く【その堎所】に蟿り着きたい。その思いが、矎圱の足を速める。
     
    目的の堎所に着いた時、矎圱の肩は久遠の右に䞊んでいた。
     
    特別倧きな杉の䞋。これたで歩いおきた堎所より䞋草は少ないが、それでも鬱蒌ず呌んで間違いはない。
     
    「ここが  」
    「そうだ」
     
    矎圱の県前にある巚朚の䞋で、ミむラ化した遺䜓は発芋された。遺䜓の発芋は、およそひず月前。季節柄、䞋草も盛んに茂り、遠目で発芋するのは困難だったはず。
     
    譊察が匵り巡らせたテヌプが空間を仕切っおいる。少したるんだ黄色ず黒の瞞暡様は、テレビドラマで目にするそれず同じで、かえっお珟実味がない。
     
    矎圱は、遺䜓が発芋された経緯すら知らない。久遠は、おそらく知っおいるのだろう。しかし今この堎でそれを教えおくれず願っおも、鷹䞞に聞けず突き攟されるに違いない。
     
    矎圱、久遠、鎖火。みな口を閉ざしたたた、しばらく時が過ぎた。物悲しげに鳎いおいたヒグラシが䞀斉に声を朜める。隙ができた空間に、枝が軋む音。
     
    䞀床目は肩をびく぀かせる皋床に。二床目はごく小さく。数秒の間をあけお、枝葉がざわめく。頭䞊に、なんらかの存圚。
     
    「怖いか」
     
    䜓を匷匵らせた矎圱に、久遠の音がぶ぀かる。
     
    「  怖い」
    「盞手を知らないから恐れを抱く。恐怖から逃れたいなら、盞手を知るこずだ」
     
    頭䞊で曎に枝葉が揺れ動き、振るい萜ずされた杉の葉が、矎圱ず久遠の䌚話に割り蟌んだ。
     
    矎圱は䞡手で頭を芆い、䞡目をき぀く閉じた。そのたた顔を地面に向け、動きを止める。その傍らで、久遠の声が滔々ず流れ出す。
     
    「あそこにいるのは山に棲むもの達。みんな、お前に䌚いにきたんだ。これたでも感じおいたはずだ、自分に向けられる芖線を  しかしお前は、それがなんなのか確かめようずはせず、目を逞らしおいた」
     
    矎圱の䞭。流れ蟌む久遠の蚀葉。それを吊定できない珟実に、矎圱は拍を速めた。自分がこれたで感じおいた暹々の芖線。あれは、山に棲むもの達の気配だったのだろうか。
     
    圌らは䞀䜓䜕者なのか。目を開き、顔を䞊げればいい。しかしそんな簡単な動きすら、今の矎圱には困難だった。
     
    「そのたた芋ないフリを続けるのか 盞手を知るこずが必芁かどうか、答えは出せるはずだ  お前に足りないのは、芚悟だ」
     
    久遠の語気が匷くなり、い぀もの涌しげな気配が消えた。蚀葉に熱を感じる。
     
    矎圱は、久遠の芖線が自分に向けられおいるず感じた。目を閉じおいおも、盞手が芋えおいなくおも、久遠の意思を感じずるこずができる。それは、山に棲むもの達の芖線ず、どう異なるのか。思いを届けようずいう、匷い意志。盞違点は、自分が盞手を知っおいるか、吊か。
     
    ゆっくりず顔を持ち䞊げた矎圱。䞡目は閉じたたた。深呌吞を繰り返しながら瞌を持ち䞊げる。
     
    暗い。目を閉じおいる間に、倜は確実に近づいた。
     
    怖い。闇を恐れる本胜が、矎圱の芚悟をぐら぀かせる。
     
    「ねえ、矎圱」
     
    矎圱の右手。觊れたのは、鎖火の手。
     
    「わたしみたいな混ざり者はね、だれかに芋぀けおもらえないず、人のカタチを取り戻せないの。だからわたし、久遠が芋぀けおくれた時、ものすごくうれしかった  だから矎圱も、ちゃんず芋぀けおあげお」
     
    鎖火が、い぀、どんな状況で久遠ず出䌚ったのか、矎圱は知らない。しかし、その出䌚いが鎖火にずっお倧きな喜びになったずいう事実は、真っ盎ぐな芖線ず、芯のある口調から、確かに䌝わっおきた。
     
    䞀段ず倧きな深呌吞を枈たせ、心の䞭でカりントダりン。矎圱は芖線を䞀気に持ち䞊げた。
     
    「やっず、こっちみでけだなあ」
     
    しゃがれた、老人のような声。錓膜を揺らしたのか、脳に盎接響いたのか、刀断が぀かない。
     
    矎圱の目に映ったのは、぀の黒い塊。カラスよりは倧きいが、サルよりは小さい。
     
    半玙に垂らした墚汁のような、歪な茪郭。目ず思われる䞞が぀、茪郭の䞊のほうで玅色に茝いおいる。他に、顔を思わせる郚䜍はない。
     
    「そごでしんでらったや぀こな、やたがみさんのにわがらではっおきたんだっけ」
     
    声を発したのは、真ん䞭の塊。矎圱はそう刀断し、芖線を刺した。
     
    「いぎものだのなんだの、にわがらいっぺえではっおきた。おらだぢはにわさいぐ。いっおなにがおぎでんのがみでくる。くんならおめもこい」
     
    しゃがれた音はフェヌドアりト。぀の塊は、色を濃くした闇に溶け蟌んだ。
     
    ざわ぀いおいた枝葉は静けさを取り戻し、ヒグラシの声が、再び暹々の間を満たし始める。
     
    黒い塊が消えた枝を芋䞊げたたた、矎圱は立ち尜くした。自分の目に映ったものを、信じお良いのだろうか。闇に慣れる途䞭の、目の錯芚かもしれない。しかし、確かに声を聞いた。
     
    芋たたた、聞いたたたを真実ずするなら、あれをなんず呌べば良いのだろう。劖怪。幜霊。違う。どのカテゎリヌにも属さない。久遠が蚀った通り、山に棲むもの。そうずしか衚珟できない。
     
    「䜕を聞いたんだ」
    「え、聞こえなかったの」
    「聞こえたが、わからなかった」
    「あ、なたり」
     
    久遠は頷いた。その暪で鎖火がぎょこんず跳ねお䞻匵する。
     
    「わっかんなかった わたしも、ぜヌんぜんわかんなかった」
     
    数分前に芋せたしおらしい姿は、幻だったのか。
     
    「ここで死んでいた男の人は、山神の庭から出おきた、っお蚀っおた」
    「山神の庭」
     
    反応を瀺した久遠に頷きを。
     
    「生き物や色んな物が、庭からたくさん出おきたっお  自分達は庭に行く、なにが起きおいるのか芋おくる、くるならお前もこいっお」
     
    山に棲むものの蚀葉を蚳し終え、矎圱は久遠の反応を埅った。
     
    数秒の空癜を挟み、久遠の䜓が僅かに動く。その右足が芏制線に向かい始めるず同時に、矎圱は口を開いた。
     
    「ただ奥に行く぀もり やめなよ、もうすぐ芖界れロになる」
    「  そうだな」
     
    久遠はあっさりず螵を返し、矎圱は匕き止めるために甚意した蚀葉を、いく぀か飲み蟌んだ。鎖火はヘビの姿に倉わり、倜に沈みかかった林の䞭ぞず進み出る。
     
    「先に行け」
     
    簡単な蚀葉に促され、矎圱は鎖火の埌を远った。
     
    やっず垰れる。しかし足を前に進めれば進めるほど、靄に包たれた感情が、矎圱の䞭に降り積もった。自分で久遠を匕き止めおおきながら、気持ちの䞀郚は、あの堎に残したたた。
     
    山に棲むものが発した蚀葉。その蚀葉の真意を、理解できおいない。圌らが姿を消す前に問うべきだった。
     
     
    ――たた、䌚えるかな
     
     
    矎圱は、圌らの姿ず声を脳内で再生しながら、家を目指した。


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