
お花見と黄色い卵焼き|雑サメ。〜勇者の隣で普通に暮らす……多分♯56|第10章 そういう配置(だいたいお出かけ編)
――世界はポリゴン。食事はセル画。一国に付き解像度の高い男女一組。
触れるとリアルになる世界の卵焼きは、やたら黄色い。――
春。炊き出し場にて。
ラップを広げ、シオリはおばちゃん達とおにぎりを握る。
「お花見の季節ねえ」
「ちょっと早いんじゃない?」
「そーお?桜って毎年すぐ散っちゃうから」
「正しさの女神教もツアー組んでたよ」
「神殿も?あれ?教会だっけ?」
「神殿と教会って繋がってるんだっけ」
「別でしょ。両方女神様だけど、違う女神様だし」
「なんか混乱してきた」
「もー前はこんなこと無かったのになー。新興宗教なんて流行るから」
「正しさの女神教の悪口言わないでー」
「そういうこと言ってるんじゃないの」
「神殿は神殿。教会は教会。別組織。」
「あーそういうことか」
「正しさの女神様が教会の方?」
「そう。で、神殿の女神様は名前なんだっけ」
「忘れた。必要ないし」
「やっぱ混乱してきた」
「とにかく住んでるんだよね。神殿に」
「会ったことある?」
「神殿ねえ。だいたい神殿なんて言ってみればインフラでしょ?」
「あー。まあ拠り所っぽくはないわね」
「しっかり税金も引かれてるし」
「土木課も、予算部門もある」
「そういえば今、高速道路作ってるよね?」
「ミドリウマ専用のだっけ」
「スカシウシは乗れないんだよね。遅いから」
「入っちゃったらどうするの?」
「しれっと降りればいいのかな」
「わかんない」
「完成したらお花見も行きやすくなるといいな」
「七年後にできるとか言ってたよ」
「なんだ関係ないじゃん」
「そのくらいの年数、あっという間」
「おばちゃん、目が座ってない?」
「気のせいよ」
「えー」
「はい!最後握り終わったー!」
「はーいじゃあ配る準備ねー」
おにぎりが綺麗に並べられた大皿を持って、おばちゃん達と一緒に外の広場へと向かった。
◻︎◻︎
「ミカル!お花見行こう!」
神殿の自室に帰ってすぐ、少し肌寒いと思ったが提案した。
炊き出しの帰りに近くの公園を下見したら、もうつぼみだったし。
「まだ早いんじゃないか?」
「ううん。こういうのはもう見頃だなと思った瞬間散っちゃってるんだよ」
いつも通り、ソファでくつろいでいたミカルが顔を上げる。
「お前熱量すごくないか?」
「ふつーだよ!神殿のシスターに相談したらお弁当作ってくれるって言うし、行かないと!」
「花見って、お弁当食べるのか?」
「え?そこからなの?」
今度はシオリが首を傾げる番だった。
◻︎◻︎
その週の休日。
「重装備だな」
ミカルはいつも通り軽装。
シオリはというと、リュックに重箱とレジャーシートを詰めたらパンパンだった。
何故か水筒を三本、シスター達から渡された。
「持つからよこせ」
「すぐ近くだからいーよ」
少し押し問答して、結局水筒だけお願いした。
オーブを使っても良かったが、近くだったので歩いていく。
着くとそれなりに人がいた。
「この世界でもブルーシートって風情あるわ〜」
しばらく歩き回って手頃な場所を探す。
ちょうど良い桜の木陰にレジャーシートを広げ、風で飛ばないよう石で固定した。
お弁当を開けると。
「すごい!型押しお寿司だ!ちゃんとお花型!」
ピンクのでんぶが乗っている。
次の重を開けると。
「そうめん?」
そういえば水筒を一本多めに渡されたのだった。
シオリは蓋を開けて匂いを確認する。
「おつゆ入ってるわ」
コップを並べてつゆを注ぐ。
そうめんは、ひとかたまりずつ巻いてきれいに並べられていて、箸でつつくとすぐに解けた。
風が吹くと、上から桜の花びらがゆっくり落ちてくる。
「やっぱり散るとキレイだねえ」
手のひらで受け止めると、思った通りしっとりとした花びらになった。
「こういうの、お前好きなんだな」
「うん。楽しい。シスターたちのお弁当美味しいし。あ、見て卵焼きあるよ」
別箸で卵焼きを取り、ミカルに渡す。
「まずお重っていうのがいいよね。風情がある」
「ふーん」
「で、卵焼き焦がさないように焼くとか結構難しいじゃん。ちゃんと黄色なんだよ?すごくない?」
「そうなのか?」
「今度作る?」
「いや、いい」
「あ、見てピーマンの肉詰め!地味に作るのめんどいやつ!」
ふっとミカルが笑った。左手をシートについた。
「え?どうかした」
「なんでもない」
桜の木を見上げた。
角張った花びらがヒラヒラ舞って、地面に積もる。
「来て良かったな」
小さく呟いて卵焼きをつついた。