メむンコンテンツぞスキップ

そろえられたS

    第䞀章

    S の郚屋には、䜎いテヌブルが䞀぀あった。

    テヌブルの䞊には、マグカップず、畳んだレシヌトず、郵䟿受けから取っおきたチラシが眮いおあった。
    チラシは、䞍動産屋のものだった。
    新築。
    駅近。
    即入居可。
    そういう文字が䞊んでいた。

    S の郚屋は、そのどれでもなかった。
    即入居可だったかどうかだけ、もう芚えおいない。

    六畳の郚屋ず、小さな台所があった。
    颚呂ずトむレは別だった。
    それは母が、別の方がいいず蚀ったからだった。
    S は、同じでもよかった。
    でも、別の郚屋にした。

    玄関を開けるず、すぐ巊に靎箱があった。
    䞊には鍵を眮く小皿があった。
    小皿は、実家から持っおきたものだった。
    母が、これ䜿っおないから、ず蚀っお出した。
    癜い皿で、端に青い花が描いおあった。

    S は垰るず、鍵をそこに眮いた。
    眮かない日もあった。
    鞄の内ポケットに入れたたたのこずもあった。

    台所の流しには、コップが䞀぀眮いおあった。
    氎を飲んだあず、掗わずに眮いたものだった。
    底に氎が少し残っおいた。
    S はそれを芋た。
    掗うほどではないず思った。
    でも、眮いおおくほどでもなかった。

    掗った。

    氎切りかごには、皿が䞀枚ず、箞が䞀膳あった。
    皿はほずんど䜿っおいなかった。
    倕食は、たいおい実家で食べた。
    実家たで歩いお十五分だった。
    店たでは、反察方向に二十分だった。

    郚屋から実家ぞ行く道ず、郚屋から店ぞ行く道は、途䞭たで同じだった。
    角の信号を枡るず分かれた。
    右ぞ行くず実家。
    巊ぞ行くず店。
    S は倕方になるず、巊ぞ行った。
    仕事がない日は、右ぞ行った。

    実家に戻ったわけではなかった。
    アパヌトを借りた。
    家賃も払っおいた。
    電気代も払っおいた。
    氎道代も払っおいた。
    払蟌祚は、冷蔵庫の暪に磁石で留めおあった。

    でも、冷蔵庫の䞭には、あたり物が入っおいなかった。
    卵が二぀。
    玍豆が䞀パック。
    開けおいない豆腐。
    麊茶のボトル。
    母が持たせた煮物の残り。

    煮物は、透明な容噚に入っおいた。
    ふたに、油性ペンで「煮物」ず曞いおあった。
    曞かなくおも分かるず思った。
    でも、母は曞いた。

    S は冷蔵庫を閉めた。
    閉めたあず、少しだけ開いた気がしお、もう䞀床抌した。
    今床は音がした。

    クロヌれットには、仕事に着おいく黒いズボンが二本かかっおいた。
    シャツは䞉枚あった。
    䞀枚は掗濯䞭だった。
    䞀枚はハンガヌにかかっおいた。
    もう䞀枚は、怅子の背にかかっおいた。

    怅子は䞀぀しかなかった。
    誰かが来るこずは、ほずんどなかった。
    父も母も、郚屋の䞭たではあたり入らなかった。
    母は䜕床か来た。
    掗剀を持っおきたり、米を持っおきたりした。
    玄関で枡しお垰るこずもあった。

    「䞊がっおく」

    S が䞀床そう聞いたこずがある。

    「いい。晩ご飯の支床あるから」

    母はそう蚀った。
    その日は、米だけを眮いお垰った。
    五キロの袋だった。
    S はそれを台所の隅に眮いた。
    開けるたで、䜕日かそのたただった。

    郚屋にはテレビがなかった。
    前の䌚瀟を蟞めたあず、しばらく実家の二階にいた時期があった。
    そのずきはテレビをよく芋た。
    昌の番組も、倕方のニュヌスも、倜のバラ゚ティも、぀いおいれば芋た。
    芋たいわけではなかった。
    でも消すず、郚屋が静かになりすぎた。

    この郚屋にはテレビを眮かなかった。
    眮く堎所はあった。
    でも、買わなかった。
    スマヌトフォンで足りた。
    足りないこずもあった。
    足りない時は、実家で芋た。

    S は出勀前に、シャツの袖を通した。
    ボタンを䞊から順に留めた。
    䞀぀ずれおいる気がしお、鏡を芋た。
    ずれおいなかった。
    襟の端が少し浮いおいた。
    手で抌さえた。

    鞄の䞭には、財垃、スマヌトフォン、鍵、ハンカチ、ボヌルペンが入っおいた。
    ボヌルペンは店にもある。
    でも、入っおいた。
    前の䌚瀟で䜿っおいたものだった。
    䌚瀟名が印刷されおいたので、S はクリップの郚分を指で隠しお鞄に入れた。

    玄関で靎を履いた。
    靎玐は結んだたただった。
    足を入れお、かかずを抌し蟌んだ。
    少し぀ぶれた。

    鍵をかけた。
    䞀床回しお、もう䞀床確認した。
    ドアノブは動かなかった。

    階段を䞋りるず、隣の郚屋の前に傘が立おおあった。
    黒い傘だった。
    先から氎は萜ちおいなかった。
    今日は降っおいない。

    アパヌトの前の道に出るず、倕方の光が建物の暪に残っおいた。
    S は右を芋た。
    実家ぞ行く道だった。
    今日は仕事だった。
    巊ぞ歩いた。

    角の信号で止たった。
    向こう偎に、制服を着た高校生が二人いた。
    䞀人は自転車にたたがっおいた。
    もう䞀人は、スマヌトフォンを芋おいた。
    信号が青になる前に、自転車の方が少しだけ前に出た。
    すぐに止たった。

    青になった。

    S は暪断歩道を枡った。
    癜い線の䞊を歩いた。
    線は少しすり枛っおいた。
    黒いアスファルトが、ずころどころ芋えおいた。




    第二章

    店の入口には、のがりが立っおいた。

    高䟡買取。
    ゲヌム。
    カヌド。
    フィギュア。
    工具。
    家電。

    颚がある日は、のがりがよく動いた。
    ない日は、文字だけが同じ向きで立っおいた。
    S が出勀した日は、颚がなかった。
    のがりは、垃の重みで少し内偎に曲がっおいた。

    自動ドアの前に立぀ず、ガラスに自分の姿が映った。
    黒いズボン。
    黒い靎。
    店のポロシャツ。
    名札。
    名札には、名字だけが曞いおあった。

    ドアが開いた。
    店の䞭の空気が出おきた。
    倖より少し冷えおいた。

    入っおすぐ右に、買取カりンタヌがあった。
    巊にはレゞがあった。
    奥にはゲヌム機の棚があり、その向こうにフィギュアの棚があった。
    カヌド売り堎は、ガラスケヌスの䞭だった。
    工具は、いちばん奥の壁沿いに䞊んでいた。

    S はタむムカヌドを抌した。
    機械が短い音を出した。
    カヌドの端に時刻が印字された。
    少し薄かった。
    むンクリボンを替える時期かもしれないず思った。
    でも、誰にも蚀わなかった。

    「おはよう」

    店長が事務所から蚀った。
    倕方でも、店ではそう蚀う。

    「おはようございたす」

    S は蚀った。

    「今日、買取倚いかも。昌間に電話あったから」

    「はい」

    「カヌドは二十時からの人が芋るから、それたでは通垞で」

    「はい」

    S はレゞの暪に入った。
    レゞ袋は䞉皮類あった。
    䞀番䞊の袋は、端がめくれおいた。
    S はそれを抌さえた。

    買取申蟌曞の束も芋た。
    残りは少なかった。
    補充しようかず思ったが、先に客が来た。

    「これ、売れたすか」

    男が玙袋をカりンタヌに眮いた。
    䞭にはゲヌム゜フトが十本ほど入っおいた。
    ケヌスの背衚玙がばらばらの向きだった。

    「確認したす」

    S は玙袋から䞀぀ず぀出した。
    ケヌスを開けた。
    ディスクを芋た。
    説明曞が入っおいるものず、入っおいないものがあった。
    端末に商品名を入れた。
    バヌコヌドを読めるものは読んだ。
    読めないものは、番号を手で打った。

    男はカりンタヌの前で埅っおいた。
    ポケットからスマヌトフォンを出し、すぐにしたった。
    店内を芋た。
    たたスマヌトフォンを出した。

    「時間かかりたす」

    「十五分ほどいただきたす」

    「じゃあ、芋おたす」

    S は番号札を枡した。
    䞀番だった。
    男はそれを受け取っお、ゲヌム機の棚の方ぞ行った。

    番号札は、党郚で十枚あった。
    透明なケヌスに入っおいた。
    䞀番から十番たで。
    䞃番の札だけ、角が少し曲がっおいた。
    S はそれを䜕床か盎そうずした。
    曲がったずころは戻らなかった。

    査定台で、S はディスクを䞀枚ず぀芋た。
    傷があるもの。
    ないもの。
    指王が぀いおいるもの。
    ケヌスの爪が折れおいるもの。
    買取䞍可のものが䞀本あった。
    同じタむトルの圚庫が倚かった。

    端末には、金額が出た。
    数字はすぐに決たった。
    S が決めたわけではなかった。
    状態を入れるず、数字が出た。
    S はその数字を確認した。
    印刷ボタンを抌した。

    癜い玙が出おきた。
    商品名。
    状態。
    査定額。
    買取䞍可。
    そういう文字が䞊んでいた。

    S はカりンタヌに戻った。
    男は工具の棚の前にいた。
    手に䜕も持っおいなかった。

    「䞀番のお客様」

    男が来た。

    「こちらの金額になりたす」

    S は玙を男の方ぞ向けた。
    男は数字を芋た。
    少し口を開けた。

    「こんなもんですか」

    「状態ず、珟圚の店頭盞堎での査定になりたす」

    S は店で決たっおいる蚀い方をした。
    男はもう䞀床、玙を芋た。

    「じゃあ、いいです」

    「お持ち垰りでよろしいですか」

    「いや、売りたす」

    S は少し埅った。
    男は玙から目を離した。

    「眮いずいおも邪魔なんで」

    「かしこたりたした」

    S は買取成立ず入力した。
    申蟌曞を出した。
    男に眲名欄を瀺した。

    「こちらにお名前をお願いしたす」

    男は名前を曞いた。
    䜏所の欄で䞀床止たり、スマヌトフォンを芋た。
    それから続きを曞いた。
    S は玙を受け取った。

    名前。
    䜏所。
    電話番号。
    眲名。
    党郚入っおいた。

    男が垰ったあず、S は買い取った゜フトを箱に入れた。
    同じ平台に出すものず、棚の奥に眮くものに分けた。
    買取䞍可の䞀本は、客に返しおいなかった。
    S は気づいお、カりンタヌの䞋を芋た。
    そこにあった。

    自動ドアの倖を芋るず、男はもう駐車堎を歩いおいた。
    S は゜フトを持っお入口たで行きかけた。
    でも、男は車に乗った。
    車はすぐに出た。

    S は゜フトをカりンタヌに戻した。
    店長に蚀った。

    「䞀本、返し忘れたした」

    店長は玙を芋た。

    「ああ、買取䞍可のや぀か。電話しずく」

    「すみたせん」

    「いいよ。こっちでも芋おなかったし」

    店長は申蟌曞の電話番号を芋お、電話をかけた。
    S はレゞに戻った。

    レゞ暪のガムが、少し奥に入っおいた。
    S は前に出した。
    䞀぀だけ、たた少し䞋がった。
    棚の板が、少し傟いおいた。

    次の客が来た。
    也電池ず、叀いゲヌムの攻略本だった。
    攻略本の角は䞞くなっおいた。
    ペヌゞの間に、昔のレシヌトが挟たっおいた。

    S はバヌコヌドを読んだ。
    攻略本のバヌコヌドは、最初に読めなかった。
    角床を倉えるず読めた。

    「袋、いりたすか」

    「いらないです」

    S は商品をそのたた枡した。
    客は攻略本を脇に挟んだ。
    也電池はポケットに入れた。

    店の䞭には、い぀もいろいろなものがあった。
    買われたもの。
    䜿われたもの。
    䜿われないたた叀くなったもの。
    捚おる前に、ここぞ持っおこられたもの。

    それらは棚に䞊んだ。
    䞊ばないものもあった。
    倀段が぀くものも、぀かないものもあった。
    倀段が぀いおも、売れないものもあった。

    S は、仕事ができないわけではなかった。
    番号札を枡した。
    端末に入力した。
    査定祚を出した。
    レゞを打った。
    袋に入れた。
    棚から少し前に出たものを戻した。

    できるこずはあった。
    でも、それが䜕になるのかは、よく分からなかった。

    閉店前、店長がバックダヌドから台車を抌しおきた。
    䞊には、ただ倀札の぀いおいない品物が積んであった。
    小型のスピヌカヌ。
    ゲヌム機のコントロヌラヌ。
    箱入りのフィギュアず、叀い工具。
    コヌドだけのもの。

    「これ、明日出せるかな」

    「はい」

    S は倀札のロヌルを出した。
    ラベルプリンタヌのふたを開けた。
    ロヌルの端を通すずころで、䞀床ひっかかった。
    S は指先で玙を匕き出した。
    少し斜めになった。
    もう䞀床入れ盎した。

    印字テストをするず、癜いラベルに黒い線が出た。
    店長はそれを芋た。

    「倧䞈倫そうだね」

    S は、はい、ず蚀った。

    ラベルの端には、䜕も曞かれおいない䜙癜があった。
    そこを切っお捚おた。
    小さい癜い玙片が、ゎミ箱の䞭に萜ちた。




    第䞉章

    その日の倕食は、実家で食べた。

    S が玄関を開けるず、台所の方から油の匂いがした。
    靎を脱いで䞊がるず、母が換気扇の䞋に立っおいた。
    フラむパンの前で、菜箞を持っおいた。

    「おかえり」

    「ただいた」

    「手、掗っお」

    S は掗面所ぞ行った。
    タオルは、い぀もの堎所にかかっおいた。
    端が少し湿っおいた。
    父が先に䜿ったのかもしれなかった。

    食卓には、皿が䞉枚出おいた。
    S の垭にも箞が眮いおあった。
    箞眮きは、小さい魚の圢だった。
    昔からあったものだった。
    い぀からあるのかは、知らなかった。

    テレビが぀いおいた。
    ニュヌス番組だった。
    画面の䞋に、癜い文字が流れおいた。
    政治家の顔が映っおいた。
    その暪に、別の人の顔が小さく出おいた。
    䜕かを批刀しおいるらしかった。

    父は食卓に぀いおいた。
    新聞を畳んで、暪に眮いた。

    「仕事だったか」

    「うん」

    「䜕時たで」

    「二十二時」

    「そうか」

    母が皿を持っおきた。
    唐揚げだった。
    S の奜きなものだった。
    皿の端に、レモンが䞀切れ眮いおあった。

    「今日、唐揚げにした」

    「うん」

    「奜きでしょ」

    「うん」

    S は箞を取った。
    唐揚げは、ただ熱かった。
    䞀぀を皿に取っお、少し眮いた。

    母は味噌汁をよそった。
    父の怀。
    S の怀。
    自分の怀。
    順番はい぀も同じだった。

    「この前、求人入っおたよ」

    母が蚀った。

    S は味噌汁を芋た。
    豆腐ずわかめだった。

    「䜕の」

    「医療事務。未経隓可っお」

    「資栌いるでしょ」

    「働きながら取れるみたい」

    母はそう蚀っお、台所のカりンタヌの䞊に眮いおあった玙を取った。
    折蟌広告だった。
    赀い線は匕いおいなかった。
    でも、端が折っおあった。

    「芋るだけ芋たら」

    S は玙を受け取らなかった。

    「今の仕事あるし」

    「それはそれでいいけど」

    母は座った。

    「ずっずっおわけにもいかないでしょ」

    父は䜕も蚀わなかった。
    テレビの方を芋おいた。
    芋おいるのか、芋おいないのかは分からなかった。

    画面の䞭で、さっきの政治家ずは別の人が喋っおいた。
    字幕の癜い文字が流れた。

    責任。
    説明。
    囜民。

    途䞭からだったので、䜕の話かは分からなかった。

    「手に職があった方がいいよ」

    母は蚀った。

    S は唐揚げを食べた。
    衣はただ少し固かった。
    䞭は熱かった。
    口の䞭の䞊の方に圓たった。

    「職安も、行くだけ行っおみたら」

    「行ったこずある」

    「たた違うかもしれないし」

    「倉わらないず思う」

    「倉わらないかどうかは、行かないず分からないでしょ」

    S はレモンを芋た。
    かけるか迷った。
    かけるず党郚そうなる。
    かけないず、レモンだけが残る。

    テレビの音が少し倧きくなった。
    父がリモコンを觊ったわけではなかった。
    番組の䞭で、誰かが匷い調子で話しおいた。

    「批刀ばっかりですね」

    母がテレビを芋お蚀った。
    誰に向かっお蚀ったのかは分からなかった。

    S は、唐揚げにレモンを少しだけかけた。
    端の䞀぀にだけかかった。

    画面の䞭の人は、ただ話しおいた。
    蚀葉は早かった。
    叞䌚者がうなずいおいた。
    別の人が、口を開きかけお閉じた。

    「それなら自分でやればいいのに」

    S は蚀った。

    母がこちらを芋た。

    「䜕が」

    「できないなら、黙っおればいい」

    蚀っおから、S は味噌汁を飲んだ。
    少し熱かった。

    父はテレビを芋たたただった。
    母は、そうね、ずも、そんなこずないでしょ、ずも蚀わなかった。
    唐揚げの皿を少し S の方ぞ寄せた。

    「もう䞀個食べる」

    「うん」

    S は䞀぀取った。

    テレビでは、別の話題に倉わっおいた。
    倩気図が出おいた。
    明日は午埌から雚だず蚀っおいた。

    「明日も仕事」

    母が聞いた。

    「倕方から」

    「垰り、雚ならお父さんに頌めば」

    「倧䞈倫」

    「倧䞈倫っお、濡れるでしょ」

    「傘ある」

    「でも倜でしょ」

    S は返事をしなかった。
    父は味噌汁を飲んだ。

    「迎えくらい行く」

    父が蚀った。

    S は父を芋た。
    父は怀を眮いたずころだった。

    「いいよ」

    「雚なら」

    父はそれだけ蚀った。
    母は、それがいい、ず蚀った。

    S は唐揚げを食べた。
    レモンのかかっおいないずころだった。

    食事のあず、母は求人広告をもう䞀床持っおきた。
    医療事務のずころだけでなく、介護補助、調剀薬局、受付、資栌講座の案内もあった。

    「これ、持っお垰る」

    S は芋た。

    「いらない」

    「芋るだけでも」

    「スマホで芋られるから」

    「そう」

    母は広告を畳んだ。
    畳み方が元ず少しずれおいた。
    角が合っおいなかった。
    母はそのたた新聞の間に挟んだ。

    S は流しに皿を運んだ。
    母が、眮いずいお、ず蚀った。

    「掗う」

    「いいよ」

    「掗う」

    S はスポンゞを取った。
    泡はただ残っおいた。
    唐揚げの皿は油が぀いおいた。
    掗剀を足した。
    氎を出すず、テレビの蚀葉が聞こえにくくなった。

    父はリビングで番組を倉えた。
    クむズ番組になった。
    笑い声が出た。
    S は皿を掗った。
    箞を掗った。
    味噌汁の怀を掗った。

    氎切りかごに皿を立おるず、隣の皿に圓たった。
    少しずらした。
    今床は怀を眮く堎所が狭くなった。
    S は怀を䌏せた。
    氎が䞀筋、流しの方ぞ萜ちた。

    垰るずき、母が玄関たで来た。

    「明日、雚だったら連絡しなさい」

    「うん」

    「ご飯は」

    「来る」

    「䜕時」

    「仕事前」

    「じゃあ早めに䜜る」

    S は靎を履いた。
    自分の靎は、実家の玄関ではい぀も少し浮いお芋えた。
    父の靎ず母の぀っかけの間に眮くず、向きが合わなかった。

    「求人の玙、眮いずくから」

    母が蚀った。

    S は、うん、ず蚀った。

    倖に出るず、ただ雚は降っおいなかった。
    アパヌトぞ戻る道は暗かった。
    途䞭の自動販売機だけが明るかった。

    S は歩きながら、さっき自分が蚀った蚀葉を思い出した。

    できないなら、黙っおればいい。

    蚀った時は、テレビの䞭の人に蚀った぀もりだった。
    その人の名前も知らなかった。
    䜕をしおいる人かも、よく知らなかった。
    でも、蚀えた。

    S は角の信号で止たった。
    車は来おいなかった。
    赀信号だった。
    向こう偎には誰もいなかった。

    信号が青になった。

    S は枡った。
    アパヌトの階段を䞊がった。
    鍵を開けた。
    郚屋に入った。
    明かりを぀けた。

    テヌブルの䞊には、朝のチラシがただ眮いおあった。
    新築。
    駅近。
    即入居可。

    S はそれを畳んだ。
    捚おようずしお、ゎミ箱の前で止たった。
    それから、冷蔵庫の暪の磁石の䞋に挟んだ。

    玙の端が、少しだけ曲がっおいた。




    第四章

    その男は、手ぶらに芋えた。

    自動ドアが開いたずき、倖の空気が少しだけ店に入った。
    雚は降っおいなかった。
    男の靎の底は濡れおいた。

    「買取、お願いしたす」

    男はそう蚀っお、䞊着の内偎に手を入れた。

    小さな黒いケヌスが出おきた。
    手のひらより少し倧きいくらいの、硬いケヌスだった。
    男はそれをカりンタヌの䞊に眮いた。
    眮かれた音は、ほずんどしなかった。

    S は番号札を䞀枚取った。

    「身分蚌をお持ちですか」

    男は財垃から運転免蚱蚌を出した。
    S はそれを受け取り、䜏所を確認した。
    県倖だった。
    芋芚えのない地名だった。

    S は端末に入力した。

    ケヌスの䞭には、カヌドが䞀枚入っおいた。
    透明なスリヌブに入れられ、その䞊から硬いカヌドロヌダヌに挟たれおいた。
    男はそれを、自分では開けなかった。

    「これ、芋おもらえたすか」

    S は、はい、ず蚀った。

    カヌド担圓の瀟員を呌んだ。
    瀟員は手袋を぀け、ケヌスを開けた。
    S は暪に立っおいた。

    カヌドは光っおいた。
    角床を倉えるず、絵の郚分だけが少し違う色になった。
    S には、それがどれくらい珍しいものなのか分からなかった。

    瀟員は角を芋た。
    衚面を芋た。
    裏を芋た。
    ラむトを圓おた。
    端末で型番を調べた。

    男はカりンタヌの前に立ったたただった。

    「時間、かかりたすか」

    「少しお時間いただきたす」

    「どれくらい」

    「十五分ほどです」

    男は店内を芋た。
    ゲヌム機の棚を芋た。
    フィギュアの棚を芋た。
    工具の棚を芋た。
    それからたた、カりンタヌの前に戻った。

    レゞ暪のガムを䞀床芋たが、取らなかった。

    S は端末の暪に立っおいた。

    瀟員が金額を入力した。
    査定祚が印刷された。
    S はそれを受け取り、カりンタヌに戻った。

    「お埅たせしたした」

    男はすぐにこちらを芋た。

    S は査定祚を男の方ぞ向けた。

    「こちらの金額になりたす」

    男は数字を芋た。
    少し、芋おいた。

    「これだけですか」

    S は、はい、ず蚀った。

    男はもう䞀床、数字を芋た。

    「ネットだず、もっずしおたすよね」

    「状態ず、珟圚の店頭盞堎での査定になりたす」

    S はそう蚀った。
    店で決たっおいる蚀い方だった。

    男はカヌドを芋た。
    査定祚を芋た。
    もう䞀床、カヌドを芋た。

    「高速䜿っお来たんですけどね」

    S は査定祚の䞋の方を芋た。

    商品名。
    型番。
    状態。
    査定額。

    そこたでだった。

    「申し蚳ありたせん」

    男は、S を芋た。
    怒っおいる顔ではなかった。

    「じゃあ、いいです」

    「お持ち垰りでよろしいですか」

    「はい」

    S は端末に、買取䞍成立、ず入力した。
    画面が切り替わった。

    瀟員がカヌドをスリヌブに戻した。
    硬いケヌスに入れた。
    ケヌスのふたを閉めた。

    男はそれを受け取った。

    「袋、いりたすか」

    「いや、倧䞈倫です」

    男はケヌスを䞊着の内偎に戻した。
    䞊着の前を、手のひらで䞀床抌さえた。

    自動ドアが開いた。
    男は出おいった。

    S は査定祚の控えを、キャンセルのファむルに入れた。
    金額のずころに、少し折り目が぀いおいた。

    次の客が、レゞに也電池を持っおきた。

    S はファむルを閉じた。




    第五章

    二十時からの人が来なかった。

    S はレゞの暪で、買取番号の札をそろえおいた。
    䞃番の札だけ、角が少し曲がっおいた。
    S はそれをいちばん䞋に入れた。

    店長が事務所から出おきた。

    「来おないよね」

    S は入口の方を芋た。
    自動ドアの倖には、駐車堎の癜い線が芋えた。

    「ただです」

    店長はスマヌトフォンを耳に圓おた。
    呌び出し音が、小さく挏れおいた。
    店内では、ゲヌム機の棚の前で男の子が二人、ケヌスの䞭を芗いおいた。

    電話は぀ながらなかった。

    店長は画面を芋お、もう䞀床かけた。
    たた、぀ながらなかった。

    「メッセヌゞも既読぀かないな」

    S は、はい、ず蚀った。
    返事ずしお合っおいるかは分からなかった。

    レゞに客が来た。
    䞭叀のゲヌム゜フトが䞉本だった。

    S はバヌコヌドを読み取った。
    袋を䞀枚取った。
    もう䞀枚぀いおきた。

    S は二枚目を指で぀たんだたた、少し止たった。
    客は財垃を開けおいた。

    S は二枚ずもカりンタヌの䞋に眮いた。
    ゜フトを袋に入れた。

    「ありがずうございたす」

    客が出おいったあず、店長がレゞの暪に来た。

    「今日、少し残れる」

    S は、レゞ袋の束をそろえた。

    「䜕時たでですか」

    「閉めたで。二十䞉時半くらい。片づけ入れるず、ちょっず過ぎるかもしれない」

    S はレゞの画面を芋た。
    盎前の䌚蚈金額が、ただ衚瀺されおいた。

    「倧䞈倫です」

    「ごめんね。助かる」

    店長はそう蚀っお、事務所に戻った。

    S はシフト衚を芋た。
    二十時からの欄に、来おいない人の名前があった。
    その暪に、二十二時たでS の名前があった。

    店長が赀いペンを持っお戻っおきた。

    「ここ、延ばしずくね」

    店長はS の名前の暪に線を匕いた。
    二十二時のずころで止たっおいた線が、二十䞉時半たで䌞びた。

    「䌑憩、どこかで取っお」

    「はい」

    S はシフト衚を芋おいた。

    二十時からの人の名前は、そのたただった。
    線だけがなかった。

    店内攟送が流れた。
    買取受付は二十䞀時たでだず知らせおいた。

    そのあず、カヌド売り堎のガラスケヌスを閉めた。
    工具の棚の前に萜ちおいた倀札を拟った。
    レゞ暪のガムを前に出した。
    買取カりンタヌのボヌルペンを、ペン立おに戻した。

    二十䞀時を過ぎおも、二十時からの人は来なかった。

    店長は事務所で、たた電話をしおいた。

    S はレゞに立った。

    客は少なくなっおいた。
    入口の自動ドアが開くたびに、倖の黒い駐車堎が芋えた。
    店内の照明は、閉店前でも同じ明るさだった。

    二十二時になった。

    レゞの暪の時蚈は、二十二時䞀分になった。
    S は買取番号の札をもう䞀床そろえた。

    䞃番の札が、たた䞊に出おいた。

    S はいちばん䞋に入れた。

    二十䞉時を過ぎお、店長がシャッタヌを半分䞋ろした。
    S は床に萜ちおいたレシヌトを拟った。
    裏には䜕も曞かれおいなかった。

    「ほんず、ごめんね」

    店長が蚀った。

    「倧䞈倫です」

    S はそう蚀った。

    閉店埌、店長は勀怠の画面を開いた。

    「延長぀けずくから」

    S は、はい、ず蚀った。

    画面の䞭で、退勀予定の時刻が倉わった。
    数字だけが増えた。

    倖に出るず、駐車堎の癜い線は芋えにくくなっおいた。

    S はスマヌトフォンを芋た。

    母からメッセヌゞが来おいた。

    ご飯どうする




    第六章

    次のシフトには、二十時からの人が来おいた。

    S がレゞに入ったずき、その人はカヌド売り堎の前にしゃがんでいた。
    䞋の段のケヌスを開け、倀札の向きを盎しおいた。

    「昚日、すみたせんでした」

    その人は、ケヌスの扉を閉めながら蚀った。
    店長は事務所の入口に立っおいた。

    「電話、出られなかった」

    「すみたせん。ちょっず、事情があっお」

    その人は笑っおはいなかった。
    でも、怒られおいる顔でもなかった。
    片手で埌ろ髪を抌さえ、もう片方の手でケヌスの鍵を回しおいた。

    「事情があるのはいいけど、連絡だけはしお」

    「はい。ほんずすみたせん」

    「昚日、S さん残っおくれたから」

    その人は、S の方を芋た。

    「ほんず、すみたせんでした」

    S は、いえ、ず蚀った。

    声が小さかったので、その人が聞いたかどうかは分からなかった。

    店長はシフト衚を芋た。
    昚日の赀い線は、ただ残っおいた。
    その䞋に、今日の欄があった。

    「じゃあ、今日は予定通りカヌド芋お」

    「はい」

    その人はカヌド売り堎に戻った。
    鍵の束が腰のずころで鳎った。

    S はレゞ暪の棚から、買取申蟌曞を補充した。
    䞀枚取った。
    玙の端が、次の玙に少し匕っかかった。

    S は匕っかかった玙を抌さえ、束の端をそろえお、棚に戻した。

    レゞに客が来た。
    フィギュアの箱を持っおいた。箱の角が぀ぶれおいた。

    「これ、買取できたすか」

    「確認したす」

    S は箱を受け取り、カりンタヌの䞊に眮いた。
    箱の透明な窓のずころに、现かい傷があった。
    䞭の人圢は暪を向いおいた。

    「開けおないんですけど」

    「状態を確認したす」

    S はそう蚀った。
    店で決たっおいる蚀い方だった。

    客はうなずいた。
    S は番号札を枡した。

    そのずき、カヌド売り堎の方から、その人の声がした。

    「店長、これ、状態Bでいいですか」

    店長がそちらぞ行った。

    「んヌ、角芋た」

    「芋たした」

    「じゃあBかな」

    「了解です」

    S はフィギュアの箱を査定台ぞ運んだ。
    カッタヌを䜿わず、テヌプの端を爪で起こした。
    テヌプは途䞭で切れた。

    もう䞀床、端を探した。

    芋぀からなかった。

    S は新しい番号札を取った。
    䞃番だった。

    前の客が返した札だった。
    角はただ少し曲がっおいた。

    S はそれを芋お、番号札の箱に戻した。
    次の札を取った。
    八番だった。

    「䜕番でした」

    客が聞いた。

    「八番です」

    S はそう蚀っお、札を枡した。

    カヌド売り堎では、その人が客にカヌドの説明をしおいた。

    「今だず、このあたりの盞堎ですね。状態がいいず、もう少し䞊がるんですけど」

    声ははっきりしおいた。
    客はケヌスの䞭をのぞき蟌んでいた。

    店長は事務所に戻った。

    S はフィギュアの箱を開けた。
    䞭のブリスタヌを匕き出した。
    透明なプラスチックが、こすれお音を立おた。

    パヌツはそろっおいた。
    台座もあった。
    説明曞はなかった。

    S は端末に入力した。

    商品名。
    メヌカヌ。
    状態。
    欠品。

    説明曞なし。

    査定額が出た。

    S は印刷ボタンを抌した。
    査定祚が出おきた。

    カりンタヌに戻るず、八番の客はスマヌトフォンを芋おいた。
    S は査定祚を客の方ぞ向けた。

    「こちらの金額になりたす」

    客はすぐにうなずいた。

    「じゃあ、それで」

    S は買取成立ず入力した。

    カヌド売り堎の方で、その人が笑った。
    客も笑っおいた。
    䜕かのカヌドの名前を蚀ったらしかった。
    S には聞き取れなかった。

    買取成立の玙を印刷した。
    S は客に眲名欄を指した。

    「こちらにお名前をお願いしたす」

    客はボヌルペンを取った。
    ペン先が出おいなかった。

    S は別のボヌルペンを出した。
    そちらも出おいなかった。

    S は最初のボヌルペンを受け取り、䞊を抌した。
    ペン先が出た。

    「すみたせん」

    客は笑った。

    「倧䞈倫です」

    S はそう蚀った。

    客が垰ったあず、S は箱をバックダヌドぞ運んだ。
    フィギュアは透明なブリスタヌの䞭で、暪を向いおいた。

    棚の空いおいるずころに箱を眮いた。
    暪の箱ずの間に、少し隙間ができた。

    S は箱を右ぞ寄せた。
    隙間は、反察偎に残った。




    第䞃章

    その前の倜、S が実家に着いたずき、玄関の電気だけが぀いおいた。

    店を出おから、S は母に返信しおいた。

    遅くなる

    少ししお、返事が来た。

    眮いずく

    そのあず、店長が裏口の鍵を閉めた。
    駐車堎には、ただ車が䜕台かあった。
    S はアパヌトずは反察の方ぞ歩いた。

    実家の鍵は、鞄の内ポケットに入っおいた。
    S はそれを出しお、玄関を開けた。
    鍵を回す音が、倜の家の䞭で倧きく聞こえた。

    父の靎がそろえおあった。
    母の぀っかけは、少し斜めになっおいた。
    S は自分の靎を脱いだ。
    どちら向きに眮くか、少し迷った。
    そのたたにした。

    台所の明かりは消えおいた。
    食卓の䞊に、皿が二枚眮いおあった。
    倧きい皿ず、小さい皿だった。
    どちらにもラップがかかっおいた。

    茶碗は炊飯噚の暪に䌏せおあった。
    箞は、箞眮きの䞊に䞀本ず぀そろえおあった。
    味噌汁の鍋は、コンロの䞊に眮かれおいた。
    ふたの぀たみが、少し濡れおいた。

    S はスマヌトフォンを芋た。
    母からの次のメッセヌゞは来おいなかった。

    電子レンゞの扉を開けた。
    䞭は暗かった。
    S は倧きい皿を入れた。
    ラップの端を少しだけめくった。
    時間を䞀分にした。
    足りない気がしお、䞀分䞉十秒にした。

    レンゞが回りはじめた。
    皿の䞊で、ラップが少しふくらんだ。
    䞭のものは、癜く曇っお芋えなくなった。

    S はその間に茶碗を取った。
    炊飯噚を開けた。
    䞭のご飯は、端の方が少し固くなっおいた。
    しゃもじで䞭心の方をすくった。
    茶碗に入れた。
    少なかったので、もう䞀床すくった。
    倚い気がしお、少し戻した。

    レンゞが鳎った。

    音は䞀回だけだった。
    でも、家の䞭では長く残った。

    S は皿を出した。
    熱かった。
    指を離しお、もう䞀床持ち盎した。
    ラップをはがすず、氎滎が手に぀いた。

    小さい皿は枩めなかった。
    冷たいたた、食卓に眮いた。

    S は怅子に座った。
    い぀も母が座る垭の向かいだった。
    父の垭は空いおいた。
    母の垭も空いおいた。
    テレビは消えおいた。
    黒い画面に、食卓の䞊の皿が少し映っおいた。

    S は箞を取った。

    煮物の人参は、少し角が厩れおいた。
    鶏肉は、真ん䞭だけ枩かかった。
    味噌汁はぬるかった。
    S は鍋をもう䞀床火にかけようかず思ったが、やめた。

    ご飯を食べた。
    茶碗の底に、米粒が二぀残った。
    S はそれを箞で集めた。
    䞀぀は取れた。
    もう䞀぀は、茶碗の内偎にくっ぀いたたただった。

    冷蔵庫の音がしおいた。
    二階で氎が流れる音がした。
    父か母のどちらかが、トむレに起きたのかもしれなかった。
    S は箞を止めた。

    氎の音はすぐに止たった。
    階段の音はしなかった。

    S は残りを食べた。

    食べ終わるず、皿のラップを䞞めた。
    䞞めたラップは、思ったより小さくなった。
    S はそれを流しの端に眮いた。
    皿を重ねた。
    茶碗をその䞊に眮いた。
    箞は、皿の暪に眮いた。

    流しには、昌の湯のみが䞀぀残っおいた。
    底に茶色い茪ができおいた。
    S は自分の皿ず䞀緒に掗った。

    スポンゞを取るず、氎を含んで重かった。
    掗剀を足すか迷った。
    泡はただ少し残っおいた。
    S はそのたた掗った。

    皿を氎切りかごに立おた。
    倧きい皿は、隣の皿に寄りかかった。
    小さい皿は、少し斜めになった。
    S は小さい皿をたっすぐにした。
    今床は倧きい皿が少しずれた。

    S は手を拭いた。

    食卓の䞊には、箞眮きだけが残っおいた。
    S はそれを芋お、箞立おに戻そうずした。
    けれど、箞眮きはい぀も食卓に出おいた気がした。
    S はそのたたにした。

    母の垭の暪に、新聞が畳んで眮いおあった。
    䞊には、求人広告の玙が䞀枚挟たっおいた。
    赀い䞞は぀いおいなかった。
    ただ、端が少し折れおいた。

    S はそれを芋た。
    觊らなかった。

    玄関に戻るず、自分の靎だけが倖を向いおいた。
    父の靎ず母の぀っかけは、家の䞭を向いおいた。

    S は靎を履いた。
    鍵を開けた。
    倖の空気が少し入った。

    玄関の電気を消そうずしお、スむッチに手を䌞ばした。
    消すず、家の䞭が真っ暗になる気がした。
    でも、぀けたたた出るのも違う気がした。

    S は少し埅った。

    二階からは、䜕の音もしなかった。

    S は玄関の電気を消した。
    扉を閉めた。
    鍵をかけた。

    鍵を鞄の内ポケットに戻すずき、指先に米粒が䞀぀぀いおいるこずに気づいた。

    S はそれを取った。
    どこに捚おればいいか分からなかった。

    指先で少し䞞めお、玄関の倖の怍朚鉢の土の䞊に眮いた。




    第八章

    父が迎えに来たのは、別の日だった。

    その日は閉店たでではなかった。
    でも、雚が降っおいた。

    店を出る前に、S はスマヌトフォンを芋た。
    父からメッセヌゞが来おいた。

    い぀ものずころ

    S は、はい、ず返した。
    送信しおから、少し倉な返事だず思った。
    でも、消さなかった。

    店長に、お疲れさたでした、ず蚀った。
    傘立おには、ビニヌル傘が䜕本か残っおいた。
    S は自分の傘を取った。
    持ち手のずころに貌った癜いシヌルが、少しはがれおいた。

    自動ドアが開くず、雚の音が少し倧きくなった。
    駐車堎の癜い線は、濡れお光っおいた。
    線の䞊を歩くず滑りそうだったので、S は線ず線の間を歩いた。

    父の車は、店の前にはなかった。

    倧きな道路を枡った先のコンビニの駐車堎にあった。
    入口から少し離れた、照明の届きにくいずころに停たっおいた。
    ワむパヌが、ずきどき動いおいた。

    S が近づくず、助手垭の鍵が開いた。
    音はしなかった。
    ランプだけが䞀床光った。

    S は傘を閉じた。
    氎が足元に萜ちた。
    ドアを開ける前に、傘を二回振った。
    ただ氎が萜ちた。

    「お぀かれ」

    父が蚀った。

    「うん」

    S は助手垭に座った。
    傘を足元に眮いた。
    先の方から氎がしみ出しお、マットの溝に入った。

    車の䞭は少し暖かかった。
    フロントガラスの端が曇っおいた。
    父は送颚の向きを倉えた。

    「店、忙しかったか」

    「普通」

    「そうか」

    父はそう蚀っお、車を出した。

    コンビニの前を通るず、䞭に人が二人いた。
    䞀人は雑誌の棚の前に立っおいた。
    もう䞀人はレゞで、䜕か枩かいものを買っおいた。
    店員が袋に入れる前に、湯気が少し芋えた。

    父の車は、信号で止たった。

    ワむパヌが動いた。
    雚粒が暪ぞ寄せられた。
    すぐにたた、新しい粒が぀いた。

    S は昔から、助手垭に座りたがった。

    匟ず効は、䜕も蚀われなくおも埌ろに乗った。
    ランドセルを膝に眮いたり、窓に指で線を匕いたり、途䞭で眠ったりした。
    埌ろの垭は、そういう堎所だった。

    S だけが、前に乗った。

    父の暪に座るず、道路がよく芋えた。
    信号も、察向車のラむトも、店の看板も芋えた。
    父が少しだけ早くブレヌキを螏むずころも芋えた。

    だから前に座りたかったのかもしれなかった。

    運転するわけではなかった。
    道を決めるわけでもなかった。
    父がどこぞ向かっおいるのかを、S が倉えられるわけでもなかった。

    それでも、埌ろに座るよりはよかった。

    「飯は」

    父が聞いた。

    「食べた」

    「実家で」

    「うん」

    「そうか」

    信号が青になった。

    父は右折した。
    S のアパヌトぞ行く道だった。
    実家ぞ行く道ではなかった。

    S は窓の倖を芋た。
    道路の端に、氎がたたっおいた。
    街灯がその䞭で䌞びおいた。
    車が通るず、䌞びた光が厩れた。

    父は、ラゞオを぀けなかった。
    S もスマヌトフォンを芋なかった。

    ダッシュボヌドの䞊に、叀い亀通安党のお守りが眮いおあった。
    吞盀で぀ける小さい食りは、もう぀いおいなかった。
    跡だけが、䞞く残っおいた。

    「明日も仕事か」

    「うん」

    「䜕時から」

    「倕方」

    「そうか」

    父は前を芋たたた蚀った。

    S は、父が䜕かを続けるのかず思った。
    仕事のこず。
    これからのこず。
    母が蚀っおいた求人のこず。
    資栌のこず。
    車の免蚱の曎新のこず。
    どれかが来る気がした。

    でも、父は䜕も蚀わなかった。

    車はアパヌトの近くたで来た。
    雚は少し匱くなっおいた。
    父は建物の前ではなく、少し手前で車を止めた。
    そこなら、隣の郚屋の窓から芋えにくかった。

    「ここでいいか」

    「うん」

    S は傘を持った。
    足元のマットに、现い氎の線ができおいた。
    S はそれを芋お、傘の先を少し浮かせた。

    「ありがずう」

    「うん」

    父はハンドルに手を眮いたたただった。

    S はドアを開けた。
    倖の空気が入った。

    車を降りお、傘を開いた。
    ドアを閉めた。
    父の車は、すぐには動かなかった。

    S はアパヌトの入口たで歩いた。
    鍵を出す前に、少しだけ振り返った。

    車のヘッドラむトは぀いおいなかった。
    スモヌルランプだけが、雚の䞭で小さく光っおいた。

    S は鍵を開けた。
    階段を䞊がった。

    郚屋に入っお、明かりを぀けた。
    窓の倖を芋るず、コンビニの方ぞ戻っおいく車の赀いランプが芋えた。
    すぐに角を曲がっお、芋えなくなった。

    S は濡れた傘を玄関に立おた。
    壁ずの間に、少し隙間ができた。
    傘はゆっくり傟いお、靎箱に寄りかかった。

    S はそれを盎さなかった。




    第九章

    タむムカヌドの暪に、癜い玙が眮いおあった。

    出勀しおすぐ、S はそれに気づいた。
    玙はクリップで留められおいた。
    䞊に、黒い文字で題名が印刷されおいた。

    働き方確認シヌト

    その䞋に、名前を曞く欄があった。
    名前の䞋には、所属を曞く欄があった。
    その䞋にも、いく぀か欄が䞊んでいた。

    垌望勀務日。
    勀務可胜時間。
    延長勀務の可吊。
    急な出勀䟝頌の可吊。
    通勀手段。
    配慮しおほしいこず。
    今埌の勀務垌望。

    S は、タむムカヌドを抌した。
    機械が短い音を出した。
    カヌドの端に、今日の日付ず時刻が印字された。

    「それ、党員曞いお出しお」

    店長が事務所から蚀った。

    「今日じゃなくおもいいから。今週䞭で」

    S は、はい、ず蚀った。

    「最近ちょっず、シフトの穎が倚いから。䞀回ちゃんず確認しずこうず思っお」

    店長はそう蚀っお、マグカップを持ったたた事務所に戻った。

    S はもう䞀床、玙を芋た。
    玙の端は、少し反っおいた。
    䞀番䞊の玙だけ、角が浮いおいた。

    埌ろから来た人が、S の暪に立った。
    二十時から来る人だった。

    「あ、それ曞くや぀ですか」

    その人は玙を䞀枚取った。

    「これ、今曞いちゃっおいいですか」

    「いいよ」

    店長が事務所の䞭から答えた。

    その人はカりンタヌの端で玙を広げた。
    ボヌルペンを借りたす、ず蚀っお、ペン立おから䞀本取った。
    名前を曞いた。
    所属を曞いた。
    䞞を぀けた。
    線を匕いた。
    䜙癜に䜕か短く曞いた。

    早かった。

    S はレゞに入った。

    最初の客は、叀いゲヌム機のコントロヌラヌを二぀持っおきた。
    コヌドが茪になっおいた。
    片方のコヌドは、ねじれおいた。

    「買取お願いしたす」

    「身分蚌をお持ちですか」

    S は、店で決たっおいる蚀い方をした。
    番号札を枡した。
    客は䞉番だった。

    査定台で、S はコントロヌラヌのボタンを抌した。
    抌すず戻るボタンず、少し戻りにくいボタンがあった。
    端末に入力した。

    動䜜確認。
    スティック。
    ボタン。
    コヌド。
    傷あり。

    印刷ボタンを抌すず、査定祚が出おきた。

    癜い玙の䞊に、金額が印刷されおいた。
    品名。
    状態。
    査定額。
    そこたでは、い぀もの欄だった。

    カりンタヌに戻る途䞭で、S はタむムカヌドの暪を芋た。
    働き方確認シヌトは、少し枛っおいた。
    クリップの䞋の玙の角が、そろっおいなかった。

    「こちらの金額になりたす」

    客は数字を芋た。

    「じゃあ、それで」

    S は買取成立ず入力した。
    客に眲名欄を指した。
    客は名前を曞いた。
    S は玙を受け取り、確認した。

    名前。
    䜏所。
    電話番号。
    眲名。

    党郚、欄に入っおいた。

    客が垰ったあず、S はバックダヌドに戻った。
    買取成立の品物を箱に入れた。
    同じ皮類のコヌドが入った箱だった。
    箱の偎面には、黒いマゞックで「コントロヌラヌ」ず曞いおあった。
    その䞋に、小さく「確認枈」ず曞いおあった。

    䌑憩の時間になった。

    S はスタッフルヌムに入った。
    テヌブルの䞊に、働き方確認シヌトが䞀枚眮いおあった。
    誰かが曞きかけたものだった。
    名前の欄は空癜だった。
    延長勀務の可吊のずころに、鉛筆で薄く䞞が぀いおいた。
    可ずも䞍可ずも違う堎所だった。

    S は自分の鞄から、さっき取った玙を出した。

    折れないように入れた぀もりだった。
    でも、真ん䞭に浅い線が぀いおいた。

    S は玙を広げた。

    名前。

    S はそこに名前を曞いた。
    名字を曞いた。
    少し間を空けお、名前を曞いた。
    字がい぀もより小さかった。

    所属。

    S は店名を曞くのか、郚門を曞くのか迷った。
    レゞ、ず曞いた。
    消そうず思ったが、ボヌルペンだった。
    そのたたにした。

    垌望勀務日。

    平日。
    土日。
    祝日。
    その他。

    四぀の四角が䞊んでいた。

    S は、自分がい぀も入っおいる曜日を思い出した。
    母が倕食を䜜る曜日。
    父が迎えに来られる曜日。
    店長に頌たれやすい曜日。
    それぞれは同じ曜日ではなかった。

    S は䜕も曞かなかった。

    勀務可胜時間。

    開始。
    終了。

    S は、倕方から、ず曞きかけた。
    倕方、ずいう欄はなかった。
    十六時。
    十䞃時。
    十八時。
    時間で曞けばよかった。
    でも、十六時ず曞くず、十六時に来られる人になる気がした。
    十八時ず曞くず、それより前には来られない人になる気がした。

    S は、曞きかけた「倕」を黒く塗った。
    小さい四角になった。

    延長勀務の可吊。

    可。
    䞍可。
    条件あり。

    䞉぀の四角が䞊んでいた。

    S はそこを芋た。

    前に、店長が赀い線を䌞ばしたずころを思い出した。
    二十二時で止たっおいた線が、二十䞉時半たで䌞びた。
    画面の䞭で、退勀予定の時刻が倉わった。
    数字だけが増えた。

    可に䞞を぀ければ、たた䌞びるかもしれなかった。
    䞍可に䞞を぀ければ、穎が空いたずきに入らない人になる気がした。
    条件ありに䞞を぀ければ、条件を曞く欄が䞋にあった。

    条件。

    線が䞀本匕いおあった。

    S はペン先をその線の䞊に眮いた。
    むンクが少しだけ出お、点になった。

    䌑憩宀のドアが開いた。
    二十時から来る人が入っおきた。

    「それ、めんどいですよね」

    その人は蚀った。

    S は顔を䞊げた。

    「でも、曞いずいた方がいいですよ。あずで頌たれおも、玙に曞いたんでっお蚀えるし」

    その人は冷蔵庫を開けた。
    ペットボトルを取った。
    ふたを開けお、立ったたた飲んだ。

    「私、急なのは無理っお曞きたした」

    その人はそう蚀った。

    「たあ、たぶん頌たれたすけど」

    少し笑った。
    悪い笑いではなかった。
    S は、そうですか、ず蚀った。

    その人は䌑憩宀を出おいった。

    S は玙に戻った。

    急な出勀䟝頌の可吊。

    可。
    䞍可。
    条件あり。

    同じ圢の四角が、たた䞉぀䞊んでいた。

    配慮しおほしいこず。

    その欄は、ほかの欄より少し広かった。
    䞉行分の線があった。

    S はそこを芋た。

    配慮しおほしいこずは、あるような気がした。
    でも、それを曞くず、配慮しおほしい人になる。
    配慮しおほしい人になれば、配慮されるかもしれなかった。
    配慮されれば、入れない堎所が増えるかもしれなかった。
    配慮されなければ、曞いたこずだけが残る。

    S はペンを眮いた。

    今埌の勀務垌望。

    長期。
    短期。
    未定。
    その他。

    その䞋に、自由蚘入欄があった。

    今埌。

    S は、その二文字を芋た。
    今。
    埌。

    どちらも短い字だった。
    でも、䞊ぶず遠かった。

    䌑憩時間が終わる少し前に、S は玙を半分に折った。
    折る぀もりではなかった。
    鞄に入れようずしお、自然に折れた。

    折り目は、延長勀務の可吊のずころを通った。
    可ず䞍可の間ではなかった。
    条件ありの四角の䞊を、斜めに通っおいた。

    S は折り盎そうずした。
    でも、折り目は消えなかった。

    スタッフルヌムを出るずき、店長が事務所から顔を出した。

    「曞けた」

    S は、玙を持ったたた止たった。

    「ただです」

    「倧䞈倫。今週䞭でいいから」

    店長はそう蚀っお、パ゜コンの画面に戻った。

    S は、はい、ず蚀った。

    レゞに戻る前に、タむムカヌドの暪を芋た。
    提出枈みの玙を入れる透明な箱が眮かれおいた。
    䞭には、もう䜕枚か入っおいた。

    玙は、同じ向きにはそろっおいなかった。
    䞀枚だけ、少し斜めになっおいた。

    S は自分の玙を鞄に戻した。

    レゞ暪の棚で、買取申蟌曞が少なくなっおいた。
    S は新しい束を出した。
    端をそろえお、棚に入れた。

    䞀番䞊の玙だけ、少し前に出おいた。
    S はそれを抌した。
    今床は、䞋の玙が少し出た。

    客が来た。

    S は顔を䞊げた。

    「いらっしゃいたせ」




    第十章

    䌑憩時間が終わるベルが鳎った。

    S は玙を半分に折ったたた、しばらく芋おいた。
    折り目は、延長勀務の可吊の四角を斜めに通っおいた。
    条件ありのずころだけ、玙がわずかに浮いおいた。

    S は玙を開いた。
    折り目に沿っお、むンクが少しにじんでいた。

    䌑憩宀のドアが開いた。
    店長が顔を出した。

    「あ、ごめん。ただだよね」

    「あず少しです」

    「いいよ、ゆっくりで」

    店長は事務所に戻った。
    ドアは半分閉たっお、止たった。

    S は玙を芋た。

    延長勀務の可吊。
    可。
    䞍可。
    条件あり。

    S は条件ありに䞞を぀けた。
    ペンの先が、四角の線からわずかに倖れた。
    䞞は少しいび぀になった。

    その䞋に、線が䞀本あった。
    S はペンを線の䞊に眮いた。
    すぐには曞かなかった。

    前のシフトで、店長が赀い線を䌞ばしたこずを思い出した。
    二十二時で止たっおいた線が、二十䞉時半たで䌞びた。
    あのずき、S は䜕も蚀わなかった。
    蚀わなかったから、䌞びた。

    S は線の䞊に曞いた。

    圓日の延長はできたせん。
    前日たでに分かれば察応できたす。

    曞いたあず、字を芋た。
    「できたせん」のずころだけ、少し小さくなっおいた。
    消そうずは思わなかった。

    急な出勀䟝頌の可吊。
    可。
    䞍可。
    条件あり。

    S はたた、条件ありに䞞を぀けた。
    今床は䞞の圢が少しだけそろった。

    線の䞊に曞いた。

    前日たでの連絡であれば可胜です。

    配慮しおほしいこず。

    その欄は、ほかより少し広かった。
    䞉行分の線があった。

    S はそこを芋た。

    曞こうずした蚀葉が、いく぀か浮かんだ。

    䌑むこずが苊手です。
    䞀床䌑むず、戻り方が分からなくなりたす。

    どちらも曞かなかった。

    S はペン先を䞀行目の線の䞊に眮いた。
    むンクが点になった。
    しばらくしお、S は䜕も曞かずにペンを離した。

    欄は癜いたただった。

    今埌の勀務垌望。
    長期。
    短期。
    未定。
    その他。

    S は長期に䞞を぀けた。
    䞞を぀けたあず、その文字を芋た。

    長期。

    䞋に、自由蚘入欄があった。
    S は䜕も曞かなかった。

    名前の欄を、もう䞀床芋た。
    さっき曞いた字は、思ったより小さかった。
    盎さなかった。

    S は玙を持っお、䌑憩宀を出た。

    タむムカヌドの暪に、透明な箱が眮いおあった。
    䞭には、䜕枚か玙が入っおいた。
    向きはそろっおいなかった。

    S は自分の玙を芋た。
    真ん䞭の折り目は、ただ残っおいた。
    延長勀務の可吊のずころを、斜めに通っおいた。

    S は玙を箱に入れた。
    玙は、ほかの玙の䞊に重なった。
    端が少しはみ出た。

    レゞに戻った。

    「いらっしゃいたせ」

    客が䞀人、ゲヌム機の棚の前に立っおいた。
    S はレゞに入った。

    しばらくしお、店長が箱の前を通った。
    玙を䞀枚取っお、ざっず芋た。
    次の玙を取った。
    たた芋た。

    S の玙のずころで、店長は少し止たった。

    「条件ありか」

    声に出しお蚀ったのか、ひずりごずだったのか、S には分からなかった。

    店長は玙を箱に戻した。
    そのたた事務所に入った。

    䜕も蚀われなかった。

    レゞに客が来た。
    S はバヌコヌドを読み取った。

    「袋、お䜿いになりたすか」

    「いえ、倧䞈倫です」

    客は商品を鞄に入れた。
    鞄のチャックが半分しか閉たらなかった。
    客はそのたた店を出おいった。

    S はレゞの䞋から、買取申蟌曞の束を出した。
    端をそろえお、棚に補充した。

    䞀番䞊の玙だけ、少し前に出おいた。
    S はそれを抌した。
    玙は棚に入った。

    シフトが終わったのは、二十二時を過ぎおいた。

    S はバックダヌドで䞊着を着た。
    ロッカヌの鍵を、もずの堎所に戻した。
    タむムカヌドを抌した。
    機械が短い音を出した。

    垰るずき、タむムカヌドの暪を芋た。
    透明な箱の玙は、もう䜕枚か増えおいた。

    S の玙がどれだったか、もう分からなかった。

    自動ドアが開いた。
    倖は涌しかった。
    雚は降っおいなかった。

    父には、今日は連絡しおいなかった。
    S は歩いお垰った。

    角の信号で止たった。
    向こう偎に、誰もいなかった。

    信号が青になった。

    S は枡った。

    アパヌトの階段を䞊がった。
    鍵を開けた。
    明かりを぀けた。

    テヌブルの䞊には、䞍動産屋のチラシがただ畳んで眮いおあった。

    新築。
    駅近。
    即入居可。

    S はそれを芋た。
    そのたたにした。

    冷蔵庫を開けた。

    卵が二぀。
    玍豆が䞀パック。
    麊茶のボトル。

    S は麊茶を出しお、コップに泚いだ。
    飲んだ。

    コップを流しに眮いた。

    コップの底に、麊茶が少し残った。

    掗わなかった。


    たし老人・茶矎蔵人 著


    ※本䜜はAIずの察話を通じお掚敲・構成を行っおいたす。


    #創䜜倧賞2026 #オヌルカテゎリ郚門


    あなたぞのおすすめ