
私、本日も「チョロさ」全開につき。
なぜか、街を歩けば1日1回は声を掛けられる。
決して自慢ではない。異性からのナンパだけではなく、話し相手がほしいご老人、電車で隣に座った子ども、迷子の外国人、果ては怪しげな勧誘まで、老若男女・人種問わず、私の前にはあらゆる人間が立ち塞がる。
ちなみに、私は絶世の美女でもなければ、モデル体型でもない。どこにでもいる、ちょっと童顔のミドサーOLである。
思い返せば、学生時代からこの引き寄せ体質は健在だった。
新宿歌舞伎町を歩けば、なぜかホストやキャッチの人が(営業ではなく)友達感覚で話しかけてくる。春の大学構内を歩けば、毎年新入生と間違われてサークル勧誘の嵐に遭う。銀座を歩けば、1日に2〜3回はカットモデルにスカウトされる。街は人で溢れ返っているというのに、なぜ私だけがピンポイントで捕まるのか。不思議でたまらなかった。
ある日、長年お世話になっている美容師さんに「私、声かけられすぎじゃないですか?」と真剣に相談してみた。すると、彼は鏡越しの私を見て、あっさりとこう言った。
「だって、絶妙に声かけやすい雰囲気してるもん」
酷い言い様だ。
客に対して失礼だと思わないのか、とイラつきながら詳しく聞いてみると、どうやら私は「声をかければ足を止めてくれそうなオーラ」を全身から醸し出しているらしい。
……聞こえはいいが、要するに圧倒的にチョロそう、ということである。
そんな私にとって、街を歩くのが特に億劫になる季節がある。――春だ。
世間の人々は桜の開花や花粉の飛散で春を実感するのだろうが、私にとってのバイオマーカーは声掛け案件の急増である。よく「春は変な人が増える」と言うが、あれは都市伝説ではない。私の肌感覚が証明している。
今回は、ここ数年で私の人生に勝手にエントリーしてきた忘れられない変な人ベスト3と、そんな彼らとの死闘の末に編み出した話しかけられないためのライフハックをお届けしたい。
エントリーNo.1:時をかける「ラフォーレ男」
一時期、春になると表参道に必ず出現していた男がいる。駅から原宿方面へ向かって歩いていると、「すみません、僕、ラフォーレ原宿に行きたくて……」と神妙な顔で声をかけてくるのだ。
てっきり道を尋ねられたと思い足を止めると、男はニヤリと笑ってこう言った。
「あ!僕、迷子じゃなくてラフォーレに行きたかったんですけど、前からお姉さんが歩いてきたので、つい逆走して追いかけちゃいました!」
なんともタチの悪いナンパである。しかし、この男の本当の恐怖はここからだ。
なんと彼は、私に声をかけたことをすっかり忘れ、数日後、全く同じ場所で、全く同じセリフで私をナンパしてきたのである。さらに恐ろしいことに、翌年も、その翌年も、彼は春になると同じセリフで私の前に現れた。
脳のメモリー容量がニワトリ並みなのだろうか…と呆れつつも、彼が現れると「ああ、今年も春が来たな」と、私の中で一筋の風物詩になってしまっていた。今年はまだ遭遇できていないのを、残念だと思ってしまっているのが癪だ。
エントリーNo.2:推しを間違えた「地下アイドルオタク」
これまでに最も対応に時間を取られ、かつ理不尽だったのがこの男だ。
ある日、本屋に併設された某有名カフェのレジ列に並んでいた時のこと。唐突に、背後から声をかけられた。
「あの……佐藤さんですよね?」
言っておくが、私の苗字は佐藤ではない。即座に「違います」と否定した。しかし、男の目は爛々と輝いている。
「ファンなんです! コーヒーをご馳走させてください!」
丁重にお断りするも、男は諦めない。
「贈り物は事務所NGなんですか? じゃあ、握手だけでも!」
私は佐藤ではないし、見知らぬ男と令和の時代に握手をする義理もない。背筋が凍り、すぐに同行の友人を呼び出してその場を凌いだが、男はその後も本屋の中で私を尾行し、カフェの座席でも至近距離をキープし続けた。
恐怖が去った後、冷静に考えてみた。私はこれまで芸能人に似ていると言われたことがほとんどない。男はおそらく、私を「佐藤」という名の地下アイドルか何かと勘違いしていたのだろう。
ただ、ファンを自称する執念があるならば、せめて推しの顔くらい正確に記憶しておいてほしいものだ。
エントリーNo.3:地下鉄のポテンシャルモンスター「筋トレばあちゃん」
私はなぜか、ご高齢の方々からも熱烈なアプローチを受ける。
先日も、電車内でわざわざぶつかってきた高齢女性に「おばさん、邪魔よ!」と怒鳴られ、その後散々嫌味を言われた。どう見ても私の方が40歳は若いので、自分の顔を一度鏡で見てから発言してほしいものである。
そんな中、最も対応に困ったのが、金曜夜21時の地下鉄で出会った筋トレばあちゃんだ。
車内は、泥のように疲れた会社員や千鳥足の酔っ払いで混雑していた。席に座っていた私の斜め前に、そのおばあちゃんが立っていた。夜遅くに大変だろうと、席を譲るために声をかけた。
「気にしないで! 私、筋トレ中だから立っていたいの!」
ハキハキとした声で断られた。元気な高齢者もいるものだと感心し、読みかけの本に目を戻した。……が、ここからが本番だった。
御年82歳であること、観劇の帰りであること……
そこまでは微笑ましく聞いていた。しかし話は急加速し、家族構成、そして将来残す予定の遺産の詳細まで、初対面の私にノンストップで語り始めたのである。
もし彼女が、私のファイナンシャルプランナー(FP)の資格を透視して相談してきたのだとしたら、大した千里眼である。金曜の夜、私は見知らぬ老婦人の資産運用に、ただただ相槌を打ち続けたのだった。
――この他にも、遠くからボスっぽい男が見守っているナンパ塾の生徒(推定)や、電車内で執拗に私に煎餅を差し出す逆物乞いばあちゃんなど、私の日常には強烈なキャラクターがコンスタントに出現する。
結び:チョロさをハックする。外見を変えない「結界」の張り方
ネタに困らないという意味では退屈しない日々だが、私にだって「全人類、話しかけるな」という気分の日はある。
そこで、試行錯誤の末に開発した、外見のおしゃれを妥協せずに声をかけられなくなる結界の張り方を伝授したい。ポイントは4つだ。
① 骨格から拒絶する「口角ダウン」
元々口角が上がっている私は、真面目な顔をしていても「笑うな」と怒られる理不尽な顔面構造をしている。無意識のウェルカム感を消すため、研究の末に導き出した表情づくりがこれだ。
上下の奥歯の間に隙間を作り、下あごをわずかに引き、唇の力を抜く
これで不自然じゃない無表情が作れる。やりすぎると単なる変顔になるので注意が必要だ。
② 視線は常に「斜め10度下」
前を向いて歩くと、すれ違う人と目が合い、それがエンカウントの合図になってしまう。目線を10度下げるだけで、面白いほど誰とも目が合わなくなり、声掛け率は激減する。ただし、歩行の安全は自己責任で。
③ 腸腰筋を駆使した「大股早歩き」
歩くのが遅い人間は、ハンター(声掛け人)から絶好のターゲットに見える。いつもより歩幅を広くし、風を切って歩くと、ハンターが話しかける隙を排除できる。消費カロリーも増えて一石二鳥である。
④ イヤホンは「見せつける」
ただ音楽を聴くだけでは、彼らは容赦なく話しかけてくる。髪を耳にかけ、イヤホン(できれば自己主張の激しいヘッドホン)を周囲にアピールする。「私は今、外界をシャットアウトしています」という強い意志表示が最大の防御になる。
どれも簡単なことだが、効果は絶大だ。
もし今、この記事を読んでいるあなたの中に出会いがなくて困っている人がいるならば、上記の逆をやればいい。
口角を上げ、まっすぐ前を見て、小股でゆっくり歩き、イヤホンを隠す。
そうすれば、明日からあなたの歩く街も、私のように愉快な(あるいは迷惑な)仲間たちであふれる世界に変わるはずだ。――それが出会い溢れるワンダーランドになるか、サファリパークになるかは、あなたの運次第だけど。