
静かな配置換え|雑サメ。〜勇者の隣で普通に暮らす……多分♯37 |第7章 正しさが通り過ぎる(なんか通り過ぎてった編)
――この世界には、BGMがない。――
神官Bが移動したと聞いた。
神殿の内部の人間も、半数ほどが入れ替わったらしい。
ミカルに聞くと、
「五年くらいで定期的にやってる。今回は長い方だな」
と、なんでもない顔だった。
後任の青いローブの神官は、Jと名乗った。
顔はもちろん、シオリにはBと同じに見えた。
性格も。
◻︎◻︎
炊き出し場の窓に日が差して、影が縮む。それと反対におばちゃん達の声のボリュームが上がっていく。
「配置換え?」
「もうそんな時期かしらねえ」
「まあいつものことだから大丈夫よ。神殿だし」
大根の皮をむきながら、おばちゃん達が答える。
「それより宗教? 前に見せてもらったやつ、流行ってない?」
「うーん、私はまだ本持ってるだけだけど、流行ってるわねえ」
「世の中変わんないから、ちょっと拠り所が欲しいのかもね」
「わかる」
「わかる」
「私も、ここ通ってなかったら、もうちょいどっぷり浸かってるかな」
「わかるー。 ああいうなんでも受け入れてくれる感じは魅力的」
「えー、そんな感じなんだ」
端で聞いていた娘さんが加わる。
「私も一回行ってきましたけど、良かったですよ」
「え? 怖くなかった?」
「友達と来ていいって言われたし、話のタネにって思って。今話題だし。あと神父さんがイケメン」
きゃーっと黄色い声が飛ぶ。
神殿が変わっても、ここはいつも通りだな。
シオリは黙って米を研ぎ続ける。
とぎ汁が白く濁り、繰り返すと少しずつ透明に近づいていく。
「まあ、どこも似たようなこと言うのよね」
「救われる、とか。大丈夫、とか」
「悪くはないんだけどさ」
包丁がまな板に当たる音が、一定の間隔で続く。
大根の皮が、長くつながって落ちる。
「神殿は変わっても、ここは変わんないわよ」
「ごはんは食べるしね」
「あー、暑い。それより今日窓開けないでね。風向き悪くって」
「あー、肥料の匂い?」
「うん。発酵中って感じ」
「ご飯作りながら肥料の話とかwww」
「だってしょうがないでしょwww」
シオリは米をもう一度、水にさらす。
手の感覚だけで、十分だと思うところで止める。
ざるから鍋に移し水の量を合わせ、蓋をする。
今日も、いつも通り米が炊ける。
スープは沸騰する手前で火を止める。
炊き出し場が良い匂いに包まれ列ができ始める頃、鐘が鳴った。
いつもと同じ音だった。
◻︎◻︎
夕方。神殿の食堂でいつも通りミカルとご飯を食べ、風呂に入り部屋に戻る。
途中、使われていないはずの一室に、灯りがともっていた。
中をのぞくと、シスターが静かに本を読んでいる。
「あれ? シスター、夜勤中?」
「あら、シオリ様。お恥ずかしい。ここなら誰も来ないと思って」
シスターは静かに本を閉じた。
茶色い表紙。
炊き出し場で、若い女の子も読んでいたものだ。
「流行ってますね、それ」
「ええ、読みやすくって。もう行きますね」
パタパタと、シスターの足音が夜に溶けていった。