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幽霊よりも面倒なもの 第7話

    旭川のすぐる

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     ――この日記をみつけてしまった人へ――
     読んでも意味がわからないかもしれない。共感もまったく抱かないかもしれない。別にそれでも構わない。
     ただ、一つだけお願いしたいことがある。
     君がどう生きようと構わない。
     けれど、他の人の生き方も肯定してあげてほしい。
     黙って、そっと見守ってあげてほしい。
     
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    「そのまま持っていかれるかと思っていたぞ」
    「いや、私は約束を守るから」
     その日の昼休みの屋上。私は晴れ渡った空の下で鍵を返却した。
    「それで、どうしてなの?」
     いけない、と思いながらも私は問いかけてしまっていた。ここはさっさと引き下がるべき場面であるはずなのに。
     幕引きを私は引き伸ばしている。
    「どうして、アヤがその鍵を持っているの?」
    「不思議か?」
     遠山先生の指定した条件とは大きくかけ離れていると思う。私は頷いた。
    「私が助けた男子が持っていたんだ」
    「助けた?」
    「カツアゲを受けているところをな」
     どいつもこいつもカツアゲが好きだな。
    「大声で先生を呼ぶふりをしたら、カツアゲした奴等は逃げていったよ。それで、残った男子と少し話したんだけど、そいつが自分のことを責めるんだな。僕が悪いんですって」
     聞いただけでイライラするタイプだった。よくもまあ、そんな奴に手を差し伸べられるものだ。
    「でまあ、色々と説得していくうちに仲良くなれたんだ」
     信じられない話だが、この女ならやりかねない。
    「それで、『もう僕は一人ではなくなりました』って感謝された後でくれたんだ」
    「いや、あんたも一人じゃないでしょ」
    「本当だよな」
     とアヤは苦笑する。
    「でも、良いものだなと思ったからしばらく借りてみようかと。まあ、どこかのタイミングで誰かに継がせるとは思うが」
     と言ってからアヤは再確認してくる。
    「欲しいか?」
    「欲しい、って言ったらくれるの?」
     ここは一人になるには最適すぎる空間だ。
    「本当に欲しいか?」
     アヤは鍵を私の前でブラつかせた。
    「何をもったいつけているの?」
    「いや、なくてもミズキは生きていけそうだな、って思ったからな」
    「どうして?」
    「一人でいられる場所を探しているからだよ」アヤはさらりと言う。「この鍵を持つべき生徒は、一人でいられる場所を探す気力すらない奴だ」
    「じゃあ、私は該当しないんだ」
    「そういうことかもしれないな」
     アヤは鍵をポケットにしまってから問うてきた。
    「なあ、本当に一人で生きていくことを目指していくのか?」
    「悪い?」
    「いや、悪いことではないと思うが、無視はしなくてもいいんじゃないか」
    「どうして?」
    「いや例えば、私がミズキに教科書貸してほしい場合とか無視されたら困るだろ」
    「他の人に借りればいいだけでしょ」
    「じゃあ、〇〇先生がミズキのこと呼んでいるって伝えたい場合、無視するのは違うだろ」
    「まあ、それはそうだけど……」
     何の話をしているんだ、私達は。
    「必要最低限の会話はする。でも基本は無視する。これで満足?」
    「いや、満足も何も……」
     言葉に詰まるアヤだった。
    「どうして、そこまで一人になりたがるかねえ、ミズキちゃんは」
    「仕方がないでしょ。そういう生き方しかできないんだから」
    「そこに意固地になって固執しているんじゃないのか。本当は、もっと違う――」
     とアヤが言いかけたときだった。
    「あ、いた!」
     屋上に現れたのは佐伯だった。
    「お、ミズキの友達だ」
     とアヤはおちょくったが、佐伯の視線は私に固定されていた。
    「遊佐さん、探していたんだから!」
    「迷惑」
     その一言でぶった切ってやったが、案の定、その程度のことで怯む佐伯ではなかった。今朝のことは知っているだろうに、あえて触れてこないのは私に対しての気遣いだろうか。それとも自身が嫌なだけだろうか。
     あの後、遠山先生と小麦がどのような決着をつけたのかはわからない。
     わからないはずなのに、この青空のせいで良い方向に進んでいると思う自分がいた。
    「遊佐さんに用があるのは私じゃないから」
     と言って、ドアのところから現れたのは、
    「お、ミズキの友達二号だ」
    「友達じゃねえよ」
     日吉だった。
    「友達じゃねえのかよ。それなら、何だって言うんだ」
    「それはこれからわかる」
     日吉はアヤにそう言ってから、私に視線を向ける。
    「佐伯を使ってまで私を探していたわけ?」
    「悪いかよ。俺は諦めの悪い男だからな」
     私が一人になるという目標にあたって、一番厄介なのはアヤでも佐伯でもなく、この男かもしれない。
     青空の下、日吉が向けてきた言葉に対し、私は冷然と拒絶するのだった。

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