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ふりむく犬

    #創䜜倧賞2026 #ミステリヌ小説郚門

    初倏の日差しの䞭、その日、その時、その瞬間、僕の目の前、玄メヌトル皋先を䞀匹の犬が歩いおいたした。今日はその時の事を、お話させお頂こうず思いたす。


    䌑日のその日、僕は片手に小さなアむボリヌの色でデザむンされた手提げの玙袋を持っお倖を歩いおいたした。玙袋の䞭には癜い小さな箱に入ったケヌキが぀。自分の分もありたすが、別段、自分のために買った物ではありたせん。家で埅っおる劻ず䞀緒に食べるために近くのケヌキ屋さんぞず行き、䞀぀はモンブランを、もう䞀぀はチヌズケヌキを買いたした。チヌズケヌキは僕が、モンブランは甘いものが奜きな劻がリク゚ストした物です。散歩がおら、歩いお20分皋の所にある、この蟺りでは割ず人気のケヌキ屋さんたで行き、買い物を枈たせた埌、家ぞず垰る途䞭です。
    梅雚も終わりを迎え、空は青く、癜い雲がゆっくりず流れでいく景色が、ずおも綺麗に芋えたす。季節はもう初倏です。僕は空を芋䞊げながら短い距離の散歩を楜しみながら垰宅の途に぀いおいたす。

    ふず前を芋るず、ご近所のお宅のご䞻人が犬を散歩させおいるのを目にしたした。そこのご䞻人が朝倕ず飌っおる犬を散歩させおいる事は以前から知っおはいたした。その犬は小柄で薄い茶色の毛䞊みをした雄の柎犬君。僕がその家の前を通るず倧抵その小さな犬がいおこちらを芋おいたす。その犬は普段は決しお吠えない子です。ですが僕が興味を持っお近づいおいき、その家の敷地付近のある距離にたで螏み蟌むず 。
    「ワン」ず䞀声、吠えたす。でも、䜕床も続けお吠える蚳でもなく、殊曎、倧きな吠え方ずいう蚳でもありたせん。ですがその声には、「これ以䞊は入らないで䞋さい」、ずいった、それは蚀葉ずしお明確に匷い意思を感じさせる物でした。぀たりそのお宅の柎犬君は、ずおも優秀な番犬だったずいう事なのだず思いたす。

    その小さな柎犬君がご䞻人ず䞀緒に散歩をしおいる所のようです。僕は歩みを少し早め家路ぞず向かいたす。そしお前を行くその柎犬君に少し近づいたその瞬間 。
    その柎犬君が、突然、歩みを止め、僕の方を振り返りたした。圌の黒目がちの優しげな瞳がこちらを芋぀めおいたす。同じく立ち止たった僕は、ああ、あの子、埌ろから来る人の気配を感じたのかなたぁ、足音で気づくか。そんな思いで䜕気なくたた前に向かっお歩き始めたした。それから20歩もいかない内、前の柎犬君はたた埌ろを振り向きたした。その衚情は心なしか䜕かを蚎えるかのような柄んだ瞳でこちらを真っすぐに芋぀めおいたす。え、なんでたた振り向くんだろ。割ず前からご䞻人のお宅を良く通っおいお、僕の事は初芋ではない筈なのに。そんな事を思い぀぀、たた立ち止たっおは圌ず目線が合い、ほんの少し笑いそうになった自分です。そしおたたその柎犬君は、たた前を向きトコトコず歩きだしたした。そしお僕も同じようにたた歩き始めたす。

    別に倧した事はないか。前にいる柎犬君は、たたたた埌ろにいた僕を二回、芋ただけの事。別に他意はないさ。そう思いはしたしたが、でも、少しだけ䞍思議に思ったのも本圓の事です。別に倧した事でもないか、ず自分を諭すかのように、でもそれは自分自身に、『蚀い聞かせおいた』。そんな気がしたす。
    そうしおたた歩き始め、でもたた20歩ほど歩いた、その時。その柎犬君はたたこちらを振り向いたんです。
    「えっ」。さすがに若干、ホンの少し驚いた自分は、それは信じ難い事だけど、ほんの少し。そう、ほんの僅かに少しだけだけど 。
    背筋に冷や汗のような物を感じた、いえ、感じたような気がしたした。少しだけ、怪蚝な思いを感じた、そんな自分に驚く自分がそこにいた気がしたす。
    怪蚝に思ったのはその柎犬を連れおいたご䞻人もそうだったみたいです。普段はひたすらに前を向いお散歩を楜しみにしおいた筈の愛犬が、二床、いや、䞉床続けお、埌ろを振り向いた。そんな事は、おそらくあたり無かった事だったず思いたす。飌い犬のご䞻人も埌ろに䜕かあるのかず思い振り向きたした。
    そこには近所に䜏んでいる倫婊の倫ず芋られる男性が手提げの玙袋を片手に䜇んでいる。その光景をご䞻人は芋お、その圓事者である僕ずも目が合い、䜕ずなく互いに軜く䌚釈したした。

    その時、僕は気付きたした。前を行く柎犬君は、別に僕を芋おいた蚳じゃないずいう事に。僕が持っおいた手提げの玙袋の䞭にある、ケヌキを芋詰めおいたんじゃないかずいう事に。倚分、それが正解なんじゃないかっお 。

    通垞、犬の臭芚は最倧で人間の玄䞀億倍あるそうです。䜓内にある臭芚を感じる现胞は人間は500䞇個あるのに察しお犬は二億から䞉億個あるず蚀われおいたす。たた、嗅球きゅうきゅうず呌ばれる臭芚を凊理する脳の郚䜍も人間ず比しお玄倍ずの事です。そんな豆知識はテレビなどで良くある動物番組の䞭で、専門家の方が話されおいるのを聞き知った事なのですが。

    ですがそれ以前から、犬の臭芚がずおも優れおいるずいう事は知識ずしお知っおはいたした。それ故に、ゞャヌマンシェパヌドやビヌグル犬ずいった犬皮の犬が、譊察犬ずしお蚓緎され実務に携わっおいるずいう事も。それは刑事ドラマなどでも芋る機䌚が良くあった事を思い出したす。でも、たさかこんな圢で、その犬達の胜力を、生たれながらに持ち埗るスペックを間近に芋る事になるずは、正盎、たるで思っおもいたせんでした。そうしお僕はその埌は特に䜕事もなく家に垰っおきたした。家で埅っおいた劻にケヌキの入った玙袋を枡し、ケヌキ屋さんからの垰りの途䞭こんな事があったよ、ず、今日の柎犬君ずのやり取りを䜕気なく話したした。ただの話題の䞀぀ずしお。

    するず劻は開口䞀番、
    「えっそれ、凄く可愛いじゃない。それっおあそこのお宅のワンちゃんず、しっかりコミュニケヌションしおるっお事じゃないのいいなぁ〜あたしもあそこのお宅のワンちゃん、い぀芋おも可愛らしいず思っおたのよね。その話、なんだか本圓に矚たしいわ」。
    そんな蚀葉を聞き、自分が思っおいた以䞊のリアクションが劻から返っおきた事に逆に僕が驚きたした。「いや、かわいいず蚀うより、少し䞍可思議なやり取りだったよ。あのワンちゃん、別に吠えるでもなく、ただ僕を、いや、今、思うず僕の手にしおいたケヌキを芋぀めお、倚分、興味深々だったのかもしれない。犬がケヌキを食べるかどうかは知らないけどね」。「そうね、ワンちゃんっおドッグフヌドや、ビヌフゞャヌキヌずかしかあたしも思い浮かばないわ。ケヌキも食べるのかしら」。「それは僕も分からないけど、圌がケヌキの匂いに気付き、埌ろを回も振り向いた事は、今、思うずなんだか笑っおしたう経隓だった気がするよ」。その蚀葉の埌に続けお僕はこう蚀いたした。

    「ずにかくたずはコヌヒヌの豆を挜くよ。君ず今日ずいう日を祝いたいからね」。
    ええ、今日7月7日は僕の劻の誕生日なんです。そのために圌女のお気に入りのケヌキ屋さんたで僕が行き、圌女のお気に入りのモンブランを買いに行き、件の柎犬君のお話はその垰りの出来事だった、ずいう蚳なんです。

    7月7日。そう、圌女は䞃倕の日が誕生日なんです。こんな事、劻には蚀いたせんが、圌女は、぀たりは織姫なんじゃないかっお。でも、それなら僕は圊星ずいう事かな。おずぎ話のそれずは異なり、䞀幎に䞀床しか䌚えないそんな性さがはたるで無いのですが。ですが、今日、僕が経隓した、少しコミカルで少し䞍思議なお話も圌女のバヌスデヌのために、遠い宇宙のどこかにいる誰かが、もし䞎えおくれた物だずしたなら、それは感謝しなきゃいけない事なのかもしれたせん。

    䞀幎に䞀床の䞃倕の日が、劻の誕生日なのは、ただの偶然です。でも僕にずっおばずおも倧きな忘れ難い倧切な日です。そんな劻が、少しでも笑顔になっおくれたのなら、あの柎犬君にも感謝しなきゃいけないのかもしれたせん。今床、劻ず䞀緒にあの子に䌚いに行きたい気もしたす。そんな他愛もない事を぀い思っおしたう自分です。そんな䞃倕の日の今日。やはりこう思わずにはいられたせん。
    共に生きおゆく最愛のパヌトナヌである圌女の人生に幞あらん事を。その事を想い倩を芋䞊げたす。そしおそれは 。

    星に願いを蟌めお。
    密かにそれを願う自分です。


     
     
     

    京䞋

     
     
    䞊䞋巊右、平均倀、倚分それ以䞋。 ミステリアスじゃないミステリヌが奜きです。

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