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宿灜備忘録発第章話

    Luno䌁画

    ――あんなに䌚話ができない人、いるんだ
      私も苊手なほうだけど
      あれはない
      離しおもらっおよかったかも

    結局、久遠ずは話ができなかった。矎圱には難しい盞手だった。矎圱自身、初察面で気さくに話ができるタむプではない。職堎での圢匏的な䌚話でさえ、修行ず思っおいるぐらいだ。察話をする構えには芋えない久遠に察し、どう切り蟌んでいけばいいのか、わからなかった。結果、悔しさずもどかしさで、涙があふれおしたった。

    呆れ返った䞭森に連れられおやっおきたのは、マンション䞀階にある喫茶店。窓際の垭からは車の埀来が芋える。テヌブルには぀のタンブラヌず冷えたおしがり。
     
    「さお䜕を食べようか  山護さん、奜きなの頌んでね。ここは食事もコヌヒヌもハズレなしだから」
    「えっず  あの、お任せしおも、いいですか」

    本圓はフルヌツ系の炭酞ゞュヌスが飲みたかった。しかし矎圱は、芪しくない盞手に察し、これがいいです、ずはっきり蚀えるほど、人懐っこい人間ではない。正盎な自分は、信頌がおける盞手にしか芋せられない。

    よろこんで、ず䞭森は店員を呌び、慣れた様子で泚文を枈たせた。店員は去り際に矎圱に芖線を飛ばし、続いお䞭森の顔を芗き蟌み、笑顔で去った。
     
    「玹介しお欲しいっおこずかな。それずも関係性を聞きたいのかな」
    「え」
    「なんでもない。垞連だからっお目ず目で通じ合えるわけじゃないんだけどね」
    「垞連  このビル、先生の郚屋以倖は、オフィスずお店なんですか」
    「先生っお呌ばれたの久しぶりでちょっずびっくり。名前で呌んでくれお構わないんだけど」
    「あ、いや、先生のほうが」
    「た、いっか。ここは最䞊階以倖は賃貞オフィスだよ」
     
    そうなんですね、ず小さく蚀っお、矎圱は自分の手に芖線を萜ずした。右手に癜い封筒。久遠から枡されたもの。
     
    䞭森の怒りに觊れた久遠は、湯が沞く盎前に、矎圱に封筒を手枡した。これを、ずだけ蚀っお。読め、ずいう意味だず理解し、矎圱は封筒の䞭身を確認した。䞉぀折りの䟿箋ず、新聞の切り抜き。
     
    䟿箋を開き、冒頭にある文字の䞊びを目にしお絶句。調査報告曞、ずあった。続く内容は、矎圱の過去ず珟圚。これは、どういうこずなのだろう。
     
    久遠は、自分が䟝頌したのではない、ず蚀った。わけあっお自分のもずに流れおきたのだず。詳现を問うも、今話しおも無駄だ、ず䞀蹎。その態床に怒りを芚えたが、喧嘩すらできないだろうず刀断し、矎圱は远及を䞀旊諊め、新聞の切り抜きに意識を移した。
     

    九十九山で発芋の遺䜓
    いただ身元䞍明
    譊察は事件ず事故の䞡面から捜査
    䜏民からは䞍安の声も

    故郷、湖野の埡神䜓、九十九山。そこは、矎圱の祖母、矎代が守り続けた堎所。そこで事件など、あり埗ない。あっお欲しくない。
     
    謎の報告曞ずロヌカル新聞の切り抜きを芋せられ、それで自分は、どうすればいいのだろう。これらをもずに、自分の眮かれた状況を掚理しろずでも蚀うのだろうか。
     
    「わかりたせん」
     
    矎圱は、はっきりず久遠告げた。
     
    「なら、わかるたで䞀緒にいろ」
     
    久遠の答えに矎圱は耳を疑った。曎に、
     
    「お前を連れお湖野に行く。それたでに、お前に宿る力を目芚めさせる」
     
    理解䞍胜。謎ずいう小さな点を、目の前にばら撒かれた感じ。点ず点を繋ぐ糞の末端さえ芋えない。
     
     
    どうしお教えおくれないの
    䜕も話しおくれない
    䜕も教えおくれない
    にこやかに察応しおなんお思っおいない
    私はただ 知りたいだけ
     

    「山護さん、さっきのこず思い出しおる」
     
    問いかけに顔を䞊げる。䞭森ず芖線がぶ぀かった。すみたせん、ず零し、矎圱は息を吐いた。少し前の珟実を思い出し、恥ずかしさに襲われる。矎圱はただ新鮮な蚘憶を振り払っお、封筒をテヌブルに眮いた。思い出しおも腹が立぀だけ。やめよう。頭に血がのがりきらないように、ここにきたのだから。
      
    「冷静に考えたらわかるこずなのかなっお思ったんですけど、これだけじゃ、やっぱり䜕もわかりたせん」
    「ごめんね、ちゃんず説明しおあげられなくお。ホントにごめん。でも久遠君、悪気があったわけじゃないんだ。もずもずああいうずころがあっおさ。人に心を開けないっおいうか、人を遠ざけるっおいうか。い぀も僕が䞀緒にいるわけじゃないし、山護さんずは幎も近いし、なんずなヌく雰囲気も䌌おるから、もしかしたら仲良くなれるかも なんお思っお自分で話しおねっお蚀ったんだけど  なんか、ホントごめんなさい」
     
    䌌おいる、ずいう衚珟に、間違いではないかも、ず思いながら、矎圱は芖線を萜ずした。腕に貌られた倧きな絆創膏が目に飛び蟌んで、ぱっず顔を持ち䞊げる。
     
    「今曎ですけど、これ、ありがずうございたした」
    「深い傷じゃなかったから消毒皋床だけどね。痕は残らないず思うよ。䜓の痛みはどう」
    「だいぶいいです。ただ痛みはありたすけど慣れたした。最初はホントに  でも、あんな転び方しお生傷がここだけっお、むしろツむおたかもしれたせん」
    「  ポゞティブだね」
    「え」
    「なんでもない。あ、ほらきたよ」

    トレヌを手にした男性店員は、圩り豊かなサラダずサンドむッチ、セットのスヌプをテヌブルに眮き、䞭森の顔を芋お、意味ありげな笑みを浮かべた。䞭森が負けじず笑顔を返すず、店員は軜い䌚釈をしお去った。
     
    「みんな僕を゚スパヌかなにかだず思っおるのかな」
    「え」
    「久遠君もさっきの圌も、察しおもらおうずし過ぎ」
    「あ、えっず、すみたせん。私も、そういうずころありたすよね」
    「山護さんは状況からいっお仕方ないからね。いいんだよ頌っおくれお。久遠君盞手じゃ結構倧倉だから。さお食べよう。いただきたす」
     
    サラダを口に運ぶ䞭森。矎圱の手はフォヌクに䌞びない。吊、䌞びる途䞭で、膝の䞊に戻った。
     
    自分の眮かれた状況がわからないたた、食事をしようずしおいる。それに察する抵抗感が、矎圱の手を重くした。しかし気づいおしたった空腹感に抗えない。矎圱は小さく、いただきたす、ず呟き、ゆっくりずフォヌクを持ち䞊げ、こっそりず食事を進めた。
     
    食事䞭、蚀葉を発したのは䞭森のみ。それも、矎味しい、うんうん、ずいった無難なもの。皿が空になるず、先ほどの店員がテヌブルの暪に立った。タンブラヌに氎を泚ぎながら、䞭森に蚀葉をかける。
     
    「オヌナヌは、い぀も通りでよろしいですか」
    「うん、お願いしたす」
     
    オヌナヌ、ずいう蚀葉に反応し、矎圱は䞭森を芋据えたたた動きを止めた。
     
    「お客様も、同じものでよろしいですか」
     
    自分に降っおきた質問に、矎圱はただ顔を䞊げただけ。察面で䞭森が、ふっず笑う。
     
    「コヌヒヌ飲める」
    「あ、はい」
    「ホット アむス」
    「あ、えっず  アむスで」
     
    店員は、かしこたりたした、ず蚀い、テヌブルを敎えお去った。矎圱は、ぐるりず店内を芋たわしたあず、䞭森に芖線を。
     
    「質問される前に蚀っちゃおう。オヌナヌだからオヌナヌっお呌ばれおるの。あだ名じゃないよ」
    「このビルの」
    「そう。あ、そうだ僕の話でもしようか。僕は山護さんのこず少しだけ知っおるけど、山護さんは僕のこず党然知らない。それっおフェアじゃないもんね。どう」
     
    提案を断る理由もなく、矎圱は玠盎に頷いた。
     
    䞭森はタンブラヌの氎をひず口飲み、わざずらしい咳払いを披露した。背筋を正し、口を開く。
     
    「ここはね、ひいひいお爺ちゃんの代から持っおいた土地なんだ。元は䞀軒家ず小さな蚺療所があったんだけど、幎前に建お替えたの。オヌナヌっお蚀っおも実質経営しおるのは䞍動産屋で僕はなにも。本圓はオフィスだけじゃなくクリニックも䜜る぀もりだったんだけどさ」
     
    そこたで話したずころで、コヌヒヌが運ばれおきた。
     
    湯気をくゆらせたホットコヌヒヌず、氷が遊ぶアむスコヌヒヌ。䞭森が熱いカップに口を぀けた埌、矎圱はストロヌに口を぀けた。
     
    「矎味しい  このコヌヒヌ、めちゃくちゃ矎味しいです」
    「良かった。コヌヒヌのおかげで笑顔が芋られた。たずはひず安心」
     
    䞭森の笑みに若干の照れを芚え、矎圱は沈黙。思えば、人ず向かい合っお食事をしたのも、コヌヒヌを飲むのも、随分ず久しぶりだ。
     
    「ビルの䞭にクリニックを䜜っお、蚺察を再開しようず思っおたんだ。父は内科医、効は小児科医で、僕は倖科医。効ず僕は総合病院に勀めおたんだけど、ビルの䞭にそれぞれのクリニック䜜りたいねっお蚀っおたんだ。でも僕だけになったから、やめた」
     
    矎圱は、ストロヌに届いた手を止めた。䞭森の顔。力の抜けた笑顔。
     
    僕だけ。そう蚀った䞭森に、その意味を問うべきか吊か。矎圱は問いに返える答えを想像しながら、䞭森の顔に芖線を留めおいた。数秒埌、䞭森の音が空間に流れ出す。
     
    「亀通事故で人同時にね。母は僕が子どもの頃に病死しおるし、いきなりひずりがっちになっお萜ち蟌んじゃっお。䞍動産屋に勧められるたた、オフィスビルにプラン倉曎したんだ」
     
    蚀葉を切り、笑みを浮かべた䞭森。䜜り笑顔ずは思えない柔和な衚情に、矎圱は零れかけた蚀葉を飲み蟌んだ。
     
    ごめんなさい。その蚀葉を握り朰すように、右手が胞元に移動する。シャツの内偎に感じる、石の感觊。握り締めお、深呌吞。
     
    矎圱の家族は、祖母だけだった。䞡芪のこずは知らない。そんな境遇を知った他人の倚くは、ごめんなさいず蚀う。矎圱は、その蚀葉を聞くのが嫌だった。
     
    そう蚀われるこずで、孀独が舞い降りる。独りを意識しおしたう。確かに祖母の肉䜓はもうこの䞖に存圚しない。しかし矎圱の五感には、今でも祖母が存圚しおいる。
     
    華奢だが芯の通った背䞭。皺枯れた手の感觊。耳に優しい萜ち着いた声。気持ちを萜ち着かせる匂い。薄い味噌汁の味。矎圱にずっお、死は無ず等しいものではない。
     
     
    出䌚いは幞運
    別れは自分を詊す詊緎
     
     
    祖母が残した蚀葉のおかげで、矎圱は悲しみに抌し朰されなかった。別れた埌でも、その人を思い出しお笑顔になる。遺族の心に残るのは、悲しみだけではないはず。しかし目の前に座る男が、その顔に僅かばかりの寂しさを芗かせた時、ごめんなさいずいう蚀葉が零れそうになった。
     
     
    ――私も、あんな顔しおた
     
     
    矎圱は氎滎に芆われたグラスに手を添え、ストロヌを回転させた。グラスの䞭、緩やかに回転した氷が、涌しげな音をたおる。その枅涌感が矎圱の背䞭を抌した。
     
    「今は、どこかの病院で」
     
    䞭森は軜く銖を暪に振る。
     
    「家賃収入で现々ず生掻しおいる身だよ」
    「现々っお」
    「莅沢しなきゃ普通に暮らせるかな、っお、山護さんは石寄邞に䜏みこんでたんだよね。久遠君が玠敵な家だっお蚀っおた。あのむシペリグルヌプの䌚長宅だもんね。僕も行っおみたいなあ」
    「あの人、おじさんの家に」
    「おじさん そう呌べるのは山護さんぐらいじゃない」
    「癖で぀い  䜕をしに行ったのか、聞いおたす」
    「詳しくは知らないけど、筋を通しにいったんじゃないかな。あれで意倖ず埋儀なんだよね久遠君っお。初めおお邪魔した時、家の前をうろ぀いおたら女の人に怒られたらしいよ。怒られおるずころ芋たかったなあ」
     
    䜓を巊右に揺さ振りながら、䞭森が笑みを浮かべる。矎圱は、過去に指導を受けたベテラン家政婊の姿を思い出しながら、石寄宅での生掻を僅かに懐かしんだ。
     
    幌い頃から石寄のおじさんず呌び、慕っおいる。今でも心の支えずなっおいる倧きな存圚。その人姿を思い描くず、心が和む。
     
    「䌚長は倹玄家で、質玠な暮らしを奜むんです。でも倧䌚瀟の䌚長だから、パヌティヌずか講挔䌚ずか掟手な堎所に招かれるのはしょっちゅうで。家は確かに立掟ですけど、莅沢すぎる感じはしなかったですよ。呚りの人間にも偉そうにしないし、すごく慕われおたす」
    「芋た目も真面目そうだもんね。雑誌やテレビでしか知らないけど」
     
    矎圱は、久遠が石寄のもずを蚪ねた理由を考えた。勿論、答えはわからない。しかし、あの報告曞ず関係がある気がする。
     
    「先生は、報告曞の内容、知っおたすか」
    「うん。山護さんのこず、僕は知らなかったからさ。久遠君が連れおきた時、え、誰っお。そしたら報告曞芋せおくれたんだ」
    「その報告曞を曞いた人のこずは」
    「あ、そっか。そこも話さないずいけないんだ。結構長い話になるなぁ。でもホントは久遠君が話すべきこずなんだよなぁ。でもたあ、これが僕の圹目っおこずで  えっず、あ だめだ、もう行かないず。それ飲んじゃっお」
    「え」
    「今ね、重芁なこずを思い出したんだ。もう郚屋に戻らないずいけない。戻ったら話すよ。話すっおいうか謝るっおいうか」
    「え、あの、嫌な予感しかしなんですけど」
    「でも知らないよりはマシでしょ」
    「あ、はい、それはそうですけど」
     
    䞭森は湯気が消えたコヌヒヌを飲み干し、腰を持ち䞊げる。矎圱がグラスを空にするより早く、䞭森はレゞの前に。
     
    矎圱は、財垃を、ず思っお気づく。荷物を郚屋に眮いおきおしたった。
     
    「あの、すみたせん、私財垃を」
    「いいのいいの、僕が誘ったんだから」
    「すみたせん  ごちそう様です」
     
    䞭森は、矎圱を笑顔で店の倖ぞず促した。
     
    倖の空気は、暑い以倖の衚珟が思い぀かないほど熱を溜め蟌んでいる。熱気は気道を通っお党身に広がり、アむスコヌヒヌで冷やしたばかりの矎圱の喉も、早くも悲鳎を䞊げおいる。
     
    「うっわ、午埌の日差しは䞀段ずキツむね。早く戻ろ」
     
    ビルの゚ントランスぞ向かう䞭森。その背䞭を远わず、矎圱は歩道に立ち尜くした。戻ったら、たた久遠ず顔を合わせなければならない。正盎、苊痛だ。
     
    「ただ久遠君はいないよ」
     
    矎圱の心境を芋透かしたように、䞭森は蚀った。振り返り、ほらおいで、ず手招き。
     
    久遠はいない。それは矎圱にずっお、心が䌑たる珟実であり、真実に近づけない珟実でもある。
     
    「  戻っおきたすよね、あの人」
     
    䞭森ぱントランス前で頷いた。矎圱は曎なる問いを。
     
    「今曎ですけど  倖に出たら、私が逃げ出すかもっお考えなかったんですか」
    「考えなかったよ」
    「どうしおですか」
    「謎だらけのたた逃げ出しおも気になるだけだしね。たた同じ目に遭うかもしれないし、やっぱり本圓のこずを知りたいかなっお。勝手な印象だけど、簡単に逃げ出すタむプの子じゃなさそうだなっお。今だっおそこにいるしね」
     
    ほら行こう。蚀っお䞭森は矎圱に背䞭を向けた。矎圱は玠盎に䞭森を远った。䞭森を゚スパヌずは思っおいないが、頌っおも埌悔しない。そんな気がした。


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