
世界が更新されたのかどうかは、よく分からなかった雑サメ。〜勇者の隣で普通に暮らす……多分♯54|第9章 世界が更新されたのかどうかは、よく分からなかった(たぶん気のせい編)
久しぶりに、ミカルにくっついてシオリはクエストに出かけた。
その途中、見覚えのある丘に出た。
「あ、ここ」
「ああ、前家族が住んでた隙間だな」
白い隙間が岩のテクスチャで埋められていた。
「洞窟になってるね」
「家族もいないな」
表に立ててあった看板も無くなっていた。
「こういうことってよくあるの?」
「隙間埋めるのは珍しいな。看板は、いつか撤去されるとは思ってたけど」
「あ、見てみてミカル、宝箱」
中身はリポビタだった。
数日後、シオリとミカルは丘に行ってみた。
いつもの白い隙間に戻っていた。
「……戻ってるね」
「だな」
ミカルはそれ以上何も言わなかった。
二人で丘を少し眺めてから神殿へ戻った。
◻︎◻︎
その日の夜、シオリはぬか漬けのシスターに肝試しに誘われた。
「神殿の端っこに開かずの倉庫があるんです。そこにみんなで行こうかと」
「開かずの?」
「はい。鍵もなくて」
「掃除大変そうだね。それ一生開かなくて良い奴だわ」
シスターは肩を震わせながら笑いを堪えていた。
◻︎◻︎
場所を変更して、今朝行った丘へいくことになった。
「人数が多いので牛車に乗りましょ」
シスター達の提案で連れてかれた先には、見ためロバくらいの小さな生き物が二頭牛車に繋がれていた。
「これ牛なの?」
「スカシウシですよ。知りません?お尻が可愛いでしょ」
シスター達は集まって、ウシと呼ばれた生き物のふわふわのオシリを撫で回す。ふわふわの生き物は「ぷぎっ」と一声鳴いて気持ち良さそうにあくびした。
ミカルの方を見ると、何やら別の変わった生き物に乗っていた。
大きい。……街中で見た事あるような。あれが例のミドリウマかな。
丘へは二十分くらいで着いた。見た目よりも力のあるスカシウシはのんびりとした足取りで坂を登る。ちょっと揺れたが、案外お尻は痛くなかった。クッションも敷いてあったからかもしれない。
シスター達に牛車から降ろしてもらい、ロウソクにあかりを灯す。
肝試しというよりお散歩。
護衛だと言わんばかりにミカルが一番後ろを歩いている。ミカルに手綱を引かれ、ミドリウマがゆっくり坂を登る。
「ぶほっ」とウマが鼻を鳴らすと、ミカルは慣れた手つきで首筋を撫でた。
ウマは気持ちよさそうに全身をプルプル震わせた。
耳毛と足毛がとても長く、瞳がとても澄んでいた。鼻息はなんとも生暖かく、口元をべロリと舐められた。
「近づくと顔舐めるんだ。そいつ。癖になっててな」
ミカルはふっと身を引くが、下顎を舐められていた。ミドリウマは横目でじっとミカルを見る。
……それは、早く言って欲しかった。シオリはヨダレまみれになった口元をタオルで拭った。
なぜか味噌の匂いがした。
その間も、シスター達がきゃいきゃいと話しながら前を進んでいく。
みんな、いつもの顔だった。
シオリは空を仰いで星を眺める。
全部ポリゴン。
でも。
歩き方とか、
声とか、
笑い方とか。
そういうのは、前より少し分かる気がした。
いつからだっけ?シオリは首をかしげる。
「……まあいいか」
夜の丘にロウソクの灯りが揺れる。
「シオリ様!」
糠漬けのシスターことLが手を振っている。
今朝名前を教えてもらった。
「はーい」
シオリは彼女の方へ歩き出す。
途中でふと思い出す。
「……あ、そういえば」
「なんだ」
「ちゅーする?」
ミカルは一瞬立ち止まった。
「いいから行け」
と言った。
世界が更新されたのかどうかは、
よく分からなかった。
けど、普通に歩いているだけで楽しかった。