シーソーゲーム〜月と太陽〜
作・xi
あらすじ
未婚アラフォーの主人公『旭』。ひょんな事から、20代の『月光(みつき)』という彼女ができる。
月光は情緒不安定。感情の高低が激しく嫌でも旭は月光に振り回されてしまう。
旭は過去のトラウマで恋愛に億劫になっており、事あるごとに死んだ元彼女の『ヒカリ』と月光が重なって見えるように。
離れて少し近付いてを繰り返し、お互いに疲弊していくが、旭は月光への想いをどうしても手放せずにいた。
「ちょっと旭、いつまで寝てんのよ!自分で起きろっていつも言ってるでしょっ?幾つなのよもう!!」
っ・・・目覚ましなんかより、朝聞く母親の声ほど、耳障りなものはない。70を過ぎてから、母親の更年期障害が酷くなっている気がする。まァ、病院でちゃんと診断された訳でもないのだが……それくらい、いつもイライラして怒っているから、ぼくが勝手に言っているだけ。ろくに返事もしないまま、ぼくはいつものように、LINEが来てないかスマホを確認する…ここ最近で日課になってしまったこの虚しい作業をする自分に、いいかげん嫌気が差す。
事の発端は数か月前、後輩の妹の月光(みつき)が「LINE交換して欲しい」と、突然ぼくに言ってきた。
月光の兄貴はぼくの大学の後輩。サークルが一緒でよくつるんでいたが、最近はまったく会っていない。月光と兄貴は15歳も年が離れていて、ぼくとプライベートでよく遊びに行く時に一緒に連れてくる位かわいがっていた。ぼくも当時ちいさかった月光の事を、それなりに可愛がっていたと思う。懐いていたかどうかは分からないが、悪い印象はなかったんじゃないだろうか。
最近、ぼくが昔からよく行く近所のカフェに、成長し社会人になったばかりの月光も通うようになっていた。いつものようにのんびりとコーヒーを飲んでいると、月光もいつものように、ぼくに気付いて手を振ってきた。ぼくもそれに卒なく応じる。それからバタバタと、賑やかに月光がこちらに走って来た。
「旭さんっ、LINE交換してくれません?」
「ん?俺と?別にいいけど」
「やったー!」
・・・どういう心理?親子ほど離れてるオッサンとLINE交換なんぞしてそんなに嬉しいものか…?何か、相談したい深刻な悩みでもあるのか?
その日以来、ほぼ毎日のように月光からぼくのところにLINEが来るようになった。そりゃもう‥何年も彼女もできずにいた非モテ中年男子のぼくだ。複雑な気持ちもありつつ、若い女の子とLINEのやり取りができて嬉しくない筈はない。それも、相手は昔から知っている月光なのだから、尚更うれしかった。
『電話していい?』
数日LINEのやり取りをして、今度は月光がそう送ってきた。
―――ああ、とうとう何か悩みを打ち明けにくるのかな…一体どんな相談だろう?金か?
そんな事を思っていた。
話を聞いてみれば、何て事はない‥ただの世間話を延々として盛り上がる。メッチャ楽しい、楽しいけど…一体どういうつもりなんだろう???
「ねぇ」
会話を遮って、月光が意味深に聞いてくる。
「なに?」
「今の私達って、どういう関係だと思う?」
「・・・どーゆーってなァ💧何だろ?」
ぼくは話を濁した。きっと、月光は本当に素朴に聞いてきたのかもしれない。でもぼくは‥‥
その後もほぼ毎日、深夜までぼく達二人は通話をした。毎日寝不足で、正直つらい……それでも、嫌だとは絶対に言わなかった。だって嫌ではなかったから。寝不足でもいい。月光といつまでも話したかった。
もう、10年近く彼女はいない。元からモテる訳ではないから、自分から作ろうとしなければできる訳はない。作らないというより、作るのが怖くなっていた。
10年前、同じ職場に彼女のヒカリがいた。ヒカリは周りも認めざるを得ないくらい性格は最悪で、度が過ぎる程のワガママだった。それに耐え兼ねてぼくの方から別れを切り出したのだが、ヒカリは別れた次の日から他の男と一緒になった。
仕方のない面もあるのかもしれないが、それからのぼくに対してのヒカリの態度は、目に余るものがあった。仕事中、暴言や悪口を平気で吐き、同じ職場の人間と一緒に、ぼくに聞こえるように陰口悪口を言ってきたりと……別れた後の方が、ストレスが増えるようになった。ヒカリが意図してか、ぼくは職場で孤立するようになり、段々と精神も削られ、自信もなくなっていった。人間、そうなってくると、なかなか負の連鎖から抜けられなくなっていくもので、もしかしたら自分が悪いのでは?等と思うようになってしまう。
しかし、思わぬ出来事が起きた‥‥
ヒカリが突然、交通事故で亡くなったのだ。
その2日後には、もう通夜だった。あまりにも急な話で、呆気ない最期・・・本当に、大嫌いだった。きっとろくな死に方はしないだろうな‥‥ずっとそう思ってた。それは現実になった。
葬儀場で、遠くからヒカリの遺影が見える。全く実感は沸かない。大嫌いだった元彼女の遺影、何度も死んで欲しいと恨んでいた程の存在‥‥‥でも、遺影が目に入った瞬間、気づいたらぼくはむせび泣いていた。あんなに泣いたのは、いつぶりだっただろうか。
ご家族の配慮で、遺体に触れてあげて欲しいとの事だった。ヒカリの家族とは接点があった訳ではないが、ぼくの事はヒカリからよく聞いていたそうで、迷惑をかけたから『ぶん殴ってやってくれ』なんて事を言われた。
とりあえず、頭を撫でた。……冷たかった。そのあと、頬を触った。芯まで冷え切っていた。そりゃそうだ‥死んでるんだから。かつて触れた柔らかくて温かみのあるあの頬と同じものとは、到底思えなかった。
耳はあちこちピアスの穴だらけ。耳たぶも穴を空けすぎてボコボコだった。それは相変わらず‥‥そこにある遺体は、紛れもなくヒカリだった。
―――まさか、こんな形でまたお前に触れるなんてな‥‥
涙が止まらなかった。
不思議なもので、生前、ヒカリとの嫌な思い出ばかりが記憶にあったけど、彼女が死んでからは、いい思い出ばかりが蘇ってくる。良いも悪いも、ヒカリの存在は、自分自身のどこかの一部になっていた。どこかは分からない‥でも、どこかでポッカリ穴が空いていた。
ぼくにとって記憶に消し去りたい程の存在は、死して二度と記憶から消えない存在に変わった。
後になって聞いた話だが、ヒカリはぼくと別れた後、家族との関係が上手くいかず実家を出たそうだ。事情はよく知らないが、ヒカリのあの性格では、家族はきっと大変だったと思う。
ヒカリの事は、付き合っていた頃は本当に大好きだった。でも、彼女の性格を考えると、結婚はどうしても考えられなかった。ヒカリがぼくの気持ちに気付いた時から、ぼくらの関係には亀裂が生じていたのかも知れない。
何となく、ただ何となくなのだ‥ぼくはそれから恋愛や結婚というものから遠ざかるようになった。
ヒカリは、ぼくがこの世で一番好きになった女で、この世で一番嫌いになった女だ。
ヒカリが死んで以来、ぼくの心は一度壊れた。この世で一番嫌いな人間があんな末路で居なくなった事で、人を嫌いになるという負の感情が、どこかへ行ってしまったのかもしれない。
……純粋に、自身の一部が失われる事に、恐怖を覚えるようになった。
「ねぇねぇ」
月光との深夜の電話‥‥またあの事を聞いてきそうな雰囲気だった。
―――‥今度はなんて答えよう?
「なんだよ?」
「今のうちらって、どういう関係?」
「・・・・」
ぼくは意を決した。
「好きだよ、みっちゃんのこと」
「っ・・・ほんと?」
「うん」
こんなの、男なら意識しない訳がない。小さい頃から知っている月光を、そういう目で見たことは一度もない。でも、こんなのズルい‥言わされたとしても構わない。ぼくは彼女のことを好きになってしまったらしい。ヒカリの事は、その時はもう頭になかった。
その日から、ぼくと月光は年の差カップルになった。
「ねぇ、私のことどれくらい好き?」
また電話で話していると、月光が不意にそんな事を言ってくる。
「えぇ‥ちょっとそれは」
「言って」
・・もうこういうノリが普通にできる年齢ではない。それでも月光は催促してくる。
「言ってよ」
「・・・頭から爪先まで、みっちゃんのことばっか考えてるよ」
「っっ・・・んふふふ」
「それくらいら好きだよ」
「嬉しい、うちは大好きだよ」
「・・・💧」
「愛してる?」
「ええ・・・ちょっと欲しがりすぎじゃない?」
「いいじゃん、言ってよ」
「・・・愛してるよ」
「んふふふふっ、うちも愛してる」
・・・何だこれは💧でも、自分がドンドン月光にハマっているのが分かって、怖くなった。
ただ何となくなのだ‥‥日曜日、ぼくは一人でヒカリの墓参りをした。別に後ろめたいとか、未練があるとか、そういう感情はない。ある筈はない‥‥だって今は月光に骨抜きにされてしまっている。
本当に理由はない。正直、自分でもよく分からない。
ーーー別に‥お前には関係ねぇよな?
ヒカリの写真の前で、そんな事を心の中で呟いた。
―――なに考えてんだろ、俺・・・
本当に理由は分からなかった。
ただ、不思議なことが何回かある。ヒカリの命日になると、何故か不可抗力でヒカリの墓地を通ってしまう。その日が近づくと、墓地周辺に行くのは自分としては避けたいのだが‥‥友人の運転だったり、友人の誘導だったりと、何故か命日の時だけヒカリの墓がある墓地へ、不思議と行ってしまうのだった。
それを友人に話すと、
「向こうが会いに来て欲しいって、メッセージでも送ってんじゃねぇの?」
「…怖い事いうなよ」
でも、何故か悪い気はしなかった。盆でもない、必ず命日だ。偶然にしては少しでき過ぎているような気もする。ぼくは無意識に、命日になるとヒカリの墓参りをするようになった。
―――月光には言った方がいいのかな……
それも、よく分からなかった。ヒカリの存在は少し話してある。でも墓参りに行っているのを言うのは、気が引けた。
「倦怠期きちゃった」
「はあ?」
急に月光がそんなことを言ってきても、ぼくはあまりピンと来ない。
―――倦怠期?そんなの熟年カップルが陥るやつだろ‥まだ付き合ってそんなに経ってないのに…そんなことあるのか?
「ちょっと体調も悪い…でも大丈夫、時間が経てば元に戻ると思う」
「あ、そう」
そう言われて、ぼくは少しホッとした。それならほんの一時だろう、、そう思った。
それから、月光は電話は暫くできないと言ってきた。少し寂しい気もするけど、まァLINEもできるし、そこまで深刻に考えることもなかった。
そのうち、デートをする約束もキャンセルになり、徐々にLINEの頻度も少なくなっていった。
ぼくは段々、不安が募っていたと思う。その不安を打ち消すために、ぼくの方からのLINEは、無意識のうちに頻度は多くなっていた。
彼女からの返信は確かに少なかったけど、特に嫌がっている風にも見えなかったし、無理に返さなくていいとも伝えていた。
ぼくは車を運転している。
『ねぇ』
助手席から声をかけてくるのは、、
「何だよ」
『怒ってるの?』
「別に‥‥」
『怒ってるじゃん』
「うるせぇな!何なんだよっ?」
『嫌いになったんだね』
「・・・・」
『何か言ってよ』
『だったら嫌われるような事すんな!』
そう言って助手席の方を見ると、
「みっ・・・」
ヒカリだと思って話してたのは、月光だった。
・・・・嫌な夢だった。どうしても月光とヒカリがリンクする。・・・墓参りの事は話そう……何となくそう思った。
♪♪♪♪・・・
仕事の休憩中に突然、電話が鳴った。出てみると、
『もしもし、旭か』
友達のノブからだった。
「おお、どした?」
「突然だけど、一志に最後に会ったのって、いつ?」
「は?一志?一志がどうしたって?」
「・・・死んだらしい」
「っ………え」
「ヒートショックだって」
「・・・いや、え?」
急な話で、頭が追いつかなかった。
「だから、最後に会ったのっていつ?」
「・・・先週」
「・・そっか」
暫く、どちらも無言になってしまった。
「一志と俺ん家が近所でさ。妹さんが家に来て教えてくれたんだよ」
「そうなんだ…」
「最近、お前に会ったって言ってたって聞いたから」
「・・・うん」
その後、ノブとどんな会話をしたかよく覚えてない。すぐに切ったと思う。
その後、ぼくは職場にあるトイレに入って、一人で泣いた。
一志の葬儀には参加したが‥それもどんな内容だっただろうか‥‥
ともかく数日間どう生活していたのか、記憶は曖昧だった。
一志は高校の同級生で、所謂『変わり者』・・・ぼくも人のことは言えない。だから一志ともウマがあった。
大体は、ぼくから声をかけなければ遊ぶ事もなかったが、一志もそれを断ることはしない。そんな関係だ。
一志とノブとはそこまで‥だったようだが、一志自身、あまり人付き合いが得意な人間ではなかったと思う。それこそぼくも人のことは言えないが‥‥だからお互いに独身だったりするのかもしれない。
最後に、よく行くカフェで一志と会った日、珍しく互いの結婚観になった。
「結婚したいが先なの?普通は……それから相手を探す訳?それとも、好きな人が最初にいて、その人と結婚したい…なのか?」
一志との会話は、いつも特殊なやりとりになる。
「そりゃ、後者だったら一番いいだろうよ。でも現実はそんなに甘くなくね?」
「いなかったら、しない…にはならない?」
「うーん……」
「よく言われんだよ。一生独身で将来、誰がお前の面倒みんの?って」
「まァ、現実問題ではあるなァ」
「・・・だから結婚するの?家族を増やして、自分の面倒みて貰う為に?」
「・・・そりゃ違うな」
「だよな!」
・・・独身男子2人がする会話だろうか‥後になって気付くのだが、結婚しない(もといできない)中年のオッサンがするには、こんなに虚しい会話はない‥‥
しかし何だかんだで、一緒に話してこんなに楽な友人は他にはいなかった。だからぼくもちょくちょく声をかけていたし、一志も断らなかったと思う。
どうしても、一志の顔が浮かんでは消える。
―――月光の声が聞きたい・・・
無性にそう思った。一志が死んだことは月光には言わないでいた。でも不安な気持ちのままでいたくなかった。彼女からのLINEの返信の頻度も徐々に少なくなっていく。本当に、彼女の気持ちは戻るんだろうか…募る不安を掻き消すように、返事がなくてもこちらからは何度もLINEを送った。
その数日後、月光から返事があった。
『ごめん、体調も戻らない
し、迷惑かけたくないから、
もう別れたい。
LINEも多いよ‥返信しなきゃ
って、プレッシャーに押し潰
されそうだった。もう気持ち
は絶対に戻らないから。決意
も固いし、これで最後にして
下さい』
―――何でっ………だって無理に返事もしなくていいって、俺も言ったじゃん。元に戻るって言ったじゃんか・・・!!!人を好きにさせておいてそんなのないだろッッッ・・・!!!
突然の事で、頭がおかしくなりそうだった。何が何なのか、分からなくなった。彼女と別れたくない‥死んだ一志の事も悲しいし、苦しい…それでもプライドのようなものだろうか‥‥咄嗟にぼくは気丈に振る舞ってしまった。
『分かったよ、もうLINEも消し
て。なかった事にしよう』
冷静を装いつつも、頭の中はパニック状態…本音すら頭のどこにあるかも自分では分からない。
それ以来、月光はぼくのLINEをブロックしているようだった。
・・・・月光と電話し始めた頃の数ヶ月前を思い出す。
ーーーあれは一体、何だったんだろう……
心にポッカリ穴が空いたようだった。
数日間は苦しかった。一志のこと、月光のこと・・・毎日頭の中でグルグル回って、どう生活していたかよく覚えていない。
―――何で俺がこんな目に遭うのか・・何で一志は死ななきゃならなかったのか………どうして月光と別れなきゃならないのか・・何がいけなかったんだろう‥‥誰が教えてくれ・・・
一志が死んだ事さえ自分のせいのように思えてくる。だがそんな事はある筈はない。だから、考えても考えても答えは出ない。出る筈もない。それでもその時はずっと、そんな事ばかり考えていた。
月光からお別れLINEが来てから、一ヶ月が経とうとしていた。
『気晴らしに、飯でも付き合ってくんない?』
ぼくはノブを誘った。ノブには娘が二人いて、よく4人でご飯を食いに行く。ぼくは無類の子供好きで、娘二人とも仲が良い。上の子はそろそろ年頃になってきたから、無理なく誘ってくれとノブに伝えたが、二人とも『行きたい』と言ってくれたそうだ。
ノブとは、中高が一緒の腐れ縁だ。仲が良いというより、昔から一緒になることが多く、近くにいて当たり前のような存在だ。
結婚して2児の父となっても、声をかければだいたい付き合ってくれる。ぼくが子どもの面倒を喜んで見るからか、奥さんも公認してくれているようだった。
「マジで‥そんな事あったん」
「うん‥‥」
子どもニ人を公園で遊ばせながら、ノブと少し話をした。ノブは怪訝な顔をしている。
「ごめん、ちょっと意味わかんねぇや…なに倦怠期って」
「俺も、、どーすればいいかよく分かんなかった」
「その年で暫く彼女も作んねぇでどーすんのかと思ってたけど…何でその娘なん?お前もどこがいい訳?」
「…それも、よく分かんない」
少し話した位で、彼女の全てをノブに理解して貰えると思う方が、よく考えれば無理な話だ。うまく伝えられるほど、ぼくも言葉が出てくる訳でもないし、それに、ぼくだって月光のことを全く理解できていなかったのは否めない。現に愛想を尽かされてしまった訳だから。
「一志の事もタイミング悪かったし、なかなか災難だったな」
「・・・・」
―――災難か……実際はどうだったんだろう。
最初は嬉しくて、天に昇ったような気持ちで調子こいてたら……一気に地獄へ突き落とされた・・・やはり災難だったんだろうか。
ノブの上の娘が滑り台から降りてくると、ベンチに座っていたぼく達に向かって勢い良く走ってくる。
―――月光にも、こんな時期があったのかな……よく覚えてないな‥
月光の事は小学生くらいから知ってる筈だが、中学生頃からの記憶しかない。うろ覚えの月光の子供の頃と、ノブの娘が重なった。
―――ったく、もう忘れたいのに。今日はそのための気晴らしのハズなのに・・・
全ての出来事が月光と重なる…本当に、まだ“頭からつま先まで“月光のようだ。ノブの娘が駆け寄ってきて、ぼくに抱きついて来る。
「一緒に来て?ブランコ乗りたい」
「…うん、いいよ」
ノブの娘に好かれているのは嬉しい。抱きついてくるのもよくある事だ。でも今は‥‥月光とノブの娘がリンクして、泣きそうになってしまった。
―――何て‥‥情けない。何て惨めなんだろう・・・
泣き顔をノブに見られやしないかとヒヤヒヤしながら、ノブの娘に顔をうずめた。
・・・それから、数日が経った頃だった。
いつものカフェに、月光がまた友人と一緒に顔を出すようになったのだ。
―――よく来るな…どういうつもりなんだ?俺がここによくいるのは充分承知しているはずなのに‥もう気にしてないのか?
ぼくは最初、素知らぬふりをしていつもの席に座ってコーヒーを飲んでいた。月光が、少しぎこちないような感じでこちらを見て、ぎこちなく手を振った。
ぼくは意を決して、彼女の席まで近づいた。というより、衝動を抑えられなかったんだと思う。彼女は少し戸惑っているようにも見えた。
「心配したよ」
「‥ごめんね、もう大丈夫だよ」
「LINE、ブロックしてるだろ」
「あ、ごめん‥すぐ解除するね」
―――えっ?そんなすぐに解除するの?
その後すぐ、月光からLINEが来た・・
『もう大丈夫だよー』
―――どういうつもりなんだよ?どう捉えればいい?もう友達みたく思ってるのか?
聞ける訳はなかった。
その後、月光とまた普通にLINEのやり取りが始まった。凄く楽しくて、嬉しかった。もう駄目だと思っていたから・・・でも、やっぱり少しトラウマになってる。カップルでもない今のこの状態で、また『倦怠期』なる時がくるんだろうか・・・
そのうち、また電話しようと、月光が言ってきてくれた。
前は深夜だったけど、今度は仕事の昼休みに、少しだけ話すようになった。それでも彼女から言ってきてくれた事が、本当に嬉しかった。もちろん完全に不安は拭えないけど、少し安心した。
「会社で仲良くなった人と、今度遊ぶ約束したよ」
「・・・・」
また嫌な予感がした。会話の中で、月光はちょこちょことその「会社の友達」の話をするようになった。勿論、かなり気にはなっている。でもぼくはあまりそこには触れられずにいた。もう彼氏でも何でもないから‥‥ただ苦しかった。もしその「友達」なる人物が男だったなら、ぼくは何て答えていいか分からない。
でも、執拗にその「友達」の話を、月光がしたがっているように思えた。嫉妬心を煽られてるようで正直、不快でしかない。
『さっき会社の友達と、2時
間くらい電話で話したよ笑』
彼女からのLINE。胸の奥が、ズキッと痛くなった。でも、また平静を装った。
『ふーん、その友達って、どん
な人?』
『うーん‥』
突っ込んでみると、明らかに歯切れが悪くなってくる。
―――話し始めたのは自分からだろうが……
イライラした。
『会社の研修で、席が後ろで
仲良くなったったんだよ』
―――そんな事、これっぽっちも聞いてない。どんな人かだよ。明らかに濁してるじゃん。
『で、どちらから話しかけた
の?』
『私だよ』
『何か、話しかけるキッカケ
でもあった?』
『うーん、いや別に‥
何となく?』
・・・聞いても、質問してもどういう人間か全く話そうとはしない。でも「自分から話しかけた」と月光が言ったのは、ぼくの中では引っかからずにはいられなかったようだ。
『よく分からないのに仲良くな
ったの?
女の人?男の人?』
『さっき電話で話して、どう
いう人かよく分かったから』
・・・・・
『だから、安心して』
男か女かは言わない‥‥何だコイツ・・・さっきからこちらの質問にもズレた回答ばかりしてくる。求めてもいない彼女の「安心して」が、ぼくのイライラの火に油を注いだ。
『ちょっと整理したい事がある
んだけど、どこかで電話でき
ない?』
『ごめん、最近は仕事で
疲れちゃって‥暫くは電話は
できないと思う』
・・・・・
その友達とは2時間も話して、俺とは話したくないって……?モヤモヤしかしなかった。
『もう男だって分かるよその態度
じゃ‥言わなくったってさ、自爆
してんじゃん。何で言わない
の。それに安心させる必要なん
てなくね?俺みっちゃんにもう
フラれてんだぜ?』
月光から返答はない。僕は構わず更に追加で送った。
『とんだ自爆娘だな(笑)別にい
いじゃん、もう別れてんだから…
男グセ悪いんだね。嫉妬するわ』
いま考えれば…凄くカッコ悪くて、情けない内容のLINEだったように思えてくる。
月光から返事がきた。
『・・・・そっか。どう
返答すればいいか分から
ないから求めてた回答と
違うならごめんだけど
嫉妬されるとどう対応す
ればいいか分からない
し、私はどうすればい
い?怒ってるわけじゃ
ない。ただ私はどうす
ればいい?』
・・・・どうすればいいって何だ?会わないで欲しいって言えば会わないのか?彼氏でもないのに?何いってんだ……いや俺がおかしいのか?何だかぼくも頭が混乱してきた。
『いや…誰を優先すべきかはみ
っちゃんが決めるべきで、俺
は勝手に嫉妬してるだけだよ』
段々、ぼくの方が弁解をしているような形になっていった。
そのあと、何を言っても月光の反応は薄い。笑いを取って誤魔化そうと必死でLINEをしても、彼女の反応は変わらない。笑いを取ろうとして笑って貰えなかった時、正直かなりキツイしメチャクチャ恥ずかしい…ぼくは逆に気まずくなってしまい、「LINEはちょっと控える」と送ってしまった。墓穴を掘れるだけ掘ってしまったような、そんな気持ちだった。
人間とは不思議なものだ‥‥一番傷つけたくないものをこうもアッサリと傷付けてしまう。あんなLINE、送らなければ良かったと今は思う。でもあの時のぼくは、どうしても感情を抑える事ができなかった。
この年になって嫉妬なんて・・・するとは夢にも思わなかった。若い頃は、そりゃ少しはあったと思う。でも遠い昔すぎて、自分の嫉妬心との向き合い方も、抑制の仕方も全く分からない。ぼくの中に眠っていた“嫉妬という化物“は、急に顔を出して、言いたい事だけ言って現実をグッチャグチャにしたと思ったら、すぐに居なくなった………
「その人と会わないで欲しい」
素直にそう言えば良かったんだろうか・・でも自信がない…ぼくは一度フラれてしまっているし、やっと電話ができるようになったとは言え、彼女の気持ちがまたぼくに向いてくれているとは、到底おもえなかった。別れを切り出された時の記憶がフラッシュバックして、トラウマになっている。しかし逆にそれだけぼくにとって、月光はとてつもなく大きい存在になっていた。
『何で!!別に友達と会うだけじゃん!』
「友達はいいけど、何でわざわざナンパされた奴らと遊びに行かなきゃならないんだよっ?」
「だって、遊ぼうって言うから」
「・・・じゃあ俺もヒカリの知らない女の人と遊び行ってもいいんだな」
「それとは違う話じゃん!」
「違わねぇだろっ!何が違うんだよ?逆に教えてくれよッッ」
「分かったよ!行かないよ!!行かなきゃいいんでしょ!!!器ちっさ…!!」
「だから行きたきゃ行けばいいじゃん。俺もそうするから」
「何で?!!行かないって言ってるじゃん!!!」
「そんなに行きたいとは思わなかったからさ、誘われて仕方なく行くみたいな言い方だったから」
「っっ・・・・」
ヒカリがそっぽを向いた。
「おい、ヒカリ」
―――めんどくさっ………
「ヒカっ・・」
振り向いたのは・・やっぱり月光だった。
―――嫌なこと思い出しちまったな・・そういえばあの時も、ヒカリと付き合ったばかりの頃だった。
最近はほぼ毎日、こんな夢を見ている…後味の悪い朝が続いていた。やはりぼくの中では、ヒカリの存在も大きく残っているのか……
というより、ヒカリの時と同じ過ちを、月光では犯さないように意識していたのかも。でも駄目だった………結局、同じ事を繰り返してしまった。
「ええっ?嘘だろ、、マジ何やってんのお前…」
「・・・・はあ」
またノブを誘ってしまった・・・いつものカフェで、今度はノブと2人だけ。
「いや煽られたかどうか分からんけど、流石にねぇだろそれは。かわいそーだよ」
「・・そう、だろうな」
「メッチャ好きじゃんその娘のこと。でももう流石にやめとけよ‥無理だってお前には、、若すぎるし、普通に合わないだろ」
「・・・・」
勿論、頭では分かってるんだそんな事は・・・ぼくと月光が水と油だって事は‥‥‥
『今のうちらって、どういう関係?』
ヒカリのとき以来、月光が初めて電話してきたあの時から、ぼくの心はまた壊され始めた。
―――何が「大好き」だ…何が「愛してる」だッ…ほんの数ヶ月で簡単に関係を断ち切る位なら、自分が言うのはまだしも簡単に人に言わせるなよっ…ふざけんな!!!!
・・・きっとそれが本音だ。ぼくもそんなに悪い事を言っているつもりもないのだが、、、何となく、誰かの前でこれを口にしたら、ぼくが悪者になってしまう気がする。過去の事を掘り起こしてまでも、どうしても自分以外の何かのせいにしたかった。それは自動的に、月光のせいになっていく。
「大好き」
「愛してる」
それまでは普通に、素敵でいい言葉だと思ってた。でもこれが後になって、人の心をズタズタにする刃にもなるなんて、思いもよらなかった。
その時は、傷つけるつもりで言っていないのはよく分かる。それは時として凶器になり得る‥‥だからといって口にしてはいけないなら、人は人を好きになっちゃいけない事になってしまう。誰のせいでもない事なんて、月光は悪くないなんて事は‥‥‥‥分かり切ってんだそんな事は・・・・
嫌いにもなれない…ならせめて、自分ではない何かのせいにしなければ、自分を保つ事ができなかった。
気まずくなってからも、毎日ではないにしても数日間、ぼくは月光に少しずつLINEを送っていた。きっとぼくから送らなかったら、もうやり取りはないと思ったから。月光からは、やはりあまり乗り気ではない返信・・・
『好きな人ができた』
月光から、他の内容と共にそうLINEが送られてきた。他の内容は、よく覚えていない。でも、前ほど心も動かない。いや動かされたくないというのが強くあったろう。無理矢理にでも揺れないように踏み止まっていたと思う。ちょっと前は動揺しすぎてそんな技術は使えなかったが、心の整理はついてきたのかもしれない。ただ、正直いえば、やっぱり辛い。もの凄く…
その『好きな人』というのは誰かは分からない。彼女が言っていた『会社の友達』とみるのが自然なんだろうが……
『上手くいくといいね』
そんな事を返信しても、ぼくはまだ少し、彼女とLINEのやり取りを続けたかった。でも月光の反応は、前とは明らかに違う。やり取りも早く終わらせたいような雰囲気だった。もうどうする事もできないのかな‥‥
こんなさえない中年男、誰が好きになるってんだ・・・情けない。もう自信という自信は、皆無に等しい。
……もう、終わりなんだろうか・・・
あいも変わらず、いつものカフェでボーッとコーヒーを飲むぼく。あれから、LINEは既読にならなくなった。予想はしていたが、またブロックでもされてるのかも…
でも、もうどうでも良かった。
『旭さん?』
「・・・?」
声をかけてきたのは、ノブの奥さんだった。
「ああ、どーも。今日は一人?」
「うん、旭さんも?」
「うん‥最近はだいたい一人だよ」
「どーしちゃったの?最近げんきないみたいだね。詳しくは知らないけど、ノブも心配してたよ?」
「はは…」
事情を知っているのはノブだけだからな‥‥奥さんにも黙っててくれてんのかな・・まァ、言ってたっていいんだけど‥
「失恋でもしたんでしょ」
「ふぅ‥どーかねぇ」
「えーっ、旭さんの失恋話ききたい!」
「いや‥別に失恋したとは言ってないでしょ」
「その顔は失恋だよ」
「顔だけで分かる訳ないでしょ・・・」
「ねぇ、今度うちにおいでよ。娘達も旭さんなら喜ぶし」
「ほんと?行っていいなら全然いくけど」
「じゃあ、その時に失恋の話きかせてね」
「いやだから……」
「じゃーねー」
・・・・女って鋭いのかな……本当に失恋だって分かってんのかな。それともからかってるだけなのか………やっぱノブから聞いたのか?
『旭さん』
「え?」
何だか今日はよく声かけられるな…今度は男性だった。それは・・・月光の兄貴の『星夜』だった。
「おーっ…ひ、久しぶりじゃん」
何だか違う意味で戸惑ってしまった。ちょっとドキドキ・・・子供を二人連れていた。そういえば結婚してるのも知らないし、よく考えたらいま何をしているかなんて聞いていなかったな……それどころでもなかったし💧ってか、月光のやつ兄貴に言ってないだろうなうちらの関係・・・何も知らなそうだけど。
「ほら、こんにちはって」
星夜は男の子を抱っこしている。挨拶を促すが、ジッとこちらを見つめている……メチャクチャ可愛い。
「・・・・」
上の娘は4・5歳といったところか、星夜の後ろに隠れてこちらを伺っている・・・・少し、月光の面影がある……ぼくは自然とニッコリとしてしまった。
「こんにちは。何歳?」
ぼくが娘に話しかけると、
「・・・よんさい」
と、小さく答える。その手には何か小さなものを大切そうに握っている。
「んん?何もってるの?」
「たまごっち!」
そう言うと、手にしていたたまごっちを勢いよく差し出した。
「たまごっちかァ‥懐かしいな。また新しくなったんだ?」
「これねっ・・・」
と、娘はたまごっちの話をし出したら止まらなくなってしまった。ぼくはそれを熱心に聞き入る。子供の話を聞くのは得意中の得意だ。途中なにをいっているか分からない時もあるが、ぼくは聞いていても全く苦ではない。ぼくが子供と直ぐに仲良くなれる理由も、恐らくここにあるのかもしれなかった。こうやって、子供の頃の月光とも仲良くなったのかもしれない。男の子の方も、ぼくに向かって何かを話しているようだった。
「んー?何?」
反応してあげると、何やら言葉にならない言葉を一生懸命はなしている。かっ‥可愛い………
「うんとね、それでね・・・」
娘の方もまだ、たまごっちの話をしてくれているようだった。
「旭さん困ってるから…そろそろ行こうか」
また星夜が促す。
「パパ行こうってさ。また遊ぼうね」
「うん!バイバーイ」
・・・ハァ……最初あせったけど、、癒された・・・まさか月光の身内に癒されるとは思わなかった💧
『さあ、心の扉を開けなさい』
「・・・・」
何かの講演か、ぼくは広い教室のような部屋にいて、誰かの何かの講義を受けている。講師はターバンをした怪しげな外国人・・・でも、堪能な日本語を喋っている。
『同胞達よ…ここから先の話を聞くにはありのまま、つまりは裸になって、総じては全裸にならなくてはならない。さぁ‥‥』
教壇の講師がそう言うと、周りにいた他の受講者達が席を立つ。
『マスター‥アリガトコザイマス』
『オオ‥感謝モウシアゲマス』
よく見ると、ぼく以外の受講者は皆、講師と同じ国の人っぽい‥‥‥
―――何で講師だけ日本語ペラペラなのに、他の人達はカタコトやねん・・・
「アホらし‥‥すいませんオレ帰ります」
ぼくは席を立った。
『おい貴様!約束が違うぞッッッ捕まえろ!!!』
講師が何やら怒り始めるが、ぼくは気にせず教室を出ようとする。すると、他の受講者達が自らも全裸になりつつ、ぼくの服も脱がし始めてきた。
「うるせぇな、やめろよ‥‥」
等と言いながら、数人の受講者達に服を脱がされながらも、冷静に歩いて教室を出ようとする……
という、よく意味の分からない夢を見た💧
ヒカリも月光も出てこないし、これまでの夢とは全くニュアンスが違うが、一体どういう意味があるのだろう。いや、、ないのかもしれない。ひょっとしたら、ぼくの服を脱がす受講者の中に、ヒカリか、もしくは月光がいたのかも…………どうでもよかった💧
ただこの夢のお陰で、物事に心酔しすぎず案外いまは冷静でいるのかなと、少し自分にホッとしたものだった。
月光に沼って、骨抜きにされて、別れを切り出されて、また修復しようとして見事に失敗して・・・あれから数カ月が経った。ぼくはようやく自分を取り戻しつつある。
こう考えるようになった。
太陽が沈むその時、目の前に、手に入りそうだった光に何度も、何日も手を伸ばすが、届かない。その光は月なのだ。太陽が手を伸ばしたところで、どうあっても月に届くはずはない。
こんな無意味なシーソーゲームを、ぼくと月光は、いや‥‥最後はぼくだけが繰り返していた。
タイミングが悪かったんだと思っていた‥色んな要因があって、ぼくらはうまくいかないんだって。
でも違った。きっと、何の障害がなくても結果は同じだったと思う。だってぼくは旭で、向こうは月光‥‥ぼくらは月と太陽なんだ。
きっと薄れ始めたこの想いも、時間が経てばスッカリ忘れていく。ヒカリの時のように……胸に刺さった棘はとっくに抜いて、まだ傷も痛むけど、完治まではもうそんなに時間はかからないはずだ。傷痕は残ってもいい。それが当たり前になっていくのだろう…忘れらない記憶として。ヒカリの時にできた、多く刻まれた深い傷痕と同じように・・・
「えーっ?それって、旭さん悪くなくない?」
「えっ?」
ぼくはノブの家に遊びに来ていた。最初、奥さんに迫られて失恋の話をしろと言われ抗っていたのだが、あまりのしつこさに折れてしまった。
「それって多分、向こうが駆け引きしてきたんじゃないの?嫉妬するように仕向けたとしか思えないんだけど」
「・・・それは、、ないと思うけど💧」
「そーかなァ?天然でやったとしても…なかなか罪深い女だね」
「・・・・」
まさか女の人に肩を持たれるとは思わなかった。むしろ『えーっアンタ最低』みたいな事を言われるのかと………
「そーか?俺だったら何とも思わないぞ。向こうにも付き合いってもんがあるだろうし」
むしろ、ノブの方が月光の肩を持つような形になっている。
「嘘つけっ、ノブ絶対ヤキモチ焼くじゃん!」
「はあ?しねぇよ!ふざけんなっ」
高校の同級生同士のこの夫婦は、喧嘩するほど仲が良い。
・・・そう…これが普通だよな‥ちょっと喧嘩する位で音信不通になったり、ブロックしたりなんかしないよな…夫婦でなくても。
「向こうが若いのもあるかもね。いや、若すぎたかも」
「・・・・💧」
「まァ次いこうよ。きっと他にいいコ一杯いるからさ」
「は、はあ…」
「何なら、うちの娘どっちかどう?」
「えぇ?もっと若いじゃんっ」
「アハハッ、旭さんならいいよ。多分子供達も」
「…そーすると、随分と待たないとならないなァ」
上の子は話を聞いていたのかいないのか、キョトンとした顔をしている。
「ねえねえ!今度はいつご飯いくのっ?」
下の子が、後ろからぼくに抱きついてきた。
「次はいつ公園いく?」
上の子は正面から。
「えぇ…どっちも行ったばっかじゃん💧てか、いつも公園とご飯はセットじゃないの」
「何回でも行くの!」
「いつ?来週?」
「・・・・💧」
二人の娘に責められているぼくを、夫婦が楽しそうに眺めている。
「ホント、子供には好かれるのにな…」
「大丈夫、ちゃんといい人見つかるよ。アタシが保証するから」
「は、はあ…」
暫くはそんな気にもならないと思うのだが‥‥
「公園行ったらシーソー乗ろう?」
上の子が上目遣いで懇願してくる。
「いや‥‥💧それはちょっと」
・・・シーソーゲームは懲り懲りだ。
終