メインコンテンツへスキップ
見出し画像

こぐまとおむすび【#シロクマ文芸部】

    三上留実

     水色は、雨あがりにみた夢の色。だから、風を連れてくる。
    粒立ちのいい風。さらさら咲いている。そんな昼下がりに、おむすびをどうぞ。
    おむすび。かたちのなかったものをかたちにして、きゅっと閉じこめる。だから、「むすぶ」と言う。
    きっとそうだ、とこぐまのルディくんは思いました。
    手をしっかり洗って、さっそくはじめます。

     ルディくんはまず、そのふわふわの手のひらにラップをのせます。
    その上に、炊きたてのごはんをしゃもじでよそいます。
    あちちっ。
    炊きたてはあつかったみたいです。
    ふーふー冷まして、ごはんを広げます。
    ぼくの好物は鮭なんだ。
    あらかじめほぐしておいた鮭を、ごはんの上にのせます。
    そのときルディくんは、おかあさんと一緒におむすびをつくっていたことを思い出しました。

     おかあさんのおむすびの具は、いつだって鮭だった。
    白いごはんに鮭の淡いオレンジ。
    思い出のいちばん奥にあるもの。
    そこから記憶はリボンのようにのびていって、今とつながっていました。
    でもリボンは何度も何度も千切れかけていました。
    おかあさん、ごめんね。
    はなれていってしまって、遠くにいって、自分からほどいてしまったんだ。

     あれ、おかしいなあ。雨はあがったはずなのに、なにか降ってくるよ。
    それはごはんの上にぽつぽつ落ちて、しみこんでいきました。
    おかあさんの声が、きこえてきそう。
    「くまちゃん。ずっと、どこ行ってたの?」

     今やっと、こうやって、戻ってきたよ。
    鮭をおおうように、その上にさらにごはんをのせます。
    窓からさしこむ秋のおひさまを受けて、ひと粒ひと粒にひかりが宿っていました。

     さあ、あとはラップをつつんで三角にするんだ。
    もうはなれていかないように、ほどけていかないように、
    ルディくんはそれを、きゅっとむすびました。



    あなたへのおすすめ