
還暦祝いは終わらない6
〜深夜のホール食い〜
私たちはパンパンになったお腹を少しでも落ち着かせようと、雨の中を歩いて帰った。
私はお持ち帰りのお肉を抜かりなく持っている。
家に着くと、ホールケーキがちゃんと待っていた。
「少し時間をあけてから食べよう。」
そう言ってテレビを見ながら
カウチソファにもたれた。
……そのまま二人とも寝てしまった。
ふと目が覚める。
「ハッ!寝てた!」
隣を見ると、彼もぐっすり眠っている。
ちょっと面白い。
私は彼を軽く揺すった。
「はい、深夜のホール食いするよ。」
すると彼も目を覚まし、
「ハッ!寝てた!」
まったく同じリアクションだった。
こうして寝起きのホール食いが始まった。
しかも、深夜のホール食い!
50代と60代による深夜のホール食い。
こんな競技、聞いたことがない。
案外そのうち流行るかもしれない。
……知らんけど。
さて、目の前のホールケーキに
長いろうそくを投入。
還暦なので6本。
ろうそくに火を灯した。
「ハッピーバースデートゥーユー♪」
歌い終えると、
彼はろうそくの火を吹き消した。
少し照れくさそうに笑っている。
そして、ケーキを見ながら彼は言った。
「ホールケーキでお祝いしてもらえる
なんて初めて!」
私は思わず言った。
「え?クリスマスケーキ、
一緒にホール食いしたじゃん。」
すると彼は笑いながら答えた。
「あれはクリスマスじゃん。
これは俺の誕生日ケーキ。
こんなの初めてだよ。」
そう言うと彼は、
すぐにスマホを取り出した。
「写真撮っとこう。」
うれしそうにケーキを撮っている。
その姿を見て、
私も笑顔になる。
……誰かを喜ばせると自分も幸せになるんだよね。
「ちょっと待って。
今度は私のスマホでも撮らせて。」
ホールケーキを彼に持ってもらった。
「はい、こっち見て。」
パシャッ。
そこには、
少し照れくさそうに笑う還暦の彼が写っていた。
私はその写真が好きだ。
特別なポーズをしているわけでもない。
ただ、
うれしそうにケーキを持って笑っているだけ。
その笑顔を見て思った。
電車に乗って買いに行ってよかった。
ろうそくを六本用意してよかった。
そして、
彼がその写真を撮ったように、
私もあの日を写真に残せてよかった。
還暦祝いは、
物を贈る日ではなく、
思い出が増える日なのかもしれない。
……とはいえ。
肝心な本命プレゼントだけは、
まだ影も形もなかった。
台風には勝てない。
つづく
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